【不動産会社向け】インサイドセールスの基本からメリット・作り方まで

「優秀な営業ほど追客に手が回らない」
この矛盾に悩んでいる不動産会社の社長は、本当に多いと思います。
反響は取れている。けれど、できる営業ほど商談と契約で手一杯になり、温度の低いお客様への追客が後回しになる。
気づけば「検討します」のまま放置された見込み客が、いつの間にか他社で決めている——。
心当たりのある方は少なくないはずです。
私自身、新卒で住友不動産販売に入って売買仲介の現場にいた頃から、この「追客の取りこぼし」はずっと現場の課題でした。
その後ミカタ株式会社を立ち上げ、不動産会社の経営相談を受けるようになってからも、最近は「インサイドセールスのチームを作りたいんだけど、どう始めればいい?」というご相談を本当によくいただきます。
この記事では、不動産仲介でインサイドセールス(IS)を導入する際に「これだけは押さえておいてほしい」と感じる内容を、メリット・デメリットから具体的な作り方、成功事例まで現場目線で整理しました。
チームをゼロから立ち上げる前の判断材料にしていただければ幸いです。
そもそもインサイドセールスとは何か、まず整理しよう
インサイドセールス(IS)とは、ひとことで言えば「相手と直接顔を合わせず、電話・メール・オンラインで行う営業活動」のことです。
不動産仲介では、業務フローの前半、反響獲得から追客、アポ(APO)獲得までを担う役割を指すことが多くなっています。
従来の不動産仲介は、一人の営業が「反響対応」から「決済」まで全工程を担当するのが当たり前でした。ただ、この形だと一人にかかる負担が大きすぎます。
特に売れる営業ほど後半の商談・契約が積み上がるため、前半の反響獲得や追客に割く時間がどうしても削られていく。
これを分業で解決しようというのが、IS導入の出発点です。
従来型|1人の営業がすべて担当
獲得
獲得
決済
全工程を1人で抱えるため、商談・契約に追われて前半の追客が後回しになりやすい。
インサイドセールス分業型|前半と後半を分ける
獲得
獲得
決済
ISが反響獲得〜アポまでを専任。営業は商談と契約に集中でき、追客の取りこぼしを防げる。
従来型とインサイドセールス分業型の業務フロー比較
テレアポとインサイドセールスは、似ているようで目的が違う
「それってテレアポと同じでは?」とよく聞かれますが、手法は近くても目的が違います。
テレアポは「とにかく数をかけてアポを取る」ことがゴール。
一方ISは、お客様とコミュニケーションを取りながら信頼関係を築き、温度の高い状態で営業に引き継ぐことがゴールです。
短距離走と中長距離走くらい、設計思想が違うと考えてください。
なぜ今、不動産仲介でISが注目されているのか
背景にあるのは、Web経由のお客様の行動変化です。
昔のように「問い合わせ→即内覧→契約」というケースは減り、いまは「まず情報収集」を目的とした問い合わせが大半を占めます。
つまり、すぐ決まらないお客様をいかに取りこぼさず温め続けるかが数字を左右する時代になった。
だからこそ、追客に専念する専門チーム=ISの価値が上がっているわけです。
不動産会社のインサイドセールスには3つの型がある、自社に合うのはどれか
ISを「とりあえず電話する人」とざっくり捉えると失敗します。
設計の前提として、ISには大きく3つの型があり、自社の規模や商材で使い分ける必要があります。
不動産仲介で現実的に選ばれるのは、ほぼ最初の2つです。
| 型 | 担当範囲 | 不動産仲介での向き |
|---|---|---|
| フィールドセールス連携型 (パス型) | 反響獲得〜追客〜アポ獲得まで。クロージングは営業に引き継ぐ | 日本で最も一般的。仲介の標準形はこれ |
| IS完結型 | アプローチからクロージングまで非対面で完結 | オンライン商談に慣れた会社向け。賃貸の一部で増加 |
| 混合型 | 状況に応じてISが交渉・クロージングまで行う | 柔軟だが属人化しやすく、立ち上げ初期には不向き |
最初に作るなら、まずパス型で考えるのが鉄則です。
「ISはアポまで、契約は営業」と役割を明確に切ったほうが、後述する目標設定もトラブル防止もシンプルになります。
完結型や混合型は、組織が回り始めてから検討すれば十分です。
不動産会社がインサイドセールス導入の3つのメリットを整理しよう
不動産会社がISを導入するメリットは、突き詰めると次の3つに集約されます。順番に見ていきます。
① 業務の専門化で、追客の練度が上がる
通常の不動産営業は全工程を一人でこなす必要があります。
その中で一番大事なのはお客様との直接折衝なので、どうしても追客は後回しになる。
言い方は悪いですが、見込みの低いお客様は「捨ててしまいがち」になります。
ISを置けば、営業はお客様との折衝だけに集中できます。
