【連棟住宅の取引に潜む課題】実務で押さえるべき重要ポイント

筆者のもとには、全国各地から様々な相談が寄せられます。最近では、低価格の木造住宅を購入して賃貸運用を行う投資家から、連棟式建物に関する相談が相次いで寄せられました。また、それ以前にも、不動産営業マンから「連棟住宅を取り扱う際の注意点についてレクチャーして欲しい」との依頼がありました。

一口に連棟住宅と言っても、土地の所有形態によってタウンハウスとテラスハウスに大別されます。それぞれの特徴は以下の通りです。

●タウンハウス
敷地を建物所有者全員で共有し、建物は区分所有として登記されるのが一般的です。この所有形態は、分譲マンションとほぼ同じと考えてよいでしょう。

●テラスハウス
建物は繋がっていますが、登記簿上では敷地も建物も各所有者の名義となります。

これらの住宅が連棟方式で建築される理由は、土地の形状や規模により単独の一戸建てとして建築できないからです。例えば、以下のような制約が考えられます。

1. 宅地細分化指導要綱に抵触する土地。
指導要綱はミニ開発など、敷地細分化により居住環境が悪化するのを防止するために、分筆可能な敷地面積の最低限度について市区町村が定めたものです。これにより、土地の分筆が認められない場合があります。

2. 狭小かつ奥行きのある大規模な土地。
間口が狭く奥行きも長い形状の土地は、そこに一戸建てを建築しても採算が合いません。そこで、連棟住宅が検討されるのです。

3. 調整地域の既存宅地で、一棟の建物しか建築が認められない土地
建築確認が一棟の建物にしか下りない土地では、複数の建物を建築するために連棟方式が選択されることがあります。

このような条件下で建築コストを抑え、土地を効率よく利用するために、分譲業者が連棟方式を採用するケースが多いのです。

連棟住宅における最大の課題は、単独での再建築ができないことです。

しかし、こうした制約についての説明不足や誤解を招く説明が原因で、トラブルに発展する事例も少なくありません。たとえば、「再建築が可能である」と誤解を与える営業トークにより、契約後にクレームや訴訟が発生する可能性があるのです。

今回は、連棟住宅に関する具体的な注意点を整理し、トラブルを回避するために必要な知識と説明方法について解説します。

連棟住宅の定義と特徴

連棟住宅は、建築基準法で「長屋」に分類されます。長屋とは、一つの建物に複数の住戸が存在する住宅を指します。一方、分譲マンションなどの共同住宅は「独立した住戸が一つの建物に集まっている住宅」と定義され、これらは混同されがちです。

ただし、建築基準法および地方公共団体の条例では明確な判断基準が設けられています。具体的には、共有部(エントランス、階段、ホールなど)がある場合は共同住宅、共有部分が設けられていない場合は長屋という区分です。

また、長屋には以下の2つの種類があります。

1. 棟割長屋
横並びに住戸が連続している形式。

2. 重層長屋
上下階で独立した住戸となっている形式。これは平屋が縦に積み重なった状態をイメージすれば分かりやすいでしょう。共同住宅との違いは、共有部分を介さず直接出入りできる玄関が備えられている点です。

また、テラスハウスで敷地内通路が設けられている場合、「これは共有部分ではないか」との疑問が生じるかもしれませんが、建物外の土地は敷地内通路と見なされるため、共用部分には該当しません。

建築基準法の規定では、長屋は特殊建築物に含まれません。特殊建築物は、防火性能や避難経路などに厳しい規定が適用され、建築コストが増加します。一方、長屋はこれらの規定が適用されないため、幅1.5m未満の専用通路に玄関が並び、火災時の避難に支障がある建物が現存している状況です。

建築基準法の単体規定や集団規定は、都市の継続的発展や災害対応の目的で、建築物の構造や設備、用途等に関して定められた最低限遵守すべきルールです。しかし、解釈上抜け道が存在しているのも事実です。

このような問題に対処するため、地方公共団体は独自に条例を設けています。これは建築基準法第40条に基づき、地方公共団体は構造や建築設備などに関して制限を附加できる権限を有しているからです。

例えば東京都の建築安全条例では、長屋に関して以下の規定が設けられています。

敷地内通路の確保

●主要な出入口が道路に面しない住戸部分の床面積の合計が300㎡を超える場合、または主要な出入口が道路に面しない住戸が10を超える場合、敷地内通路幅は3m以上とする。

