エンドユーザーが購入の決め手とする要素の一つ「住宅設備」。
水回りに注目が集まるのもちろんのこと、昨今ではコロナ禍や環境意識の変化によって住宅設備へのニーズが変化しています。
この記事では、東京カンテイが行った「新築マンションの設備機器設置率の変化から人気とトレンド」から4大都市圏のマンションにおける住宅設備の設置率を分析し、中古マンションにおける「設備」の訴求について考えてみたいと思います。
マンション「設備」のニーズと設置率
新築マンションにおける宅配ロッカーの設置率
以下の表1は、過去10年間(2011〜2021年)に竣工した新築マンションにおける宅配ロッカーの設置率をエリア/戸数別にまとめたものです。
表1.過去10年間に竣工したエリア別/戸数別新築分譲マンションの宅配ロッカー設置率
エリア | 戸数 | 設置率 |
首都圏 | 50戸未満 | 99.47% |
50戸以上100戸未満 | 99.95% | |
100戸以上 | 100% | |
近畿圏 | 50戸未満 | 99.6% |
50戸以上100戸未満 | 99.85% | |
100戸以上 | 100% | |
中部圏 | 50戸未満 | 99% |
50戸以上100戸未満 | 99.72% | |
100戸以上 | 100% | |
福岡県 | 50戸未満 | 99.44% |
50戸以上100戸未満 | 98.78% | |
100戸以上 | 98.33% |
引用:(株)東京カンテイ「過去 10 年間における最も設置率の高いマンション設備機器」
宅配ロッカーの設置率はエリア・戸数に関係なく高く、とりわけ100戸以上の物件ではほぼ100%となっており、標準設備といっても過言ではない状況となっています。
ここ数年でネット通販に利用が急激に増加したことが要因となってニーズが高まったことに加えて、配送回数が増加することの環境負荷を考慮したデベロッパー側が積極的に設置した結果と言えるでしょう。
以下の表2では、「コロナ拡大による住宅に求める条件の変化」をまとめていますが、「宅配ボックス・置配ボックス」が上位に入っており、コロナ禍における「非対面性」という意味でもニーズが高まっています。
表2.コロナ拡大による住宅に求める条件の変化(n=1,014)
部屋数がほしくなった | 21% |
広いリビングがほしくなった | 21% |
日当たりのよい住宅がほしくなった | 21% |
遮音性に優れた住宅に住みたくなった | 18% |
省エネ性(冷暖房効率)に優れた住宅に住みたくなった | 18% |
収納量を増やしたくなった | 17% |
換気性能に優れた住宅に住みたくなった | 17% |
宅配ボックス・置配ボックスを設置したくなった | 17% |
仕事専用スペースはほしくなった | 14% |
庭がほしくなった | 13% |
屋上や広いバルコニーがほしくなった | 12% |
引用:(株)リクルート『住宅購入・建築検討者』調査 (2020年)
新築マンションにおけるエコジョーズの設置率
以下の表3は、過去10年間(2011〜2021年)に竣工した新築マンションにおけるエコジョーズの設置率をエリア/戸数別にまとめたものです。
表3.過去10年間に竣工したエリア別/戸数別新築分譲マンションのエコジョーズ設置率
エリア | 戸数 | 平均設置率 |
首都圏 | 50戸未満 | 67.2% |
50戸以上100戸未満 | 78.3% | |
100戸以上 | 79.6% | |
近畿圏 | 50戸未満 | 80.1% |
50戸以上100戸未満 | 77.2% | |
100戸以上 | 71.4% | |
中部圏 | 50戸未満 | 78.4% |
50戸以上100戸未満 | 82.4% | |
100戸以上 | 73.3% | |
福岡県 | 50戸未満 | 68.1% |
50戸以上100戸未満 | 66.7% | |
100戸以上 | 73.2% |
引用:(株)東京カンテイ「過去 10 年間における最も設置率の高いマンション設備機器」
給湯器については、ガス・電気も含めて各メーカーからさまざまな商品が販売されています。
中でもエコジョーズは、販売台数・売上規模ともに競合するエコキュート・エネファームを引き離している状況です。
エリア別に見ると、近畿圏・中部圏では比較的設置率が高く、首都圏・福岡圏で低い傾向となっています。
エコジョーズはこの10年間で設置率を着実に高め、近畿圏は2011年竣工の100戸以上の設置率が42.1%に対して、2020年には84.6%と倍増するなど、各エリアでの設置率が高まっていることが分かります
エコジョーズは、従来の給湯器で捨てられていた熱をリサイクルして給湯する仕組みを採用し、CO2排出量の削減・省エネを図ったもので、「低炭素社会」の実現や近年のSDGsといった環境意識の高まりを受けて評価を高めていると考えられます。
加えて以下の表4(旭化成ホームズ株式会社「電力消費量傾向の調査」)および前出表2の「省エネ性(冷暖房効率)に優れた住宅に住みたくなった」といった回答からも分かる通り、コロナ禍によるおうち時間の増加で、各家庭の光熱費は増加傾向にありますので、コスト面でも優位にあるエコジョーズの普及は今後も進んでいくものと思われます。
表4.年間積算電力消費量
引用:旭化成ホームズ株式会社「電力消費量傾向の調査」
新築マンションにおける床暖房の設置率
以下の表5は、過去10年間(2011〜2021年)に竣工した新築マンションにおける床暖房の設置率をエリア/戸数別にまとめたものです。
