(公財) 東日本不動産流通機構の調査によれば、中古マンション・中古戸建ての在庫物件数は、2021年2月の実績で、中古マンションは15ヶ月連続、中古戸建ては9ヶ月連続で前年同月比減となりました。
在庫物件数が減少の一途をたどる中、売却を検討している売主を取りこぼしなく集客し、売却委任を獲得することの重要性は、以前にも増して高まっているものと思います。
この記事では、(株)リクルート住まいカンパニーが行った「2020年 住まいの売却検討者&実施者調査」の結果から、コロナ前とコロナ後の売主の動向を検証し、売却委任を獲得するための方策について考えていきます。
ユーザーインサイトを踏まえた売主とのコミュニケーション方法についてまとめていますので、ご参考にしてください。
・調査対象:首都圏(東京都/千葉県/埼玉県/神奈川県) 在住の20-69歳男女で、過去1年以内/1~2年以内に居住用不動産の売却を主体的に検討し、情報収集・仲介会社へ問い合わせ・訪問査定・媒介/代理契約・売却をした方
・サンプル数: 621人
・調査期間:2020年12月15日(火) ~ 12月18日(金)
ニューノーマルにおけるトレンドの変化が売却活動を促進
表1・表2は、コロナ禍によって売却活動が「促進」「抑制」されたと回答した人の理由をまとめたものです。
表1.コロナ感染拡大が検討の「促進」になった理由(上位5項目、複数回答)
全体 | 2020年3月以前 | 2020年4月以降 | |
もっと住みやすい住まいに住み替えたい | 34.3% | 32.3% | 40.5% |
買い手がつかなくなる前に売りたかった | 31.0% | 30.3% | 33.3% |
今後さらに価格が下落すると思った | 28.7% | 28.3% | 29.8% |
自分の価値観や考え方が変わった | 28.7% | 26.3% | 35.7% |
テレワークに適した環境に住みたい | 24.8% | 22.7% | 31.1% |
出典:(株)リクルート住まいカンパニー「2020年 住まいの売却検討者&実施者調査」
表2.コロナ感染拡大が検討の「抑制」になった理由(上位5項目、複数回答)
全体 | 2020年3月以前 | 2020年4月以降 | |
外部との接触を避けていた | 37.0% | 37.0% | 37.0% |
希望する価格で売れなさそう | 36.1% | 33.5% | 44.4% |
不要不急のため | 30.8% | 32.9% | 24.1% |
売却の前にしないといけないことが増えた | 29.5% | 29.5% | 29.6% |
売却のきっかけとなっていた理由が変わった | 23.3% | 21.4% | 29.6% |
出典:(株)リクルート住まいカンパニー「2020年 住まいの売却検討者&実施者調査」
促進された理由からは、4月以降に売却の検討を開始した人は、ニューノーマルにおける暮らし方・ライフススタイルの変化に伴って住み替えを検討していることが垣間見えます。
抑制された理由からは、新型コロナウイルス感染拡大を目的とした外出自粛が背景にあることに加えて、そもそも2020年3月以前から検討している方は「不要不急」という回答も目立ちます。
なお別の設問では、売却未完了者の61.3%がコロナ禍で売却活動が「促進された」と回答し、「中止した」(30.8%)、「抑制された」(7.8%)を上回る結果となっており、コロナ禍においても多くの売主が売却活動を継続していることが分かります。
市況動向から売却タイミングを探る売主
表3・4は、20年3月以前と4月以降に検討を開始した売主が、それぞれの売却検討時期を有利・不利と考えた理由をまとめています。
表3.有利な売却タイミングと感じていた人の理由(複数回答)
全体 | 2020年3月以前 | 2020年4月以降 | |
買いたい人が増えていそう | 44.5% | 42.2% | 50.8% |
住宅ローン金利が安い | 33.2% | 32.9% | 33.8% |
貸すより売った方がよさそう | 30.7% | 28.9% | 35.4% |
今後は不動産価格が下落しそう | 30.3% | 31.8% | 26.2% |
住宅ローンの減税制度が充実している | 29.4% | 27.7% | 33.8% |
競合する物件が少なそう | 25.6% | 23.1% | 32.3% |
