2018年に経営破たんした企業のビジネスモデルが大きな注目を集めました。
賃貸借契約形式のひとつであったサブリースが抱えていた問題点が表面化し、賃貸管理業者の法規制にまで発展します。
しかしその陰には悪化した経営環境のなかで、生き残りを模索する地方金融機関の苦しみも明らかになったのです。
ここではサブリース問題を浮き彫りにした「かぼちゃの馬車事件」をふり返ります。
サブリースビジネスの概要
賃貸住宅を一括借上げしサブリースにより賃貸事業を展開する業態は、大和ハウス工業・積水ハウス・大東建託・レオパレス21など、不動産大手企業がおこなっているビジネスモデルです。
不動産業界トップの大和ハウス工業のサブリース事業は、大和リビングが担っており同社の設立は1989年(平成元年)のことです。
サブリース専業ともいえる大東建託は1974年(昭和49年)設立ですが、業容が大きくなったのは名証2部に上場した1989年(平成元年)ころです。
レオパレス21は1973年(昭和48年)設立ですが、レオパレス21事業の開始は1985年(昭和60年)のことです。
つまり一括借上げによるビジネスモデルが広く普及し、定着したのはおよそ30年前のことといえます。
アパートやマンションを建設し賃貸経営を考える地主層には、一括借上げによる家賃保証は大きな魅力であり、サブリース業者にとって土地取得費を省くことができるシステムは、収益性が高く両者にとりメリットの大きいものでした。
しかしサブリースビジネスには「賃料下落」リスクがあり、長いこと表面化されることは少なかったと思われますが、トラブルはあったものと考えられるのです。
賃料下落リスクの原因
サブリースビジネスは2つの賃貸借契約により成り立つビジネスです。
2. サブリース業者と真の借主との賃貸借契約(サブリース)
どちらの賃貸借契約も「借地借家法」の適用を受けます。
借地借家法は賃借人の保護を優先する法律であり、賃借人からの契約解除は簡単にできる反面、賃貸人からの契約解除は簡単にできません。
つまりマスターリース契約におけるサブリース業者は、法的保護により物件オーナーよりも大きな交渉力を持つことになります。
そのため、サブリース契約において賃料を下げなければ満室にできない状況になると、サブリース業者は物件オーナーに賃料減額の請求をします。
オーナーが減額に応じなければ契約解除するという、強硬手段が可能になるのです。
やむを得ず減額請求に応じるオーナーもいますが、契約解除に至るケースもあり、30年保証などの長いサブリースビジネスには大きなリスクがあるといえます。
サブリースの問題点が浮上する
サブリースにかかわるトラブルが表面化したのは、正確な記録はありませんが2017年(平成29年)7月、国民生活センターのウェブサイトに「建物賃貸借契約のしくみと契約関係」というpdfファイルがアップロードされました。
このなかで「サブリース」にかかわるトラブルに対して、注意喚起がなされています。
つまり前述したように、たとえば30年間のサブリース契約により保証されていた賃料が、サブリース業者から一方的に減額請求されるトラブルが多発していたことが伺えます。
その後もたびたび国民生活センターでは、サブリースに関する発信がつづくようになります。
・2018年3月 サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!(消費者庁)
・2018年3月 サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!~トラブルの防止に向けて消費者庁と連携~(国土交通省)
・2018年10月 アパート等のサブリースに関連する注意喚起について(金融庁)
・2018年10月 サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!~トラブルの防止に向けて金融庁・消費者庁と連携~(国土交通省)
・2018年10月 大きなリスクも!「アパートを建てませんか」という勧誘にご注意!
・2018年11月 サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!(消費者庁) *更新案内
・2019年3月 20歳代に増える投資用マンションの強引な勧誘に注意!
・2019年4月 サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!(消費者庁) *更新案内
・2020年3月 「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」を閣議決定~サブリース業者による勧誘・契約締結行為の適正化と賃貸住宅管理業の登録制度の創設~(国土交通省)
・2020年4月 サブリース業者が倒産したら、入居者はどうなる?
