前回は地主へ提案すべき2つの事柄をご説明しました。
ほとんどの場合断られるので、多くの場合通常の借地権として取引を行います。
今回は通常の借地権取引の流れと注意点をご説明します。
前回の記事をご覧になっていない方は下記よりご覧ください。
前回もご説明しましたが、一般的な借地権取引の流れは以下の通りです。
② 地主へ売却の伺い
③ 業者へ卸す
④ 新借地人への販売
こう書くととてもシンプルですが、それぞれで気を付けるべき注意点が潜んでいます。
一つずつ解説していきます。
借地権取引の4つの注意点
① 借地人から売却の相談があった際の注意点
借地権案件はほとんどの場合、借地人からの相談から始まります。
ここで気を付けてほしいのは、必ず地主との関係性が良好なのか、仲が悪いのかヒアリングしてください。
地主と借地人がトラブルを抱えているケースが実は結構あります。
過去に更新料・地代を払っていなかったり、借地人の使用方法に問題があったりと理由は様々です。
原因はどちらかにあるかによりますが、トラブルがあると地主との交渉が難航します。
多大な譲渡承諾料を請求されたり、最悪のケースだと承諾を得れなくなる場合もあります。
トラブルを把握せずに地主と折衝に臨むと、それだけで心証が悪くなり話を全く聞いてくれなくなったりしますので、必ずトラブルがあるかどうかは確認しましょう。
地主が譲渡承諾を拒否した場合
ちなみに、地主が譲渡承諾を拒否した場合どうなるか。
この場合でも借地権として売却はできます。その場合借地非訟を利用します。
借地非訟を簡単に説明すると地主に代わって裁判所が譲渡承諾を出してくれる制度のことです。※主旨からずれるため詳細は割愛します
これを利用すれば売却は出来なくはないですが、借地非訟の場合ローンが付かなくなってしまうので、卸先である建売業者が買わなくなります。
理屈上は売却できますが、事実上売却できなくなってしまうのです。
この場合の販路としてはアパート業者等に販売することが多いですが、土地値がかなり安くなる可能性が高い為、借地人のメリットは非常に薄くなります。
借地非訟は最悪のケースの手段としてとらえ、基本的には地主から承諾を得る方向で進めていきましょう。
② 地主へ売却の伺いの際の注意点
地主と折衝するときは、ただ売却の承諾を得るだけでなく、借地人が業者に販売し、業者が建売で販売するときのことまでを想定することが必要です。
地主へ売却伺いをする際の注意点は以下10個です。(多いですが・・)
- 譲渡承諾料の%を確認
- 地代の確認
- 地主の取り分の確認
- 分割できるかを確認
- 測量の確認
- ルーフバルコニー可か確認
- 堅固建物や集合住宅が可か確認する
- 転売時の譲渡承諾料の確認
- 銀行の承諾書の可否
- 連帯保証人
このタイミングで固められる項目はガチガチに固めましょう。
では一つずつ見ていきます。
①譲渡承諾料の%を確認
まず譲渡承諾料の%を確認しましょう。
エリアによってバラバラですが、おおむね売買価格の10%程度が相場となります。
只、これも法律縛られているわけでは無いので、へそ曲がりな地主によっては「今までそうしてきた」と言ってきてそれ以上求められることも。(今までで一番高い承諾料は40%でした)
後々のトラブルを避けるため、譲渡承諾料の%はしっかり書面に残し確認してください。
②地代の確認
譲渡承諾料、同様に業者が販売した後の新借地人の地代も確認しておきましょう。
基本的には所有権の場合の固定資産税の3倍程度(年額)が相場ですが、現在借地権の売却を検討されている方は、50年近く所有している場合もあります。
その為、50年前の水準で地代が決められている場合があり、異様に安くなっていることも。地主としては収益を増やしたいので、このタイミングで数倍値上げということも考えられます。(といっても適正値にしているだけですが)
現在の借地人と同等の金額と思い込むのは非常に危険です。
こちらも書面に記録しておきましょう。
③地主の取り分の確認
基本は路線価に記載されている「借地権割合」に応じて決めます。
ただこれも譲渡承諾料と同じで、法律で定められているわけでない為、何%で設定するかしっかり確認しておきましょう。
④分割できるかを確認
借地権の多くは業者に販売して、業者は借地権の建売住宅として販売します。
大きな借地の場合、何棟かに分けて販売することになりますが、地主によっては分割はNGということも。
理由は借地人が増えると管理が大変になる為、地主の気持ちになると納得はできます。
その為、このタイミングで分割OKかNGかはしっかり確認しましょう。
⑤測量の確認
借地権は戦後の住宅大量供給が背景にあるため、40年~50年前のものも結構あります。
当時は測量は竿で行っていたので、面積が結構適当です。
借地権面積は、売買価格や地代に影響するため、多くの場合改めて測量をする必要があります。
その為、この段階で測量の段取りをしておきましょう。
地主によってはお抱えの測量士がいたりするので、その際は連絡先を聞いておきます。
