【ハザードマップ水害地域】浸水対策設計手引を参考にすれば備えは万全

一般社団法人住宅生産団体連合会(住団連)は、平成4年6月に国土交通省所管の社団法人として発足した組織で、住宅に関しての「調査・研究・提言・国際交流・情報提供」をしている団体です。

様々な調査・研究を営利追求ではなく、質の向上などを目的としておこなっており、その成果報告については不動産業者として参考になる部分が数多くあります。

2020年7月から宅地建物取引業法が改正され重要事項説明時には「水害ハザードマップ」を添付し、取引対象物件の所在地についての説明が義務付けられていますが、実際に説明をすると「水害地域に該当するのはわかったけれど、じゃあ対策はどうすればいいの?」なんて質問されることがあるでしょう。

そのような時に「いや………説明が義務付けされているだけであって、対策を講じることは義務付けされていませんので」なんて言えば、最悪、重要事項説明時にキャンセルされてしまうかも知れません。

なんせ契約締結前に説明するのが重要事項説明であって、その逆の手順だと業法違反ですから。

政府は2021年5月に「特定都市河川浸水被害対策法」等(流域治水関連法)を改正するとともに、「水災害リスクを踏まえた防災まちづくりのガイドライン」を取りまとめるなど、水害に対しての備えと事前対策の重要性について情報を発信しています。

背景には2018年に発生した西日本豪雨や、令和元年の東日本台風による甚大な浸水被害があります。

このような災害が発生するたびに防災意識が高まり、浸水被害のある地域を未然に知り、かつその影響を未善に防止したいという意識も高まっています。

私達は住宅を含め高額な財産である不動産を取り扱う業務ですから、顧客の生命を守ることはもちろん災害が発生しても、可能な限り浸水被害を防止するため事前策の検討や、残念ながら被害にあった場合にも早期復旧できるための対策など、総体的な知識を駆使しての助言が必要とされます。

ご存じないかたも多いのですが、現行で水害・浸水被害について対策を講じるとした建築基準法や品確法における定めは存在しません。

つまり「法」は未整備の状態であり、先見性のある良心的な設計士など一握りが事前対策を講じているに過ぎません。

そのような意味合いからも住団連が住宅における浸水被害の状況調査や対応策について調査・研究をした成果物としての「住宅における浸水対策の設計の手引き」は、設計者ではなくても参考にすべき手引書であるといえるでしょう。

「住宅における浸水対策の設計の手引き」は下記のURLにアクセスしてPDFデータで確認することができるほか、ダウンロードも可能です。

https://www.judanren.or.jp/activity/committee/pdf/seino_shinsui_210726.pdf

住宅における浸水対策の設計の手引き

紹介していてなんですが今回の解説コラムを読むよりも、実際の手引書を読んでいただいたほうが間違いありません。

ですが総ページ数が140Pもあります。

しかも本来、設計士を対象とした内容で構成されていますので相応の建築知識がなければ難解だというオマケ付きです

そのために「全部目を通すのはさすがに………」と躊躇されるかたも多いでしょう。

そこで今回は、あくまでも筆者が重要であると考える部分のみを抽出して解説をおこないます。

浸水被害による影響

手引書では7Pから「過去に起きた浸水被害状況の確認」として、実際に浸水被害にあった家屋等の状況写真を豊富に掲載しています。

浸水被害状況

写真_一般社団法人 住宅生産団体連合会 団体会員提供

非常に生々しく、これを見せるだけで一般の顧客は「水害地域の不動産なんて購入したくない‼」と言うかもしれません。

浸水被害状況
それだけ衝撃的な写真ですが、床上浸水に限らす水位がキッチンや床上まで達した写真まで掲載されており、コメント欄に復旧方法も記載されていることから一通り目を通しておくことをお勧めします。

浸水被害状況

浸水被害状況

写真_一般社団法人 住宅生産団体連合会 団体会員提供

このような写真の数々は「浸水被害に合わないために」なんて顧客向けセミナーや配布資料などにも転用し利用できるでしょう。

浸水経路はどこから?

前項の写真を確認するまでもなく、水位がある程度上昇した場合には窓や玄関からなど、どこからでも水は浸入します。

どのような事前対策を講じても、気密性の高い防災シェルターでもない限りは事前対策を講じるにも限界があります。

ですが床上まで達していない程度の水害でも、水が引けてから床下を確認すると痕跡の著しい写真がいくつも掲載されています。

この場合の侵入経路は建物の「基礎」からです。

建築物を支える頑強な基礎ではありますが、基礎強度と気密性は必ずしも連動していませんから事前対策を講じていなければ水の浸入経路は多数存在します。

浸水経路

上記の写真にある基礎換気口はもちろんですが、換気口を設けない基礎パッキン工法などでも通気用の穴が開いていますから基礎天端以上まで水位が達すれば浸水します。

浸水経路

そこまで水位が上がらなくても配管の貫通部などからも浸水します。

浸水経路

写真_一般社団法人 住宅生産団体連合会 団体会員提供

このような浸水経路を写真で確認するだけでも、定期的に貫通部のコーキング劣化状況を確認し補充することの重要性を理解することも出来ますし対策についても検討できるでしょう。