●主要な出入口から道路までの通路延長が35mを超える場合、通路幅を4m以上とする。

これらの規定により、建て替え時に従前よりも広い専用通路を確保する必要性が生じ、建物の規模が制限される可能性があるのです。

連棟住宅の建て替えについて説明する場合には、建築基準法のみならず地方公共団体の条例を確認してからでなければ迂闊に発言してはならないのです。

連棟住戸に関する規定

棟割住宅(棟割長屋方式)は建築基準法で、両側の住戸または住室の梁間長さの大きい方の界壁を1/2以上(各階とも)接することが規定されています。

しかし、界壁が取り外され、見た目上は一戸建てとなっているケースが散見されます。このような住宅が広告で「一戸建て住宅」と表記されて販売される事例も存在します。

ただし、見た目が一戸建てであっても、建築基準法上は連棟住宅に分類されます。そのため、「一戸建て住宅」と広告で表示すれば、宅地建物取引業法および不動産の表示に関する公正競争規約に違反します。

一部の建築会社では、以下のような方法で建築し販売を行います。

  1. 各住戸を一戸建てとして建築する。
  2. 界壁をベニヤ板など取り外し可能な材料で接続し、塗装を施して完了検査を通過する。
  3. 完了検査後、界壁を取り外してから販売する。

このような行為は建築基準法に違反します。さらに、個々の建築物が接道義務や斜線制限、建蔽率や容積率などに違反するとして、行政処分や罰則の対象となります。

こうした違法行為が行われる背景には、以下のような理由があります。

●見た目が一戸建てのため、販売がしやすい。
●界壁がすでに取り外されていることから、解体の際などに他の所有者の同意が不要とされる可能性がある。

なお、連棟式建物は地方公共団体の条例による規定を免れるため、1棟の建物を300㎡以内に抑えようとするのが一般的です。そのため、「3戸1棟の1戸」もしくは「4戸1棟の1戸」で建築されるケースが多く見られます。

裁判例から学ぶ連棟住宅の切り離し

連棟住宅を切り離す場合は隣接住戸だけでなく、区分所有者全員の合意が必要です。

建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第62条では建て替え決議に関して「区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数で決議できる」と規定しており、これが切り離しにも援用されるとの裁判例があるからです。東京地判.平21(ワ)26799号

この裁判の概要や原告の主張、判決は以下のとおりです。

●事件の概要
被告が、他の所有者の同意を得ず連棟住宅(鉄骨造3階建・専有部分12戸)を切り離して取り壊し、連棟建物から独立した新築建物を建築した。

●原告(他の所有者)の請求
新築建物の取り壊しと損害賠償の請求

●裁判の結果

1. 新築住宅の取り壊しを命じる。

本件工事は連棟建物の共有部分を失わせ、連棟建物を違法建築とするものであるから、全区分所有者の承諾を必要であると解される。原告の一部に対して切り離す旨を伝えてはいるが、それ以外の区分所有者にたいして工事内容や、その結果連棟建物に与える物理的、法的な影響について何ら説明されていない。

被告が建築した新築住宅の経済的価値と住居が失われる不利益は大きいが、この状況は、区分所有法の定める団体法的規制を無視した行為によって一方的に作り出されたものであり、それを原告らに甘受させるのは相当ではない。したがって、区分所有法第6条(区分所有者の権利義務等)及び区分所有法第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)に基づき、原告らは新築建物の収去を求めることができる。

2. 損害賠償の支払いを命じる。

連棟建物は切り離し工事により、屋上の防水、外壁及び内装材への影響のほか、工事中の振動等によって連棟建物に損傷を与える可能性があることは、一般人でも容易に理解できる。被告は切り離し工事を発注するに際し、工事業者に他の連棟建物に損傷を与えないよう細心の注意を払うように指示するなど、必要な措置を執る注意義務を負っている。

しかし、本件ではその事実を認める証拠は提示されず、注意義務を怠った被告の行為は不正行為を構成する。故に本件工事は相当因果関係を有する原告にたいして損害を賠償する義務を負う。

このような裁判例からも、切り離しを検討する場合は、建築関連法規の確認とともに他の区分所有者全員の承諾を、書面で得ておくことが重要なのです。また、後日紛争を防止する観点からも、経緯記録や施工業者への指示内容等は、文字情報として記録することが大切です。

不動産業者の説明義務

タウンハウスやテラスハウスを紹介した際、顧客から「建て替え可能か?」と質問されることがあります。回答する際には、以下の点に留意してください。

●接道義務
土地が狭小である場合、単独では接道義務を満たせない可能性があります。

●土地の分筆
宅地細分化指導要綱により、分筆が認められない可能性があります。

●他の区分所有者の同意
たとえ個別で建築できる要件を満たしていても、切り離しには他の区分所有者の同意が不可欠です。また、切り離しによって他の区分所有建物が違法建築となる場合には、同意を得ること自体が困難です。