サブリースの陰にあった不正融資
サブリースが “サブリース問題” として取り上げられるようになったのは、シェアハウス「かぼちゃの馬車」運営企業であった、スマートデイズが破たんした2018年(平成30年)4月のことです。
サブリース問題はさらに「不正融資問題」にまで発展し、シェアハウスの建設資金を供給した「スルガ銀行」による不正融資の実態が明るみに出ました。
不正融資においておこなわれた行為は以下のようなものです。
2. サブリース業者は仕入れた土地価格を上乗せし、建築工事費も大幅な上乗せをおこない、シェアハウスオーナーに過剰な借入をさせ、スルガ銀行もこれらの上乗せを知りながら融資をおこなった
3. サブリース業者・スルガ銀行行員・仲介業者は共同して、オーナーに不当な諸経費を負担させた
4. サブリース業者は経営破たんの恐れがあったにもかかわらず、家賃収入保証を信じ込ませ、オーナーに借入させた
出典:スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団「声明(スルガ銀行のシェアハウス関連の不正融資の問題可決について)」
被害を受けたシェアハウスオーナーは700~800名とされ、物件数は1,000棟を超え被害総額1,500億円におよぶといわれます。
一部被害者約250名が被害者同盟を結成し、弁護団による約2年間の交渉の結果、スルガ銀行の解決金支払いと第三者に対するローン債権譲渡、そして物件を代物弁済することにより解決をみたのが2020年3月のことでした。
時を同じくして、サブリースをめぐるトラブル防止のため、法的規制がおこなわれることになり、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」が閣議決定され、2020年6月12日同法の成立をみることになりました。
サブリースに対する規制は以下の事項を義務化することとなります。
2. 事務所ごとに業務管理者を設置
3. 管理受託契約前に管理業務内容など重要事項の説明
4. 家賃等の財産を自己の財産と分別管理
5. 管理業務の実施状況を定期報告
地方銀行再編は進むのか?
スマートデイズ破たんによる「サブリース問題」は、サブリース業者に大きな責任があることは明白ですが、「地銀のお手本」と金融庁長官が絶賛したスルガ銀行の融資手法にも問題がありました。
スルガ銀行がスマートデイズへの本格的融資をおこなうのは2013年10月からです。
主に横浜東口支店が窓口になっていました。このとき検査局長であった森信親氏は地方銀行の再編を主導していました。
翌年、監督局長に就任すると金融庁の検査・監督体制を一体化し、さらに翌年金融庁長官となり地方銀行再生を一気に進めようとします。
そのようななか高収益をあげるスルガ銀行の存在は、まさに “地銀のお手本” と映ったものなのでしょう。
しかしその実態は、多くの個人投資家を欺く手口でおこなわれていた、 “危ういビジネスモデル” にもとづくものだったのです。金融庁から賞賛されるような収益性の高い地方銀行の成長は、多くの投資家を被害者にしてしまいました。
スルガ銀行がこのように不法な融資をおこなった背景には、金融ビックバンにつづく金融行政の課題であった地方銀行の再編がせまっていたからなのです。
人口減少とともに進む企業数の減少は資金需要の減少につながり、地域金融機関の競争を拡大させます。
過度の競争は金融機関の体力を奪い、地域経済への悪影響を生み出す原因ともなっていました。
お手本であったはずのスルガ銀行は半年間の業務停止命令を受け、2019年5月15日には新生銀行との業務提携に基本合意し、さらに10月には創業家との融資・資本関係解消を決定し、再建に乗り出すことになりました。
2020年になり発生したコロナ禍によるGDPの落ち込みは、地方銀行存続の危機をさらに大きくするのかもしれません。
参考サイト
・国民生活センター
・スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護団「声明(スルガ銀行のシェアハウス関連の不正融資の問題可決について)」
・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」
・スルガ銀行「調査報告書(公表版)」
・金融庁「地域金融の課題と競争のあり方」