兵庫県南部地震が「新耐震基準」の常識を変えた

1995年(平成7年)1月17日に発生した兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)は、活断層型の直下地震であり、瀬戸内海沿いを東西につながる神戸市内中心部に甚大な被害を与えました。

この被害により14年前に改正された新耐震基準の有効性が検証され、平成12年に新耐震基準は再改正されるのです。

「新耐震基準」とは昭和56年の建築基準法改正により制定されたものです。

住宅ローン減税の手続きにおいても重要な意味をもつ法制であり、耐震性能を語るときに必ずでてくるキーワードですが、建築専門家の間で認識される「新耐震基準」とは、平成12年に改正された2000年基準のことをいうのです。

新耐震基準の建築物にも発生した被害

阪神淡路大震災は被害の甚大さが際立っていました。

・死者:5,480人
・行方不明:2人
・負傷者:34,900人
・倒壊建物:92,877棟
・半壊建物:99,829棟
・全焼建物:7,119棟
・半焼建物:337棟

注目すべきが昭和56年6月以降の「新耐震基準」による建物と、それ以前の建物との被害状況の違いでした。
下表は鉄筋コンクリート造と木造建物の被害調査の一部です。

【鉄筋コンクリート造 調査地域:灘区および東灘区】

昭和46年以前 昭和4756 昭和57年以降 不明 合計
無被害 298 673 1,195 8 2,174
13.7% 31.0% 55.0% 0.4%
軽微 176 337 418 0 931
18.9% 36.2% 44.9% 0.0%
小破 81 150 124 1 356
22.8% 42.1% 34.8% 0.3%
中破 32 60 54 1 147
21.8% 40.8% 36.7% 0.7%
大破 25 35 19 2 81
30.9% 43.2% 23.5% 2.5%
倒壊 40 48 7 2 97
41.2% 49.5% 7.2% 2.1%
不明 30 50 42 3 125
24.0% 40.0% 33.6% 2.4%

出典:『阪神・淡路大震災調査報告』

鉄筋コンクリート造では、大破した建物の74%が旧耐震基準です。倒壊建物では90%が旧耐震基準でした。

【木造 調査地域:灘区から4区画を抽出】

昭和45年以前 昭和4655 昭和56年以降 合計
無微被害 6 8 32 46
13.0% 17.4% 69.6%
亀裂大 25 13 17 55
45.5% 23.6% 30.9%
傾き大 28 19 3 50
56.0% 38.0% 6.0%
1階倒壊 15 7 2 24
62.5% 29.2% 8.3%
2階倒壊 1 0 0 1
100.0% 0.0% 0.0%
全壊 66 9 5 80
82.5% 11.3% 6.3%

出典:『阪神・淡路大震災調査報告』

木造建物では、1階が倒壊した建物の91%、全壊建物は93%が旧耐震基準です。

耐震基準の違いで被害状況が大きく異なる様子が見てとれますが、さらに注目すべきことが「新耐震基準」の建物であっても少なくない被害があることでしょう。

さらに鉄筋コンクリート造の大破を見ると、新耐震基準の建物に23.5%もの被害がでていることです。

この事実は新耐震基準による建物であっても、大きな被害に見舞わることを意味しており、さらに耐震性の見直し特に圧倒的に数の多い木造住宅の安全性を担保する、基準の改訂が必要とされたのです。

2000年基準の有効性

前述した耐震基準の改訂は1999年(平成11年)におこなわれ、翌年6月1日から施行されました。

この改訂基準は丁度ミレニアムの年とかさなり2000年基準といわれています。

2000年基準では以下の改正がなされました。

・耐力壁配置のバランスを計算し耐力壁の有効性を高める(木造)
・柱と梁、柱と筋交いの接合方法を明確にし耐力壁の性能を高める(木造)
・隅柱にホールダウン金物使用を義務づけ引き抜き耐力を高める(木造)
・地耐力に応じた基礎設計が求められるようになり地盤調査が義務づけされた
・中間検査制度の導入

他にも同時期に制定した「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、10年保証の義務づけや住宅性能表示制度の創設がおこなわれ、住宅の性能は大きく向上することになったのです。

こうして昭和56年に制定された新耐震基準は大きく変更され、より安全性の高い建築物を取得できるようになったのですが、16年後ふたたび新耐震基準は自然の脅威を目の当たりにするのです。

