【権利書が見当たらない!!】焦る売主に、説明すべき対応方法

登記法が改正され、従来の登記済権利証が登記識別情報に変更されたのは平成17年のことですが、さすがにこれだけ年数がたつとすっかり定着しています。

逆説的に古い時代の和紙に筆書きの、朱色の登記済み印が押された登記済権利証は、古い時代であるほど威厳があり、懐かしさを覚えるようになりました。

不動産業を実務としている皆様に、いまさら登記済権利証と登記識別情報の違いを説明する必要はないかと思いますが、おさらいとして記載しておきます。

登記済権利証は書類自体が重要であり、登記識別情報は発行された書類自体に意味がなく、目隠しされた12桁のパスワードが効力を持ちます。

登記識別情報

一般の方は、登記済権利証が大切なものであるという認識はあるものの、決済直前になって引っ越しのドサクサで権利証を紛失してしまったなどと慌てて連絡が来て、急遽、保証書で決済することなど珍しいことでもありませんでした。

ご存じかと思いますが、保証書の制度は平成17年の登記法改正により廃止されています。

このような話を不動産業者の会合などで話題にすると、不動産経験の長い年配者は「そうそう」と応じてくれますが、若い世代では「え、そうなのですか?」などと、驚かれることがあります。

つまりは、それだけ登記識別情報の制度が浸透しているということなのでしょう。

ですが、登記法改正前の不動産は当然のごとく登記済権利証による取引ですから、それぞれの違いを理解しておくことは、不動産業者として必要な知識であり、これからの数年間は登記済権利証による登記相談が増加するのではないかと予測されます。

その理由につきましてはコラム内で説明しますが、今回は登記済権利証と登記識別情報の違いと、紛失や盗難にあった場合の対応方法まで解説します。

覚えておきたい基本

基本的なことですが、登記済権利証も登記識別情報通知も再発行はできません。

とくに登記済権利証は保管方法に個人差があり、存在はしているものの汚損や風化により内容を確認できない場合もあります。

そもそも不動産登記法の制定は明治20年、つまり下記の写真のような時代です。

明治中期

写真_明治中期_東京写真美術館HPより

登記法は現在まで何度も改正されていますが、明治の法制定以降、ある程度の様式が整ったのは、一説で昭和6年3月30日法律第20号改正だといわれています。

原則として、所有権が変更されない限り権利証が新しくなることはないわけですから、登記名義人が同一のままである限りどのような古い権利証でも有効です。

昭和初期,登記済権利証

写真_貝塚司法所事務所HP_コレクション写真より

たとえば昭和初期の登記済権利証は上記の写真のごとき代物で、ほとんど古文書ですが、これも登記名義人が変更されていなければ有効です。

査定をする場合には依頼者が登記名義人であると確認するため、登記済権利証もしくは登記識別情報の原本を確認するのが基本ですが、上記のような登記済権利証を出されても、すんなりとは読みこなせません。

もっとも、このような時代の登記済権利証に記載されている登記名義人が存命である可能性は低いでしょうから、このような登記済権利証に遭遇する可能性はほとんどないと思えます。

ところが、このような登記済権利証を見る機会が、これから増加する可能性があります。

そうです。

相続や住所移転登記の義務化です。

相続の持ち分で揉め、さらに法定遺留分を持つ相続人が死亡して権利関係が複雑化してしまっているようなケースを「相続による負の連鎖」ともいいますが、このような所有者不明地の解消を目的として、登記が義務化されました。

このような負の連鎖状態の不動産については、その発端となる登記名義人のまま登記済権利証が現存していることになります。

相続登記義務化により、このような登記や売却の相談が皆様に寄せられる可能性が、充分に考えられます。

ただし、このような登記済権利証をもって売却相談に応じても、それ以前に所有権移転を先行しなければいけませんから、戸籍謄本などから相続の因果関係を読み取る作業が優先されます。

紛失した場合の手続きと、盗難の対応方法

「相続不動産の登記等義務化」は2021年4月に成立し、施行は2024年からです。

義務を履行しない場合には10万円以下の過料が定められたことにより「登記済権利証を紛失しているが、どのようにすれば良いのか?」との相談が、皆様に寄せられる可能性があります。
過料の対象は、過去に遡り

