ウッドショックによる木材供給の停滞・価格の高騰懸念が2021年3月に顕在化し、その影響は徐々に住宅業界に広がっています。
中には、材木の販売店価格が40%程度上昇するケースも出てきており、木材の不足による工期の遅延、建材価格の高騰を自社で負担した結果、利益の減少・損失の発生といった事態も増えているようです。
そこで、この記事ではウッドショックが不動産業界、とりわけ中古戸建市場にどのような影響を与えるのかを考えてみたいと思います。
ウッドショックとは?
すでに多くの方がご存知かと思いますので、簡単にウッドショックの経緯と現在状況についてまとめておきます。
ウッドショックが起こった背景
今回のウッドショック(報道などでは第三次ウッドショックなどとも言われています)は、木材価格の高騰と物流の混乱に端を発しています。
2020年の春頃に米国・カナダの木材が減産されたことに加えて、同年夏頃からはコロナ禍で米国を中心に住宅の需要が高まったことで、木材の先物価格が急騰しました。
そこに、コロナ禍によって物流が活性化したことで世界的に輸送用のコンテナが不足したこと、21年3月に起きたスエズ運河での座礁事故なども重なり、日本向けの木材の供給が滞ることとなったのです。
ウッドショックの影響はいつまで続く?
ウッドショックによる木材価格の上昇と木材供給不足は、しばらく続くことが見込まれています。
2021年3月に行われた木材需給会議(林野庁主催)では、21年7月〜9月の輸入構造用集成材は前年同期比で75%程度の供給量になるという見解を示しています。
同じく林野庁が4月に臨時開催した「国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会」では、日本木材輸入協会が「米国の住宅市場は低金利(3%前後)を背景に好況が続くとみられ、2021年中は輸入材の供給不足が続く可能性がある」と指摘しています。
第二次ウッドショック時の価格推移
前回の第二次ウッドショック(2006年頃)は、木材価格が2年程度高止まりする状況となりました。
以下の表は、2006年から2009年頃までの不動産成約価格と輸入木材価格の推移をグラフにしたものです。
<表1>不動産成約価格と輸入木材価格の推移(2006〜2009年)
引用:(公財)東日本不動産流通機構「月例速報Market Watch」、農林水産省「木材価格統計調査」
※グラフの見方(左軸は成約価格(首都圏)で単位は「万円」、右軸は木材1㎥あたりの価格)
第二次ウッドショックは2006年頃から顕在化し、2007年にかけて価格が上昇、2008年の後半から2009年にかけて徐々に下落していくというように推移しています。
第二次ウッドショックの発生原因は、新興国BRICsでの木材消費が急増したことで、供給が追いつかなくなったことに端を発しました。
そのため単純な比較はできませんが、アフターコロナの木材需要と物流の正常化の進展次第では、長期に渡って影響をおよぼす懸念が残ります。
中古戸建市場への影響
注文住宅/建売検討層の中古戸建て並行検討が広がる
ウッドショックによって注文住宅や建売の着工数が減少し、価格高騰が加速した場合、比較的安価な中古戸建てを検討する層が増加するでしょう。
以下の表は、戸建て(注文住宅/建売/中古)の検討者の割合とそれぞれを並行検討した割合を2019年と20年で比較したものです。
<表2>戸建て検討層のシェア推移(2019年/20年比較)
注文住宅 | 新築一戸建て | 中古一戸建て | |
検討者全体 | -6.1 | -0.2 | +4.4 |
注文住宅検討層 | - | +7.6 | +5.4 |
新築一戸建て検討層 | -7.0 | - | -4.0 |
中古一戸建て検討層 | -17.8 | -9.2 | - |
引用:(株)リクルート『住宅購入・建築検討者』調査 (2020年)
※赤字は2019年に比べて増加している物件種目
コロナ禍で戸建ての需要が高まっているのはご存知の通りですが、中でも2020年の中古戸建の検討者は2019年に比べて4.4%増加しています。
また、注文住宅と新築・中古一戸建てを並行検討する割合もそれぞれ7.6%・5.4%増加しています。
コロナ禍の戸建てブームで注文住宅を検討してみたものの、予算などの都合で建売や中古戸建てを検討していることが考えられます。
ウッドショックの長期化による注文住宅/建売の価格上昇や着工数の減少などが重なることで、中古戸建ての検討者は今後さらに増加することが見込まれます
ウッドショックが中古戸建市場に与える影響まとめ
ここまで、ウッドショックが中古戸建市場に与える影響について考えてきました。
ポイントを以下にまとめます。
①ウッドショックによる木材価格の上昇で注文住宅・建売の価格上昇や、着工数の減少による供給不足の懸念がある
②日本木材協会の見解では、2021年いっぱいは木材の供給不足が続く可能性がある。なお、前回の第二次ウッドショックは価格の高止まりが2年程度続いた
③コロナ禍の戸建てブームにより注文住宅や新築一戸建てのニーズが高まっており、それらよりも比較的安価な中古戸建ては検討者が増加している
木材価格の高騰により、注文住宅や建売検討層が中古一戸建てを並行検討する割合が増加することが予想されます。
その一方で、「<表1>不動産成約価格と輸入木材価格の推移(2006〜2009年)」からも分かるように、新築戸建て価格の上昇に伴って中古戸建て価格も上昇していることにも注意が必要です。
というのも、注文住宅や建売検討層のような新築を選好している層は、中古戸建を検討する場合はリフォーム・リノベーションを施す可能性が高いと言えるでしょう。
そのため、ウッドショックによる工事費の増加や工期の遅延・延長などの影響を受ける可能性があります。
例えば、ウッドショックによる工期の遅延で「グリーン住宅ポイント」や「住宅ローン控除」の申請が間に合わないといった事態などが想定されます。
顧客とのコミュニケーションにおいては、そういった注意喚起をしつつ、住み替えで何を実現したいのかをしっかり把握し、顧客の予算が限られる中で費用対効果を最大化するための提案が重要となります。
ウッドショックを顧客とのコミュニケーションの創出機会とすることで、中古戸建て住宅の並行検討層を取り込むチャンスとすることができるでしょう。
調査対象:
20歳~69歳の男女で、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて「具体的に物件を検索した。もしくは建築・リフォーム会社の情報収集をした、している」「資料請求をした」「モデルルームや住宅展示場、モデルハウスを見学した」「不動産会社、建築、リフォーム会社を訪問した」「購入する物件や、建築・リフォームの依頼先と契約した」のいずれかの行動をしており、検討に関与している首都圏(東京都/千葉県/埼玉県/神奈川県)・関西(大阪府/京都府/奈良県/兵庫県/和歌山県/滋賀県)・東海(愛知県/岐阜県/三重県)・札幌市・仙台市・広島市・福岡市在住者
調査時期:2020年12月11日(金)~12月21日(月)
回答数:2,618(集計対象:1,688サンプル)