キラーパルスの発見により耐震基準が見直される

不動産業の一角を担う「住宅産業」には、明治以来克服すべき課題がありました。災害に強い住宅づくりです。木造家屋の多い日本では、火災・台風・地震とつねに災害リスクを意識した営みが必要とされてきました。

建築行政の歴史においても、大正8年の市街地建築物法の制定から今日まで、建築基準法の変遷は災害克服の歴史といえるものでした。

21世紀を迎え建築物の安全性能は大きく変化しましたが、そのキッカケともなった “ある発見” に焦点をあて、今後予想される住宅産業の一端を探ってみます。

兵庫県南部地震で発見されたキラーパルス

兵庫県南部地震、一般に阪神淡路大震災と呼ばれますが、あの大地震では「キラーパルス」と名づけられた地震波が観測されています。

以前から地震研究の分野でキラーパルスは、カルフォルニアを中心とした地域で発見されていたものですが、日本においては神戸市内の活断層付近でこのとき発見されたのです。

周期が1~2秒の地震波ですが、建物の固有周期と共振し大きな被害をもたらします。固有周期は建物の高さが高くなると長くなり低くなると短くなりますが、一般的な戸建住宅は0.1~0.5秒とされています。

新しい住宅は強度が上がっていますので0.1~0.3、古い住宅になると0.3~0.5と周期は長くなります。

強い振動で構造体の接合部などに損傷が生じると、固有周期0.5の古い住宅は固有周期が長くなり、1~2秒のキラーパルスと一致し共振をおこすのです。

神戸市内を東西にのびる活断層沿いに倒壊した建物が多数あったことは、『兵庫県南部地震が「新耐震基準」の常識を変えた』で述べたとおりです。

昭和56年の新耐震基準では、活断層が原因となる地震には無力であることが、立証されたともいえるのでしょう。こうして2000年基準として改正がおこなわれることになりました。

2000年基準を超える試み

2000年基準では接合部の強化と耐力壁のバランスを追加基準とするなど、固有周期がキラーパルスに近くなることを防ぐことができる可能性は高くなりましたが、予測不能な地震波の存在は建築技術者にとって脅威といえるものです。

そこで耐震性能を検証する方法が研究開発のすえ生まれました。

・2005年(平成17年)国立研究開発法人防災科学技術研究所の兵庫耐震工学研究センターに「E-ディフェンス」が建設される
・2010年(平成22年)一般社団法人耐震性能見える化協会代表理事 中川貴文氏(元 独立行政法人建築研究所)が耐震性能検証プログラム「ウォールスタット」を開発実用化

E-ディフェンス」は実物大の建物に兵庫県南部地震クラスの地震波を与え、損傷・倒壊に至る過程を実験できる大型の装置です。ハウスメーカーのほとんどが主力モデルの実証実験をおこなっています。

ウォールスタット」は無料ダウンロードできるソフトウェアで、多くの建築技術者が活用しており、制振装置を付加した場合のシミュレーションも可能になっており、耐震性能の検証に役立っています。

制振装置は耐震基準のうえで、耐震性能向上に直接有効なものではありません。制振装置が設置された壁は耐力壁と看做されないからですが、プラスアルファとしての機能を発揮します。つまり地震エネルギーを吸収し揺れを低減する働きがあります。

そのため耐力壁に加わる力が低減され接合部などの損傷を防ぐため、固有周期が長くなる現象を抑えることができるのです。

これらの装置やソフトウェアの活用が、2000年基準よりもっと上の耐震性能を追求する動きがハウスメーカーで生れ、住宅性能表示制度における耐震等級3を超える住宅を目差す流れが作りだされました。

耐震等級3の普及

2000年基準の住宅を容赦なく倒壊させたのが、2016年(平成28年)の熊本地震であることも『兵庫県南部地震が「新耐震基準」の常識を変えた』で述べました。

熊本地震で明確になったことは、2000年基準で倒壊した建物が、住宅性能表示制度における等級3の住宅であれば、半壊程度で済んだのではないかと分析されています。なお等級3は建築基準法の1.5倍の強度をもつ性能をいいます。

次のグラフは平成13年から平成30年までの期間、年間着工総戸数と住宅性能表示制度で「設計住宅性能評価(戸建・共同住宅)」を受けた戸数の推移です。

キラーパルス,耐震基準

出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「住宅性能表示制度の利用率の推移」

平成28年から右上がりの傾向が認められ、耐震等級3の住宅が増加していることを想像させます。また約25%の利用率はハウスメーカーのシェア率と近い数値であり、ハウスメーカーの住宅はほとんど利用していると考えられます。

現在では戸建住宅の耐震等級3は標準ともいうべき性能であり、等級3を超える建築基準の2倍に達する住宅を供給するハウスメーカーやビルダーも存在します。建築基準の2倍の住宅は、熊本地震でほとんど被害がなかったという事実も知っておきたいことです。

待たれる活断層地震への対策

大きな地震のたびに見直されてきた耐震基準ですが、まだ手つかずになっている分野もあります。

・超高層建物への活断層型地震の影響(長周期パルス)
・液状化に対する根本的な対策

長周期パルスは地震発生後10秒ほどで突然おこる大きな揺れです。似たような言葉に長周期地震動という東日本大震災で見られた大きくゆっくりとした揺れをおこすものがありますが、長周期パルスはこれと異なり大きな衝撃を与える揺れです。免振装置は働かないだろうといわれています。

液状化についても東日本大震災では、関東地方に大きな被害をもたらしたことは記憶に新しいのですが、熊本地震においてもおきています。液状化は建物そのものの耐震強度が高くても、被害を防ぐことはできません。

建物本体の安全性に加えて、活断層や軟弱地盤の分布を考慮した、総合的な防災建築基準の必要性が認識されるようになってきました。

ふり返ると日本の建築基準法は次のように変遷してきたのです。

用途制限(大正8年)

仕様規定(昭和25年)

耐震基準(昭和56年)

性能規定(平成12年)

性能規定に変わったことにより、『基準を満たしている建物』であっても安全性能から評価した場合、地震で倒壊する住宅は認められない時代が到来しているといえるのです。

参考サイト

総務省消防庁「地震動の周期とその影響」
SEIN WEB「第3回「震源近傍の強震動」」
日本地震工学会「地震動の性質と被害-近年の地震からの知見-」
日本活断層学会「活断層と建築の減殺対策」
一般社団法人耐震性能見える化協会
一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「住宅性能表示制度の利用率の推移」
NHK「長周期パルス 超高層ビルを破壊する脅威の揺れとは?」
【参考書籍】
・『なぜ新耐震住宅は倒れたか』 発行:日経BP社 編集:日経ホームビルダー 発行人:畠中克弘 印刷製本:図書印刷株式会社

不動産の歴史まとめページ

Twitterでフォローしよう

よく一緒に読まれている記事