その他 | 1.3% | 1.2% | 1.5% |
特に理由はない | 0.8% | 1.2% | − |
出典:(株)リクルート住まいカンパニー「2020年 住まいの売却検討者&実施者調査」
表4.不利な売却タイミングと感じていた人の理由(上位5項目、複数回答)
全体 | 2020年3月以前 | 2020年4月以降 | |
希望する価格で売れなさそう | 44.5% | 43.4% | 48.4% |
不要不急だから | 28.5% | 29.2% | 25.8% |
売却不動産への問い合わせが減った | 16.8% | 19.8% | 6.5% |
売却の前にしないといけないことが増えた | 16.1% | 17.9% | 9.7% |
かけられる時間がなくなった | 13.1% | 13.2% | 12.9% |
出典:(株)リクルート住まいカンパニー「2020年 住まいの売却検討者&実施者調査」
有利とする理由では、「買いたい人が増えていそうだから」が最多で、特に20年4月以降の検討者で多くなっています。他にも「貸すより売った方がよい」、「競合する物件が少なそう」なども比較的割合が高くなる傾向にあります。
不利とする理由では、「希望する価格で売れなさそう」が20年3月以前・4月以降のいずれにおいても最多で、2位以降を引き離した結果となっています。また、「問い合わせが減った」という回答も20年3月以前で割合が高くなっています。
売主の半数が価格の妥当性に不満
表5は、売却検討から売却の成約に至る過程で不満に思ったことをまとめています。
表5.売却検討・実施における不満(上位5項目、複数回答)
全体 | 2020年3月以前 | 2020年4月以降 | |
売り出し価格が妥当かわからない | 22.7% | 22.0% | 24.6% |
価格査定の妥当性がわからない | 22.5% | 22.9% | 21.6% |
仲介手数料が高い | 19.8% | 19.6% | 20.5% |
不動産会社の買い取り価格が低い | 17.7% | 18.4% | 15.8% |
気軽に相談できる相手がいない | 16.9% | 17.3% | 16.4% |
出典:(株)リクルート住まいカンパニー「2020年 住まいの売却検討者&実施者調査」
不満で多いのは、「売出し価格」や「査定価格」の妥当性に関するもので、全体の約半数を占めています。
他にも仲介手数料や買取価格などの「お金」関連の項目が上位を占める中、「気軽に相談できる相手がいない」が続いており、売主が不動産会社とのコミュニケーションに不満を感じていることも分かります。
まとめ
ここまで、コロナ前とコロナ後の売主の動向を検証しました。以下にポイントをまとめます。
・売却自体を「不要不急」と考えている
・売却の目的意識が比較的希薄
・コロナ禍によって売主自身の価値観に変化が生じ、ライフスタイルの見直しに向けて住み替えをしたいと考えている
・トレンドの変化によって購入者のニーズが高まっていると考えており、価格や競合する物件についての関心が高い
■両者に共通する特徴
・コロナ禍においても、感染リスクに留意しつつ、売却活動を継続している
・査定価格/売出価格のいずれにも妥当性を感じていない
・不動産会社とのコミュニケーションが不足していると感じている
・マーケット動向への関心が高い
20年3月以前・4月以降のいずれの検討者もマーケット動向への関心が高いものの、アンケートの回答の中にはマーケットの実態と異なるものも含まれており、必要十分な情報を有していないと考えられます。
また、査定価格や売出価格の値付けについての不満も多いことから、不動産のプロとして市況や競合動向も含めた市場分析力を有していること、そして、それに基づいた適切な値付けが行われていることを訴求していくことが求められます。
こういった背景の中、不動産各社においてオンラインでのプロモーション・集客に注力する企業が増えています。
ZoomやTeams、Google Meetなどのwebミーティングツールに加えて、昨今話題になっている音声版ツイッター「Clubhouse」などを積極的に取り入れたオンラインセミナーや相談会も散見されるようになりました。
コロナ禍の収束がまだまだ見通せない中で、今後も感染拡大防止に配慮しながらの集客・接客が必要になりますので、こういったオンラインでのコミュニケーションツールの利用がさらに広がりを見せることと思われます。