前回までの3部作で解説した競売物件の一連の業務が終了したら、いよいよ最終段階となる入札編です。
競売業務の実践編としてすでに【不動産のMIKATA】に掲載済みの記事を順番に読んでいただければ、今回の「入札実務編」までに必要な調査や手順が分かります。
https://f-mikata.jp/hajimete-kyobaibukken/
2.競売実務編|3点セットの内容を解説
https://f-mikata.jp/kyobai-jitsumu/
3. 競売実部はどうすればいい? | 競売物件の現地調査方法を解説
https://f-mikata.jp/kyobai-genchichosa/
入札までの解説をもって、「競売物件を探す・調査する・入札する」といった一連の業務は終了することになります。
実際の業務としては、競落した後に必要となる占有者と対峙しての「立ち退き交渉」や、裁判所に依頼して行う「引き渡し命令」などの手順についても理解しておく必要があります。
それらの解説につきましては【競売物件_競落後作業編】として、裁判所への申し立て方法や実際に明け渡しが実行されるのに必要な時間、直接交渉の注意点などの経験則も踏まえ別の記事で解説をしていく予定です。
今回は、入札書類の入手方法から始め、記載方法の注意点や入札額の決定方法、開札までの手順をそれぞれ解説していきます。
入札書類の入手について
まず入札書を入手します。
競売の入札関連書類は管轄裁判所執行官室に貰いに行く方法と、管轄裁判所に郵送依頼を行う2つの方法があります。
また入札に必要書類の中で、書き損じが多いなどの理由から「入札書」と「暴力団員等に該当しない旨の陳述書」についてはBIT(不動産競売物件情報サイト)の下記URLからダウンロードすることが可能です。
http://bit.sikkou.jp/guidance/guidance03.html
ただし「入札保証金振込証明書」についてはダウンロードすることが出来ませんので、管轄裁判所の執行官室に出向くか、郵送申請により入手するほかありません。
注意点として、私も全国の裁判所に入札を行った経験はありませんが、この入札書や入札保証金振込証明書が微妙に異なっているケースを耳にしたことがあります。
BITでダウンロード出来る「入札書」と「暴力団員等に該当しない旨の陳述書」は大丈夫だと思うのですが、「入札保証金振込証明書」については統一書式であると断定が出来ません。
また年度替わりなど、書類が刷新する可能性も含めて「入札書類は使いまわしせず、入札の都度、管轄裁判所に出向く、または郵送申請で入手する」を原則としましょう。
書式違いによる入札は書類不備により、無効とされます(もっとも、入札書提出時に執行官室に出向いた場合には書類不備の指摘をしてくれますが、郵送入札ですとその限りではないため、完全に無効とされます)
また執行官室に出向き、何度も取りに来るのが面倒だからと、まとめて入札書を入手しようとしたことがありますが、執行官に嫌な顔をされたこともありますし、場合によっては「実際に入札する件数分だけにしてください」と注意されたこともあります。
「入札保証金振込証明書」も年度により確実に書式が変更になりますので、せいぜい必要部数と予備(1~2部)程度にしておき、都度入手を心がけましょう。
入札書の郵送申請は下記の手順で行います。
管轄裁判所の執行官室あてに返信用封筒(A4以上が入る大きさ)に住所・氏名を記載し必要な切手を張り付け(部数と封筒の大きさにより金額が異なりますので注意が必要です)した物を同封し、併せて送付状に「入札書〇部、郵送をお願いいたします」と書いたものも入れたうえ郵送します。
後日、確実に郵送されてきます。
経験則ですが郵送申請の場合、15部など多めの量で郵送依頼を行っても送られてきますので、遠隔地の管轄裁判所の場合には勿論のこと、裁判所に出向く時間が無い場合や執行官に嫌な顔をされたくない方にはお勧めです。
ただし、競売初心者の場合には裁判所の雰囲気になれる意味でも出向くことを推奨します。
入札額を決定する
入札書類を入手したら、入札額を決定します。(実際には調査の段階でおおよその入札額は決定しておくのですが、手順の流れから入札書の入手後としています)
調査に労力を掛けていますから、入札する以上は確実に競落し利益につなげたい。
当たり前ですが、それが人情です。
