過去2回に渡って「競売物件」に関しての、物件情報取得方法や3点セットの読み方などを段階的に解説してきました。
競売情報の入手や3点セットの読みとり方法については、下記リンク先の記事をご参照ください。
初めての競売物件入札|3点セットから読み取る方法
https://f-mikata.jp/hajimete-kyobaibukken/
競売実務編|3点セットの内容を解説
https://f-mikata.jp/kyobai-jitsumu/
今回、3回目を迎える競売関連記事は、全4部作として想定していました。
BIT(不動産競売物件情報)へのアクセス方法から始めて、3点セットのダウンロードから、内容を読み取る方法、そして今回の実践編現地調査、最後に入札書の記載方法や競落後の注意点や手続きで完結となります。
なぜ現地調査が必要なのか?
前回までの記事で紹介していますが、3点セットの現況調査報告書に記載されている情報は、裁判所執行官が競売開始決定後に現地入りした記録をまとめたものです。
現地入りしてから、競売開始の公告がされるまでには実務的な側面から時間的な経過が発生します。
時間経過については、現況調査報告書に記載されている日時を確認すれば分かります。
例えば、私の手元にある現況報告書(入札期間令和3年4月2日~4月12日)には「物件所有者が占有している」との記載があり、占有関係調査(外部調査・写真撮影・所有者事情聴取など)の日付を見ると令和2年12月2日となっています。
すでに現況調査から約4か月経過しています。
現況調査の時点で「占有なし・空き家」であっても、立会人及び解錠技術者が鍵を開け現況調査を実施しますが、その現況調査もおおむね3~4か月前に実施されています。
現況調査実施後は競売開始公告までの期間において、裁判所が再度、執行官を派遣して状況確認を行うことはありません。
例えば現況調査後に「悪意の占有者」が入り込んでも、裁判所が知ることはないということです。
つまり現況調査実施後においては占有者の有無も含め、物件の状況が変化しても現況調査報告書の記載変更が行われることもないことから、現地調査無くして現在状況を知ることは出来ません。
実際に地方裁判所で発行している、「競売に関する注意」でも、現地調査を推奨しています。
調査日以降に発生した物件状況は一切、考慮されない
現況調査報告書には、こう記載されています。
「求めるべき評価額は、一般の取引市場において形成される価格ではなく、一般の不動産取引と比較して競売物件特有の各種成約(売主の協力が得られないことが常態であること、買受希望者は内覧制度によるほかは物件内部の確認が直接出来ないこと、引き渡しを受けるために法定手続きとらなければならない場合があること、目医的物の種類または品質に関する不適合には担保責任がないこと等)の特殊性を反映させた価格とする」
要約すると、「競売物件は立ち退きの手間やトラブル処理の手間代も考慮して値段を安くしているので、建物内部を確認することは出来ないし、契約不適合(建物の瑕疵や、土地の場合には地中に解体工事の破片など)があっても一切、関知しません」ということです。
また「評価は、目的物件の調査時点における現状に基づいて行うものであり、調査日以降発生した物件の現状変更にいては原則として考慮していない」とも書かれています。
これも要約すると「現況調査時点での占有有無は確認しているけど、その後において占有者が入れ替わる、または空き家だった物件に占有者が入っても当方は関知しません。自己責任で確認してください」と言うことです。
ここまではっきり責任を否定されれば、現地調査を実施せずにトラブルに巻き込まれるほうが悪いということになります。
現地調査をせず、現況調査報告書だけで判断し競落した一般の方が、競落後に現況調査報告書に記載のない占有者との交渉に迫られ弁護士を介入させ、余計な費用が発生したことから結果的に割高になったり、室内にゴミが大量に残された上に壁に傷がつけられ、設備機器が破損されている状況をまのあたりにして愕然となったりする話をよく聞きます。
一般の不動産取引でしたら、契約不適合により売買契約の解除もしくは損害賠償の請求が出来るところですが、競売物件は契約不適合自体の適用外とされていますので責任追及が出来ません。
