今回は、株式会社LIFULLが発表した「LIFULL HOME'Sマーケットレポート 2022年7~9月期」から、中古マンション/中古戸建ての掲載価格と問い合わせ(以下、反響)価格の推移についてご紹介します。
掲載価格と反響価格の差を検証しつつ、売主/買主のマインドを分析し、媒介獲得のポイントについて考えてみたいと思います。
【1】売出価格と反響価格の差が拡大
LIFULL HOME'Sに掲載された物件データと、ユーザーから反響があった物件データを四半期ごとに公開している「LIFULL HOME'Sマーケットレポート」によると、2022年7~9月期の中古マンション(首都圏)の掲載価格は前年同期比で474万円上昇した一方、ユーザーの反響価格は同31万円の上昇に留まるという結果になったそうです。
中古マンションと中古戸建てのそれぞれのデータについて詳しく見ていきましょう。
①中古マンション
以下のグラフ①は、2021年以降の各四半期(中古マンション)における、掲載物件と反響物件の平均価格の推移を都市圏別にまとめたものです。
<グラフ①>
引用元:株式会社LIFULL「LIFULL HOME'Sマーケットレポート 2022年7~9月期」
首都圏の掲載物件の平均価格は3,931万円で、右肩上がりの上昇が続いており、前年同期比では474万円の上昇(13.7%増)となっています。
一方、反響物件の平均価格は2,946万円となりましたが、掲載物件の価格上昇に比べると上昇幅が緩やかです。
前年同期比では、31万円の上昇(1.1%増)に留まっており、掲載平均価格の上昇と反響平均価格の価格差が拡大する傾向が見られます。
近畿圏および愛知・札仙広福では、掲載平均価格と反響平均価格の乖離は一定であるのに比べて、首都圏における掲載平均価格の上昇および、掲載平均価格と反響平均価格の乖離拡大が顕著に見られる結果となっています。
掲載物件/反響物件の平均築年数の推移
以下のグラフ②は、2021年以降の各四半期における、掲載物件の平均築年数の推移をまとめたものです。
<グラフ②>
引用元:株式会社LIFULL「LIFULL HOME'Sマーケットレポート 2022年7~9月期」
2022年7~9月期の掲載物件の平均築年数(中古マンション、首都圏)は、31年となり、前年同期比2.1%増となりました。
近畿圏も同じく31年で同5.5%増となっています。首都圏・近畿圏ともに右肩上がりで上昇していることが分かります。
グラフ内に表記はありませんが、同社のレポートによれば、反響物件の平均築年数も増加傾向にあります。
首都圏が32年となり前年同期比6.5%増、近畿圏が31年で同5.0%増。
特に首都圏では、反響平均築年数の上昇幅が掲載平均築年数の上昇幅を大きく上回っていることを指摘しています。
価格高騰により、築年数の幅を広げて予算内に収まる物件を探すユーザーが多くなっていることが窺える調査結果と言えそうです。
②中古戸建て
以下のグラフ③は、2021年以降の各四半期(中古戸建て)における、掲載物件と反響物件の平均価格の推移を都市圏別にまとめたものです。
<グラフ③>
引用元:株式会社LIFULL「LIFULL HOME'Sマーケットレポート 2022年7~9月期」
2022年7~9月期の中古一戸建て(首都圏)の掲載物件の平均価格は、前年同期から379万円増の3,756万円(前年比12.2%増)となった一方、反響物件平均価格は2,516万円で前年同期からの上昇は136万円(同5.7%増)に留まりました。
中古戸建ても中古マンション同様、近畿圏および愛知・札仙広福では、掲載平均価格と反響平均価格の乖離は一定であるのに比べて、首都圏における掲載平均価格の上昇および、掲載平均価格と反響平均価格の価格差の拡大が顕著な結果となっています。
掲載価格/反響価格の乖離と購入検討層のマインドの変化
以下のグラフ④は、野村不動産ソリューションズ(株)の「住宅購入に関する意識調査アンケート」から、住宅購入検討者に対して「今が買い時かどうか」を聞いた調査結果を2021年1月から時系列でまとめたものです。
「買い時だと思う」「買い時だと思わない」のいずれも2022年に入って増加傾向にありますが、「買い時だと思わない」の方が伸び幅が大きく、回答率も全体の約半数に達しています。
<グラフ④>Q.今、不動産は買い時だと思いますか(2021年1月~2022年7月)
引用元:野村不動産ソリューションズ(株)「住宅購入に関する意識調査アンケート」の結果を元に筆者が作成
同調査結果から、コロナ禍によって生じた「売り手市場」を背景に強気の価格を設定するケースが増えたことの影響で、買主の購入予算が価格上昇に追随できなくなってきていることが推察されます。
