突然ですが、4月からNHKで放送されている「正直不動産」というドラマはご存じでしょうか?
不動産業界内でも話題になっているようなので、耳にされた方も多いことと思います。
「正直不動産」は2017年にビックコミックで連載がスタートし、単行本は累計で220万部(2022年3月時点)を売り上げている人気漫画です。
好評を受けてこの度、山下智久さん主演でドラマ化されるに至りました。
原作は、ひょんなきっかけから嘘がつけなくなってしまった不動産営業マンが不動産業界で奮闘する物語なのですが、不動産営業マンらしくない言動・振る舞いに加えて、不動産業界の商慣習や問題点などが分かりやすく描かれていることが人気の要因となっているようです。
今回の記事では、フリエ住まい総研が実施した「不動産営業への本音」調査を取り上げつつ、「正直不動産」のテーマでもある「正直な不動産会社」が消費者に求められる理由について分析します。
分析結果を踏まえて、買主・売主に選ばれる不動産会社としてどのような姿勢で向かい合うべきなのかについても考えてみたいと思います。
【1】フリエ住まい総研「不動産営業への本音」調査
フリエ住まい総研は、住まい探し検討層に「不動産営業への本音」に関する実態調査を実施し、そのインサイトをまとめています。
調査方法: インターネット調査
調査対象: 20代以上でご自身が住む住宅を探している方 279名
調査期間: 2022年3月15日~2022年3月21日
①82%が「正確な情報提供」に期待
以下のグラフは、不動産営業担当者に期待することについて聞いた調査結果をまとめたものです。
引用元:フリエ住まい総研「不動産営業への本音」調査
「正確な情報提供」が最も多く、82.1%の回答率となっており、続く「誠実な接客姿勢」の59.9%、「専門的な知識量」の44.8%を引き離す結果となりました。
②不動産会社選びの決め手「地域密着」54.8%
次のグラフでは、不動産会社を選ぶ際に重視することを聞いた結果をまとめています。
引用元:フリエ住まい総研「不動産営業への本音」調査
「地域密着であること」が54.8%で最多となり、「コストパフォーマンス」が48.7%、「インターネットの口コミ」が37.6%で続くという結果となっています。
必ずしも全国展開の大手ブランドが優位というわけではなく、地域密着で評判の良い不動産会社が選ばれていることが分かる結果と言えそうです。
③内見は「営業担当者の同行」が望ましい82%
以下のグラフでは、物件の内見時のサービスについて聞いた結果をまとめています。
引用元:フリエ住まい総研「不動産営業への本音」調査
「営業担当同行の現地内見」が82.1%で、「無人での現地内見」28.1%、「現地からのオンライン内見」13.6%を引き離し圧倒的多数を占める結果となりました。
ここまでの調査結果を踏まえると、同じ目線で一緒に住まい探しをしてくれる専門性の高いパートナーを求めていると言えるでしょう。
【2】住み替えに関する最新動向
フリエ住まい総研の「不動産営業への本音」調査は、「20代以上でご自身が住む住宅を探している方」を対象としたもので、買主を対象としたものです。
その一方で、(株)リクルートが行った「『住宅購入・建築検討者』調査 (2021年12月)・年間まとめ」によれば、買い替え(持ち家を売却して新しい家を購入、建築)の割合が高まっており、買主=売主というケースが増加していることがわかります。
<『住宅購入・建築検討者』調査概要>
・調査対象
首都圏(東京都/千葉県/埼玉県/神奈川県)・関西(大阪府/京都府/奈良県/兵庫県/和歌山県/滋賀県)・東海(愛知県/岐阜県/三重県)・札幌市・仙台市・広島市・福岡市在住の20~69歳男女。
過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて「具体的に物件を検索した。もしくは建築・リフォーム会社の情報収集をした、している」「資料請求をした」「モデルルームや住宅展示場、モデルハウスを見学した」「不動産会社、建築、リフォーム会社を訪問した」「購入する物件や、建築・リフォームの依頼先と契約した」のいずれかの行動をしており、検討に関与している
・調査時期
2021年12月18日(土)~12月28日(火)
・回答数
2,655(集計対象:1,725サンプル)
以下のグラフは、住宅の購入・建築を検討している人を対象に住宅取得経験を調査したもので、調査年度別・回答者の年代別にそれぞれまとめています。
引用元:(株)リクルート「『住宅購入・建築検討者』調査 (2021年12月)・年間まとめ」
2021年の調査で「買い替え」と回答した人は26%となり、2019年の15%から年々増加しています。
コロナ禍の影響で住み替えニーズが促進されていることが分かる結果と言えるでしょう。
引用元:(株)リクルート「『住宅購入・建築検討者』調査 (2021年12月)・年間まとめ」
年代別に見ると、年代が上がるほど買い替えの割合が高まっており、中でも60代は過半数となる56%の回答率となっています。
これらの結果を踏まえると、「買主が不動産会社の営業担当者に求めるもの」≒「売主が不動産会社の営業担当者に求めるもの」として対応することの重要性が高まっていると言えそうです。
【3】購買行動の変化
では、そもそも消費者が不動産会社の営業担当に「正直さ」「誠実さ」を求めるのはなぜでしょうか?
