2025年新春 明けましておめでとうございます。
新しい年が、不動産業界の皆様にとってさらなる成功と成長の一年となりますようお祈り申し上げます。
新年第一回目となる本記事では、新春企画として、不動産業界でよく見られる「縁起担ぎ」にまつわる慣習や、その背景にある意味について考察していきます。
企業規模に関わらず、多くの不動産業者が定休日を「水曜日」に設定しています。これは、「水=契約が流れる」という連想から縁起が悪いと考えられているためです。また、週休2日制の普及により、火曜日も合わせて休業日とする企業が増えています。これも「火=火事」や「業績が火の車」という連想が理由とされています。
これらの慣習に科学的な根拠はありませんが、業界に広く根付いています。
また、契約日や決済日を設定する際「六曜(先勝・友引・大安など)」を参考にするケースも少なくありません。例えば、「3日後の◯日は大安で縁起が良いので、その日を契約日にしてはいかがでしょうか」といった提案が代表的です。
日頃は六曜を意識しない方でも、非日常的な場面では気にされることが多いため、営業トークとして有効活用されています。
不動産業者の中には、高島易断総本部が発行する「運勢暦」を携帯している方も少なくありません。また、手帳に記載された六曜を活用し、顧客に対して適切な説明を行う場面も多く見られます。特に仏滅や赤口、先負を避けて契約日を設定するのが基本ですが、調整が難しい場合には「◯日は赤口ですが、午後からは吉とされていますので午後1時から取引を開始しましょう」といった柔軟な提案が行われます。
このような提案は、六曜の基礎知識を持っているから可能となるのです。
六曜や方位学は占いの一種ですが、弥生時代以降、日本では国家の重大事項を易経や亀卜(亀甲占い)、陰陽道で決定する時代もありました。そのため、縁起担ぎは長い歴史の中で日本文化に深く根付いているのです。
こうした占いのすべてに精通するのは難しいものの、六曜や方位学などの基本的な知識は、不動産営業において顧客との信頼関係を築くうえで重要なスキルになり得ます。科学的根拠の有無に関わらず、これらの知識は時に説得力を高める手段となり、顧客に安心感を与える結果へと繋がるのです。
そこで本記事では、不動産業界に根付く縁起担ぎや運勢暦について、その背景や活用方法をわかりやすく解説します。
六曜のなりたち
六曜は、「六輝」、「六曜星」とも呼ばれますが、中国で誕生し、鎌倉時代末期から室町時代にかけて日本に伝来しました。その後、江戸時代末期には運勢占いとして広く普及したとされています。
かつては、諸葛亮(孔明)が発案したとの俗説があったため、江戸時代には「孔明六曜」と呼ばれることもありました。しかし、現在では2000年前に中国で成立した「六壬」が起源であると考えられています。「六壬」は時刻と天文、干支を組み合わせて行う占いで、計算の際に「式盤」と呼ばれる道具を用いていました。この式盤は後に「年盤座相」、「方位盤」といった形に発展し、現在も受け継がれています。
◯年盤座相とは
年盤座相とは、占いたい年の運気の流れを正八角形の図で表したものです。この図には吉神、凶神、干支、九星の配置が24方位に区分されて配置されており、主に方位や運勢を占う際に用いられます。現在でも使われている「方違え」や「物忌み」の考え方は、この年盤座相に基づいています。
◯方位盤とは
方位盤は、東洋思想に基づき作られた占い道具で、太陽や月、星の動きが地球や人間に与える影響を図示したものです。この図は、天地自然の摂理が人間に及ぼす影響を読み解くために使われ、「天の気」と「地の気」が「人の気」に影響を与えるとの思想に基づいています。九星気学や方位学は、この方位盤の理論を応用したものです。
「年盤座相」、「方位盤」を常時携帯して営業活動を行う方は少ないでしょう。しかし、家相方位学(風水)に基づいて間取りを気にする顧客は少なくありません。
家相方位学(風水)と方位学はどちらも開運術ですが、風水が自宅の相や土地を鑑定するのに対し、方位学は自宅を基点に外に出た場合の吉方向を判断します。この違いを踏まえたうえで基本的な知識を活用することで、顧客の要望に柔軟に対応でき、信頼感を与えられる場面もあります。
ただし、詳細な占いを行うのは営業活動の範疇を超えてしまうため、基本的な読み方を押さえておけば十分です。たとえば、「吉方位を重視したい場合はこのエリアを選択してみてはいかがでしょうか」といった具体的な提案を行うことで、顧客の満足度を高めることが可能となるのです。