そしてIS側は「アポ獲得」だけに集中できるため、トークスクリプトを試したり、フォローのタイミングを変えたり、あの手この手を試せるようになる。
結果としてアポ獲得数そのものが増える。これが一番大きい効果です。
② 採用・教育・人件費のコストが下がる
通常の不動産営業には「全部できるスーパーマン」が求められます。
ただ、そんな人材は採用が難しく、教育してもなかなか育たず、採れたとしても人件費が高い。三重苦です。
ISという役割を切り出すと、「不動産知識はないけど電話の感じがいい」「メールを打つのがめちゃめちゃ上手い」といった、通常の営業では物足りなくてもISなら活躍できる人材が採用対象に入ります。
これで採用コストが下がる。業務が専門特化するので教える範囲も狭く、教育コストも下がる。
スーパー営業に比べて採用母数が圧倒的に多いので、相対的に人件費も抑えられる、というわけです。
③ 分業による再現性で、属人化から脱却できる
通常の営業体制だと、一人ひとりにかかる数字の責任が非常に大きくなります。
「トップセールスが抜けて会社全体の数字が大きく下がった」というのは、業界でよく聞く話です。
ISを導入してチーム前提で動くようになると、一人にかかる責任が分散され、ノウハウが属人的に溜まりにくくなります。
誰かが抜けても穴埋めができる体制。
つまり再現性が手に入る。会社を大きくしていくうえで、ここは本質的なメリットだと考えています。
導入前に知っておきたいデメリットと、その回避策
良いところばかり書くと信用できないと思うので、デメリットも正直に並べます。
導入前にここを潰しておけるかどうかで、立ち上げの成否がかなり変わります。
人が増えるぶん、統制が必要になる
分業すれば、多少なりとも人は増えます。少人数なら問題にならなかったことも、人数が増えるとチームとしてのまとまりが必要になる。
理想は1チームにリーダーが1人いる形ですが、導入初期は任せられる人材がいないケースが多く、社長が兼任することが多いのが実情です。
最初から「いずれ誰にリーダーを任せるか」まで描いておくと後がラクです。
チームが縦割りになり、IS軽視のトラブルが起きやすい
ISは「アポ獲得」、営業は「契約」と、追う数字が変わります。
そのため縦割り構造になりやすく、トラブルの火種になります。特に営業がISを下に見がちで、それが発端で揉めることが多い。
お互いをリスペクトできる制度設計や給与体系。
従来は考えなくてよかったことを、設計段階で組み込んでおく必要があります。
「一人前の不動産営業」が育ちにくくなる
分業すると、全工程を一気通貫で経験する機会が減ります。
「ISは極めたけど、不動産のことは何も知らない」という人が出てくる。
これは営業個人にとっては転職時のデメリットになりやすい一方、経営者目線では「辞めにくくなる」というメリットにもなる、表裏一体の話です。
【4ステップ】不動産会社でインサイドセールスの作り方
ここからが本題です。ISチームの立ち上げは、次の4ステップで進めると整理しやすくなります。
まずは業務の棚卸しから始める
いきなり人を採るのではなく、まず各業務フローにどんな作業が存在するかを棚卸ししてください。
反響受付、一次架電、ヒアリング、物件提案、追客、アポ調整、来店設定……と、現状一人の営業が抱えている工程をすべて書き出します。
ここが雑だと、後のルール決めが必ず破綻します。
どの業務をどのチームが担当するか、ルールを明確に決める
次に、棚卸しした各業務を「ISが担当」「営業が担当」と明確に切り分けます。
前半|反響獲得 → アポ獲得(ISが担当)
後半|商談 → 契約・決済(営業が担当)
業務フローの役割分担マップ(パス型インサイドセールス)
IS導入の失敗で一番多いのが、このルール決めの曖昧さです。
「ここまではやってくれると思ってた」「普通ここまでやるだろう」
この“普通”のズレが、現場の不満とトラブルを生みます。
引き継ぎの基準(例:温度感が一定以上、来店アポが確定したら営業へパス)まで、誰が見ても同じ判断になるレベルで言語化してください。
各チームの目標とその測定方法を整備する
役割を切ったら、チームごとの目標(KPI)と測定方法を決めます。一般的には次のような形です。
| チーム | 主なKPI | 測定の考え方 |
|---|---|---|
| インサイドセールス | アポ獲得率・アポ数 | 反響数に対する有効アポの割合 |
| 営業(フィールド) | 契約率・契約数 | 引き継いだアポに対する成約割合 |
注意したいのは、最終ゴールはあくまで「契約数の最大化」だということ。
各チームのKPIは、必ずこの最終ゴールに紐づいている必要があります。そして目標を立てるだけでは意味がないので、何をどう測るかまで決めきってください。
ここで顧客管理がExcelや紙のままだと測定が
目標値に届くまで、ひたすら試行錯誤する
あとは目標に届くまでの改善サイクルです。
