【プロに求められる資質】政治と不動産ビジネスの相関性

私たちが手掛ける不動産取引は、単に物件と顧客を繋ぐ行為ではありません。

その背景には、常に社会の潮流、そして「政治の力学」が深く作用しています。

多くの営業担当者は、個別の物件情報や目先の需要に目を向けがちですが、これからの時代、政治が不動産市場に及ぼす影響を洞察する力こそが、卓越したプロフェッショナルと凡庸な営業パーソンを分ける決定的な要素となっていくでしょう。

政治の動向は、マクロ経済の方向性を決定づけ、ひいてはビジネスの根幹を揺るがすほどのインパクトを持ち得ます。

例えば、規制暖和、税制改正、金融政策、さらには外交関係といったあらゆる政治的決定が、不動産の価値、取引の流動性、そして顧客の購買意欲に直接的な影響を及ぼします。

このことからも、政治の潮流を読み解くことはもはや単なる教養ではなく、生き残るために必須のスキルと理解できるでしょう。

本稿では、政治が不動産取引に及ぼす具体的な影響について、事例を交えながら深く考察してまいります。

マクロ経済対策と不動産市場の連動性

政治が不動産に与える影響で最も直接的なものが、日本銀行の金融政策です。

ご存じのように、日本銀行の金融政策決定に基づく金利動向は、住宅ローン金利に直結するため、その変動は市場の活況を大きく左右します。

ここでは、低金利政策と高金利政策が及ぼす影響についてそれぞれ解説します。

●低金利政策:住宅ローン金利の低下は、住宅購入者の負担を軽減し、購買意欲を喚起します。
これにより不動産市場は活性化し、取引件数の増加が見込まれます。
しかし、過度な低金利は需要と供給のバランスを崩し、不動産価格の過度な高騰を招くリスクを孕んでいます。
1985年のプラザ合意後における超低金利政策がバブル経済の引き金となった歴史は、その危険性を示唆しています。
私たちには、実態とかけ離れた価格高騰を冷静に見極め、先を見据えた対応が求められるのです。

●高金利政策:インフレ抑制などを目的とした金利引き上げは、ローン金利の上昇を通じて住宅購入のハードルを高めます。
これにより市場の流動性は低下し、不動産価格は調整局面を迎えるのです。
現在は、日本銀行がゼロ金利政策を解除した以降も、その影響を考慮して引き上げ幅を慎重に検討している段階ではありますが、都心部などにおいて、新築分譲マンションの供給価格がバブル期平均を超えている事実を踏まえれば、調整局面は目前であるとの予測も成り立ちます。

金融政策に加えて、政府の財政政策もまた重用な影響要因です。
大規模な公共事業投資や消費税増税といった決定は、経済全体のセンチメント(ビジネス分野においては市場全体の心理状態)を大きく左右するからです。
中でも、特に注視したいのが以下の2つです。

●財政出動:大規模な公共事業や補助金政策は、地域経済を活性化させ、不動産需要を創出します。
新幹線の延伸や主要駅周辺の再開発計画などは、その地域における不動産価格を大きく引き上げる要因となり得ます。

●税制改正:住宅ローン減税、不動産取得税の軽減措置、あるいは固定資産税の評価替えなどは、不動産取引のコストに直接的な影響を与えます。
プロフェッショナルとしては、こうした税制の動向を常に把握し、顧客に最適なソリューション(課題や問題を解決するための方法や手段)を提示することが不可欠です。

法改正と不動産ビジネスの変革

不動産ビジネスの変革は、金融や財政面だけでなく、その根幹をなす規制や法制度の変更によっても齎されます。
近年では、宅地建物取引業法の改正による「空家等に係る媒介報酬規制の見直し」や、登記法改正に基づく「相続登記の義務化」が注目されていますが、他にも以下のような法改正が私たちの業務に直接的な影響を与えています。

●宅地建物取引業法:重要事項説明や売買・賃貸借契約の非対面化、コンサルティング業務と媒介業務の範囲明確化など、業務のデジタル化と専門分化が進められています。
これにより、媒介報酬以外の新たな収益確保の道が開かれました。

●賃貸住宅管理業法(賃貸住宅の管理業等の適正化に関する法律):賃貸管理業におけるサブリースなどのトラブル防止を目的に、2021年に施行された比較的新しい法律です。
勧誘時における家賃減額リスクの隠蔽など、事実と異なる説明をすることを禁じ、さらに賃貸管理業の登録制度を設けることで、業界全体の透明性と健全性を高めています。

●マンション管理適正化法(マンション管理の適正化の推進に関する法律):分譲マンションの増加に伴う居住形態の変化や、既存マンションの老朽化に対応し、良好な住環境を維持する目的で施行された法律です。
マンション管理適正化推進計画や理計画認定制度などを規定し、併せてマンション管理士、マンション管理業などについても規定することで、管理の適正化を促し、資産価値の維持に貢献しています。

●犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律):不動産会社のミカタへの寄稿記事でも取り上げていますが、宅地建物取引業者はこの法律に基づき「特定事業者」に指定されており、疑わしい取引については届け出が義務とされています。
この法律は、不動産取引が犯罪収益のマネーロンダリングに利用されることを防止するため機能しています。

●建築基準法:改正により、これまで構造審査が省略されていた『4号建築物』が廃止され、新2号建築物と新3号建築物に再分類されました。
これにより、ほとんどの一般住宅に構造計算や省エネ性能に関する審査が義務付けられるようになったのです。
単に申請書類が増えただけではありません。
一定規模以上の改修工事についても改正法の規定が適用されるなど、建築確認申請の範囲が拡大されたことにより、建築・改修コストや工期に影響を与えているのです。

