リーマンショックと不動産業界の倒産

現代においても景気の良し悪しを表現するときに「リーマンショック以来」と使われますが、2009年の日本の実質成長率は-5%を割り込んでいました。

特に建設・不動産業界での落ち込みは激しく、多くの企業倒産がありました。

すでに10年 “ひと昔” が過ぎ去りましたが、2020年は間違いなくリーマンショック以来の試練となりそうです。

ここではリーマンショックで破たんした企業の姿と、そのころに生まれた新しい潮流に触れてみます。

リーマンショックとは

リーマンショックとは、2008年(平成20年)9月15日、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの破たんが発端でおきた世界的な金融危機でした。

アメリカ経済の落ち込みは日本経済にも影響を与え、景気後退と国内の金融資本市場は大幅下落に陥るのですが、すでに1年前から株価の下落傾向ははじまっていたのです。

2007年夏ごろにはアメリカ国内において、サブプライムローンの不良債権化がはじまり、金融商品市場では値崩れがおきていました。

その影響は金融不安として日本でも株安がはじまり、翌年4月~6月には不動産向け融資が減少します。

20万戸台をずっとキープしていた全国の新規マンション着工数は、2007年から減少し20万戸を大きく割込みます。

ただし新規マンションの着工数減少は、『建築業界を震撼させた耐震偽装事件の本質』で触れた「建築確認の厳格化」による影響もあり、建設業・不動産業はダブルパンチを受けたようなものでした。

リーマンショック前の破たん企業

リーマンショック前にすでにおきていた金融不安は、不動産業界を中心として経営破たんに陥る企業が続出します。

1. ゼファー(民事再生)

東証1部上場企業としてこの時期第1号の経営破たんでした。

負債総額949億円は、記録のある倒産企業98社中10位となる規模です。

破たんのきっかけは買収により子会社となっていた、マンション分譲会社の自己破産と自社販売物件の決済延期でした。

子会社へのこげつき資金は120億円、延期となった債権が300億円におよび資金繰りにつまってしまいました。

[参考記事]
東洋経済「ゼファー民事再生、SBIホールディングスに大きな誤算」
ロイター「ゼファーが民事再生手続き、不動産市況の悪化が資金繰りに打撃」

2. スルガコーポレーション(民事再生)

急成長により東証2部上場した不動産会社がスルガコーポレーション。

ビジネスモデルは建替え時期のビルに入居するテナントの退去や、所有権が細かく多数に分散された権利関係を整理し、建替えを図るビル再生事業がメインでした。

事業に欠かせない「地上げ」を担当したのが、反社会的勢力に関わりがあるといわれた企業であることが発覚し、同社への資金供給が止まり黒字倒産となったのです。

負債総額は620億円でした。

[参考記事]
東洋経済「反社会勢力に交渉委託 スルガコーポの大罪」
日経不動産マーケット情報「気になるスルガコーポレーション物件の行方」

3. アーバンコーポレーション(民事再生)

負債総額がもっとも大きかったのが、2,558億円のアーバンコーポレーションです。

ビジネスモデルはスルガコーポレーションと似ています。

破たんのキッカケとなったのも、反社会的勢力に関わる疑いから金融機関が支援をストップしたことでした。

[参考記事]
プレジデントオンライン「なぜアーバンは躓いたのか」

反社会的勢力排除の動き

リーマンショック前の企業破たんについて、代表的な例をあげましたが、特徴的なことがありました。

スルガコーポレーション・アーバンコーポレーション共に、「反社会的勢力」の関係が背景にあり資金ショートに至っていることです。

「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」略称:暴力団対策法は、1991年(平成3年)に公布され、翌年から一部施行されており、改正後の2008年(平成20年)8月1日に完全施行されました。

法整備と並行して進められたのが、地方自治体の「暴力団排除条例」の制定です。

2004年(平成16年)広島県と広島市では、公営住宅の入居資格に「暴力団員でない」ことの規定を設け、以後、各都道府県が条例を制定し、2011年(平成23年)10月1日、東京都と沖縄県においての制定により全国都道府県で施行されるようになりました。

標準の売買契約書や賃貸借契約書にも「暴力団排除条例」にもとづく契約条項が追加され、不動産業界においても反社会的勢力排除の動きは、企業のコンプライアンス意識の強化とも重なり全国的に広がっていったのです。

リーマンショック後の破たん企業

リーマンショックがおこると金融機関の融資姿勢はますます厳しくなり、企業は資金繰りに窮し黒字倒産が相次いだのです。

1. ニューシティ・レジデンス投資法人(民事再生)

リーマンショック後の倒産としては初の1,000億円を超える破たんとなりました。

負債総額1,123億円です。

「J-REAT」のひとつとして2004年(平成16年)9月27日に設立した投資法人。

金融市場の収縮により資金調達がむずかしくなる一方、保有資産の売却も進まず資金ショートに至り破たんしました。

[参考記事]
ダイヤモンド・オンライン「J-REAT初の破綻 ついに不動産投資ファンドも淘汰へ」
ニッセイ基礎研究所「J-REIT初の破綻を受けて~市場は不信の連鎖を遮断できるか~」

2. 日本綜合地所(会社更生法)

大手マンションデベロッパーと互角に戦えると、評価された異色のデベロッパーであった日本綜合地所、経営破たんの前に、就職内定者53名に対し「内定取り消し説明会」を実施し話題となりました。

