「土地神話」はこうして誰も信じなくなった

バブル崩壊後、平成3年から日本は長い経済低迷期に入ります。さらに平成20年のリーマンショックによりさらに景気後退が進み、失われた20年とも30年ともいわれるようになるのです。

バブル崩壊直後は『バブル崩壊により消えた企業』で紹介したように、平成9年ころまでバブルのあと始末がつづくのですが、不良債権を多くかかえた金融界ではさらに経営破たんが増加しました。

ここではバブル後の景気低迷期の前半約10年間に生まれた、新しい動きにスポットをあててみます。

バブル崩壊後の地価

1991年(平成3年)2月から下がりはじめた地価は、平成16年ころまで下がりつづけます。主要都市の住宅地平均地価は下図のごとき状態でした。

バブル崩壊,土地

引用:不動産ジャパン「土地に関する不動産価格の推移-(1)地価公示に基づく価格」

平成3年から平成16年までのおよそ13年間は「資産デフレ期」とされ、 “失われた10年” ともいわれる地価や株価などあらゆる資産価格が下落した時代です。

不良債権の担保となっていた土地は塩漬けされ、地価が下がったとはいえ市場に流通することはなく、利活用の方法を模索する動きが生まれました。

1. 平成5年に銀行・生保・損保などが出資し「共同債権買取機構(CCPC)」を設立、不良債権を買取り担保不動産の売却をおこない債権回収をおこなう
2. 平成6年の総合経済対策により、「民間都市開発機構(MINTO)」は事業化見込みの高い土地の先行取得が可能となり、塩漬け地の流動化をおこなう
3. 平成11年に住宅金融債権管理機構が整理回収銀行と合併し「整理回収機構(RCC)」を設立、銀行や保険会社およびノンバンクの債権を買取り、金融機関への資本注入などをおこなう

以上のような施策の実行により不良債権処理と土地の流動化が図られました。

特に整理回収機構による破たん債権の買取りは、下表のように平成12年~14年に95件もおこなわれています。

銀行 信用金庫 信用組合
平成12年 京都みやこ信金、南京都信金
平成13年
(25件)
なみはや銀行
幸福銀行
新潟中央銀行
東京相和銀行
小川信金
岡山市民信金
わかば信金
日南信金
四国貯蓄信組、石川商銀信組、振興信組
信用組合大阪商銀、道央信用組合
信用組合高知商銀、瑞浪商工信用組合
朝銀愛知信用組合、朝銀宮城信用組合
朝銀広島信用組合、朝銀山口信用組合
朝銀青森信用組合、朝銀長崎信用組合
朝銀島根信用組合、朝銀福井信用組合
朝銀福岡信用組合、茨城商銀信用組合
平成14年
(68件)
宇都宮信用金庫
臼杵信用金庫
沖縄信用金庫
関西西宮信用金庫
佐賀関信用金庫
大阪第一信用金庫
中津信用金庫
神栄信用金庫
長島信用金庫
佐伯信用金庫
相互信用金庫
船橋信用金庫
石岡信用金庫
長崎第一信用組合、不動信用組合
輪島信用組合、信用組合三重商銀
小樽商工信用組合、春江信用組合
常滑信用組合、新潟商銀信用組合
中津川信用組合、せいか信用組合
神奈川県青果信用組合、大日光信用組合
東京商銀信用組合、だいしん信用組合
大栄信用組合、旭川商工信用組合
加賀信用組合、信用組合福岡商銀
三栄信用組合、松島炭鉱信用組合
信用組合京都商銀、東京富士信用組合
紀南信用組合、宮城県中央信用組合
信用組合関西興銀、池袋信用組合
都民信用組合、黒磯信用組合
小川信用組合、千葉商銀信用組合
栃木県中央信用組合、馬頭信用組合
岡山県信用組合、岩手信用組合
東京食品信用組合、網走信用組合
大分商銀信用組合、第三信用組合
島原信用組合、東京信用組合
両筑信用組合、秋田県中央信用組合
石川たばこ信用組合、東京中央信用組合
上田商工信用組合、暁信用組合
厚木信用組合、朝銀近畿信用組合
千葉県商工信用組合、永代信用組合
朝銀関東信用組合、朝銀新潟信用組合
朝銀千葉信用組合、朝銀長野信用組合
朝銀東京信用組合
平成15年 中部銀行
石川銀行
平成16~20年 足利銀行
平成23~24年 日本振興銀行

出典:整理回収機構

不良債権や破たん債権処理により売却される土地は、相場価格を下回って取引されることが多く、平均地価はますます低下傾向となったことが理解できます。

キャピタルゲインからインカムゲインへ

土地を購入後一定期間保有し、値上がりしたところで売却する「キャピタルゲイン」投資手法は通用しなくなります。多くの投資家たちは手法を変え、不動産の利用により生まれる収益「インカムゲイン」を重視するようになりました。

格安の物件を取得できると収益性は高く、サラリーマンが副業で大家さんになるという動きもでてきました。

個人投資家にとってバイブルともいわれる、ロバート・キヨサキの「金持ち父さん貧乏父さん」が出版されたのは、2000年(平成12年)のことです。

資産デフレの真っただ中、格安の中古アパートや貸家向けの戸建住宅など、投資環境としては良い条件が整っていたと考えられます。

平成12年から平成13年は短期プライムレートが1.5%から1.375%に切り下げられ、平成18年に1.625%にあがるまで低水準で据え置かれます。
出典:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」

