【自筆証書遺言保管制度】新しい遺言制度の活用

自筆証書遺言保管制度はご存じでしょうか?

この制度は令和2年7月10日より制度運用が開始されています。

現在までのところ知名度について今一つのところがありますが、制度自体の利点も多く、これから広く認知されていくであろうと期待されています。

相続財産には不動産が含まれることが多い関係上、私たち不動産業者は顧客が相続対策を検討した早い段階において相談を受けることがあります。

遺産分割協議書など実質的な書類作成代行業務にかんしては弁護士・行政書士など専門士業の分野ですが、生前贈与として持ち分を非課税の範囲で移転する、もしくは不動産のまま相続に供するのが得か、はたまた売却して現金として相続するのが良いかなど、相続対策を検討し始めた顧客からの相談が多く寄せられるのが、私たち不動産業者です。

ですから相続に関連する法律や手法については、少なからず長じている必要があります。

そのような背景から、新しい制度が出来上がった場合にはその制度概要はもちろんのこと、手続き方法や注意点などにはそれなりに精通している必要があります。

今回はそのような観点から、新制度である自筆証書遺言保管制度について解説します。

遺言書の種類をおさらい

新制度における遺言書の形式は自筆証書遺言です。

制度は、自筆証書遺言の新しい保管制度であると理解してください。

遺言書についてのおさらいですが、遺言書には民法968条の形式で定められる自筆証書遺言と、公証人役場でおこなう公正証書遺言(民法969条)のほか、遺言内容を明かさず証書の存在のみを公証人に証明してもらう秘密証書遺言の3種類があります。

現在において採用率が高くなっているのが公正証書遺言です。

理由はいくつかありますが、公証人が作成をおこないますので遺言書の形式不備を心配する必要がなく、また公証役場に原本が保管されていることから、遺言書の存在が確実であると証明することができます。

また家庭裁判所による検認作業も不要とされるなどの確実性も理由の一つでしょう。

デメリットとしては証人2名以上の立ち合いと署名捺印を必要とするほか、公証人役場に出向く前には全ての相続財産を明確にし、遺言書作成までに複数回、公証人との打ち合わせ手間が必要なほか、相続人・受遺者の人数や相続財産の金額ごと別個の法律行為として書類作成(証書手数料)費が加算されますので、それなりの費用が必要とされる点です。

秘密証書遺言も公証役場の管轄ですが、遺言書の記載について公証人がその内容を確認することはなく、存在証明に過ぎませんので、遺言内容に不備があれば法律上無効とされる危険性があります。

デメリットだけを勘案すれば自筆証書遺言が手間もかからず費用も安くすみますが、記載形式が誤っていれば法律上無効とされるほか、利害関係者による改竄の危険性や遺言書自体が発見されないなどのリスクもあります。

このようなデメリットにたいし簡易的に、かつリスクを回避したのが今回ご紹介する自筆証書遺言保管制度です。

自筆証書遺言の記載方法

形式不備の場合には法律上無効とされる自筆証書遺言ですが、ポイントさえ押さえればそれほど心配する必要はありません。

さらに新制度では遺言書の形式面について確認はおこなってくれますので、少なくとも形式不備とされることはありません。

ただし原則として分割内容等については関与しませんので、受遺者の法定遺留分や按分方法については留意が必要です。

基本的には自筆証書遺言の作成は下記3ステップでおこなえます。

① 財産目録の作成(パソコン作成可)
② 受遺者への財産分与を検討
③ 遺言書の作成(自筆記載)

遺言書作成時の注意点としては、1.本人が自筆で記載する2.日付を記載する3.署名・捺印の3点に注意すれば良いでしょう。

また出来上がった遺言書を封入する際には、遺言書の捺印に使用した印鑑で封印を必要とします。

遺言書に使用する紙はA4サイズとされています。

紙質などには特に定めはありませんが、長期保管なども勘案すればあまり薄い紙質などは避けたほうが良いでしょう。

その他の注意事項としては、下記案内図を参考にしてください。

自筆証書遺言保管制度

具体的な新制度のメリット

制度のメリットは幾つかありますが、要約すると3つです。

① 法務局が遺言書を保管してくれる(紛失や改竄リスクがない)
② 開封前に家庭裁判所にたいする検認請求が不要(遺言書保管所が形式を確認してから封入するため)
③ 相続開始後、相続人にたいし遺言書の存在が確実に伝わる。

自筆証書遺言保管制度

そのほか、遺言書はデータ化され証明書の交付や閲覧なども公正証書と比較して安い手数料で利用できるのもメリットです。

ただし、保管申請は本人の出頭義務が課かされていますので必ず本人が出むかなければなりません。

公正証書遺言の場合には、遺言者が公証役場に出向くことが困難な場合には公証人が出張対応してきれますが、保管制度ではそのような対応をしていない点には注意が必要です。

実際の申請方法や費用は?

遺言者の保管場所は遺言書保管所とされていますが、実際には法務局です。

保管する法務局も①遺言者の住所地②遺言者の本籍地③遺言者の所有する不動産所在地の3カ所から遺言者自身が選びます。

具体的に保管申請するには、保管される遺言書や遺産分割協議書のほか、予め申請書などの準備や事前予約などが必要です。

手順については下記の図をご確認ください。

自筆証書遺言保管制度

遺言書の保管申請手数料は1通につき¥3,900円と、公正証書遺言と比較して安くなっています。

また閲覧請求や遺言書保管事実証明なども手数料が必要ですが、全体として利用しやすい金額になっています。

自筆証書遺言保管制度

まとめ

冒頭で記載したように遺言書の作成に関しては、私たち不動産業者の業務に直結することはありません。

ただし不動産に関し、顧客からの遺産分割や生前贈与などの相談に真摯に応じ、適切なアドバイスを行うことにより顧客の信頼を得て、相続に関しての不動産売却や運用を一任される可能性が高まるなど間接的に業務と結び付くことは多いものです。

顧客からの信頼を得るためには、日ごろから関連性のある細かい知識を積み重ね、系統だて整理しておく必要があります。

相談を受けても満足に回答できない、もしくは「一度、持ち帰って調べてから回答します」などを繰り返していては、不動産のプロとして顧客から信頼を得るのも難しいでしょう。

求められているのは、様々な分野に広く通じ、的確なコンサルティングができる不動産営業です。

そのような意味合いからも、自筆証書遺言保管制度については他の遺言方式との相違点について、正確に理解しておく必要があると言えるでしょう。

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