六曜の意味
六曜は先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口の総称です。
起源は中国にあり、元々は時刻の吉凶を占うものでしたが、日本に伝来してからは日の吉凶を占う形に変化しました。六曜は基本的に、旧暦朔日(ついたち)を起点に「先勝⇒友引⇒先負⇒仏滅⇒大安⇒赤口」の順で日ごとに巡ります。
それぞれの意味は以下の通りです。
◯先勝(せんがち・せんしょう)
室町時代の連歌師・宋長が歌った「急がば回れ」が用語の起源とされています。「急がば回れ、すなわち勝つ」との考えから、午前中が「吉」とされる日です。ただし、午後は全て「凶」となるため注意が必要です。
◯友引(ともびき)
友引はもともと「勝負のない日」とされており、凶事では「友を引く」という意味もあります。そのため、葬式を避ける日として広く認識されています。他の行事については、朝と夕方が「吉」、正午のみ「凶」とされています。
◯先負(せんぷ・せんまけ)
先負は「先んじれば負ける」という意味を持つ日です。したがって、朝と夕方は「凶」、午後から日暮れまでは「吉」とされています。
◯仏滅(ぶつめつ)
仏滅は「仏が滅する」という意味を持つ最も悪い日とされています。すべての行事が終日「凶」とされる日ですが、お釈迦さまの命日とは直接関係ありません。しかし、特に忌み嫌われる日です。
◯大安(たいあん・だいあん)
大安は六曜の中で最も縁起が良い日とされ、「大安吉日」とも呼ばれます。建築、婚礼、開店、移転、旅行など、あらゆる行事において「大吉」とされる日です。
◯赤口(しゃっく・しゃっこう)
赤口は、古代インド神話に由来する厄災の神「羅刹神」が起源とされています。この日は朝と夕方は「凶」、正午のみ「吉」とされますが、仏滅に次いで悪い日とされています。特に祝い事や訴訟、契約においては「大凶」とされるため、これらの日程を避けることが推奨されます。
ネタとして覚えておきたい旧暦と十二直、二十八宿
これまで解説した「年盤座相」、「方位盤」、「六曜」の基礎知識があれば、営業活動に支障はありません。しかし、こだわりを持たれる方への対応や話題提供として、旧暦や十二直、二十八宿の基本を押さえておくと約に立つ場合があります。
◯旧暦とは
旧暦とは、日本で1872年(明治5年)12月3日(新暦の明治6年1月1日)まで使用されていた「天保暦(太陰太陽暦)」のことです。現在の太陽暦(グレゴリオ暦)は太陽の動きを基にしていますが、旧暦は月の満ち欠けを基にした暦で、新月を初めとし、1年は約354日(約29.5日✕12ヶ月)とされます。
旧暦は太陽暦より1年が約11日短いため、ずれを補正するため数年に1度の割合で「閏(うるう)月」を挿入し調整します。太陽暦でも4年に一度閏年を設けますが、及ぼす影響は旧暦ほどではありません。
改暦から155年を経過して馴染は薄くなりつつある旧暦ですが、日本の伝統行事(節句やお盆など)は旧暦に基づいています。不動産業者として基礎知識を備えておくと、顧客との信頼関係に役立つでしょう。
◯十二直とは
十二直は、北斗七星の動きをもとに一日の吉凶を占う暦注です。
北斗七星の柄杓(ひしゃく)部分の3つの星を「斗柄」と呼び、その方位で吉凶を判断します。
江戸時代には最っとも重要視された吉凶判断であり、昭和初期まで六曜よりも一般的でした。そのため、現在でも十二直を重視する方が一定数は存在しています。不動産の契約や建築において気にされる方も多いため、基本的な知識を持つことが大切です。
◯二十八宿
二十八宿は、地球から見た太陽の通り道(横道)を28等分し、それぞれの区分を「宿」として星座名を付けたものです。起源は古代メソポタミア文明とされ、それがインドを経由して中国に伝播したとの説が有力です。
もともとは季節を定める方法として考案されましたが、後に天文学的な役割は薄れ、東西南北の四神(青龍、玄武、白虎、朱雀)に7つずつ「宿」を配して月や日の吉凶を占うために利用されるようになりました。現在でも一部の行事や日取りの判断基準として使われています。
縁起の良い数字と忌数字
縁起の良い数字としては「8」が挙げられます。これは、漢字の「八」が末広がりの形をしていることに由来しています。また、「三方良し」や「三位一体」、「御三家」などの言葉が見られるように、「3」も縁起の良い数字とされています。