ただし、残念ながら入札額を決定するのに、「最低売却額に10%上乗せする」などと言った法則はありません。
競売物件ごとに都度「検討」が必要です。
私たちプロである不動産業者が「良い」と判断する競売物件は、必然的に入札者も多くなり競争率が高まります。
入札参加者は皆、同じことを考えます。
これは当たり前の人間心理ですから、入札者の数は入札額を決定する大切な要因になります。
競落額が上がる傾向としては、利便性が高く、占有や競落した後に手間のかからない物件がもっとも高くなります。
逆説的に、競落した後に手間がかかる物件は入札者も少ないことから競落額も低くなります。
人それぞれ考え方に違いもあることから一概には言えませんが、現在の競落額推移を見ても、競落額が高くなると予想される物件は、不動産のプロが手を出す物件ではありません。
間違いなく、競落額が市場流通額に近づくからです。(もちろん代理申請や、諸々の事情により絶対に競落しなければならない場合を除きます)
それらを勘案してうえで競落率を引き上げるには、近隣相場を度外視した高値で入札することになります。
ですがそのような行為は、よほど特殊な事情が存在しない限りメリットはありませんし、不動産プロの仕事ではありません。
最近は少なくなった競売専門業者ですが、入札予定物件を下記の3つに分類してそれぞれ金額を決定していました。
A. 確実に落としたい物件。
この場合は相場に近い金額、もしくはそれ以上で入札します。
過去の競落金額は勿論のこと、通常の査定額、入札人数の予測など可能な限りの情報を入手して確実と思える金額で入札します。
駄目でもともとの入札です。実は、競落後の転売などでもっとも利益のあがるのが「駄目でもともとで入札したら競落出来てしまった」というパターンです。
もともと競落後の立ち退き交渉など、難易度の高い物件ほど入札人数が少なく、最低売却価格に近い入札額で競落出来る場合が多いものです。
取りあえずの入札です。
駄目でもともとの入札ですので、入札額は最低売却価格です。
競落する可能性は非常に低く、まず競落することは出来ません。
高額な事業用物件で特殊性の強いものなどは入札者がいない場合も多く、まれに競落出来ます。
この3種類の入札方法を組み合わせて、同時に複数の競売に参加するのは「競売屋」と呼ばれるプロの手法ですから参考にならないかも知れませんが、競売に参加する場合の入札額を決定する場合の「読み」にも影響を与える思考です。
もっともこのように複数同時入札を行うには、入札件数分の保証金を納めなければなりませんから、競落できない場合に保証金が戻ってくるとは言え相応の資金が必要とされます。
入札参加者が競落出来る確率については、個人あたりの入札件数や競落件数を統計学的に算出しなければならず、またそのようなデータを確認することは出来ません。
BIT(不動産競売情報サイト)にはこのような要望に応える目的として、過去データ分析のシステムが備わっています。
私も何度か試したこともありますが、上記の様なグラフが作成され視覚的に競売参加者や競落価格などを確認することが出来ます。
細かく指定していけばそれなりの体裁にすることは出来ますが、競売物件ごとの特異性まで表現することは出来ず、あくまでも企業として競売参加する場合に入札額算出根拠として、見栄えの良い資料造りに使える程度のものです。
実践的な情報取得として活用頻度が高いシステムとは言えません。
ただし BIT(不動産競売情報サイト)は競売物件の入札に関して特化したシステムですので、用語集・スケジュール・手続案内等、詳細な情報を提供してくれる優れたシステムです。
競売物件を取り扱うのであれば、BITを使いこなせるようになりましょう。
実際の競落率は入札者ごとに差がありますので一概に言えませんが、私の場合おおよそ50~60%程度です。
もちろん相場を度外視して高値入札を行えば競落率は上がるのでしょうが、あくまでも利益の上がるビジネスとしての入札ですから、採算ベースを勘案しつつ競落できるギリギリの線を狙っての結果です。
競落額を読む
入札額の決定は物件の状態や占有状況なども加味して、経験則に頼る部分も多いのですが、経験ほど曖昧な物もありません。
そこでまず、近年の競落実績から傾向を読み取る必要があります。
まずBIT(不動産競売情報サイト)にアクセスします。
