地方・郊外への移住ニーズを取り込むためのポイント

総務省が7月27日に発表した2021年6月の住民基本台帳人口移動報告によると、東京都は5月に続いて2ヶ月連続で転出数が転入数を上回る転出超過となりました。

直近では、1回目の緊急事態宣言が発出された2020年5月に7年ぶりの転出超過になり、その後も7月から2021年の2月まで続いていました。

これは、コロナ禍によって住まい方や働き方が変化したことが大きな要因の一つと言えますが、それ以前から地方創生、東京への人口一極集中の緩和といった取り組みを政府・自治体が推進してきたことも影響していることでしょう。

この記事では、人口分布の変化や移住者のニーズを分析し、コロナ禍における地方・郊外への移住ニーズを取り込むためのポイントを検証してみたいと思います。

地方・郊外移住を取り巻く環境

まず、都市部人口の転入・転出状況について詳細を見ていきましょう。

①東京23区の人口減が顕著な傾向

以下の表1は、三大都市圏(首都圏一都三県と大阪府・愛知県)の2019年・2020年度(4月〜3月)の転入超過数(転入数−転出数)をまとめたものです。

表1.首都圏一都三県と大阪府・愛知県の転入超過数

2019年度 2020年度 増減率
東京都 83,455 7,537 -90.97%
神奈川県 30,492 29,383 -3.64%
千葉県 9,658 13,346 38.19%
埼玉県 26,174 25,084 -4.16%
大阪府 10,454 10,943 4.68%
愛知県 −5,633 −6,651 -15.31%

引用:総務省「住民基本台帳人口移動報告」から作成

転入超過数の傾向を見ると、すべての都市部で転入超過数が減少しているわけではないことがわかります。

しかし、東京都は転入超過数の減少が顕著で2019年度比で転入超過数の減少幅が−90%を超える大幅減となっています。

次に東京都内の人口動態をもう少し詳細に見てみましょう。

表2は、2020年と2021年各月の東京23区と市部の人口増加率(前年同月比)をまとめたものです。

表2.東京23区と市部の各月人口増加率の推移(前年同月比)

引用:東京都「住民基本台帳による世帯と人口」を参考に作成

東京23区の人口増加率は、2020年4月の1回目の緊急事態宣言をきっかけに減少傾向となっています。

2021年に入ってからはマイナスに転じ、人口が前年に比べて減少しています。

2月・3月は4月の新入学・新入社の時期に合わせて一時回復していますが、4月以降は再び減少に転じ、以降減少幅が大きくなる傾向となっています。

東京の市部でも2020年4月以降、人口増加率は減少傾向にありますが、2021年1月以外は前年比増をキープしています。

②地方・近郊移住への期待と不安とは?

ここまでの結果を踏まえて、都市部の居住者がなぜ郊外・地方に移住するのかを考えてみたいと思います。

以下の表3と表4は、マーケティング・リサーチ会社の(株)クロス・マーケティングが実施した調査から地方へ移住した場合に期待すること・心配することを抜粋してまとめたものです。

表3.地方へ移住した際に期待すること(複数回答、n=1,100)

物価・家賃が安い 47.4%
自然に親しめる 39.6%
健康的な生活ができる 34.1%
食材・水・空気が美味しい 30.6%
スローライフを実践できる 29.6%
住環境が広くなる 24.1%
コロナに感染するリスクが低い 17.0%
子育ての環境に適している 13.5%
地域の活性化に貢献できる 12.9%

引用:株式会社クロス・マーケティング「郊外・地方移転への意識に関する調査」

表4.地方へ移住した際に心配なこと(複数回答、n=1,100)

交通機関の利便性が低い 36.8%
買い物の利便性が低い 36.5%
医療や福祉の充実が不安 28.3%
友人・親戚から遠くなる 22.6%
人間関係が不安 20.2%
地域の文化の違いが不安 20.0%
レジャー・娯楽施設が少ない 17.4%
子供の教育環境が不安 10.0%
その他 2.5%

引用:株式会社クロス・マーケティング「郊外・地方移転への意識に関する調査」

表を見ると、地方移住で期待することで最も多いのは「物価・家賃の安さ」が最多で、約半数を占めています。
他には「自然に親しめる」「住環境の充実」「感染リスクを抑えたい」といった声が挙がっています。

一方、不安に思うこととして、「交通機関の利便性が低い」と「買い物の利便性が低い」が4割弱を占めて最多となり、他にも「医療・福祉の充実」「人間関係」「子供の教育環境」といった意見が見られます。

