筆者はクライアントからの依頼で、日本全域の不動産に関し様々な調査を行っています。物件調査を始め、購入や投資判断、売買価格の妥当性、媒介業者の信用調査など、依頼内容は多岐に渡ります。
調査の過程で、自社のホームページやポータルサイトにおいて取引態様が「専属専任」または「専任」とされているのにもかかわらず、レインズに登録されていないケースが散見されます。
宅地建物取引業法では、専属専任媒介の場合で媒介契約締結の翌日から5日以内(不動産会社およびレインズの休業日は除く)、専任媒介で同7日以内にレインズへ登録することが規定されています。それ以降に登録がなされていない場合は規定違反とみなされ、悪質な場合は業務停止や罰金などの行政処分を受ける可能性があります。
この規定は通常、宅地建物取引業者に周知されていると考えられるため、人為的なエラーがない限り発生しないはずです。しかし、特定の業者が同様の状態で複数物件を掲載している場合、意図的な「囲い込み」を目的としている可能性があると推察されます。
調査を通じて、登録がない理由を問い合わせると、「売主が登録を希望していない」などと回答される場合があります。しかし、宅地建物取引業法第34条の2第5項では、「国土交通省令の定めるところにより、登録しなければならない」と規定されており、仮に売主の希望が事実であるとしても正当理由にはなりません。
2024年6月、国土交通省は宅建建物取引業法施行規則を改正し、第34条の2(媒介契約)に関連する規定も強化されました。これにより、2025年1月1日以降に「囲い込み」が確認された業者には、宅地建物取引業法第65条に基づき指示処分が科されることになったのです。
本稿では、施行規則改のポイント、指示処分の概要、そして改正が「囲い込み」の根絶につながるかについて解説します。
施行規則改正の背景■
レインズにおいては平成28年1月から「ステータス管理機能」が導入されています。これにより、登録された物件の売主は、自ら「公開中」、「書面による申込みあり」、「売主都合で一時停止中」の3区分の状態を確認できるようになっています。
これは、媒介を依頼した売主の安心・安全を確保するとともに、レインズを通じた取引の相手方が物件を探索する際において、適正化や円滑化が確保されることを目的として導入されました。
しかし、ステータス管理の登録には法的根拠が存在しておらず、そのため登録するか否かは媒介業者の判断に左右されていたのです。
さらに、登録をした際には施行規則第50条の6に規定された登録証を遅滞なく依頼者に引き渡さなければならないとされていますが、引き渡しをしていない、もしくは引き渡しは行っているがステータス管理機能についての説明が適切になされず、その存在自体を知らない依頼者が数多く存在していたのです。
そこで、2025年1月に予定されているレインズの大規模改修に合わせ宅建建物取引業法施行規則の改正を根拠に、ステータス管理を最新の内容にすることを義務付けたのです。
これにより、専属専任および専任媒介に関する物件販売状況とレインズの登録ステータスに相違がある場合には、宅地建物取引業法第65条に基づき指示処分がなされることになりました。
正確に理解が必要な、違反行為に対する監督処分の基準■
国土交通省は、「宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準(最終改訂平成23年10月26日)」を公表しており、違反行為に対する具体的な基準と適用範囲を明確にしています。この基準は以下の3つの処分に関するものです。
◯第65条第2項:業務停止処分
◯第66条第1項第9号:免許取消処分
監督処分は原則として、当該監督処分を行う日以前5年間の違反行為に対して行えるとされています。また、処分を下す際に「斟酌すべき特段の事情」がある場合、違反内容に応じて加重又は軽減できるとされています。
指示処分は、違反業者に対して法令違反や不適切な行為の是正を求める拘束力のある行政処分です。処分を受けた業者は指示内容を履行する義務を負い、指示に従わない場合は、さらに重い処分(業務停止など)が科せられる可能性があります。
また、監督処分を受けた場合、その情報は国土交通省が運営する「ネガティブ情報等検索サイト」で公開されます。
https://www.mlit.go.jp/nega-inf/cgi-bin/search.cgi?jigyoubunya=takuti
例えば、指示処分の対象となった違反行為については、以下のようなものを確認できます。
◯専属専任媒介契約を締結しながら、指定流通機構に物件を登録しなかった。
◯「国土交通省が定めた標準媒介契約約款に基づく契約」と表示しながら、古い約款を使用していた。
