【インフレ】物価上昇が不動産売買に与える影響とは?売主/買主のマインドの変化を考える【円安】

インフレによる物価上昇の懸念がここのところ盛んに報道されています。

コロナ禍による経済の低迷が続く中、ウクライナ戦争が発生し物価上昇と景気低迷が同時に進む状況が懸念されています。

日本銀行はインフレ対策よりも景気対策を優先し、現状の大規模緩和(マイナス金利)政策を維持することを表明しています。

しかし、日本と欧米の金利差が開くことで円安がさらに進むことが考えられ、円安の進行によってインフレがさらに加速するという負のスパイラルにはまることも考えられます。

不動産業界においては、物価高による不動産・住宅価格のさらなる高騰、住宅ローン金利の引き上げ、ウッドショックに端を発する資材・建材価格の高騰などのリスクが高まっており、関心が高いという方も多いことと思います。

そこで今回は、インフレ・円安・金利動向に関する現在の情勢を整理・分析し、それらが買主・売主に与える心理的影響を検証した上で、売買仲介業務においてどのように対応していくべきかを考えてみたいと思います。

コロナ禍・ウクライナ戦争下におけるインフレ・円安の動向

日米の金利差や日本の貿易収支の赤字によって、円安が進んでいることはすでにご承知の事と思います。

2022年4月には約20年ぶりとなる1ドル130円台となり、海外から調達しているエネルギーや食料などを中心とした価格上昇によるインフレが進行しています。

以下のグラフ①は、「国内消費者物価指数」(総務省統計局)と「企業物価指数」(日本銀行)の前年同月比の推移をまとめたものです。

グラフ①国内消費者物価指数(グラフ赤)と企業物価指数(グラフ青)の前年同月比の推移(引用元:総務省統計局「国内消費者物価指数」、日本銀行「企業物価指数」を元に筆者が作成)

2022年4月度の国内消費者物価指数(赤線)は、前年同月比2.1%の上昇となりました。

2021年から同指数は上昇傾向にあるものの、折からのデフレ傾向もあり、ここ数カ月は0~1%前後の伸び率で推移してきました。

海外に目を移すと、アメリカの4月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比8.3%上昇、EUも前年同月比7.5%上昇と大幅な上昇が続いており、日本国内のインフレの影響は諸外国と比較すると今のところ小さいと言えるでしょう。

しかし、企業間で売買される物品の価格変動を表す「企業物価指数」(青線)は、2022年4月には前年同月比10.0%まで上昇しており、消費者物価指数との乖離が拡大しています。

世界的なインフレ圧力の下、今後消費者への価格転嫁が進む可能性が高く、日本国内でもさらなる物価上昇が進むことが考えられます。

価格転嫁率は44.3%、コスト全額の転嫁は6.4%にとどまる

(株)帝国データバンクが行った「企業の価格転嫁動向」に関する調査の結果によれば、コストの価格転嫁率は44.3%となっています。

しかし、販売価格やサービス料金にコスト増分を全額転嫁していると回答した企業は全体の6.4%にとどまっており、円安・インフレの進行によるコスト高によってさらに価格転嫁が進む可能性がありそうです。

ちなみに、「企業の価格転嫁動向」を不動産業界に絞って見てみると、コスト転嫁率は43.2%、コスト増分を価格に全額転嫁している割合は7.4%となっています。

インフレによる不動産価格の高騰が消費者のマインドに与える影響とは?

次に、インフレが住宅購入に与える影響について考えてみたいと思います。

「インフレ=お金の価値が下がること」のため、今後インフレがさらに進んだ場合、他の物品と同様に不動産・住宅の価格も上昇すると考えられます。

また、インフレが過度に進行した場合、日本銀行は短期金利を引き上げることでインフレ率のコントロールを図ることが予想されます。

金利の上昇によって借入を消極化させ、通貨供給量の減少、経済活動の過熱抑制を誘導していきます。そのため、住宅ローン金利の上昇にもつながると考えられ、不動産購入検討層のマインドに大きな影響を与えると考えられます。

・「不動産の買い時だと思わない」は13ポイント増加の49.0%に

以下のグラフ②③は、野村不動産ソリューションズ(株)が行った「住宅購入に関する意識調査アンケート」から、「現状の買い時感」と「その理由」について聞いた結果をまとめたものです。

グラフ②「今、不動産は買い時だと思いますか?」(引用元:野村不動産ソリューションズ(株)「住宅購入に関する意識調査アンケート」)

グラフ③「今が買い時だと思う理由」(引用元:野村不動産ソリューションズ(株)「住宅購入に関する意識調査アンケート」)

グラフ②では、2022年1月時点の市況について「買い時だと思わない」と回答する割合が約半数の49%となり、前回調査から約13ポイント増加する結果となりました。

「買い時である」と回答した理由として、「低金利であること」が多数を占めたことに加え、「今後の不動産価格上昇」を理由とする回答の割合が高まっていることが分かります。

なお、当面の金融政策については、日本銀行の黒田総裁が2022年1月の金融政策決定会合後、「物価目標の2%が安定的に達成されるまでは長短金利の引き上げは想定していない」と述べており、2022年6月現在もその方針を変更していません。

その一方で、黒田総裁の任期は2023年3月までとなっており、後任が決まる今年から来年にかけて、大きな政策転換の可能性も考えられます。

円安による資材・建材価格の高騰が消費者のマインドに与える影響とは?