破たん原因はマンション市況の悪化による資金ショートでした。

借入金の増大と値引き販売による資金回収を計りましたが、持ちこたえられず倒産に至ります。

負債総額は2,142億円でした。

更生手続き後、大和地所グループとなり大和地所レジデンスと社名を改めています。

[参考記事]
東洋経済「内定取り消しも頷ける、日本綜合地所の厳しい経営の実情」

3. ジョイント・コーポレーション(会社更生法)

子会社ジョイント・レジデンシャル不動産と合わせ負債総額1,680億円と、負債総額第4位となる大型倒産でした。

マンションデベロッパーとして1986年(昭和61年)スタートし、土地付きのマンションやオフィスを買取り再開発したのち、J-REATなど不動産ファンドに転売する不動産流動化事業もおこなっていました。

リーマンショックにより不動産市場に流れる資金が細り、資金繰りに詰まったのが倒産の原因でした。

会社更生法申立て前にオリックスの支援を受けていましたが、状況は好転せず破たんに至ったのです。

更生手続き後、長谷工コーポレーションの子会社となり、現在は長谷工不動産としてマンション事業をおこなっています。

[参考記事]
ネットアイビーニュース「オリックスグループの解体が強まる M&A9ヵ月で更生法申請したジョイント(1)」
ネットアイビーニュース「ジョイント・コーポレーションの破綻で見える不動産流動化事業の今後~その1」

J-REAT破たんの影響

リーマンショック後の企業破たんで取りあげなければならないのが、J-REATの投資法人破たんです。

J-REATは2001年(平成13年)にスタートした「不動産投資信託」です。

不動産投資は投資家が直接不動産を所有し運用するのですが、J-REATは投資家から集めた資金を投資法人に集約し、投資法人が不動産を所有するしくみです。

投資法人は不動産の運用や管理などの業務を別の会社に委託し、家賃収入を投資家へ分配するのですが、投資家は「投資証券」を購入することにより投資をおこないます。

投資証券は証券市場をとおして日常的に売買されており、投資家はいつでも換金できるメリットがあります。

ニューシティ・レジデンス投資法人の経営破たんは、新規取得物件の資金調達失敗が原因でしたが、最終的にはビ・ライフ投資法人(現 大和ハウスリート投資法人)への吸収合併により落着します。

J-REATの投資法人といえども金融収縮の影響を大きく受けるという認識が生まれると共に、M&Aによる市場再編可能性が生まれたことは、今後のJ-REATに対する魅力を高めることとも捉えられるようになりました。

なおJ-REATは現在63銘柄あり、分配金利回りは7.84%~0.21%とばらつきはみられますが、3/4以上の銘柄が4%以上の利回りとなっており(2020年6月現在)、魅力ある不動産投資手法として定着しています。

メジャーセブンの誕生とリノベーションマンションの台頭

リーマンショックによる不動産業界への影響は、新しい潮流も生むようになりました。

ひとつは中小マンションデベロッパーの退場により、「メジャーセブン」という大手マンションデベロッパーグループが形成されたこと、そしてメジャーセブンが供給する新築マンションに対抗するように、リノベーションマンションと呼ぶ中古マンションのジャンルが生まれたことです。

メジャーセブン

メジャーセブンとは下記7社をいいます。

・住友不動産株式会社
・株式会社大京
・東急不動産株式会社
・東京建物株式会社
・野村不動産株式会社
・三井不動産レジデンシャル株式会社
・三菱地所レジデンス株式会社

2000年(平成12年)4月に7社共同運営のポータルサイトを開設し、もともとネームバリューのある各社は、マンション市場においても「メジャーセブン」としての地位を確立してきました。

平成19年リーマンショック前の首都圏における、メジャーセブンのマンションシェアが24%であったものが、平成22年には42%に上昇します。

この間マンション供給戸数は微増であり、メジャーセブン以外のデベロッパーが姿を消した何よりの証でした。

リーマンショック,不動産業界

引用:メジャーセブン「メジャーセブンについて」

増加するリノベーションマンション

リノベーションマンションという単語がネット上に登場するのは2004年ころになります。

リーマンショックのあった2008年には、たびたび記事タイトルのキーワードになり、造語であったリノベーションが不動産業界に定着したのがこの頃であったことがわかります。

リノベーションは区分所有マンション1室の内部を解体し、スケルトン状態にしたうえで間取りの変更や住宅設備の交換を経て、内装工事をおこなう大がかりなリフォーム工事です。

1室ごとのリノベーションマンション事例が増加したことに加え、1棟リノベーションマンションの実施例も多くなっています。

リーマンショック,不動産業界

引用:東京カンテイ「一棟リノベーションマンション」の供給動向を調査・分析」

1室だけのリノベーションマンションは、築年数により耐震性能の問題がありますが、1棟リノベーションマンションの場合は耐震改修工事が可能であり、今後は建替え時期がきたマンションの再生手法としても考えられるのです。

参考サイト

内閣府 平成21年度経済白書「世界的な金融危機と国内金融」
「J-REIT View~リーマン・ショックによるJ-REIT市場環境の激変と今後の展望~」
一般財団法人 不動産適正取引推進機構「マンションデベロッパーの減少」
メジャーセブン
東洋経済「不動産・ゼネコン マンション大激震! 図解 破綻連鎖の構図」

不動産の歴史まとめページ

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