◯重要事項説明書の記載内容に不備があった。
◯実際の築年月よりも新しい築年月を表示して、著しく優良であると誤認させる広告を行った。
ネガティブ情報の登録期間は原則として5年間です。指示処分は監督処分の中で最も軽い措置とされていますが、登録されたことによる信用低下や営業活動への影響は軽視できません。また、違反が指示処分相当であっても、それが繰り返される場合には、加重により業務停止処分や免許停止処分が科される可能性があります。決して、軽く考えてはならないのです。
レインズ必須項目の追加
2020年7月の規制改革実施計画(閣議決定)に基づき、レイズンのシステムが大規模に改修され、2025年1月4日より新たな運用が開始されます。
改修内容は以下の通りです。
2. 物件削除時のメッセージ表示の追加
3. 売買物件(専属専任・専任媒介)の証明書に売主確認画面への2次元コードを追加
今回の改修では、特に既存項目が入力必須とされた点に注目する必要があります。
これまで任意とされてきた項目が必須となり、登録に際してこれらの情報を入力しない限りシステムが受付けなくなります。
今回の改修は囲い込み防止だけを目的とはしていませんが、ステータスを最新の状態にすることや必須とする入力項目を増加させるにより取引の透明性が確保され、結果、依頼者の利益に繋がります。
囲い込みとは、元付け業者が物件情報を独占または操作することで、自社で売買を成立させることにより両手取引を目指す行為です。このような行為が依頼者に不利益をもたらし、不動産取引の円滑化という宅地建物取引業法の趣旨に反する行為であることは明白です。
特に近年では、人気エリアにおける価格高騰化や物件不足を背景に水面下の囲い込みが熾烈化しています。
システム改修後、入力が必須とされたのは新規項目ではなく既存のものですが、これまで一部の登録者が入力を省略していたケースに対応するものです。実施後は、登録者是認が情報を正確に入力する必要があります。
また、物件の販売状況がリアルタイムで把握できるようになることによって、囲い込み防止に一定の効果をもたらすでしょう。これは依頼者にとって大きなメリットであり、不動産取引の信頼性向上に寄与します。
改正の効果と課題
今回の改正により、囲い込みが軽減されることが期待される一方で、巧妙な手口による回避が懸念されています。
例えば、ステータスを常に「書面による申込みあり」としておき、依頼者から問い合わせがあった場合には次のように説明するケースが考えられます。
「書面による申込みは確かにありましたが、現在は融資の事前審査を行っています。融資の利用ができなければ無条件解除となるため、確実性を得るためにそのような対応をしています」
宅地建物取引業法第34条の2第8項では、「申込みがあったときは遅滞なくその旨を依頼者に報告しなければならない」と規定されていますが、一般の方がそのような規定を知っている可能性は低く、「あなたのためだから」といった論調で説明されれば納得せざるを得ないでしょう。
また、ステータスを「公開中」にしていても、他業者から内見依頼に対し、売主都合や担当者不在を理由に断るケースも考えられます。
このように、最新のステータス登録が義務付けされたとしても、その内容が事実であるかを確認する手段はありません。客観的に確かめ方法が存在しないのが実情です。今回の改正は、「監督処分を含めることで囲い込みが軽減される」との期待に基づいている側面が強いと言えるでしょう。
囲い込みを根本的に防止するには、不動産業者のリテラシーを向上させる取組が不可欠です。しかし、自ら変わるとの意識を持たなければ、罰則や規制強化だけでは限界があります。
他国にならい媒介報酬を売主のみが負担する、媒介報酬の上限規定を見直すなど抜本的な改革が必要なのです。
まとめ
レインズ登録に関する一連の規制強化は、不動産取引の透明性向上や囲い込み防止に一定の効果を及ぼすでしょう。
しかしながら、現状では改正規定をすり抜ける手法が残されており、囲い込みの巧妙化といった新たな課題も浮上しています。特に、ステータス登録の内容が事実であるかを客観的に検証する仕組みが整っていない点は大きな課題と言えるでしょう。
こうした問題を克服するためには、不動産業者のリテラシー向上が鍵となります。法令を遵守するだけでなく、違反行為を未然に防ぐために教育の徹底や体制の整備が不可欠です。これに加え、業界全体の信頼性を向上させるための意識改革も不可欠です。
法令の枠組みを遵守し、正確かつ公正な業務を遂行することで、依頼者からの信頼を獲得し、不動産業界全体の健全化を図ることが求められています。今回の改正はその第一歩であり、これを契機としてさらなる改善と発展を目指す必要があるのです。