上記以外にも、およそ120年ぶりとなる2020年の民法大改正をはじめ、借地借家法、消費者契約法、マンション建替円滑化法など、関連法規の改正は絶えず行われています。

立法や法改正は国会に与えられた権能ですが、その動向を先読みすることで、私たちは市場に先駆けた提案を行うことが可能になるのです。

社会政策・地方創生と不動産

政治は社会のあり方そのものを形作る力を持っています。

その中でも、特に私たちの不動産ビジネスに影響を与えるのが、地方創生や人口動態に関する政策です。

テクノロジーの進化により、不動産業務は地理的制約の大半から解放されました。

活用次第では、もはや日本全国の不動産が取引対象になったと言えるでしょう。

そのため、地方創生や人口動態に関する政策は、これまで以上に不動産市場の将来像を大きく左右する要因となり得るのです。

●地方創生政策:政府が企業誘致や移住促進に力を入れれば、それに伴って不動産需要が喚起されます。
例えば、北海道千歳市に建築中である世界最先端の半導体開発と販売を目指す「ラピダス」では、約3,600人もの雇用を創出すると報告されています。
これに伴い、近隣において住宅需要が急増し、さらには工事関係者による消費活動も活発化し、近隣地域の地価上昇を招いています。
同様の傾向は、JR大阪北側の再開発プロジェクトである「うめきた2期地区開発」や、広島駅周辺の大規模開発である「ミナモア(minamoa)」、福岡市東区箱崎地区の「Fukuoka Smart East」においても顕著に見られます。
また、大規模開発だけでなく、大型店舗の誘致や、移住者のみが利用できる自治体の補助金制度、税制優遇措置なども、地方への人の流れを生み出し、新たな不動産需要を創出するのです。

●人口減少・少子化対策:空家問題や少子化は、国が取り組むべき喫緊の課題です。
政府は空家対策特別措置法や相続関連の法改正を通じて、空家の有効活用や流通を促しています。
また、自治体と民間が連携して取り組む高齢者の住居確保や地域独自の少子化対策も、新たな不動産需要を喚起する契機となり得ます。

●地政学的リスク:国際的な紛争や貿易摩擦は、グローバルな資金の流れを変化させます。
例えば、2022年から続くウクライナ戦争では、木材やエネルギー、アルミニウムなどの資源大国であるロシアに対し経済制裁が発せられたことで、資源の供給制限や物流の混乱が生じ、その結果建築資材が上昇したことで、不動産業界に大きな影響を与えています。
このような地政学的なリスクは、単なる国際ニュースではなく、私たちのビジネスに直接影響を与える要因であることを理解する必要があるのです。

私たちが扱う不動産は国内の顧客だけが対象ではありません。

グローバルな視点を持ち、国際政治の動向と海外投資家の行動原理を理解することは、新たなビジネスチャンスを創出するため不可欠です。

このように、政治は単なるニュースの話題ではなく、私達たちが提供するサービスの価値を左右し、ビジネスの成否を決定づける羅針盤となり得ます。

政治的決定がどの地域、どの不動産タイプに影響を与えるかを正確に見極め、顧客に長期的な視点に基づき提案することが、これからの不動産プロフェッショナルに求められているのです。

まとめ

不動産取引に多大な影響を及ぼす政治の潮流や国際動向を捉えるには、意識的な情報収集が不可欠です。

新聞や報道番組はもちろん、各政党の記者会見や専門文献など、多様な情報ソースに触れる必要があります。

このプロセスにおいて最も重用なのは、偏向報道や偏った思想を見極める批判的な視点です。

問題の解決策は一つではなく、政治的意思決定が常に最適解とは限りません。

想定外の事態が生じる可能性を常に念頭に置き、報道機関や有識者の意見を鵜呑みにせず、自らの頭で情報を吟味し、考察を深めることが、プロフェッショナルとしての基盤を築くのです。

例えば、近年、生成AIは業務効率化の強力なツールとして定着しつつあります。

独自のアルゴリズムを組み込んだ専用システムの供給も増加傾向にあり、生成AIの回答をそのまま顧客に送付する事例も増えてきました。

しかし、その利便性の裏側には技術的な限界とリスクが存在します。

生成AIはオープンソースを利用するため、時に不正確な情報や偏った見解を生成することがあります。

特に、関連法規の解釈や最新の最高裁判決など、専門性が高い分野では誤りが散見されます。

したがって、生成AIの活用時には人間によるダブルチェックが不可欠です。

テクノロジーがどれだけ進化しても、最終的な判断を下すのは常に人間です。

AIの回答を盲信するのではなく、その真偽を自らの知見によって見極め、必要に応じて深く調査する姿勢が求められます。

このように自らの思考を磨くことで、私たちは生成AIと適切に共存し、その能力を最大限に引き出せるのです。

同様に、収集した情報をいかに使いこなすかも人間次第です。

いかなる有益な情報であっても、単体では価値を持ち得ません。

複数の情報を関連付け、時に俯瞰して見ることで、新たな発想が生まれるのです。

テクノロジーの進化によって情報へのアクセスは容易になり、知識格差は縮小しました。

しかし、玉石混交の情報が氾濫する現代においてこそ、不確実性を見抜く能力と、責任を持って情報を発信する覚悟が求められるのです。

これこそが、卓越した不動産業者に求められる最も重用な資質であると言えるでしょう。

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