都心部における土地価格の高騰に加え、建築資材と人件費も上昇し、新築物件の価格は依然として上昇を続けています。「不動産経済研究所」が、2023年度における東京都の新築分譲マンションの平均販売価格を1億1,438万円と発表しましたが、これは1,974年以降初めての1億円超えです。
さらに、2024年4月から建設業の時間外労働規制が強化された影響で、建設コストはさらに上昇しており、当面はこの高水準が続くと予想されています。
自己資金の額にもよりますが、借入限度額を年収の6~7倍と考えると、1億円超の物件を購入するためには最低でも1,400万円以上の年収が必要です。それ以下の年収で、仮に借入できたとしても物件価格に比例する固定資産税に加え、管理費や修繕積立金として年間60~100万円の負担が必要です。住宅ローン返済と合わせて、これらのランニングコストを賄うためには、さらに高い年収が求められます。
国税庁企画課データ活用推進室が公開した民間給与実態統計調査結果によると、令和5年(2023年)の平均年収は460万円(前年比0.4%増)で、そのうち所得が1,000万円を超えているのは、約279万人(5.5%)に過ぎません。
分譲マンションの平均価格については多くのサイトで公開されていますが、新築注文住宅に関するデータはあまり見かけません。注文住宅を建てるには、どの程度の収入が必要なのでしょうか。また、建築価格はどのように推移しているのでしょうか。
今回は、一般社団法人住宅生産団体連合会が2,000年から毎年実施している「戸建注文住宅の顧客実態調査」から、2023年度のデータを参考にその傾向を分析して解説します。
やはり1,000万円超の収入が必要
世帯主の年齢は40歳前後と大きな変化はないものの、世帯年収は年々上昇を続け、2023年度には1,148万円に達しています。これは、主要都市圏の調査結果ですから、地方圏を含めれば若干の変動はあるでしょう。それでも、主要都市圏では、新築分譲マンション購入と同様に1,000万円を超える収入がなければ注文住宅を建築するのが難しいことは明らかです。
建築される延床面積は120㎡前後と大きな変動はありませんが、土地と建築費の合計額は2021年から約900万円増加しており、特に建築費は750万円(2021年対比)上昇しています。
つまり、土地価格の上昇よりも建築費の高騰が目立つ状況なのです。
自己資金の増加に加え、借入額も2021年対比で892万円増加しています。しかし、返済負担率(借入金の年収倍率)は、安全圏とされる約5倍が維持されています。このことから、高い世帯年収である層が、注文住宅を発注していると考えられます。
さらに、特筆すべきは建築費の高騰です。
2014年の調査では、注文住宅の平均建築㎡単価は25.6万円(坪84.48万円)でしたが、2023年には37.0万円(坪122万円)と、10年間で約1.4倍上昇しました。
分譲マンションと同様、建築費の高騰はしばらく続くと予想されています。
さらに、2025年4月からの改正建築基準法施行により、200㎡以下の平屋を除く全ての新築物件に構造計算が義務付けられ、加えて住宅性能については省エネ基準を満たす必要があります。
法改正だけではなく他の要因も影響しているのでしょうが、注文住宅における平屋建築の割合が増加しているのも注目すべき傾向です。
これらのことから、新築戸建住宅の建築費は今後、さらに上昇する可能性があると予測されるのです。
初回接触から契約まで、3ヶ月未満が半数を占める
注文住宅の建築プロセスでは、初回接触時に自社の建物性能や特徴、サービスなどを説明し、その後、消費者から依頼を受けて建築プランを複数回作成します。そして、消費者が間取りや金額に納得した後、請負契約を締結するのが一般的な流れです。
図面やカラーコーディネート、設備機器の決定には時間がかかるため、詳細な設計作業は請負契約締結後に進められることが多いでしょう。この流れを裏付けるように、アンケート結果でも、初回接触から請負契約の締結の締結までの期間は2ヶ月未満との回答結果が過半数を占めています。
さらに、省エネ性能水準に関しては、2022年10月の認定基準改正や、今後の建築基準法改正を見越し、ZEH基準(断熱等級5)以上の外皮性能、一次省エネ等級6(省エネ基準▲20%)を満たす長期優良住宅が、全体の83.8%を占めていることが確認できます。
また、注文住宅の世帯年齢分布を見ると、30~34歳の世帯が前年と比べて増加に転じるなど、30~44歳が施主の過半数を占めている傾向が確認できます。
注文住宅の顧客平均像として、平均世帯年収は1,148万円であることは先述しました。30代でこの水準に達することは地域によって差があると予測されますが、アンケートでは地域別の平均顧客像も公開されており、東京圏と地方都市圏を比較すると、世帯年収で約300万円の差があることを確認できます。
続いて住宅ローンの利用状況を見ると、ペアローンや収入合算を利用する世帯が2023年で43.9%と、年々微増していることが分かります。
さらに、住宅ローンの年収倍率も増加傾向にあることも確認できます。
土地と建築費の高騰傾向が続く限り、この傾向がさらに進む可能性は高いと言えるでしょう。新築注文住宅を建築するには、もはや単独収入では厳しく、返済負担率も無理をしなければ実現が困難なのです。
土地が先か、それとも依頼する建築会社を決定するのが先か
注文住宅を建築する際、立地は妥協できない重要な要素です。過去5年のデータを見ても、建て替えがわずかに増加しているものの、新たに購入した土地に建築するケースが依然として過半数を占めています。
