投資用物件、いわゆる収益物件の売買において、特約処理するべき事項として、「滞納」があります。
収益不動産、特に戸数が多い一棟マンション・一棟アパート等においては、滞納者が数名いても何ら不思議は有りません。地域性や物件のグレードにもよって、発生度合いに差はあれども、特に「1ヶ月の遅れ」などは、レジデンス系、よくある話です。毎月1ヶ月遅れで振り込んでくる賃借人なども居たりします。
警戒度を引き上げる滞納
警戒するべきは、滞納が3ヶ月~半年を超えている、もう年単位になっている…、そんな輩がいる場合です。
近頃のような保証会社付での賃貸であれば、3ヶ月も滞納があれば、ビジネスとして速やかに退去に向けて動き出しているでしょうが、昔からの保証人ベースでの賃貸借契約で、ルーズな人がオーナーの自主管理物件なんかだと、強烈な滞納額に膨れ上がっているケースも実在します。
(直近、貸戸建で、お家賃月額10万円を14年間、滞納総額1680万円…というのに遭遇したところです。)
そんな滞納ですが、売買契約締結時点で大切なのは、
- 現時点での滞納の有無
- その扱いをどうするか(滞納があった場合)
この2点。
滞納があった場合
契約締結時点で、滞納があることが発覚していれば、それは重要事項説明書に記載するべき事項です。また、現時点では(たまたま)滞納が無いものの、「この部屋の人は時々遅れる」等がわかれば、契約の場などで、口頭ベースで売主・買主間で伝えてもらうと後で問題になりにくいでしょう。
さて、滞納があることが明確になったとして、家賃という収益が目的で購入しているのに、それが入ってこないと買主としては意味がありません。
買主の立場としては、レントロール通りにお金が入ってくることを期待していますので、そこに至るのに支障があるのであれば、期待値を下げておく必要があります。
その扱いをどうするか?
滞納があるという事実をまず淡々と受け止めたあとが要注意。
滞納額が少なかろうが、多かろうが、一番スマートなのは、決済・引渡時までに売主が解決して物件を引渡す形です。要は、売主が賃借人(や保証人)から回収して、滞納がない状態で買主に引渡す。
しかしながら、今まで賃料を支払わないでいた人たち、特に金額が家賃半年・1年分等膨らんでいる場合に、まとめてすぐさま支払うか(そもそも払えるのか?)というと、やはり疑問が残ります。
そして、問題となるのが、決済までに解決できない場合です。
仮に、解決が出来ないまま、決済・引渡しを終えたとします。
決済の翌月などに滞納していたお部屋から新オーナーに賃料が入ってきたときに、
「それは、今月分じゃなくて、滞納していた去年の●月分の賃料だから、その時所有していた自分のものだ!」と、
すでに手を離れたはずの売主様に主張されてしまう可能性があったりします。
これ、買主や間の売買仲介業者の立場からすると、物凄く面倒です。
用いる特約
そんなことを防ぐために、収益不動産の売買においては、次のような特約を使います。
本物件には、一部世帯で滞納が有り、売主は、引渡し時までに回収できない債権については放棄するものとし、本物件引渡日以降に入金される賃借人からの金銭については、買主に帰属するものとします。
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これを入れておくことで、あくまで決済日をもって、債権と債務をぶった切る形です。「公租公課の分担」や、「物件から発生する収益の帰属先」と同じ概念ですが、「滞納」と明確化することで、より揉めにくくしてあります。
決済日をもって、売主(旧オーナー)は債権を放棄。もう、賃借人に請求することはなし。
買主(新所有者)はその債権を引き継いで賃借人に滞納分を請求するもよし、「過去の分はチャラでいいから、今月分からはしっかり支払って下さい」と、仕切り直すもよし。
そういうニュアンスで活用できる特約です。
また、売買のタイミングではたまたま滞納が無いけれども、過去の支払状況から、いつ発生してもおかしくない場合などは、
売主は、本契約書第●条(引渡し)の本物件引渡し日において本物件建物の賃借人の賃料未納分はないものとして日割り清算するものとし、賃貸未納分がある場合でも売主はその責任と負担により、買主に清算するものとします。
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と、上記のような形の特約を付しておくことで、決済日に賃料清算をするに際して、実際に賃料が入っていようといまいと、レントロール通りに日割り清算(当月日割り分+翌月分など)ができるよう整えることが出来ます。
不動産業者ポジションとしては自分の身を守るためにも、仲介ポジションとしては自分の仕事をより楽にするためにも、発生しそうな要件を特約に落とし込んで、事前に処理しておくとスムーズです。