前回まで「業態別」の海外進出を取り上げてきましたが、今回からは「国別」で不動産会社の海外進出考察をしていきたいと思います。
ただ、いきなりASEANの国別と言っても中々比較できない部分があると思いますので、まずは全体観をきちんと理解した上で各国の状況を見ていきたいと思います。
ASEAN各国の人口・GDP・国の透明度
人口について
図1をご覧ください。
まずはASEAN各国の経済状況を比較しました。
人口で一番多いのはインドネシアで、その数2.6億人以上。ASEANの人口の半分近くを占めています。そしてその人口の多さを反映してかGDPの大きさもインドネシアが一番多いです。
ASEANのGDPについて
次は一人当たりGDPを見てみましょう。
一人当たりGDPとは、基本的にGDP総額を人口で割った数字になりますので、GDPが大きければ大きいほど豊かな国と言えるかもしれませんが、インドネシアは人口が多いので一人当たりGDPで見るとASEANの中では5番目程度です。
1位は人口が少なくてもGDPがフィリピン1国とほぼ同じであるシンガポールに軍配が上がります。
このシンガポールの一人当たりGDPは約5.7万USDですが、日本の一人当たりGDPは約3.8万USD。シンガポールより低いです。いかにシンガポールが効率の良い運営をしているかがこの数字だけ見てもわかります。
そしてシンガポールや日本、そしてブルネイの一人当たりGDPと比較すると、やはり他国はまだまだ低いと言わざるを得ません。「東南アジアの優等生」と言われたマレーシアでも一人当たりGDPはまだ1万USDちょっとです。
もちろん、今現在の一人当たりGDPを比較するだけでは当然ですが、日本やシンガポールのほうが金額は上ですが、シンガポール、ブルネイを除いた一人当たりGDPの推移を見てみると右肩上がりに伸びているのがわかります。
図2をご覧ください。
図2を見ても分かる通り、ほぼ全ての国で一人当たりGDPが成長しており、特にリーマンショック以降、急速にその成長カーブが伸びています。
*一部減速しているのは1998年のアジア通貨危機、2009年のリーマンショック。
つまり、ASEAN全体で見てもその成長は顕著であり、現時点での一人当たりGDPを比較するのはあまり意味がありません。
また経済成長率もこの一人当たりGDPに比例して、多くの国が5%以上の経済成長率となっています。まさにASEANが成長しているというのが図1と図2のグラフでご理解頂けると思います。
加えて図1にある、各国の平均年齢を見ても多くが20代です。シンガポールやタイは高齢化が始まっているような状態ですが、それ以外の国は非常に若い国だということがわかります。日本と置かれている状況が正反対の国が多いのがASEANの特徴です。
ASEAN各国の透明度
そして最後に項目である「国の透明度」という点ですが、ASEANの多くの国が成長している、と言っても、当然ながらカントリーリスクはあるわけで、私自身も色々と調査している中で理不尽なことがあるのも事実です。そういう点を客観的に評価している団体があり、そのデータを記載しています。
非常に簡単に言うと、その国における腐敗、汚職などを調査してランク付けしているというものです。
2018年の調査ではシンガポールは3位となっており、日本も18位ですが、ASEANのほとんどの国で100位前後という状態です。この辺りがASEANならではのリスクと言えそうです。
ASEANでの不動産の見極め
さて、ASEAN各国の経済全体の話をしてきましたが、本ページは不動産会社向けですので、不動産情報についてもう少し掘り下げて比較していきたいと思います。
図3をご覧ください。
Global Property Guideというwebサイトから抽出していますが、正直ここのサイトの信憑性は正直そこまで高くないと思っていますが、同じ条件下で比較を出しているということで掲載させていただきました。
USD表記なのでピンと来にくいかもしれませんが、ASEANの中で一番高いのがやはりシンガポールです。だいたい平米単価150万円前後、坪単価で見ると500万円以上というところでしょうか。
ただ、正直申し上げると、この単価で買えるシンガポールのコンドミニアムはそんなに多くはありません。それこそ坪単価1,000万円超えがほとんどであり、利回りも2%もないようなものが多いというのが私の感覚です。
ではシンガポールの方全員がこういう物件に住んでいるのか?と言われるとそうではなくて、シンガポールはHBDという政府が供給する手頃な物件があります(シンガポール人のみ購入可能)。
このHBDがコンドミニアムよりも割安で購入できるため、平均値としては坪500万円ちょいという数字になっているのです。この辺りはシンガポールを掘り下げる時に書きますが、いずれにせよ、全てがこのグラフの通りの価格というわけではないのでグラフを見るのには注意をしてください。あくまで参考程度に見ていただければ幸いです。
さて、そこを踏まえて図3を改めてご覧になっていただきたいのですが、利回り部分でいうと正直そこまで読者の皆様が思うほど良いという印象を受けないと思います。
ですが、これは事実です。
と同時に、この利回り感はそこまで私にとって違和感はありません。
そして、日本もそうですが世界的に不動産価格が上昇しており、賃料が同率で上昇すればよいのですが、賃料はそこまで伸びるものでもありませんので、どうしても利回りは下降気味になります。
ただ、日本と違う部分でインフレ率があげられるので、そこをグラフに加えました。日本のインフレ率は2019年時点で0.5%-0.7%前後です。ASEAN諸国においては2-3%前後が多いので、これは不動産でいうと不動産の資産価値が上がっていくということを示唆しています。
つまりキャピタルが取れる可能性を秘めているということが言えると思います。
この辺りがASEANでの不動産の見極めになってきそうです。
つまり、利回りは徐々に低くなってきているが、まだ物件価格でいうと坪単価100万円〜150万円台が多く、インフレ率が2-3%程度で伸びていること、そして経済成長にあわせて、物件の資産価値が今後見込める(=キャピタルが取れる可能性がある)、というのがASEAN不動産の特徴だと思います。
さて、次回からようやく各国別の進出やマーケット状況を伝えていきたいと思います。
引き続きどうぞ宜しくお願いします。