注文住宅を計画している方からよく寄せられる質問に、「土地探しが先か、それとも建築会社の決定が先か?」というものがあります。結論としては、土地探しと建築会社の選定は同時に進める、もしくは建築会社を先に決めておくのが現実的な選択肢と言えるでしょう。
土地が確定していない段階では、具体的な建築プランは作成できず、総予算も見積もりできません。そのため、「まず土地を探すべきだ」との意見が根強くあります。
しかし、仮に理想の土地が見つかったとしても、その土地に希望する建物が法的あるいは予算的に建築できないリスクがあります。加えて、自己資金での土地購入を除き、土地のみを購入する場合は住宅ローンを利用できないため、資金計画に制約が生じる可能性もあります。
したがって、土地探しと建築会社の選定を同時に進め、担当者の協力を得ながら土地を探すのが、最も現実的な方法と考えられるのです。とはいえ、長く住むことになる場所を選ぶため、土地探しが難航することは少なくありません。
アンケート結果によれば、土地購入から竣工までの期間は2年以内としているケースが90%を占めていますが、土地探しの期間を考慮すると、実際にはそれ以上の時間をかけているのでしょう。
良い土地に巡り会えるかは運の要素も大きいですから、土地探しや建築会社の選定も含めると、消費者は竣工まで3年以上かけて「夢」を実現していることが分かります。
さて、この前提を踏まえ、土地代と建築費の構成比率を見てみましょう。
2023年度の土地と建築費の合計金額は6,681万円でしたが、そのうち土地代の平均は1,650万円と、前年対比で減少しています。これは、土地価格が高騰している実態に反する結果ですから、土地面積や立地について妥協している可能性を示唆しています。
アンケート結果でも、通学や通勤、敷地の広さや日当たりなどで妥協が見られます。しかしその一方で、災害時の避難のしやすさが重視されている点は、消費者に建築地を斡旋する場合に覚えておきたい重要なポイントだと言えるでしょう。
住宅性能表示制度の採用は不可欠か?
燃料費の高騰や改正建築基準法の施行を控え、新築に限らず住宅性能への関心が高まっています。2024年4月に、販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示できる省エネ性能表示制度が開始されており、これにより、省エネ性能を求める動きはさらに加速すると予想されています。
新築注文住宅においても、住宅性能表示制度の採用率は70%以上と高い水準を維持しています。
2025年4月に改正建築基準法が施行され、それ以降は省エネ性能に応じ、全ての住宅が「適合住宅」と「既存不適格住宅」に区分されます。
既存不適格住宅については、増築や一定規模以上の改装において基準への適合が義務化されるため、中古住宅の購入を検討する消費者が、適合か不適格かをより重視するようになると考えられています。
また、省エネ性能を満たす住宅は、住宅ローン減税の増額や「子供エコすまい支援事業」、「ZEH補助金」など、さまざまな支援制度を利用できます。
これらのインセンティブは、実際に住宅取得の促進に寄与していることが確認されています。
注目される機器
注文住宅は、予算が許す限り、最新設備機器や建材、技術を自由に採用できるメリットがあります。
もちろん、建築会社の技術水準や施工基準による制限はあるものの、全体的に高い自由度が得られます。
自由な選択肢の中で、関心を集めているのが太陽光パネルです。
関心だけではなく、実際の採用率も増加しています。それとともに、蓄電池の採用率も増加しています。蓄電池については、初期段階ではそれほど関心が高くないものの、採用率においては太陽光パネルを凌ぐ勢いで設置されています。
これは、売電ではなく、自己消費するために創電するとの意識が高まりを見せた結果だと言えるでしょう。
太陽光発電の買取価格は、2009年と10年が48円/kW、「固定価格買取制度(FIT)」が始まったた2012年で42円/kWと高額でしたが、それ以降は年々減少し、2023年度は16円/kWまで下がりました(いずれも10kW未満の発電量の場合)。
従来は売電利益を期待して太陽光パネルを導入するケースが多かったものの、現在は自己消費を目的に採用されるケースが増えています。そのため、電力消費量が最も高い夜間に自己消費を実現するためには、日中に創電した電気を貯める蓄電池の導入が不可欠なのです。
蓄電池の採用率が増加しているのは、この自己消費志向の高まりを裏付けるものだといえるでしょう。
まとめ
注文住宅の販売に直接関わっていないからといって、その動向を無視してよいわけではありません。いずれ注文住宅が中古住宅として市場に出たり、賃貸に転用される可能性を考慮すれば、傾向を知ることは重要です。
特に、2025年4月に施行される改正建築基準法により、新築物件については断熱性能等級4以上の省エネ性能が義務化され、それ以降、全ての物件が「適格物件」と「既存不適格物件」に区分されます。
これら建築法規の変化は、消費者の住宅選びに大きな影響を与えるのです。
また、土地価格の高騰により、敷地面積や交通の利便性、買物の至便性に妥協するケースが見られる一方で、災害時における避難のし易さについて重視する傾向が見てとれます。
近年多発する激甚災害に対する消費者意識が、こうした判断に表れているのでしょう。
さらに、太陽光発電もかつては売電による利益を期待して設置されることが多かったものの、現在では自己消費を目的に導入されるケースが増加しています。これに伴い、蓄電池の採用も増加しており、この傾向は今後も続くと予想されています。
これらの傾向を理解することで、不動産実務において消費者に、適切な情報を提供することが可能となります。消費者ニーズや市場の変化に対応し、戦略を練るためにも、注文住宅の動向を把握しておくことが有益なのです。