占有者に器物損壊による賠償責任を追及したいところですが、警察は民事不介入を原則としていますので悪意による破壊を立証できなければ取り合ってもくれず、賠償責任を追及しようにも契約不適合が適用されないことから泣き寝入りとなります。
調査実践_事前準備は万全に
さて、現地調査の必要性と競売物件の裁判所のスタンスを理解して戴くために前置きが長くなりましたが、これからいよいよ本格的な実践編です。
まず大切な注意点を一つ。
それは、「正確な調査の必要に迫られ、あくまでも私が実践している手法である」と言う点です。
場合によってはご近所などから不審者として警察に通報され、駆け付けた警察官から職務質問を受ける。
場合によっては任意同行されることもあります。
また、現地において占有者と口論になることもあります。
競売は誰もが入札したくないと思う物件ほど競落額が安くなり、再販などによる利益率が高まります。
逆に一般の方でも簡単に競落できる物件は、競落額もまた高くなりがちです。
どのような競売物件に入札するかは皆さん次第ですが、全体的に競落価格が上昇し、競落の後の転売などによる利益率が低下している現在においては、一般の方が手を出しにくい物件ほど利益率が高くなり競売参加の意味もあると言えます。
現地調査で見るポイントは、競売物件の敷地内も含めたロケーション・周辺環境・建物・占有者の有無及び動向・占有者の素性です。
業者の方が現地調査に行く際、手ぶらで行くことは無いと思いますが最低でも以下の物をご用意下さい。
2.デジタルカメラ(状態記録を撮影します。携帯電話のカメラでも構いませんが、望遠性能の優れた物のほうがお勧めです)
3.コンベックスは必須。巻き尺式(50mメジャー)などを用意しておけば尚よい。
近隣環境における商業施設や嫌悪物などのロケーション、法令上の制限などについては一般的な査定における考査を基本とすれば問題ありません。
空き家でも日時を変えて、複数回確認が必要な理由
入札は最高値で入札した人が落札者になりますから、早く入札すれば良い訳ではありません。
入札の順番を優先するより、調査を優先しましょう。
現地調査を行う際には最低でも3回以上、曜日と時間を変えて確認を行います。
時間帯については朝・昼・晩など異なった時間帯で確認しましょう。
現況調査報告書に建物所有者占有中と記載がある場合には、下記の様な点に注意が必要です。
・夜になってもカーテンが閉められず、室内照明も点灯されない。
このようなケースでは、占有者の動向にも気を配る必要があります。
調査によっても原因や占有者動向が不明の場合、入札を取りやめたほうが良いでしょう。
実際の事例を紹介しましょう。
【自殺のあった競売物件につき、執行官が自殺の事実 の調査をしなかったことに過失がないとされた事例】平成21年1月30日さいたま地裁の判例です。
https://www.retio.or.jp/case_search/pdf/retio/75-062.pdf
この事例では、競落したのは不動産業者ですが現況報告書だけを信用して現地調査を怠たったのでしょうか、競売開始決定後すぐに所有者が自殺し、近所でも話題になっているのに気が付かず競落しました。
競落した物件は事故物件となってしまい、当然として市場価格から大幅に値下げ下げしなければ転売も出来ません。
そこで不動産業者は、現況報告の作成不備による過失が存在するとして事故物件になったことによる価格下落などの損害賠償を請求しました。
判決では執行官の注意義務を一部、容認しつつも訴えを棄却しています。
判決文では
「事故物件という事実以外にも 取引価値に影響を与える事柄はあり、それらの事柄を全て具体的に調査するの は時間的・経済的に現実的でないこと、競売 物件の所在は判明しているのであるから、入 札を考える者が自ら現地調査を行い得ること などの事情を考慮すると、そもそも執行官が 事故物件について積極的に調査すべき義務が あるとはいえないというのが相当である」
さいたま地判 平21・1・30 HP下級裁主要判例情報より転載としています。
要約すると、「競売物件は、価格に影響を与える要素は事故物件という事実だけでは無く、様々な要素があるのだから、執行官に責任を転嫁するのではなく調査を怠ったアンタが悪い」となります。