http://bit.sikkou.jp/app/top/pt001/h01/
上部にある「過去データ」をクリックします。
そこから調査したいエリアの管轄裁判所を開き、検索したい物件種別を指定して、データを呼び出します。
条件を指定して検索すると、売却基準額に対しての売却価格(競落額)を確認することが出来ます。
実際には、3点セットから物件概要を確認して物件ごとに異なる条件を確認出来れば良いのですが、期間入札が終了した物件の3点セットはダウンロードすることが出来ません。
気になる物件は参考資料として予め3点セットをダウンロードしておき整理分類しておくと良いでしょう。
今後、競売を積極的に取り扱いたいと考える方にはトレーニングとしても有効な方法です。
入札書類の中身
入札書類は以下で構成されます。
2. 暴力団員等に該当しない旨の陳述書
3.入札保証金振り込み証明書
4.添付書類
また私たち宅建業者が業者として入札する場合は、宅地建物取引業免許の写しが必要となります。
保証金の入金
保証金の入金は、入札書に入っている「裁判所保管金振込依頼書」という専用の振り込み用紙で行います。
「裁判所保管金振込依頼書」は複写式になっており、そのうち2枚目の「裁判所提出用」を入札保証金振込証明書の表面に張り付けます。
この際、2枚目の用紙にある領収印を必ず確認してください。
入札保証金は、入札期間満了までに裁判所の預金口座に入金済みとなっている必要があります。
振り込は専用用紙による電信扱い以外は受け付けられません。
入札保証金振込証明書の貼り付けや、裁判所への入札もあることから余裕を持ち、遅くとも2日以上前に入金を完了するようにしましょう。
入札書類への記載
入札書は、入札が単独か共同かによって書類が異なります。
単独の場合には掲載写真の用紙Aを、共同の場合には共同入札人の名前が記載できる書式の用紙Bを使用します。
なお共同入札の場合には、予め執行官の許可を必要とします。
許可を取らずに入札書類を準備しても受付されませんので注意して下さい。
注意事項に従って、書き損じの無いよう注意してください。
訂正印による訂正は可能ですが、書き損じた場合には新しい用紙に記載した方が良いでしょう。
また善良な皆様に該当しませんが、「暴力団員等に該当しない旨の陳述書」は、該当の有無に限らず、入札書ごとに1通が必要となります。
陳述書の書式の中に「自己の計算において買受の申し出をさせようとする者」にチェック欄があります。
言い回しが分かりにくいことから、勘違いをする方も多いので念のため補足しておきます。
「自己の計算において買受の申し出をさせようとする者」とは、競売を利用しての不動産取得を意図して、「入札人に対して資金提供をし、入札を指示する者」を対象としており、「競売物件を取得することにより、経済的損益が実質的に帰属する者」を意味します。
つまり反社会的勢力関係の依頼者から資金を提供され入札しているのではない、と言うことを申述させることが目的です。
ここにチェックを入れると、別紙として「自己の計算において買受の申し出をさせようとする者に関する事項」と言う、名称の長い書類を別途提出する必要があります。
そもそも暴排目的の書類ですので、金融機関などから資金を借り入れる行為は該当しません。
該当無しにも関わらずチェックを入れると入札無効になりますので注意が必要です。
裁判所に入札
入札書類が出来上がったら裁判所執行官室に持参します。
入札は「入札書在中」と表書きした封筒により(封筒サイズの指定はありませんが、入札書や保証金振り込み証明書を折り曲げないサイズであることからA4用紙が入る大きさ以上の封筒が必要です)管轄裁判所「民事執行センター執行官室不動産部」宛てに郵送で行うことも出来ますが、競売初心者のうちは持参がよいでしょう。
印鑑を忘れずに持って持参すれば執行官が入札書類を確認して不備があれば指摘してくれます。
その際には訂正印を押印して訂正することが出来ますので、書類不備による入札無効を防ぐことが出来るからです。
開札から入札後手続き
開札期日には裁判所に必ず出向きましょう。
裁判所によって発表時間は異なりますが、入札開封がAM9時過ぎから、結果発表は11時前後から始まります。
自分が入札した事件番号はメモに記載しておきましょう。
発表は全て事件番号の読み上げになります。
開札期日に裁判所に行く理由は、次順位買受申出資格者になる可能性があるからです。