トークスクリプトを見直す、営業資料を作り直す、追客のタイミングを変える。
打ち手はチームのKPIによって変わります。
「IS導入は仕組みを作って終わり」ではなく、回しながら磨いていくものだと捉えてください。
インサイドセールスを成果につなげる、ツールと体制の整え方
ISは「人の根性」だけでは回りません。むしろ仕組みで支えるからこそ、属人化しない再現性のあるチームになります。
最低限、次の3点は押さえておきたいところです。
ひとつ目は顧客管理基盤(CRM/SFA)。
誰がどのお客様にいつ何をしたかが共有されていないと、IS→営業のパスが成立しません。
ふたつ目は追客の自動化・効率化。問い合わせへの初動を早くし、フォロー漏れを防ぐ仕組みがあるだけで、機会損失は大きく減ります。
三つ目はスクリプトと記録の標準化。
ベテランの勘を可視化して、新人でも一定の質で対応できる状態を作ることが、再現性そのものです。
ツールはあくまで手段です。
先にステップ2の「役割分担」とステップ3の「KPI」を固めてから、それを支えるツールを選ぶ
この順番を逆にすると、高機能なシステムを入れたのに現場が使わない、という典型的な失敗に陥ります。
事例で見る、不動産トップセールスに依存しないインサイドセールス
実際にISを導入して成果を出した不動産会社の例を紹介します(社名非公開のためA社と表記します)。
A社は営業5名体制で、全員が「一人で全部やる」従来型の営業を敷き、年間約1億円の売上を出していました。
ところが、トップセールスが独立を理由に退職し、さらに1名を引き抜いていった。
この2名で会社の数字の約半分を担っていたため、売上は大幅ダウンしました。
社長は変革の必要性を痛感し、ISを筆頭とした分業体制の導入を決断します。
ISのリーダーには、営業としては結果を残せていなかったものの、Webや数字に明るいB君を抜擢。メンバーはアルバイトやインターンで構成しました。
営業は残り2名で対応し、契約業務はベテランの事務スタッフをリーダーに据えて体制を整えます。
その結果がこちらです。
| 指標 | 導入後の成果 |
|---|---|
| 反響数 | 前年の2倍 |
| アポ獲得数 | 前年の1.8倍 |
| 売上 | 前年の1.2倍 |
細かいルール設定など“肝”の部分は企業秘密とのことで公開できませんが、ポイントは明確です。
トップセールスに依存しなくても、仕組みで十分に数字は作れる。
むしろエース1人に依存していたからこそ、その離脱で半減したわけで、ISによる分業はその構造的なリスクを潰す打ち手だった、ということです。
インサイドセールスに関するよくある質問(FAQ)
できます。むしろ最初は専任1名や、事務スタッフが一次架電を兼ねる形からでも十分です。A社のようにアルバイト・インターンで構成するケースもあります。大切なのは人数ではなく、「ISはアポまで、営業は契約」という役割分担を明確にすることです。
手法(電話・メール)は似ていますが目的が違います。テレアポは数をかけてアポを取ること自体がゴール。ISはお客様と信頼関係を築き、温度の高い状態で営業に引き継ぐことがゴールです。短期のアポ数より、長期的な関係構築を重視します。
営業ほどの深い知識は必須ではありません。むしろ「電話の印象が良い」「メール対応が丁寧」といった素養のほうが重要です。専門特化するぶん教育範囲も狭く、未経験者でも立ち上がりやすいのがISの利点です。
仕組みを作って即数字、とはいきません。トークスクリプトや追客タイミングを試行錯誤しながら、KPIに届くまで改善を回す前提で考えてください。逆に言えば、改善サイクルさえ回せば再現性のある成果につながります。
正直、これは導入時に最も起きやすいトラブルです。営業がISを下に見て揉めるケースが典型例です。対策は、引き継ぎ基準を明文化すること、そして両チームを公平に評価する目標・給与設計を最初から組み込むことです。制度で防ぐべき問題と捉えてください。
まとめ
不動産仲介におけるインサイドセールスは、「優秀な営業ほど追客に手が回らない」という構造的な矛盾を、分業で解決する打ち手です。
導入の流れを改めて整理すると、次のようになります。
まず3つの型(パス型・完結型・混合型)から、最初はパス型を選ぶ。
次に①業務の棚卸し→②役割分担のルール決め→③KPIと測定方法の整備→④試行錯誤、という4ステップで立ち上げる。
そしてCRM/SFAなどの仕組みで属人化を防ぎ、トラブルになりやすい縦割り構造は制度設計で先回りして潰す。
A社の事例が示すように、ISの本質は「トップセールス1人への依存」という会社の弱点を、再現性のある仕組みに置き換えることにあります。
エースが抜けたら数字が半減する——その不安から抜け出したい会社にとって、ISは有効な選択肢になるはずです。
自社のケースに当てはめて、最初の一歩を検討してみてください。




