電通グループ、エイチ・アイ・エス、IHIなどの大手企業が相次いで自社ビルや所有不動産などを売却しています。2021年度の上半期において国内の不動産売却を行った東証1部と2部に属する企業は36社となっており、前年の同期(27社)と比べ33.3%増という結果になりました。なお36社のうち赤字決算となっている企業は15社と約4割を占めており(東京商工リサーチ調べ)、不動産売却におけるネガティブな実情が垣間見えます。
元記事は@niftyニュースより
「コロナ禍で業績が悪化し、資産売却で財政改善を図る企業が目立ちます。250億円超えの赤字を出したエイチ・アイ・エスは本社を324億円で売却後、賃貸契約で事務所として使っています。オンワードホールディングスも渋谷区代官山と港区芝浦に所有する不動産をそれぞれ70億円、約115億円で売却しています。電通は本社ビルを売却、890億円の譲渡益を得ています」(同社情報本部の松岡政敏課長)
上述以外にも、鉄鋼大手IHIが愛知県知多市の工場用の約39万平方メートルにも及ぶ広大な敷地、及び同じく工場用の土地として使われていた横浜市金沢区の敷地約2万7000平方メートルを売却しており、215億円の譲渡益を計上しました。さらに国内唯一の紙幣印刷機の製造などを手掛ける小森コーポレーションは、千葉県野田市に所有する工場用敷地約5万6000平方メートルを売却し31億円に及ぶ譲渡益を上げています。
また機会内蔵装置のベアリング製造を手掛ける、世界シェア3位の日本精工は、神奈川県川崎市に位置する敷地約3万7000平方メートルを売却することで97億円の譲渡益を記録しています。阪急阪神東宝グループで、阪急百貨店や阪神百貨店などの統括を行うエイチ・ツー・オーリテイリングも、約1万1000平方メートルの敷地を売却し85億円の譲渡益を上げました。
以上のような大手企業が相次いで敷地を売却した結果、同年度内に売却済みとなった土地の総面積は34社あわせて67万1022平方メートルとなりました。なお譲渡益をすでに公表している32社の総額は1722億300万円となっており、824億100万円を記録した前年度と比べ2倍以上となりました。
2008年以降、1年間あたりの上場企業による不動産売却の件数は常に100件を下回る状態が続いていたが、コロナ禍を契機に企業の不動産に対する考え方は一変したと言っていいようです。
ニッセイ基礎研究所の佐久間誠准主任研究員によれば、コロナ禍をきっかけに企業が不動産の価値を今一度見直すことになったと言います。
「コロナの影響で本社がなくても在宅で十分作業が可能なことや、事務所の分散は意味がないことが分かり、本社への集約化が進んでいます。加えて都心の不動産は依然高値圏にあるため、不動産の売却がしやすい状況になっています」。また「ワクチン接種や治療薬でコロナ禍の出口が見えてきたこと、超金融緩和でカネ余りの状況は、都心の好条件の不動産は売りに出ればいくらでも買い手が出てくる状況です。有効活用を目的とする企業の資産の大胆な見直しは、経済全体の活性化につながる大きな流れになると期待されます」。
コロナ禍によってこれまで行き詰っていた不況の打開は、不動産市場の好況が一役買いそうです。
今後も企業の大型不動産の売却と、それに伴う不動産価格の動向に注目が集まります。