不動産が大きな買い物であること、不動産会社への不信感などが背景にあることは間違いありません。
しかし、近年のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)による購買行動・検索行動の変化が大きな影響を与えていることも見逃せないと考えます。
①行ったり来たりを繰り返す検索行動
Googleが近年提唱している購買モデルとして「バタフライ・サーキット」と呼ばれるものがあります。
これは、商品の選択肢を広げる「さぐる」動きと、選択肢を絞っていく「かためる」動きが、ぐるぐると回り動き続ける蝶々の動きに似ていることから名づけられたものです。
消費検討においては、一般的には「情報を探る」→「意思をかためる」と移行するように思われますが、このモデルにおいては、消費者の性格や環境・業種などのさまざまな要素によって不規則に変化するものと定義されています。
新婚旅行を検討する際の検索行動が例示されていましたので、ご紹介します。
以下の図は、2018年1月に新婚旅行に行くことを企図してから予約し、2019年6月に渡航するまでの検索動向をまとめたものです。
引用元:Think with Google(ギリシャ? バリ? はたまたハワイ? 新婚旅行の検索行動から見えた情報探索行動のリアル:バタフライ・サーキットと 8 つの動機)
旅行ガイドの立ち読みなどから開始し、知人・友人の助言、ネット・SNSでの情報収集を経て、最終的に購買行動を決定していることが検索行動から読み取れます。
この間の動きは、まさに「さぐる・かためる」を行ったり来たりしている動きであり、さまざまな情報が現れては消えるを繰り返していることが特徴です。
②「情報化」が信頼できる情報源へのニーズを高めている
こういった検索行動におけるパターンをGoogleでは「全方位型」「主観型」「慎重型」「真面目型」「瞬発型」の5つに分類しており、不動産関連の検索では「全方位型」や「真面目型」が多いと指摘しています。
引用元:Think with Google(「全方位」「主観」「慎重」「真面目」「瞬発」 5 つに分類できる探索行動パターン:バタフライ・サーキットと 8 つの動機)
※「全方位型」とは?
全方位型は、商品やサービスの購入を思い立ってから実際に購入するまでの間に、積極的な情報検索によって情報を満遍なく手に入れようとするパターンです。購入する商品やサービスをある程度絞って「かためる」行動をしていても、SNSなどで興味をひく商材に出会うと突発的に購入したくなるのが全方位型の典型的な特徴です。
※「真面目型」とは?
真面目型は、周りの意見や雑誌などオフラインの情報から購買意欲が刺激される傾向にあります。情報探索行動においては、「学ばせて欲しい」「解決させて欲しい」「心づもりしたい」などを動機とする割合が高く、客観的な意見や情報を知ることを目的に、購入前にその商品やサービスの情報をしっかりと掴んでおきたいという気持ちが強いことが特徴です。
DXによる情報化のさらなる進展によって、消費者はこれまで以上に膨大な情報処理を行う必要に迫られており、常にアップデートされる情報や不正確な情報に迷う・流されるといったことを繰り返しながら、時間と手間をかけて意思決定を行っていることが分かります。
購買行動の満足度・納得度を高めるために、信頼できる情報源に対するニーズがますます高まっていると言えそうです。
【4】選ばれる不動産会社になるためのポイント
売主・買主が不動産会社に正直さ・素直さを求める背景として、DXによる購買行動・検索行動の変化がその要因の一つとして影響を与えていることがお分かりいただけたかと思います。
スマホの普及、サブスクリプションやシェアリングといった新しい買い物の方法など、消費者における選択肢がますます多様化しており、その意思決定にあたってはこれまで以上に時間と手間がかかっています。
そのため、信頼できる相手から正直な意見を聞き、できるだけストレスなく意思決定を完結したいと考える傾向がこれまで以上に強まっているのではないでしょうか。
こういった消費者の購買行動・検索行動の多様化に対して、不動産売買仲介業においても同様に顧客接点自体を多様化させていくことが求められます。
自社HP・SNS・メール(マーケティングオートメーション)・動画、セミナー・勉強会の開催など、さまざまな顧客接点を持ち、PDCAを回し続けることで、貴社の顧客における最も効率の良い手法を模索し続けるアプローチが有効です。
昨今では、DXによって情報が氾濫する一方、DXによって顧客データを定量的に分析することも容易になりました。
顧客のインサイトをより細かく分析し、一人ひとりの顧客に最適なソリューション提案を、限られたリソースの中で展開していくことの重要性がますます高まっています。