令和2年11月30日時点での総務省の公表によれば、財政破城の状態を意味する「財政再生団体」は北海道夕張市のみです。
ですが財政破城の危機がある市区町村として2019年度のランキングではありますが福岡県大任町・京都府宮津市などがあげられています。
図_2019.10.28ランキングDIAMOND Onlineより
筆者は北海道出身(現在の活動拠点も北海道)ですから、身近である夕張市の財政再生団体指定後の悲惨さは地元新聞や知人から聞き及んでいますが、なんせ地方自治体でありながら「自治」は存在せず、予算計上して独自の事業を実施して少しでも改善を試みようにも予算編成に「国の同意」が必要とされます。
小さいところではボールペンを購入するための事務費から、コロナ禍で満足に昼食も取れずに従事する医療スタッフの業務を改善させるため、看護師などの有資格者を時間給で募集しようにも、たとえ1円でも国が認めた年度予算を超えることが許されないことから実現できません。
市区町村が運営していた図書館や美術館、交通弱者のための送迎サービスなどは廃止され、公園の整備もされず荒れ放題、医療機関も縮小されます。
財政再生団体である夕張市は
「全国最高の市民負担」
が常態化して町全体が疲弊しています。
そのような状態で将来が見えないと、本来であれば状況を打開するのに必要な若者を中心に流出し、残るのはもっとも行政サービスが必要とされる高齢者ばかり。
結果として税収も減り(税金は上げられていますが、それでまかなえる道理はありません)負の連鎖状態ですから再建ははるか先の話で、昨年、所用で夕張市を訪れたときはまるでゴーストタウンのようでした。
このような財政再生団体に指定された場合に訪れる状況は、どの市区町村でも知っていることですから絶対に回避したい。
そのために何をするか。
人口の流出を減少させるために産業の衰退を防止して雇用を安定させ、地方文化や伝統を魅力的に発信し移住者を呼び込む「町おこし活動」が王道です。
もう一つ市民から支持されるとの前提は必要ですが、税収の引き上げです。
ですが税収の引き上げが歓迎されることなどありませんから、市民が納得するだけの理由が必要です。
そのような点で、興味深い対策を検討しているのが京都市です。
ご存じの方も多いと思いますが、財政破城度10位までにランクインしていませんが京都市がその瀬戸際にあるのは有名な話です。
その京都市で、全国初となる放置空き家の所有者にたいし課税する「空き家税(正式名称は非居住住宅利活用促進税)」の導入を検討していることが、放置空き家を抑制し、かつ税収を引き上げる一挙両得のコペルニクス的な発想であるとして注目を集めています。
実際に導入され成果が得られれば、他の市区町村でも導入を検討するでしょう。
制度の導入が波及すれば、放置空き家の所有者は「少々、価格が安くなっても毎年お金を払うよりはマシ」と考え、物件が市場に出回る可能性が高まるのではないでしょうか?
今回は京都市で検討されている「空き家税」の概要と併せ、不動産取引価格に影響を与える財政再生団体についても解説します。
財産再生基準について
まず財産再生団体に至る判断基準について解説します。
都道府県や市区町村の財産再生基準として、実質公費比率で25%を超え34%までが早期健全化基準です。
35%を超えれば「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」に基づき「財政再生団体」に指定されます。
先ほどの財政破城度ランキングでも、2位の大任町の実質公費比率が17.1%、その他にランクインしている市町村も、高くても20%前後で踏みとどまっています。
ランキングは2019年のものですから、そこから変動はありますが例えば夕張市は2019年73.5%であったものが、総務省の昨年度の公表では69.9%になるなど、まだまだ遠い道のりですが減少しています。
もっとも財政再生団体の指定は実質公債費率のほか、実質赤字比率(早期健全化基準で道府県3.75%・市区町村は財政規模に応じて11.25~15%)や連結実質赤字比率(都道府県8.75%・市町村や特別区は財政状態に応じて16.25~20%)により総合的に判断されています。
実質赤字比率とは福祉・教育・まちづくり等を行う地方公共団体の一般会計等の赤字の程度を指標化しているもので、連結実質赤字比率は前記の赤字を含むすべての会計赤字と黒字を合算し、赤字の状態、つまり財政団体の悪化の度合いを示しています。
この基本を理解して戴いたうえで京都市に話を進めましょう。
京都市の状態
あたりまえの話ですが黒字(税収等)を増加させ赤字(歳出)を減少させれば問題は解決します(それが簡単には出来ないから各市区町村も苦労している訳ですが……)
いずれにしても税収を増加させるのが手っ取り早い方法です。
日本を代表する観光地である「古都」京都市は、世界中から観光客が訪れる街ですから印象として、財政破城から縁遠いと思われがちです。