土地の値上がりに期待することなく、景気不景気にあまり左右されずリスクの高くないストックビジネスとして、賃貸不動産に対する投資が都市部のサラリーマンなどに普及していったのです。

建築基準法改正により高度な土地利用が進む

1997年(平成9年)建築基準法の改正により、土地の高度利用を図る措置もとられました。

東京都心部では空洞化が発生しており、人口減少や産業空洞化による未利用地の増加が見られ、土地の有効利用の必要性がでてきました。地価はすでに落ち着いており、塩漬け土地の解放など土地流動化も進みつつあったのです。

建築基準法の具体的な改正内容は以下の2つでした。

1. 「高層住居誘導地区」を特別用途地域に加え、容積率と高さ制限の緩和をおこなう
2. 容積率算入面積に含まれていた共同住宅の共用廊下および階段の床面積を除外する

改正によりこれまで以上の延床面積が可能になったこと、日影規制の適用除外により超高層マンションの建設が可能になったことが、分譲事業の採算性を高めることにつながります。

特に湾岸エリアは工業・商業・居住が混在する地域として位置づけられていましたが、平成3年以降製造業が減少しサービス業が増加する変化がおきていました。

産業構造の変化は大規模工場の閉鎖や縮小により、増加した低未利用地を住宅地に転換する動きが大きくなります。

さらに湾岸エリアは都心に近いにもかかわらず、代表的な住宅地の地価より割安であり規制緩和による採算性が高まったことから、分譲マンションの増加が目立つようになります。

下は国土交通省「土地総合情報システム」から3つのエリアにおける地価推移を抽出し、作成したグラフです。

バブル崩壊,土地

平成13年には、湾岸エリアで建設されたマンションの割合は、首都圏全体で建設されたマンションの15%を超えるのでした。

バブル崩壊,土地

引用:国土交通省「東京湾沿岸域の現状と今後の展望」

『将来値上がりしそうな……』といった意識から『現在の利用価値』を求める意識変化がおきたといえるのです。

定期借地制度がはじまる

1991年(平成3年)これまでの借地法と借家法を一本化して「借地借家法」が制定され、「定期借地制度」が導入されました。『所有から利用へ』といった概念が生まれたのです。

バブル絶頂期の地価は取引可能な限界に達しており、土地の有効活用を図る方法として考えられたのが、土地所有者の権利をある程度認めたうえで、借地として流通を活発化させることでした。

しかし定期借地制度は事業用地として利用された実績はありますが、民間の住宅用地とした活用された事例は少なく、唯一ミサワホームが「建築条件付定期借地権」販売をおこなっている事例をみる程度です。

公的事業に目を移すと、国土交通省が定期借地制度利用の状況を公表しています。

所在地 事業名 借地期間 開始年
北海道札幌市 sapporo55ビル 20年 平成18
北海道室蘭市 むろらん広域センタービル 40年 平成21
北海道室蘭市 MORUE(モルエ)中島 20年 平成18
北海道江別市 江別駅前再開発事業 20年 平成19
埼玉県さいたま市 ムサカガーデン・三室 100年 平成19
埼玉県八潮市 フレスポ八潮 20年 平成17
東京都江戸川区 プロシード篠崎タワー 70年 平成20
富山県富山市 富山市牛島町地区再開発 60年 平成12
長野県長野市 ぱてぃお大門整備事業 20年 平成17
静岡県沼津市 静岡東部拠点特定再開発事業 20年 平成18
静岡県藤枝市 BiVi藤枝 20年 平成21
愛知県名古屋市 アスナル金山 15年 平成17
大阪府豊中市 旧市立豊中病院跡地利用事業 20年 平成21
鳥取県南部町 南部町福里団地 移住・定住促進の宅地分譲 61年 平成18
岡山県岡山市 アエル東ヶ丘 51年 平成18
香川県高松市 高松丸亀町商店街A街区第一種市街地再開発事業 62年 平成18
福岡県北九州市 ガーデンヴィレッジ天神 55.3年、52.3 平成14

出典:国土交通省「定期借地権の事例」

表中の公的事業には住宅用地事業もありますが、民間での定期借地制度による住宅地供給が進まなかった理由に、土地担保住宅ローンが広く普及していることを指摘する研究者もいます。またバブル崩壊後は地価が下落しバブル前の水準になったことも、住宅用地として定期借地制度が定着しなかった理由ではと考えられるのです。

参考サイト

一般財団法人 不動産適正取引推進機構「資産デフレ期の不動産政策(上)」
一般財団法人 不動産適正取引推進機構「資産デフレ期の不動産政策(下)」
MINTO機構
整理回収機構
日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
国土交通省「高層住居誘導地区制度の運用について」
国土交通省「東京湾沿岸域の現状と今後の展望」
国土交通省「定期借地権の事例」
【参考書籍】
・『日本不動産業史』 発行所:財団法人名古屋大学出版会 編者:橘川武郎・粕谷誠 発行者:金井雄一

不動産の歴史まとめページ

 

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