なお、外見が1戸建てに見える場合でも、当初の建築確認申請が長屋であれば同様です。この場合、新築しても登記簿上の新築年月日は変更されず、大規模修繕扱いとなります。

中古のタウンハウスやテラスハウスは、立地や建築年数で近傍の一戸建住宅と比較すれば割安です。これは、上述した理由により単独での建て替えが不可とされる可能性が高く、金融機関が融資を敬遠するからです。

そのような背景を含め、連棟住宅を紹介する際には、以下のメリットとデメリットを適切に説明する必要があります。

●メリット

安く購入できる:土地・建物価格が一戸建てより低い傾向にあります。

マンションと比較した場合に自由度が高い:専有部分の利用制限が少ない。

戸建て住宅と同じ感覚で生活できる:独立した玄関を有し、専用庭が設けられている物件があるなど、生活感は戸建てと変わらない。

●デメリット

単独での建て替えが困難:建築基準法等による制限や、他の区分所有者の同意が不可欠。

住宅ローンの利用が難しい:担保評価が著しく低く見られる可能性が高く、借り入れが難航する。

売却価格が低くい:流通性に劣るため、安く査定されます。

日当たりや風通しが悪い:界壁部分には窓が設けられないため、日当たりや通風が悪い可能性が高まります。

隣家からの音漏れ:防音性能については、界壁部の取り合いや構造等の影響もあり、一概には断定できません。しかし、建物が密接していることから隣接住戸との騒音トラブルが散見されます。

これらの説明を行うと、顧客から追加の質問がされる場合もあります。以下に、想定される質問と回答例を挙げます。

切り離しの同意条件として、強度不足の補償を求められたら応じる義務はありますか?

応じる義務はありませんが、合意内容は当事者の話し合いで決定されます。補償に合意した場合、その範囲で生じた不利益(倒壊や雨漏りなど)については、補償する義務を負います。そのため、事前に建築士に相談し、工事内容を十分に検討することが重要です。また、合意書には有効期間や補償範囲を詳細に定めておくことで、後日トラブルを防げます。

連棟住宅の一棟が取り壊され、更地となった場合、残る建物は違法建築物とされますか?

連棟住宅における他の所有者が認知症の場合や、居所不明の場合にはどのように対応すれば良いですか?

連棟住宅における他の所有者が認知症の場合や、居所不明の場合にはどのように対応すれば良いですか?

成年後見人が選任されている場合、必要が認められれば成年後見人の同意で対応が可能です。専任されていない場合は注意が必要で、同意の有効性が後日問われる可能性があります。そのため、交渉のやりとりを動画で記録することをお勧めします。居所不明の場合には、弁護士や司法書士に相談し、法的手続きを行う必要があります。

これらの質問に対応するには、民法や建築関連法規の理解や、個別の建築確認申請内容のほか構造的な精査が不可欠です。そのために理解を深め、学び続けることが重要です。

まとめ

筆者は不動産コンサルタントとして、連棟住宅に関するさまざまな相談に応じてきました。本稿で詳述した切り離しに関する相談以外にも、以下のようなケースがありました。

例えば、連棟住宅の隣家が一部崩落した場合、その影響を懸念した所有者から「崩落部分の解体を請求することは可能か」という相談を受けたことがあります。また、5戸一棟の連棟住宅のうち1戸を賃貸として運用している投資家からは、「隣家の所有者から切り離しの相談をされたが、それに応じることで賃借人から契約不履行責任を追及される可能性がないか」という相談が寄せられたこともあります。

さらに、解体工事後に発覚した建物の不具合に関する補償問題、騒音トラブル、そして区分所有法がどの程度まで適用されるかといった法律的な課題についての相談も少なくありません。

このように、連棟住宅はその構造や所有形態の特性上、一戸建てでは発生しにくい問題が生じるケースが多いといえます。

売買や賃貸の際にその利便性やコスト面でのメリットを享受できる反面、トラブルが発生した場合には高度な専門知識や交渉能力が求められます。

そのため、連棟住宅を取り扱う不動産業者は、建築基準法や民法、区分所有法などの関連法規を正確に理解し、具体的な問題解決のための知識を備える必要があります。加えて、相談を受けた際には建築士や弁護士などの専門家との連携を図り、顧客に適切なアドバイスを提供する姿勢が求められます。

連棟住宅の特性を深く理解し、理論武装をしっかり行うことで、トラブルの未然防止や迅速な対応が可能となり、不動産業者としての信頼性と顧客満足度の向上につながるでしょう。

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