現状、全国的にワクチンの接種が進んでいますが、変異株によってはワクチンの効果が低減する可能性を指摘する報道も散見されます。

感染者数の増加や新たな変異株の出現によって、郊外/地方への移住がさらに高まる可能性があると言えるでしょう。

③高齢化の進展による同居・近居ニーズの高まり

同居・近居にはメリット・デメリットの両面があるものの、親・子・孫の三方良しが期待できる居住形態と言えるでしょう。

コロナ禍によって都心部から地元に住み替えて同居や近居を検討するといったマインドが、地方・郊外への移住を増加させていることの要因となっていると考えられます。

新型コロナウイルスは高齢者におけるリスクが他世代よりも高く、高齢者におけるワクチン接種が概ね完了した状況においても、外出を制限し、人と会う機会も減らしているという世帯も多く、買い物などにも不安・不便を感じている方が多いようです。

一方の子世代については、以下の表5・6の子世代の同居・近居に関する検討状況についてまとめたものをご参照ください。

表5.将来的に、両親との同居や二世帯・近居について考えていますか?(n=298)

20代以下 30代 40代 全体
夫・妻いずれかの両親との同居・近居を考えている 35.9% 25.0% 18.7% 24.5%
夫・妻いずれの両親との同居・近居は考えていない 64.1% 75.0% 81.3% 75.5%

引用:株式会社インタースペース「マイホームに対する意識」調査

表6.住宅購入にあたり、ご両親からの援助はありましたか?(n=173)

援助あり 夫の両親から 17.9%
妻の両親から 13.9%
両方の両親から 10.4%
援助なし 57.8%

引用:株式会社インタースペース「マイホームに対する意識」調査

年代が若くなるほど同居・近居を考える割合は高くなっていることから、仕事・子育てに忙しい子育て世代が、同居・近居によって人的・経済的に余裕を持ちたいと考えていることが分かる結果と言えるでしょう。

7月30日に厚生労働省が発表した日本人の平均寿命は、女性が87・74歳、男性が81・64歳となり、ともに過去最高を更新する結果となりました。

進展する高齢化と子育て支援にコロナ禍が加わり、Uターンによる都市部から地方・郊外への移住を後押しする状況と言えそうです。

地方・郊外への移住ニーズを取り込むためのポイント

ここまで、都心から郊外/地方へ移住する生活者の実態と住まい探しニーズについて検証・分析しました。
ポイントは以下の通りです。

・都市部すべてで転入超過数が減少しているわけではなく、エリアによっては転入超過数が前年比で増加している自治体もある。

・転入超過数の減少幅がとりわけ大きいのは東京都で、中でも東京23区は2021年に入ってからは前年比で人口減少に転じており、4月以降右肩上がりで減少幅が伸びている。

・地方移住に期待している点は「物価・家賃の安さ」「住環境の充実」などの住宅・生活環境を充実させるものが多く、中には「感染リスクを抑えたい」といった声もある。

・地方移住で不安な点は交通機関などの利便性の低さや医療福祉・人間関係・子どもの教育環境などが多くなっている。

・同居/近居に親世帯/子世帯双方の支え合いが必要となっており、特に子世代は若い世代ほど親との同居・近居を検討する傾向にある

都心部から郊外・地方への移住、ましてや家族で知らない土地への移住となれば、居住者はさまざまな不安・課題を抱えることとなり、そういった住まい検討層のニーズに対して幅広く対応することができる「移住コンシェルジュ」としての役割が競合他社との差異化のポイントになると考えられます。

集客のポイント①補助金・助成金

郊外・地方移住で「コスト」を重視している声が多いことから、政府・自治体の移住補助金だけでなく、起業・子育て・通勤・就業・リフォーム支援金、また近居についても政府・自治体で支援金を交付しているケースがあるので情報を把握しておくと良いでしょう。

集客のポイント②生活における福祉環境

地方移住で「子どもの教育環境」「医療・福祉」に不安を持つケースが多いようです。

都市部では待機児童問題がここ数年の社会問題となっていますが、一般的に都市部に比べて地方の方が保活の負担は小さいため、保育園に子どもを預けられるかどうかで地方・郊外への住み替え居住地を決めるといったケースも増えています。

保育園関連については、担当する物件の近隣保育園の待機児童数や保育園ごとの教育方針など、大まかな特徴を把握しておくと良いでしょう。

自治体によっては保育園・高齢者介護施設などの福祉施設を第三者が評価する仕組みを取り入れているので、ホームページで当該自治体内に所在する福祉関連施設の客観的な評価を閲覧することができます。

【調査概要】

■株式会社クロス・マーケティング「郊外・地方移転への意識に関する調査」

・調査地域:全国47都道府県

・調査対象:20~69歳の男女

・調査期間:2020年9月8日(火)~ 9月9日(水)

・有効回答数:本調査1,100サンプル

■株式会社インタースペース「マイホームに対する意識」調査

・調査対象者:子供がいる母親379名(年齢 20代53名、30代221名、40代以上105名)

・対象地域:全国

・調査時期:2019年2月19日~2019年2月28日

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