コラムでも何度か取り上げている所有者不明地や空き家問題ですが、放置を続けることは税徴収だけにとどまらず、道路や公共施設建設などの公共事業にも影響を与えます。
それ以外にも防犯上の問題や、管理者不在による山林などのがけ崩れなどにより近隣住宅に危険を及ぼす可能性もあることから、喫緊に処理すべき課題として国土交通省や経産省・財務省・総務省など各省庁が連携して問題解決に取り組んでいます。
すでに可決され、2024年から施行される相続や移転時における登記義務化も、所有者不明地や空き家問題を解消するための有効な手段ではありますが、それだけで問題を解決することができません。
単純な方法ですが、必要のない人から必要としている人や管理できる人へ売買により所有権を移転してしまえば良い。
そのような意味合いから、政府も売買を直接手掛ける私たち不動産業者の協力なくして問題解決はできないと考えています。
そのためには売買をするのに足かせとなる現行法を見直すことに重点をおいています。
つまり各種の法整備や優遇制度を構築し、流通市場を活性化させることにより問題解決に至るといった考え方です。
私たち不動産業者は、刷新される法制度などを理解してビジネスチャンスにつなげることができる機会の到来です。
特に目まぐるしく法改正が施行され定着するまでの数年間は、理解を深め即応する業者と旧態依然の方法で業績が伸びない業者の2極化になるのではないかと予測できます。
刷新される法律や制度ばかりではありません。
なぜ、空き地状態などを放置しているのか、所有者の事情や問題点を把握し、有効である方法を提案することが更なる業績アップへとつながるのではないでしょうか。
そのような意味合いから、今回は「国土審議会土地政策文化会企画部会」で討議されている内容に基づき、土地政策の方向性や、所有者が現状で抱える問題点などについて理解を深め、有効な提案を検討できるよう解説します。
25%が、売れるなら売りたいが本音
「土地問題に関する国民の意識調査」のアンケートによると、空き地を所有している方の52.6%が所有に負担を感じたことがあると回答しています。
この負担を感じたことがある人に質問を重ねていくと、そのうち4人に1人にあたる25.4%が、「手放せるものなら手放したい」と回答しています。
「負担を感じる空き地」に関してのアンケートの有効回答が2368件ですから、そのうち601件もの回答者が「手放せるものなら手放したい」と考えているのです。
これを実際の空き地や空き家所有者の人数に置き換えると、かなりの数に及ぶのではないでしょうか。
もちろん、この比率を空き家や空き地総数にたいして適用することには無理もありますが、多くの所有者が可能であれば売却をしたいと考えていると推察できます。
それでは地所有が負担を感じ、処分したいという考えを持っているのに、なぜ売却をしないのかまで考察する必要があります。
コメントの前半にある「売れる見込みはないが」にヒントがありそうです。
私たち不動産業者からすれば1件でも多く欲しい「売り依頼」ですが、所有者が「売れる見込みはない」と考えて積極的に活動していないのは何故でしょうか?
空き地所有者が「売れる見込みがない」と考える理由
「売れる見込みはない」理由については、アンケートの回答結果が具体的に記述されていませんので、根本的な理由を掘り下げることはできません。
一部の意見のみ公開していますので、紹介します。
筆者は不動産コンサルティングをしておりますので、放置土地の活用などについて相談を受けることも多いのですが、経験則から理由を大別すると概ね以下のようになります。
2. 活用方法が分からない。
3. 売却したいが査定金額も低く、手間暇を考えれば赤字となる。
これらは国土交通省から公表されている「土地を活用しない理由」のグラフと、おおむね合致しています。
クライアントからの依頼で、地上げ案件として地権者との交渉に赴くと「活用を考えているから売却しない」と、最初は取り付く島もない状態ですが、そこで食い下がり、具体的にどのような活用を考えているのかなどと話を聞いていくと、具体的には何も決まっていないことが多く、税務面や管理負担、相続まで説明をすることにより売却にこぎつけることもあります。
活用していない理由を理解して、私たち不動産業者が活用方法の提案などを積極的におこなうことにより、これらの層を取り込めるのではないでしょうか?
提案を行う上で、政府が検討している対策を予め念頭に置くことは大切なことです。
とはいえ、確定していないものを詳細に説明する必要はもちろんありません。
大切なのは、ヒアリング時において「こんな政策が検討されていたな」と思い出し、「詳細については後日、説明させて戴きますが……」と前置きして、次回アポイントにつなげていくことです。
他社とは違う切り口で切掛けを作ることにより、顧客から一目おかれる存在となり、直接的な利益、つまり売り依頼などにつながる可能性が増加するのではないでしょうか。
所有者不明地の分類と検討されている政策と覚えておきたいキーワード
所有者不明地の割合は、下記図のようになっています。
宅地の他に農用地などがあり、特に林地の割合が高くなっています。
また適切に管理されていない可能性が高い土地としては、林地・農用地・宅地の順番で高くなっています。
「管理ができていない=持て余している」可能性が高まりますので、そのような物件は狙い目だといえます。
農用地を扱うには、市街化区域の場合も含めて「農地転用許可」の方法や、改正された「生産緑地制度」のほか、「農地中間管理機構」については理解を深めておきたいところです。
併せて農村地域の人口減少により生じた空き家の活用制度である「既存住宅活用農村地域等移住促進事業」も、押さえておきたいキーワードです。
この制度では空き家と農地をセットした「農地付き空き家」として、特定区域については農業委員会の公示を得ず、農地取得面積の下限面積を引き下げできますので、移住者が就農しながら農家レストランを経営するなど、多岐にわたる活用方法が検討できます。
放置の比率が高い「森林」については、私たち不動産業者が取り扱うことが少ないのですが、基本的な不動産取引知識のほか「森林経営管理制度」の理解を深めておく必要があるでしょう。
また令和4年12月31日に創設が予定されている「低地利用地の適切な利用・管理を促進するための特例処置」として、個人が譲渡価格500万円以下であって、都市計画区域内にある一定の低未利用地を譲渡した場合に、長期譲渡所得から100万円を控除できる制度については、売却金額が低いことを理由に売却に躊躇している方への有効な提案となりますので、押さえておきたいものです。
まとめ
今回の記事では、放置土地や空き家問題を総体的に解消していく手段として、政府が検討(すでに施行されているものも含む)している制度にどのようなものがあるのかを理解していただくことが目的です。
問題解決に向けて各省庁がそれぞれの管轄で有益な方法を模索しており、具体的な内容が多岐に渡るため全てを覚えておくことは容易ではありません。
ただし、実際に所有者からの相談を受ける私たちは、改正が検討される法概要を頭の隅に入れておくだけで、「そのような問題に関しては、現在、政府が検討している新しい法律が適用される予定ですから……」と、話をするだけでも一味違う不動産屋として印象付けられることでしょう。
今回、簡易的に解説した各種の制度につきましては、機会を得て詳細な記事にしていきたいと思っています。
深く内容を知ることはもちろん大切ですが、人間の記憶量には個人差もあり日々の業務に忙殺されていると、なかなか全てを覚えることなど出来ません。
何となくといった程度で構いません。
「このような制度が検討されている」と、会話の糸口となる情報を頭の隅に置いておくことが何よりも大切です。