(1) 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日
(2) 改正法の施行日

上記のどちらかを起点に3年以内とされています。

実際には、ほとんどの申請者が(2)に該当しているとの申請をするでしょうから、相談のピークは2024~2027年にかけてと予測されます。

このような相談に備えるためにも、登記済権利証を紛失している場合の手続き方法について理解しておきましょう。

登記済権利証を紛失している場合は「事前通知制度」もしくは「資格者代理人による本人確認情報の提供制度」のどちらかの方法を選択することになります。

事前通知制度は、登記識別情報が提供されない(つまり、登記済証が提出できない状態)で登記申請がなされた場合、登記官から申請人である登記名義人に対して「登記申請があった旨」および「その登記申請の内容が真実であれば、一定期間内にその旨の申出をすること」を通知する制度です。

簡単にいえば法務局から意思表示確認の書面が届くのですが、原則としては発送から2週間以内に、事前通知書の申出書回答欄に名前を記載して、登記申請書や委任状に使用した印鑑により捺印し返送します。

登記申請から返送まで一定の時間が必要ですので、売買が絡む場合利用には適しません。

資格者代理人による本人確認情報の提供制度とは、 登記済証を法務局に提供することができない場合に,司法書士等の資格者代理人が適切な本人確認情報を提供し,登記官が提供された情報の内容を適正と認めたとき,事前通知の手続きを省略することができるとしている制度です。

当然のごとく登記済証(登記識別情報を含む)を紛失した場合の登記費用は、資格者代理人の業務が増加すると同時に責任も増しますから、費用が増加します。

相続による権利関係が複雑な場合には、その分の費用も増加しますから、予めの相談が大切です。

また保管しておいたはずの場所に 登記済証が見当たらず、盗難も含めて心配だと相談されるケースもあるかも知れませんが、登記識別情報に限りですが、失効させる手続きもあります。

不動産の管轄法務局にたいして不動産名義人もしくは相続人等の利害関係者に限り申請することができる制度です。

その他にも、「不正登記防止の申し出」という3か月間限りにおいて、不正登記を防止する制度もあります。

その他に覚えておきたい制度としては、登記識別情報通知に記載されているパスワードの有効性を確認する制度もあり、具体的には登記識別情報12桁のパスワードを開示して、有効かどうかの証明書を法務局が発行してくれます。

ただし、上記の方法はパスワードを法務局に開示するため、登記識別情報通知の目隠しシールを剥がすことになります。

パスワードの漏洩の懸念もあり、手放しでお勧めできる方法とはいえません。

シールを開封せずに請求できる(パスワード情報提供が不要)、不失効証明という方法も覚えておきたいものです。

この証明は、あくまでもパスワードが失効していないことを証明しているもので、パスワード自体の有効性を証明するものではありません。

あくまでも「失効していない=有効だと推定できる」という考えによるものですが、実務的にはこちらを選択するほうが良いかも知れません。

まとめ

重要書類であると広く認知されている登記済権利証や登記識別情報通知ですが、盗難はいざ知らず紛失はいがいなほど多くあります。

重要書類ではあっても頻繁に使用する類のものではありませんから、大切に保管していても年数の経過により保管場所を失念したり、保管場所を相続人に明かさぬまま所有者が他界したりなど理由は様々です。

後述のような相続相談では、どの程度、故人が不動産を所有していたのか把握できていないので調べて欲しいなどの依頼が舞い込むこともあります。

このような連鎖が、所有者不明地の温床になっているのは今回のコラムで解説したとおりなのですが、相続登記の義務化により、今後は放置しておくことはできません。

これらの相談に的確に応じることにより、顧客からの信頼を得て、相談から売却依頼へと進むことも多くあるでしょう。

これから数年間は、今回解説したような登記法や、相続に関する知識が豊富にある業者が存在感を増し、実績を上げていくことでしょう。

そのような時代に取り残されないよう、常に研鑽を積むことをお勧めいたします。

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