2008年(平成20年)9月15日、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破たんし、国際的な金融危機が発生しました。
日本の不動産業にも大きな影響を与えたのですが、住宅産業の一角を担う地方のハウスメーカーにおいて、大型倒産劇が連続するという、事件ともいえるような出来事がありました。
倒産劇は静岡県浜松市と埼玉県川口市が舞台となったのですが、倒産により被害を受けた人は広い範囲に及んだのです。
地方の有力ハウスビルダーが倒産
住宅産業において小規模な工務店が倒産し、工事が中断するといったことは割合多く、ニュースになることもありません。
しかし浜松市と川口市でおきた、住宅メーカーの倒産はかなり状況が違っています。
多数の住宅注文者が支払った工事代金が失われ、マイホームの夢を絶たれた人や多額の住宅ローンを重複して抱えることになる人がいたのです。
富士ハウスの倒産概要
富士ハウスは浜松市に本社を置く在来木造工法の住宅メーカー、負債総額640億円近い大型倒産でした。
2009年(平成21年)1月29日に自己破産申請をしています。
同社は木造軸組パネル工法を採用し、地方のハウスメーカーとして先端を走っていたといえるのですが、パネル工法は工場設備投資が多額になる傾向があります。
静岡中心から営業範囲を広げ全国展開を図ろうとするのは、どのハウスメーカーにもみられる経営戦略であり、富士ハウスも同じ道を歩もうとしたのでしょう。
倒産原因は過剰な設備投資と、リーマンショックによる住宅不況といわれています。
富士ハウスの倒産は多くの住宅注文者に被害が生まれる事態となり、契約金返還訴訟と詐欺罪の告訴までおこなわれました。
詐欺罪は不起訴処分とされましたが、検察審査会の「不起訴不当」に対し再び不起訴処分となり、マスコミも大きく報道するところとなったのです。
アーバンエステートの倒産概要
アーバンエステートは川口市に本社のある注文住宅を中心とした建設業者、負債総額は55億円近くあり、2009年(平成21年)3月24日民事再生を申請しましたが認められず3月30日自己破産申請しました。
テレビ朝日の「報道ステーション」スポンサーになるなど、広告宣伝に力を入れ顧客を獲得していました。
しかし資金繰りの厳しい状態がつづいており、下請けや外注先への支払い遅延など経営状態に問題がありました。
倒産時は約500棟の未着工および未完成物件があり、こちらでも多くの住宅注文者に被害が発生したのです。
富士ハウスと同様、被害者は集団訴訟におよび、経営者ら4人が詐欺罪で逮捕され一審において実刑判決を受けています。
共通する被害状況
両社の倒産により被害を受けた住宅注文者には共通点がありました。
それは・・・多額の契約金や着工時金でした。
建築工事請負契約では、次のような工事代金の支払い条件を適用することが一般的とされています。
2. 着工時金
3. 上棟時金
4. 中間金
5. 完成時
着工時と中間時を省き3回に分けて支払うなどの方法もあり、着工時までには多くても3割程度の工事代金を前払いとして支払うことが多いのです。
住宅ローン利用の場合は、3割もの自己資金がないケースもあり、「つなぎ資金」の融資を受けて支払うケースもあります。
両社の倒産で明らかになったのは、着工時までに6割~7割の支払いをおこなっている事例があったことです。
着工時とはつまり未着工の状態ですが、その時点で6割以上の工事代金を支払う契約は、異常といえることです。
しかし注文者は「今、契約すると値引きします!」などの甘言により、巧みに誘われて契約し、いわれるままに多額の前払い金を支払ってしまった状況が明らかになりました。
瑕疵担保履行法施行の “はざま”
住宅注文者が異常な支払い条件に従ったことには、もうひとつ背景がありました。
2007年(平成19年)5月30日に「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(略称:瑕疵担保履行法)」が成立しました。
すでに住宅の10年保証は制度化されていましたが、住宅の売主および建設業者が倒産すると、10年保証が履行されません。
そこで10年保証をより確実なものにするため、住宅供給事業者は「瑕疵担保履行法」にもとづき、保証金の供託また保険加入が義務づけられたのです。
ただし制度の適用は平成21年10月1日以降引渡しの住宅からでした。
瑕疵担保保険にはオプションメニューとして「完成保証」が付与されており、希望者には工事途中に業者が倒産した場合には、他の業者に引き継ぎさせることのできる方法もあったのです。
被害者にはいくつかの類型があったと考えられます。
2. 瑕疵担保保険加入予定ではあったが完成保証は付与されていない
3. 完成期日が早く瑕疵担保保険適用がなかった
などのパターンにわけられるのですが、当時の注文者が「瑕疵担保履行法」を正確に理解していたかどうか疑われるのです。
当時の日本共産党機関紙「赤旗」には、「完成保証をつけるので倒産しても家は建つ」などの文言で契約させられたケースもあると指摘していますが、ありそうなことだと考えられます。
宅建業法と建設業法の違い
この倒産劇には多くの被害者がいるのですが、宅建業法と建設業法では消費者保護の姿勢に違いがあると指摘せざるを得ません。
宅建業法では売主が宅建業者の場合、手付金額の制限がありさらに一定額を超えると、保全措置が義務づけされています。
対して建設業法では注文者が支払う工事代金の前払いには、制限はなく保全措置もないことです。
また前述の「瑕疵担保保険」による完成保証を利用した場合でも過払い分は保証されず、この倒産劇にみられるような過剰な支払い条件により、被害を受ける消費者の保護ができない法制度であるといえるのです。
建売分譲住宅であればこのよう被害は起きようがなく、注文住宅であったことが被害者を増やし、多額の住宅資金が戻ってこなかったのです。
被害者のなかには住宅を断念する人、さらに融資額を増やしてマイホームを建てた人と、それぞれの状況により次善策を考えなくてはならなかったのでした。
企業の倒産は経済活動において避けることはできません。
しかし事業者間で被害者がでることは止むを得ないものですが、一般消費者に多くの被害者が生まれた事実を忘れてはなりません。
新築需要が落ち込みリフォーム需要が増大してきた今日ですが、リフォーム業界で同様のことが今後おきないことを願うものです。
参考サイト
・Wikipedia「富士ハウス」
・Wikipedia「アーバンエステート」