長引くウッドショックが住宅の売買に与える影響

国内不動産の購入においては、円安の直接的な影響はほとんど無いといって差し支えありません。しかし、購入した土地に建物を建てる、購入した不動産にリフォーム・リノベーションを施す際には影響が出ることが考えられます。

以下のグラフ④は、経済産業省が公表している「第三次産業活動指数」から「建物売買業,土地売買業」と、その中でも特に木材価格の影響を受けやすい「新築戸建・住宅売買業」の活動指数を抜粋したものです。

グラフ④新築戸建住宅売買業及び建物売買業、土地売買業の取引傾向(引用元:経済産業省「METI JOURNAL ONLINE「どうなったウッドショック、価格の高止まりが需要を抑制?」)

「建物売買業,土地売買業」(青線)は、2020年4月から5月にかけての1回目の緊急事態宣言で大きく下げていますが、2015年以降の全体で見ると概ね横ばいで推移しています。

一方の「新築戸建住宅売買業」は、2020年夏頃からコロナ禍以前を大幅に上回る水準まで急速に上昇した後、2022年に至るまで緩やかな低下基調にあります。

この背景には、コロナ禍における戸建需要の急拡大とウッドショック(および各種建材・部材等の価格上昇)による価格の上昇が影響していると考えられます。

物件価格の上昇によって新築戸建住宅の取引需要が一定程度抑制されたことが、2020年の秋以降から低下基調に入ったことの一因と言えるでしょう。

建物や土地の取引に比べて、新築やリフォーム・リノベーションが景気動向・情勢の影響を受けやすいことがわかる結果と言えそうです。

コロナ禍におけるウッドショックに端を発した木材価格の高騰は、コロナ禍はもとより、円安・インフレ・資源/エネルギー価格の上昇、戦争といったさまざまな要因が複合的に関連しており、これらの影響は当面続くものと考えられます。

ちなみに、以下のグラフ⑤⑥の木材輸入物価と国内価格の推移を見ると、ウッドショックについては、品目によって価格上昇の推移に違いはあるものの、一時期の急激な上昇から小康状態に入ったと言えそうです。

グラフ⑤製材の輸入物価指数(引用元:経済産業省「METI JOURNAL ONLINE「どうなったウッドショック、価格の高止まりが需要を抑制?」)

グラフ⑥木材・木製品の国内物価指数(引用元:経済産業省「METI JOURNAL ONLINE「どうなったウッドショック、価格の高止まりが需要を抑制?」)

【まとめ】売主に対して不動産売却をどのように促すか

ここまで、現在のインフレ・円安・金利動向が不動産市況にどのような影響を与えているかについて考察してきました。

ポイントは以下の通りです。

・日本国内の消費者物価指数は、諸外国に比べると低位にあるものの、企業間物価指数は高まっており乖離が広がっている。コストの価格転嫁が進んでいないこと、世界的なインフレ圧力などを考えると、日本国内でもさらなる物価上昇が進むことが予想される。

・消費者における「不動産の買い時感」は、価格および住宅ローン金利の水準が判断基準の軸となっている。

・円安は不動産価格に与える直接的な影響は小さいが、購入した土地に建てる注文住宅、購入した建物のリフォームリノベーションに必要な建材・資材価格の調達コストに影響を与えている。

中古不動産市況の最新動向は?

(公財)東日本不動産流通機構(レインズ)の2022年5月度の「月例速報 サマリーレポート」によれば、同月の市場動向は以下の通りとなっています。

コロナ禍以降活況を呈してきた中古不動産市況ですが、変化の兆しが伺えます。

・中古マンション(首都圏)

成約件数2,877件(前年同月比12.7%減)→5ヵ月連続で前年同月を下回る

在庫件数3万7,039件(同9.6%増)→4ヵ月連続で前年同月を上回る

・中古戸建(首都圏)

成約件数1,154件(同18.2%減)→5ヵ月連続で前年同月を下回る

売主とのコミュニケーションと訴求ポイント

不動産売却を検討している売主の多くは、先行き不透明な情勢が続く中で、いつ・いくらで・どのように売却すべきかを模索していることと思います。

当面は、不動産価格の上昇と消費者における購入マインドの変化、住宅ローン金利の上昇に伴う駆け込み需要の発生が今後のポイントとして注視していく必要がありそうです。

集客・追客のタイミングで、これらを適切に訴求・啓発していくことで、顧客との信頼関係醸成の一助とすることができるでしょう。

そのためにも、MA・SFA・CRMなどによる顧客管理システムを整備し、必要な情報を顧客に迅速かつ継続的に提供できる体制を整えておくことが重要であることは言うまでもありません。

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