2016年(平成28年)4月14日、4月16日と、立てつづけに発生した熊本地震は、2000年基準で建った住宅を容赦なく倒壊させたのです。

阪神淡路大震災によるマンションの被害状況

阪神淡路大震災は大都市で発生した直下地震であり、中高層建築にも大きな被害が及びました。

日本建築学会の調査結果において共同住宅の被害総数は16,524棟あり、その内訳は以下のとおりでした。

小破以下 14,258
中破 1,192
倒壊・大破 1,074
合計 16,524

出典:『阪神・淡路大震災調査報告』

マンションについても被害状況別に年代を確認しておきましょう。

昭和46年以前 昭和4756 昭和57年以降 不明 合計
無被害 162 438 902 8 1,510
10.7% 29.0% 59.7% 0.5%
軽微 106 232 330 0 668
15.9% 34.7% 49.4% 0.0%
小破 54 107 108 1 270
20.0% 39.6% 40.0% 0.4%
中破 16 47 48 1 112
14.3% 42.0% 42.9% 0.9%
大破 9 27 17 2 55
16.4% 49.1% 30.9% 3.6%
倒壊 15 29 4 2 50
30.0% 58.0% 8.0% 4.0%
不明 13 31 24 3 71
18.3% 43.7% 33.8% 4.2%

出典:『阪神・淡路大震災調査報告』

56年新耐震基準以降の大破が30.9%に及びます。

直下地震の破壊力がいかに大きいかとともに、新耐震基準の限界をみせたものといえるでしょう。

またマンション被害を年代別でみると下表のように、新耐震基準の1.5%は大破または倒壊していることがわかります。

昭和46年以前 昭和47~56年 昭和57年以降 不明
無被害 162 438 902 8
43.2% 48.1% 62.9% 47.1%
軽微 106 232 330 0
28.3% 25.5% 23.0% 0.0%
小破 54 107 108 1
14.4% 11.7% 7.5% 5.9%
中破 16 47 48 1
4.3% 5.2% 3.3% 5.9%
大破 9 27 17 2
2.4% 3.0% 1.2% 11.8%
倒壊 15 29 4 2
4.0% 3.2% 0.3% 11.8%
不明 13 31 24 3
3.5% 3.4% 1.7% 17.6%
合計 375 911 1,433 17

出典:『阪神・淡路大震災調査報告』

阪神淡路大震災は都市部での被害を印象づけることになり、木造住宅はもちろんのこと中高層建築の被害が、2000年基準として耐震基準を改正する方向になったのでした。

熊本地震の被害状況

2000年基準制定から16年後、前述のように熊本地震により新耐震基準の住宅に大きな被害がでました。

熊本地震での住宅被害は16万棟超となりました。

次のグラフは被災地のサンプリングから、昭和56年新耐震基準の木造住宅と、平成12年の2000年基準による木造住宅の被害状況を4つに区分し、割合を求めて表したものです。

熊本地震,被害

出典:『なぜ新耐震住宅は倒れたか』

倒壊または崩壊した住宅は56年新耐震基準で約9%、2000年基準で3%の結果でした。

阪神淡路大震災の教訓により改訂された2000年基準は、熊本地震においてまたしても期待を裏切られることになるのです。

『建築基準法が改正され「新耐震基準」となる』に記したように、新耐震基準の設定値であった「震度6強~7の大規模な地震により倒壊や崩壊しない強度」は、実現されていなかったのでした。

住宅の倒壊による死者は37名におよび、建物の損傷はあっても人が避難できることを求めた新耐震基準は、今後さらに改訂されなければならない事実を示唆したのです。

大きな地震による被害が起こるたび、建築基準法の改正がおこなわれています。

2000年基準の改正においては木造住宅の倒壊に強い影響を与えた「キラーパルス」が発見されていますが、熊本地震においてもキラーパルスが発見されました。

より信頼性の高い耐震基準を求めるうえで、キラーパルスの研究が不可欠なことと考えられるのです。

参考サイト

J-Stage「建築構造の耐震基準の変遷」
・神戸大学附属図書館「阪神・淡路大震災 神戸復興誌」
国土交通省国土地理院「兵庫県南部地震の概要」
J-Stage「建築基準法における性能規定化」
国土交通省「建築関係法の概要」
東京カンテイプレスリリース「大地震が及ぼすマンション価値への影響」
【参考書籍】
・『阪神・淡路大震災調査報告』 発行所:社団法人日本建築学会 編集著作人:社団法人日本建築学会 印刷所:昭和情報プロセス株式会社
・『なぜ新耐震住宅は倒れたか』 発行:日経BP社 編集:日経ホームビルダー 発行人:畠中克弘 印刷製本:図書印刷株式会社

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