浸水レベルを理解してどこまで対策するか検討する

次に水位の高さについてですが「浸水レベル」は1~4「浸水想定区分」は1~5まで、それぞれ定義が存在しています。

浸水レベルの定義
基本的に現況GL、つまり現状のグランドレベルから浸水深さを判定し、被害区分を分類する考え方です。

浸水想定区分

浸水レベルに比例して住宅に与える被害も甚大になりますから、当然として復旧費用も高額になります。

このような浸水レベルと復旧工事費用の因果関係について、手引書ではグラフ化しおおよその金額が勘案できます。

浸水レベルに応じた復旧工事費用

復旧工事費用の目安は建築面積辺り・新築工事費用に与える影響・工事内容別復旧費用などもグラフ化しており、目的に応じて確認することができます。

浸水レベルに応じた建築面積当たりの復旧工事費用

手引書では浸水レベル1においての復旧費用を1万円/㎡以下と試算しており、レベル2で12万円/㎡、レベル3になると24万円/㎡程度であるとしています。

もっとも建物構造などにより40万円/㎡なんて事例も紹介されていますから、あくまでも目安として覚えておくと良いでしょう。

浸水対策住宅の設計にかかせぬ事前調査

手引書では22P以降で「浸水対策住宅の設計フロー」が紹介されています。

浸水が警戒される地域において設計をする場合、設計士が被害を未然に防止するため留意すべき手順についてのフローです。浸水対策住宅の設計フロー

設計をする立場ではなくても、不動産業者が浸水警戒地域などの物件を紹介する場合や未然防止対策としてリノベーション工事を提案する場合などにおいても参考になる、情報収集から始まるフローです。

浸水対策住宅設計ツール

また下記の防災情報チェックリストは、防災の危険性を心配する顧客にたいし、調査結果を具体的に明示する資料とし活用できます。

防災情報チェックリスト

手引書28Pから始まる「建築地における浸水リスク情報確認方法」は新築に限定されない既築住宅提案時における事前調査にも活用できるサイト等が紹介されています。

重要事項説明書にはハザードマップ等の添付が義務付けられていますので、不動産業者であれば当然に利用しているでしょうが、それ以外、例えば「地域別浸水シミュレーション」などはあまり知られていません。

防災情報については、売買に限らず賃貸入居者も「非常に気になる」としたアンケート結果がでています。

手引書で推奨されているツールを下記にまとめておきます。

●重ねるハザードマップ

URL:https://disaportal.gsi.go.jp

手引書で使用方法も詳細に解説されています。

いままで使用されていなかった方も参考になるでしょう。

重ねるハザードマップ

●地点別浸水シミュレーション検索システム(浸水ナビ)

https://suiboumap.gsi.go.jp/

堤防が決壊した場合における浸水深、氾濫水到達時間、浸水継続時間などをシミュレーションできるサイトです。

地点別浸水シミュレーション検索システム

●国土地理院地図

https://maps.gsi.go.jp/

このサイトは不動産業者の利用率も高いでしょう。

ご存じのように地形図、標高、地形分類などのほか災害情報発信や自然災害リスクを確認することができるサイトです。

国土地理院地図

●総合災害情報システム(DiMAPS)

https://dimaps.mlit.go.jp/dimaps/index.html

災害情報を地図上でリアルタタイムに表示でき、過去の災害もまとめて表示することができるほか、浸水時には浸水戸数をリアルタイムでも表示することができるシステムです。

このツールはアイディア次第で様々な提案資料作成などに応用できます。

総合災害情報システム

浸水対策の設計思想とは

住宅を設計する立場ではなくても、浸水リスクにたいしての設計思想は理解しておきたいものです。

浸水に対しての設計思想は、実は単純です。

1. 住宅内への浸水を防ぐ。
2. 防げない場合には、被害の軽減や被災後の早期復旧及び継続使用を可能にする。
3. 万が一の場合に備え、住宅内における避難も考慮する。

上記の考え方を、設計上でどのように取り入れるかです。

例えばコンセント位置を通常よりも高く設置するのも一つですし、引違いなどの掃き出し窓を設けるのは1箇所だけする、分電盤は2階に設置するなどです。

浸水対策

浸水対策,住宅

リノベーション提案時や、2階リビングは災害に強いなど覚えておけば営業トークに利用できる内容ですので、一通り目を通しておくと良いでしょう。

まとめ

今回の記事は冒頭で申し上げたように「住宅における浸水対策の設計の手引き」140ページの一部をよりぬき、解説を加えたものです。

お勧めは手引書を丹念に読んでいただくことですが、今回、解説した内容を理解して戴くだけでも、浸水に関して不安を感じる顧客にたいしそれなりに説明可能となる情報をまとめました。

長引くコロナにより在宅時間が長くなったからでしょうか、賃貸も含め「家」の快適性を優先する世帯が増加しています。

防音室やテレワーク用の個室などを取り入れた間取りが人気ですし、省エネ性や安全性といった点についても、以前より重視されるようになりました。

当然として今回解説した浸水対策など、ハザードマップによる危険地域にも敏感に反応します。

予算や既存物件数などの絡みもありますから、要望される条件を全て満たした物件を紹介することは困難ですが、知識としての対策方法を理解していれば、浸水エリアの物件紹介を行う場合にも営業トークに奥行きがでることでしょう。

インターネットの普及により情報格差は少なくなり、プロ・アマ問わず同様の情報が得られるようになった時代だからこそ、不動産業者はその専門的な知見を広げるための努力が必要だと言えるでしょう。

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