また古事記では厄払いの神「須佐之男命(スサノオノミコト)」が、天照大神の八尺瓊勾玉を譲り受け五柱の神を化生させたことにちなみ、「5」も縁起の良い数字とされています。
さらに、「7」も旧約聖書「創世記」に由来する聖なる数字として縁起が良いとされています。「創世記」には、神が天と地と万象とを6日間で創造し、7日目を安息日にしたと記されています。この影響がどのように日本に伝わり定着したかについては諸説ありますが、「七福神」や「七五三」など、「7」にまつわる言葉が定着していることから、室町時代に遡る説が有力です。
一方、忌数字として代表的なのは「4」と「9」です。これは、それぞれの発音が、「死」や「苦」を連想させるためです。また、海外では「13」が忌数字とされることが一般的です。これはキリスト教において最後の晩餐に出席した人数が13人であり、不吉と考えられたことが由来です。同様に「666」は聖書「ヨハネの黙示録」に登場する「獣の数字」として不吉だとされています。この影響から、単数字の「6」も好まれない傾向が見られます。
このように、忌数字は概念は国や文化によって異なります。特に、縁起を気にされる方に対して不動産の契約日や重要なスケジュールを設定する際には、「4」や「9」を避け、「3」、「5」、「7」、「8」を基本に調整することで、良い印象を与えられます。
縁起や忌数字に関する知識は、不動産業において顧客との信頼関係を築く上で役立つ「小ネタ」として活用できるでしょう。
日本人は宗教に寛容?
日本人はしばしば宗教に対して寛容だと言われます。日本では、仏教やキリスト教といった外来宗教が伝来する以前「古神道(こしんとう)」と呼ばれる原始宗教が信仰されていました。
これは、キリスト教などの一神教とは異なり、森羅万象に神が宿るとするアニミズム(自然崇拝・精霊崇拝)や先祖崇拝を基盤としています。「八百万の神」という思想に象徴されるように、自然や土地、物、人を神として崇める「神道」は、この原始宗教の流れを受け継いでいます。
不動産業者であれば、地鎮祭や上棟式に立ち会う機会が多いでしょう。地鎮祭では、農耕をつかさどる「大地主命(おおとこぬしのみこと)」や土地を守護する「産土大神(うぶすなのかみ)」を祀(まつ)り、上棟式では、工匠の守護神「手置帆負命(たおきほおいのみこと)」や木の守護神「屋船豊受日賣命(やふねとようけひめのみこと)」、御殿の神「彦狭知命(ひこしさしりのみこと)」を御祭神とします。
これらの儀式は、神々に感謝し、工事の無事や建物の繁栄を祈願するものです。ただし、祀られている神々の違いについて施主が詳しく理解しているケースは少なく、多くの場合は縁起担ぎとして行われています。
また、日本人の宗教観は柔軟です。たとえば、初詣やお宮参りを行い、結婚式は教会で挙げ、クリスマスを祝うなど、他宗教の行事を自然に取り入れています。この行動は、根底に「八百万の神」の思想があるからこそ、それほどには矛盾を感じないのでしょう。
もっとも、「宗教について寛容である」との見解に異議を唱える意見もあります。「寛容」というより、「単に無関心なだけ」という指摘にも一理あるからです。
営業マンは、顧客と政治や宗教に関する話をすることがタブー視されています。しかし、六曜や旧暦、家相学や方位学、忌数字の由来など、文化や信仰に関する知識は、不動産営業における契約締結や顧客対応に役立つ場合があります。
知識をひけらかす必要はありませんが、吉兆方位や日時を理解しておくことで、クロージングや契約締結日の調整に活かせるでしょう。基本的な知識を身につけておくことは重要です。
まとめ
今回解説した内容を、「単なる縁起担ぎ」と考えるのも一つの見方です。実際に、これらをまったく気にしない方も少なくありません。
しかし、不動産の購入や賃貸契約の際には、普段は気にしていないような「縁起」を気にされる方が多いのは事実です。
不動産営業には契約や内見立会といった実務以外にも、幅広い知識が求められます。特に「縁起」に関する知識は、科学的な根拠や発祥について理解が及んでいなくても、「なんとなく」という理由で関心を持った顧客に対応する際に役立ちます。
これらの知識を身に着けておくことで、顧客に対して柔軟かつ安心感のある提案が可能になります。不動産営業として信頼を築くためにも、基本的な知識を備え、適切な対応ができるようにしておくことが重要です。