表5.過去10年間に竣工したエリア別/戸数別新築分譲マンションの床暖房設置率
エリア | 戸数 | 平均設置率 |
首都圏 | 50戸未満 | 78.5% |
50戸以上100戸未満 | 86.9% | |
100戸以上 | 86.8% | |
近畿圏 | 50戸未満 | 91.8% |
50戸以上100戸未満 | 89.3% | |
100戸以上 | 87.5% | |
中部圏 | 50戸未満 | 61.1% |
50戸以上100戸未満 | 61% | |
100戸以上 | 71.1% | |
福岡県 | 50戸未満 | 34.9% |
50戸以上100戸未満 | 29.5% | |
100戸以上 | 34.3% |
引用:(株)東京カンテイ「過去 10 年間における最も設置率の高いマンション設備機器」
床暖房は近畿圏の設置率が高く、戸数が少ない物件ほど設置されている確率が高くなっています。
次に設置率が高いのは首都圏ですが、近畿圏とは傾向が異なり、戸数が多い物件ほど設置率が高くなっています。
福岡県は戸数に関係なく設置率が低いですが、2011年の竣工物件では戸数によって0%〜20%程度だった設置率が2020年竣工物件40%〜50%まで上昇しており着実に設置率が上昇しています。
一方、住まい探し検討層における床暖房のニーズについては、以下の表6「自宅にあると良いと思う機能・設備」をご参照ください。
表6.自宅にあると良いと思う機能・設備(n=50)
ウォークインクローゼット | 40% |
床暖房 | 38% |
モニター付きインターホン | 30% |
浴室乾燥機 | 28% |
玄関収納 | 20% |
ペアガラス・二重窓 | 14% |
対面カウンターキッチン | 14% |
電気錠 | 12% |
ジェットバス・ミストサウナ | 12% |
バリアフリー | 12% |
シューズインクローゼット | 12% |
引用:株式会社FLIE「マンションの購入」調査
床暖房は、イニシャルコスト・ランニングコストともに高いことで敬遠されがちですが、実際に使ってみると部屋全体が暖まるのに乾燥しないといった点で評価を受けることが多い住宅設備です。
お子さんのいるご家庭では他の暖房器具に比べて安全性が高いことも評価されており、こちらもコロナ禍のおうち時間の増加による室内環境の改善高めることを目的に引き続き導入ニーズは高いと言えるでしょう。
中古マンションにおける「設備」訴求のポイント
ここまで、東京カンテイが行った「新築マンションの設備機器設置率の変化から人気とトレンド」調査を参考に中古マンションにおける「設備」の訴求について考えてきました。
ポイントは以下の通りです。
・宅配ロッカーの設置率は、エリア/戸数問わず高い。ネット通販の利用が増加していることに加えて、コロナ禍の非対面受け取りを目的に今後もニーズが高い状況が続くと考えられる
・エコジョーズは、環境意識の高まりを背景に設置率を高めてきた。加えて今後は、コロナ禍の「おうち時間」増加による光熱費の上昇を背景に、効率的な給湯システムのニーズがさらに高まると考えられる
・床暖房は、特に福岡圏で設置率が他の都市圏に比べて低くなっているが、この10年間の竣工物件では着実に設置率が高まっている。コスト面でデメリットはあるものの、暖房としての快適性・安全性が評価されている
今回ご紹介した設備はいずれもマンションでのニーズが高まっている、もしくは高まってきた設備であり、新築/中古マンションの並行検討層においては関心の高い設備と言えるでしょう。
コロナ禍において、都市部から地方・郊外への移住が増えており、エリアを跨いだ住み替えが増加する傾向にあることから、域外の不動産検討層(特に他の都市部)のトレンドや住まい事情を把握し、ユーザーのニーズに合った物件の訴求・紹介の重要性が高まっています。
また、各設備に対する理解を深めておくことで、より詳細な顧客ニーズ(買主/売主ともに)にきめ細かく対応することができ、顧客の信頼獲得・競合他社との差異化につながっていくと考えられます。
【調査概要】
■(株)リクルート『住宅購入・建築検討者』調査 (2020年)
・調査対象 :首都圏(東京都/千葉県/埼玉県/神奈川県)・関西(大阪府/京都府/奈良県/兵庫県/和歌山県/滋賀県)・東海(愛知県/岐阜県/三重県)・札幌市・仙台市・広島市・福岡市在住の20-69歳男女
・調査期間:2020年12月11日(金)~12月21日(月)
・有効回答数:1,688
■旭化成ホームズ株式会社「電力消費量傾向の調査」
・調査方法:HEBEL HEMSにより収集された邸毎の電力消費量※1の分析
・対象期間:2019・2020/01/01~12/31及び2021/01/01~04/30
・調査対象:9都府県(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、愛知県、大阪府、京都府、兵庫県、福岡県)に存在するPV搭載のヘーベルハウスのうち、2,427棟
■株式会社FLIE「マンションの購入」調査
・調査地域:首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)
・調査対象:マンションを購入または購入の検討をしたことがある25歳以上の男女【マンションを購入したことがある(48%)、購入の検討をしたことがある(52%)】
有効回答数:50サンプル
調査期間:2020年2月17日~2月29日