惜しくも最高価買受申出人とならなくても、最高価買受申出人が何らかの理由により売却代金を期日までに支払わなかった場合(たまにあります。この場合、最高競落人の保証金は没収となります)次順位買受申出資格者は競落人となることが出来ます。
この次順位買受申出資格者は、入札額が次順位である他にも、開札期日に執行官への申し出することを要件としています。
開札発表の時には事件ごと次順位買受申出に意思確認を行いますので、現場にいなければ返答をすることが出来ません。
次順位買受申出には入札書で使用した印鑑が必要になります。忘れずに持参しましょう。
最高価格で競落しても、まだ正式に決定した訳ではありません。
開札期日から、原則として20日後の売却決定期日に裁判所による売却許否決定が行われます。
最高価買受申出人となった場合には、売却許可決定日以降、10日前後に裁判所より案内が届きます。
案内が届いたら速やかに残金を振り込みましょう。
残金は売却許可決定確定日から1か月が期限です。
入札価格から既に納付済みの保証金を差し引いた残金を一括で振り込みます。
うっかり期日を過ぎてしまうと競落した権利を失うばかりか、保証金も没収されますので速やかに残金の支払いを行いましょう。
特別売却も実は狙い目
期間入札で落札されなかった物件については、開札期日の翌開庁日から3開庁日の間に先着順で買い受けることが出来ます。
競落物件の難易度など、様々な理由で敬遠され入札されなかった物件ですが、まれに掘り出し物が存在しています。
昔ですと、占有が困難な物件は手間がかかることから入札者がなく特別競売になる場合も多かったことから、事前に難易度の高い物件も調査をしておき開札翌日に裁判所の前で開庁待ちを行ったものです。
当時、開庁待ちで並んでいた人間が顔見知りばかりの時は、お互いに事件番号を確認して融通し合ったり、場合によってはジャンケンで決めていたものです。
最低入札額以上であれば間違いなく競落出来る物件ですから、予め念頭において準備しておくことが大切です。
特別売却は以下のような7つのルールが存在しています。
1. 買受け申出は,特別売却物件買受申込書,4の買受申出保証金及び5の資格証明書を添えて管轄裁判所の執行官室不動産部で受付されます。
2. 受付は,土・日・休日を除くおおよそ午前9時20分から午後5時まで(ただし,正午から午後1時を除く))。また,申込の際には印鑑が必要となります。
3. 受付は先着順で,遅れた人は,前の人より高額であっても買受けの申出をすることができません。簡単に言えば同時に申出のあった場合を除き「早いもの勝ち」です。
特別売却物件買受申込書は,執行官室不動産部受付に備え置いてあります。
4. 買受申出保証金は,現金のほか,裁判所専用の振込用紙(3の執行官室不動産部受付に備え置いてあります。)によって銀行振込する方法で提出することもできますが,詳細は執行官室不動産部受付に尋ねたほうが無難です。
5. 入札人が個人の場合は住民票(マイナンバーが記載されていないもの)を,法人の場合は代表者の資格証明書(登記事項証明書)を提出してください。いずれも,発行後3か月以内のもの(コピーは不可)が必要です。
6. 売却決定(許可又は不許可)は,買受け申出のおおよそ2週間後にされます。これを売却決定期日といい,予め通知書が送付されますが,必ずしも裁判所に出頭する必要はありません。
7. その後の手続は期間入札と同じであり,売却許可決定の確定(不服の申立てがなく,許可決定言渡しの日(初日不算入)から1週間の経過が必要)後,指定された残代金納付期限(売却許可決定確定から約30日程度)までに残金を払い込めば,所有権移転登記がされます。この嘱託登記は,裁判所書記官が職権で行います。
なお,代金のほかに,登録免許税と若干の郵便切手が必要となります。
まとめ
競売実務として最終の記事でしたので、お伝えすることも多く、多少、長いコラムとなってしまいました。
ですが、競売に関しての注意事項や解説は今回の4部作では到底お伝えしきれるものではありません。
BITの活用方法に関しての押さえておくべきシステム利用法や、現場調査のポイントなど、それぞれを細分化して解説する必要があります。
そのような詳細情報につきましては、今後も断続的に記事を更新していく所存です。
これら一連の記事が、皆様に少しでも役立っていれば幸いです。