可能であれば敷地内に入り様子を伺う
「空き家」か「占有中」かによって確認するポイントも変わりますが、共通して以下のような点には注意したいものです。
●1階各所の窓から室内を除きこむ(占有者ありの場合には注意が必要)
●敷地内残存物などの数量変化
●車の有無(空き家で占有者がいないのに、車だけが駐車されているケースは良くあります)
【曜日や日時を変えて確認しておきたい事項】
●カーテン開閉状況。
●室内照明点灯の有無。
●電気メーター回転状況
競売物件は原則、室内に入ることは出来ません。
それらのリスクも踏まえての価格ですから致し方ないのですが、敷地内に入って窓から室内の様子を見る調査は可能な限り実施します。
所有者占有中の場合には敷地に立ち入るのは気が引ける物ですし、空き家であっても敷地内に入ってウロウロしていれば、近所からは不審者扱いされることもあります。
ただし気が引けるからと、立ち入り調査を省略するのはお勧め出来ません。
調査が実施できないのであれば、そもそも競売に手を出さないほうが良いでしょう。
そうは言っても「不法侵入だし……」と、腰が引ける方のために解説を加えておきます。
そもそも刑法において「不法侵入」という言葉はありません。
該当する法律としては刑法13章第130条に規定されている「住居侵入等」です。
ただし、刑法で規定されている住居侵入では、正当な理由がないのに他人の住居や邸宅、建造物に侵入する、または要求されたのに退去しなかった場合に懲役や罰金に処するという定めです。
私なりの解釈ではありますが、まず競売物件の入札を検討し、その調査をおこなうために敷地内に入っています(解釈上の正当理由)
また空き家の場合ですと、そもそも退去命令を発する権限者がいません。
占有者が所有者の場合、退去を命じられればおとなしく従いましょう。
ここで頑張ってはいけません(頑張るところが違います)
明らかに不当な占有者の場合には、どのような権利に基づいて占有しているのか聞けるようになれば、競売物件調査人として一人前です(ただし権利関係に関する法律を、ある程度は熟知していないと理屈で押し負けますし、一見して強面が占有している場合にはさっさと退去する方が得策かも知れませんが……)
また不審者扱いにより近所から警察に通報される、もしくはパトロール中の警察官に職務質問を受けることもありますが、その場合には胸を張って上記理由(調査理由の正当性)を根拠として意見を申述します。
「競売物件の調査を目的として、敷地内に入り詳細な調査を実施しているのですが何か問題でも?」
私の場合ではありますが、若気の至りで生意気だったのでしょう、意趣返しのように任意で警察に連行され取り調べを受けたこともあります(今なら、任意同行などには応じませんが。令状持ってこいと……)
このような余計な手間を省くためにも、隣近所の方に見とがめられた場合には明るくにこやかに
「おはようございます。不動産業者の者ですが物件調査を行っています。ご迷惑、お掛けしています」と挨拶すれば、不審者として通報される確率は激減します。
また占有がいる場合に敷地内に入り調査を実施する場合には、ポスティングチラシを持って配布を装う、リフォーム会社の飛び込み営業を装いボードを持って歩くなどの小技を駆使すれば、余計なトラブルを回避しやすくなります。
また、万が一のためにも不動産従業者証明書など不動産業者としての身分を証明するものは必ず携帯するようにしましょう。
まとめ
今回は実践編として、競売物件を取り扱う場合の現地調査の大切さについて、その理由から実践的な調査までを解説しました。
今回の記事を読んで戴ければお分かりになると思いますが、現地調査は「多少過剰なぐらいが丁度良い」と思っておけば間違いありません。
現況調査報告書は確かに詳細に記載がありますが、あくまでも調査日時点での現況であり、それ以降においてどのような変化が起こっても、その責任は全て自分自身に帰属すると認識しましょう。
裁判事例でご紹介した占有者の自殺は極端な例かも知れませんが、実際に数多くの競売入札を行ってきた私の場合には、似たような事例に事欠きません。
調査不足による不利益は、思った以上に深刻な事態を引き起こします。
私達は不動産のプロとして、調査を万全にして競売に臨みたいものです。