長期修繕計画と修繕積立金の整合性検証が必要な理由

マンションみらい研究所が公表した「築40年を経過したマンションの修繕工事費の実績(事例研究)」と「長期修繕計画に基づいて積立金の改定はされているか(事例研究)」にもとづき、分譲マンションの長期修繕計画と修繕積立金の整合性が重要であることと、実際の大規模修繕工事の実施状況について紹介します。

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マンションの修繕工事実績

築40年を経過したマンションの修繕工事実績データから、工事費を平方メートル単価に換算すると以下のようになります。

マンション名 40年間累計工事費用(/平方メートル)
Aマンション 64,000
Bマンション 74,000
Cマンション 53,000
Dマンション 82,000
Eマンション 53,000
Fマンション 78,000
Gマンション 67,000
Hマンション 74,000
平   均 68,125

出典:マンションみらい価値研究所「築40年を経過したマンションの修繕工事費の実績(事例研究)」

40年間の累積工事費用であり、集計後に修繕工事が必要なケースも考えられます。
8棟の修繕工事費平均金額(40年間累計工事費)は、平方メートル当たり単価が68,125円となり、100平方メートルのマンションであれば1戸あたり680万円が40年間で費やした修繕工事費です。
事例研究では修繕工事の時期が比較的早い時期に実施した「前倒し型」と、ほかのマンションより遅くおこなった「後ろ倒し型」について分析しています。
大規模修繕のサイクルとして物件ごとにバラツキはありますが、次のような傾向が見られます。

・1回目が築年数11年目~21年目
・2回目は19年目~32年目
・3回目は31年目~40年目以降

また前倒し型と後倒し型の差額は、21年目と33年目にもっとも小さくなることが、事例研究報告書に示されており、21年目と33年目までには大規模修繕工事がおこなわれていることが想像できます。
修繕積立金は大規模修繕がおこなわれた直後、残高は縮小しやがてすこしずつ増加しながら、次のサイクルで再び残高が縮小するという動きを繰り返すのです。

修繕積立金の見直し状況

修繕積立金の事例研究でも8棟のマンションについて研究をおこない、長期修繕計画の策定と見直し、および計画における工事費最大年と積立金の改定実績について報告書がまとめられています。
以下は8棟の状況をまとめたものです。

マンション名 時  期 計画年数 工事費最大年 積立金改定
Aマンション 分譲時 25 20 1回(20期)
12年目見直し 25 34
17年目見直し 30 36
23年目見直し 30 48
Bマンション 分譲時 25 20 1回(15期)
12年目見直し 25 36
19年目見直し 30 36
24年目見直し 30 39
Cマンション 分譲時 25 20 なし
12年目見直し 25 36
18年目見直し 30 48
24年目見直し 30 48
Dマンション 分譲時 25 20 なし
管理費会計から繰入
11年目見直し 25 31
19年目見直し 30 36
24年目見直し 30 37
Eマンション 分譲時 25 20 なし
11年目見直し 25 36
19年目見直し 30 36
25年目見直し 30 37
Fマンション 分譲時 25 20 1回(21期)
10年目見直し 25 30
16年目見直し 30 37
25年目見直し 30 41
Gマンション 分譲時 25 20 2回(16期、24期)
12年目見直し 25 32
19年目見直し 30 36
24年目見直し 30 37
Hマンション 分譲時 25 20 なし
12年目見直し 25 37
19年目見直し 30 44
24年目見直し なし

出典:マンションみらい価値研究所「長期修繕計画に基づいて積立金の改定はされているか(事例研究)」

この結果により8棟のマンションのうち7棟のマンションで、積立を均等方式でおこなうと現在の積立金では修繕工事費が不足することがわかりました。
積立金不足が予想される場合は積立金の改定が必要ですが、3棟のマンションで改定がまったくおこなわれていません。
長期修繕計画の見直しは10年目~12年目、16年目~19年目、23年目~25年目とおこなわれていますが、その時点で積立金の改定がおこなわれない理由として『「20年も先の話でもあり、将来の修繕工事は後ろ倒しできるかもしれない。」という正常性バイアスの心理』を指摘しています。

積立金不足が工事の実施時期を遅らせる

積立金が不足し管理費会計からの繰入や金融機関からの借入ができない場合、積立金が積み増しされるまで延期せざるを得ません。
修繕時期が到来しているにもかかわらず大規模修繕ができない物件は、売却する時点で価格交渉が入るなど、区分所有者にとっては不利な材料になります。つまり資産価値の劣化が生じるわけです。
国土交通省が作成した『マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要』では、修繕積立金の目安として以下の平方メートル単価を掲載しています。

マンションの規模 面積(平方メートル) 月額平均値(/平方メートル)
15階未満 5,000未満 218
5,00010,000 202
10,000以上 178
20階以上 206

出典:国土交通省「「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要」

上記の平方メートル単価が目安の水準と仮定すると、事例研究のマンションではまだまだ修繕積立金は少ないと判断できます。
工事の延期は売却機会を失う場合もあり、本来であれば前倒しにより大規模修繕工事が実施されることが、資産価値維持の面では望ましいと言えるでしょう。

60年後の決断

かねてから分譲マンションの修繕積立金不足は指摘されていましたが、こうして事例研究として公表されたことは意義のあることです。
修繕積立金の設定は販売時に購入者がチェックする項目の1つです。心理的に高い設定の物件を選択することはすくなく、低い設定にならざるを得ないのが現実です。

購入者の意識の違いにも注目する必要があるでしょう。
購入後、早い時点での転売を予定している「投資」志向の場合は、修繕積立金は管理費同様「経費」として認識します。
できるだけ長く住みつづけ将来は相続資産として予定する人にとっては、修繕積立金は資産を維持するための「再投資」と認識するでしょう。

この両者の違いは

・すくない積立金を望む
・十分な積立金を望む

と、明確に分かれることになります。
そのため「望ましい修繕積立金額」は異なるのが当然であり、長期修繕計画の見直し時には、両者の考え方の違いにより改定の是非が問われることになるのです。
マンションの寿命はおよそ60年と考えられます。60年後には建替えするか解体し更地として売却するか、どちらかを区分所有者は選択しなければなりません。
そして60年後の決断のときまでに、どのような状態に資産がなっているかを決めるのは、長期修繕計画と修繕積立金の整合性がとれているか否かにかかっているのです。

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まとめ

日本初の分譲マンションは1953年の宮益坂ビルディング、民間分譲マンションで初は1956年の四谷コーポラス、どちらも築60年を超えて建替え事業がおこなわれました。
60年の歴史のなかでは、5回ほどの大規模修繕工事が実施されたと考えられます。
どのような建物であっても維持管理の状況により耐用年数は変わります。

しかし物理的にも経済的にも耐用年数は必ず訪れるもので、およそ60年と考えなければなりません。
建替えにあたっては再入居を希望する区分所有者が多いほど事業は順調にすすみます。
そのためには建替え時においても、建物は健全な状態であることが望ましく、長期修繕計画の適正な履行が必要であることは言うまでもありません。
そして適正な維持管理のため必要な修繕積立金の検証が重要です。

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