ですが市財政は火の車で慢性的な収支不足が指摘されていましたが、平成30年には自主財源として「宿泊税」を導入するなどして令和元年度には過去最高となる2,770億円もの市税収入を得ました。
ところが長引くコロナ禍で頼みの観光収入も激減し収支が悪化しています。
主な原因は「借金・人口減・観光壊滅」の3つですが、令和2年9月3日に京都市監査委員会が京都市長にあて提出した「令和2年度健全化判断比率審査意見及び資金不足比率審査意見書」によれば実質赤字比率は0.07%で連結実質赤字比率は報告されていませんが、実質公債費比率は11.4%です。
市区町村の平均値が5.8%ですから約「倍」の状態です。
財政再生基準の前段である早期健全化基準が25%ですから、すぐにそこまで達する訳ではないでしょうし京都市が策を講じていないという訳ではありません。
財政再生団体に転落した場合の試算として、京都市監査委員会は夕張市の財政状態を参考に市民負担増を予測したのが下記の図です。
京都市は令和3年度基準地価ランキング1736市町村中で27位と、地価が高い地域です。
図_土地代データ掲載情報より
財政再生団体転落後の固定資産税引き上げも含め、その他税収引き上げによる税負担は市民に重くのしかかることから他府県への流出が増加し、日本が世界に誇る古都京都が廃れることになりかねません。
空き家税(正式名称は非居住住宅利活用促進税)の概要
京都市広報によると導入は2026年を目途にしています。
空き家の所有者にたいし、通常の固定資産税にプラスして土地建物の評価額を基に「空き家税」が算出され課税されます。
課税名目として特定対象のみに適用が認められる不均一税も検討されましたが、不均一税は特定地域のみが享受できる積極的な利益が存在していなければ課税できないため、現状では地方税法で定められる「法定外税」が適切であるとしています。
対象は放置されている空き家ですが、風光明媚な古都であることから別荘も多く、管理されていない別荘もその状態により対象とされます。
京都市としては、その地域制から別荘やセカンドハウスの存在はある程度まで許容できるとする一方で、長引くコロナ禍により利用されず空き家状態が長期化することにより治安や管理不全による近隣への影響、地域コミュニティ活力の低下につながることから利活用を促進したいと考えています。
余談ですが「セカンドハウス」は言葉としての概念であり、法令等における定義は存在していません。
そのため京都市は独自に「生活の本拠点以外に所有されている住宅」を別荘・セカンドハウスとして定義づけることにより、一定の担税力を賦課できると考えたのは興味深い点です。
そのような観点から、防災・防犯・下水道などの公共施設設備や、地域コミュニティに関する行政需要が、このセカンドハウス等では適正に負担されているとは言い難いとして、検討されている空き家税以外にも新たな税負担を求めることも検討されています。
現在、京都市では空き家税導入に向けて住民票や固定資産課税台帳、マイナンバーなど把握している登録情報を基に対象物件を調査中とのことですが、現状では約6.4万戸にのぼるであろうと推測しています。
あくまで試算ですが、空き家税の導入により初年度10.7億円で平年度は11.9億円の税収が見込まれると試算されています。
京都市持続可能なまちづくりを支える税財源の在り方に関する検討委員会による答申書をみると「税収が目的ではなく、地価の高い京都市内の空き家が税負担の増加により割安で売却に出される可能性が高まり、若い住宅購入世帯の持ち家増加につながる」という部分が強調されており、真意としては住宅購入世代が物件を所有することにより人口減少に歯止めをかけ、どの自治体でも抱える問題としての放置空き家解体費用等の発生を防止する意味もあるのでしょう。
まとめ
日本有数の観光地であるが故の課題でもある別荘・セカンドハウスの比率の高さは、需要が存在するのは当然ですが、その地域で生活する市民にとっては「空き家」でしかなく、地域コミュニティの観点からは部外者でしかありません。
あげく適正に管理されていなければ、治安の悪化にもつながりかねないものです。
地価の高い京都市では、定住しようと考える若い世帯もおいそれとは手が出せません。
通常の放置空き家問題解決と併せ、このような観光地ならではの問題解決をする手段として「空き家税」創設は、非常に興味深い取り組みです。
また京都市周辺を商圏としている不動産業の方であれば、2026年の「空き家税」導入を見越して所有者にアプローチするなどの営業展開も考えられますし、税負担を避けるため所有者が自ら「多少、安くても良いから売却したい」と相談に訪れるかもしれません。
不動産業者としてビジネスチャンスになるでしょう。
このように観光地ならではの問題解決や、セカンドハウスや放置空き家にたいして「法定外普通税」を適用させる取り組みは全国初ですから、その影響や成果については注視し、続報として皆様にお届けしたいと思います。