また、ダメもとで地主に測量代を持ってもらうよう打診するのも一つです。
近くに複数の借地を持ってる場合、このタイミングで全部行えば測量代が多少軽減できるので、地主にとってもメリットはあります。
⑥ルーフバルコニー可か確認
3階建てが建てられるエリアの場合、業者としてはルーフバルコニーを入れたくなるもの。
ただ地主によってはNGということもあります。
NG理由「のぞき」のリスクがあり、トラブルのもとになるからです。
業者が借地に慣れていないと、それ前提で販売計画を練ったりするので、予め確認しトラブルを未然に防ぎましょう。
⑦堅固建物や集合住宅が可か確認する
借地権は利回りが良くなるので、アパート業者も販路として可能性があります。場合によっては建売業者よりいい金額が付くことも。
その為、RC等の堅固建物や集合住宅が大丈夫か確認しましょう。
ただ地主としては取り返しづらくなるリスクがあるため、NGになるケースが多いです。
その為、ダメもとにはなってしまいます。
⑧転売時の譲渡承諾料の確認
建売業者が販売するときにプラスで譲渡承諾料がかからないよう調整しましょう。
借地人→業者で譲渡承諾料がかかるのに、業者→買主(新借地人)でさらに請求されると計画が崩れてしまいます。
慣習で取らないことが多いですが、中には請求してくる地主も。
その為、予め確認しておきましょう。
尚、一般的には業者が買ってから1年間の売買は譲渡承諾料がかからないとすることが多いです。(できれば2年間をとりましょう。)
⑨銀行の承諾書の可否
借地権だけだとローンは付きませんが、建物が建てばローンは使えます。
ただ銀行から地主に対する承諾書が条件になるケースがあります。
その為、予め地主に承諾書に判を押してくれるか確認しましょう。
メガバンクから地銀まで大体窓口に行けばひな型をくれます。
地主訪問前に予め取得しておくとスムーズです。
ポイントこの際に一行だけでなく複数行のひな型を用意しておきましょう。
尚、ほとんどの場合銀行に有利なことが書かれてます。
その為、承諾してくれる地主は少ないです。(お寺だと特に)
個人が地主の場合、ローンは承諾書が無いとローンが付かないケースが多いので、個人の場合はどこがダメでどこがOKか確認し、銀行との中間地点を模索しましょう。(難しい場合が多いですが…)
また、お寺の場合はお寺のメインバンクであれば承諾書無しでローンが使えたりします。その為、このタイミングで事情を話し、お付き合いのある金融機関をピックアップしておきましょう。
⑩連帯保証人
基本借地権に連帯保証人は必要ありませんが、地主によっては稀に求めてくることもあります。もし求められても、いらない方向で交渉するようにしましょう。
新借地人が延滞したとしても、所有権として復活させればいいだけなので、そこまでリスクがあるわけではありません。
逆に連帯保証人に払わせてまで借地権を継続させるメリットは少ないのです。
ただここについてはこちらから確認する必要はありません。
寝た子を起こすことになりかねないので、こういう可能性もあるんだと知っておいてください。
③ 業者へ卸す
②でしっかり条件調整できていればここでは大きな心配はありません。
条件をしっかり業者に伝えられるよう、書面にまとめてあげると親切です。
尚、決済時に業者と地主の間で土地の賃貸借契約を締結することになります。
事前に書面のすり合わせは済ませておきましょう。
土地の賃貸借契約書の締結場所については、まちまちです。
地主が来てくれたり、決済が終わってからこちらから出向いたり、お抱えの弁護士事務所でやることになったりと地主によって変わるため、こちらも予め確認しておきましょう。
また、決済については関係者が多くなりやすいです。
関係者例業者・借地人・地主・地主おかけの弁護士・地主お抱えの不動産屋等々。
通常の取引より時間がかるため、かなり余裕をもって決済の準備をするようにしましょう。
④ 新借地人への販売
多くの場合おろした建売業者から専任返しをもらいます。
その為、建物が建てばここから販売活動が開始されます。
ちなみに借地物件は反響がとんでもなく来ます。
相場と比較してかなり安いからです。
ただほとんど借地の概念を知らない人ばかりです。
時間をかけて案内し、交渉したとしても最後は「借地だからやめる」となることがほとんどです。
その為、反響が来たらまず、借地権の説明をしっかりするようにすれば、効率的です。
- 地代がかかること
- 建て替えの際に承諾料がかかること
- 20年経つと更新料がかかること
- 将来の販売がしづらいこと
この点をお伝えすると、大体の方はあきらめていきます。
もったいないと思われるかもしれませんが、私の経験上借地権を買う方は士業等の借地に理解のある人ばかりです
その為、最初の段階でふるいにかけることが重要なのです。
まとめ
以上が、借地権取引の流れと注意点です。
実際は個別要素もあるため、これだけではありませんが、8割方は押さえられてると思います。
現在借地権案件を扱っているのであれば、是非ご参考にしてください。