その結果として、中古マンション/中古戸建て共に、特に首都圏で掲載価格が高騰する一方、反響価格は微増・横ばいにとどまっており、両者の価格差拡大の一因となっていることが考えられます。
以下のグラフ⑤は、暮らしのすぱいす株式会社が行った「物価高と円安が進行する状況における住宅購入予定者の意識」調査で、「物価の上昇、円安による金利上昇の可能性など住宅購入が難しい局面での住宅購入意向」について聞いた結果をまとめたものです。
<グラフ⑤>物価の上昇、円安による金利上昇の可能性など住宅購入が難しい局面での住宅購入意向
引用元:暮らしのすぱいす(株)「物価高と円安が進行する状況における住宅購入予定者の意識」
最も多い回答は「予定通り購入する」となったものの、その回答率は28%に留まりました。
その一方で「グレードを落とす」「別の物件を検討」「中止・延期」などの変更を検討している割合は44%を占めています。
「迷っている」と回答した人が最多タイの28%となっていることからも、多くのエンドユーザーが住宅購入における何らかの軌道修正を考えていることが窺えます。
上述した「築年数の幅を広げて予算内に収まる物件を探すユーザーが多くなっている」こととも合致する調査結果と言えるでしょう。
【2】売主のマインド
コロナ禍によって生じた「売り手市場」が進み、掲載物件の平均価格が上昇していることは上述した通りです。
そのことは、(株)不動産流通研究所が公表している半期ごとの「主要不動産流通会社の仲介実績調査」の結果からも明らかでしょう。
その一方で、その間の売主のマインドについては、(株)リクルートが行った「不動産売却を検討する人および実施した人の意識と行動に関する調査」から考察することができます。
以下のグラフ⑥は、過去1年の間に不動産の売却を検討した人を対象に、「不動産の売却について具体的に行ったこと」を聞いた結果をまとめたものです。
<グラフ⑥>
引用元:(株)リクルート「不動産売却を検討する人および実施した人の意識と行動に関する調査」
売り手市場だった2021年でしたが、その中で「売却を完了した人」は36.1%にとどまっている一方、「売却を停止した人」は21.8%となり、約5人に1人が不動産売却をあきらめていることが分かります。
グラフ⑦では、不動産売却の検討をやめた理由について調査した結果をまとめています。
<グラフ⑦>
引用元:(株)リクルート「不動産売却を検討する人および実施した人の意識と行動に関する調査」
不動産売却をやめた理由として、「希望する価格で売れなさそうだから」(29.0%)が最多で、「不要不急だから」(28.5%)、「売却の前にしないといけないことが増えたから」(17.0%)が続く結果となっています。
媒介獲得のポイント
新築はもとより中古住宅においても価格高騰が続いていることに加えて、住宅ローン金利の上昇リスク、円安やインフレの影響による建材・住宅設備の高騰など、中古不動産市況を取り巻くさまざまなリスクが顕在化しつつあります。
各メディアにおいても、コロナ禍で好調に推移していた住宅販売の「潮目の変化」を指摘するものが散見されるようになりました。
そういった中、不動産売却が「希望する価格ではない」「不要不急」と考える売主に対しては、希望する価格でなく、不要不急だったとしても現時点の評価を把握しておくこと、時期や周辺の変化によって評価がどのように変わるのかなど、売り時に備えた準備の重要性の訴求が重要になりそうです。
国内外の情勢変化を踏まえ、不動産市況に潮目の変化が訪れる可能性があることについて、粘り強く理解を促す取り組みがポイントになるでしょう。
グラフ⑥の結果の見方を変えると、不動産売却を検討しているうちの約半数が「情報収集」「問い合わせ」を行っているとも言えます。
対面・電話・メールなど、さまざまなチャネルを通じたこまめなコミュニケーションが求められます。
※暮らしのすぱいす株式会社「物価高と円安が進行する状況における住宅購入予定者の意識」
調査期間:2022年10月31日~11月1日
調査手法:インターネット調査
調査地域:全国
調査対象:30才~59才の男女
サンプル数:3,000人
※(株)リクルート「不動産売却を検討する人および実施した人の意識と行動に関する調査」概要
<調査目的>
不動産売却検討者&実施者の意識と行動の把握
<調査対象>
過去1年以内に居住用不動産の売却を主体的に検討し、以下いずれかの行動をした方。
情報収集、仲介会社へ問い合わせ、訪問査定、媒介・代理契約、売却完了または停止。
<調査方法>
インターネットリサーチ
<調査時期・回答数>
本調査2021年12月21日(火)~2021年12月22日(水) 有効回答数:1,239人