1999年(平成11年)「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により新築住宅の10年保証が義務化され、2009年(平成21年)には「住宅瑕疵担保履行法」が制定、2つの法律により10年保証は厳格に履行される仕組みができあがりました。
ここでは「住宅瑕疵担保履行法」の詳しい内容と、住宅産業における10年保証制度の意義について考察します。
住宅瑕疵担保履行法のしくみ
瑕疵担保履行法は「新築住宅10年保証」を確実におこなうため、住宅供給事業者に金銭的な補償の裏付けを実行させることです。
具体的には「供託」と「保険」、仕組みが2つあり事業者はどちらかの仕組みを選択するようになっています。
供託による資金確保
住宅供給事業者が供給した住宅の10年保証責任にもとづき、修補などに必要な資金を法務局に供託する方法です。
過去10年間の供給戸数に応じ供託保証金が算定される仕組みになっています。
およその目安を掲載すると以下のとおりです。
10年間供給戸数 | 供託保証金 |
1千戸 | 1億8千万円 |
5千戸 | 3億4千万円 |
1万戸 | 4億4千万円 |
5万戸 | 11億4千万円 |
10万戸 | 18億9千万円 |
10年間の供給戸数が算定ベースになるので、毎年2回(3月31日と9月30日)の基準日ごとに過去10年間の供給実績を届出し、供託保証金が算定されます。
保険による資金確保
保証金を供託しない場合は保険加入しなければなりません。
保険会社は次の5社あり、保険内容はほぼ同じような内容になっています。
・株式会社住宅保証機構
・株式会社住宅あんしん保証
・ハウスプラス住宅保証株式会社
・株式会社日本住宅保証検査機構
・株式会社ハウスジーメン
保険料は検査料を含み戸建の一般的な規模だと8万円前後であり、10年間で3千戸を超えると供託保証金のほうが1戸当りの単価は安くなります。
供託保証金か保険加入かは事業者が選択でき、規模が小さい事業者ほど保険加入を選択しています。
保険加入にあたっては必要な検査があり、保険会社が指定する検査機関の検査に合格しなければ保険加入はできません。
供託制度と同様、年2回の基準日ごとに保険加入の状況を届出ることが決められています。
なお、保険加入をしない住宅は保証金の供託が必要になります。
住宅供給事業者の責任
住宅瑕疵担保履行法にもとづくこれらの制度により、住宅供給事業者は万が一倒産した場合でも、瑕疵担保責任を果たすために必要な資力確保をおこなうことができます。
10年保証は平成12年から義務づけされていたのですが、住宅事業者が倒産した場合には何の担保もないことが「耐震偽装事件」により明らかになったのです。
『建築業界を震撼させた耐震偽装事件の本質』で触れたように、構造計算書が偽造されていたマンション分譲事業主は倒産し、マンションの購入者たちは住宅ローンを二重に借入し、建替えをせざるを得なかったのでした。
保証責任のある事業主が倒産した場合でも、住宅購入者が10年保証にもとづく必要な措置がとれるよう、法整備したのが住宅瑕疵担保履行法です。
加えて保証保険には「完成保証」がオプションサービスとして追加され、注文住宅の場合に建て主が支払った前払い金の一定額までを保険会社が保証し、代替業者の手配なども含め住宅の完成をサポートする仕組みも作られました。
中古住宅やリフォーム工事にも適用される瑕疵保険
10年保証の義務づけは新築住宅(戸建・マンション・アパート・店舗併用住宅)に対するものですが、住宅瑕疵担保責任保険の制度は、中古住宅やリフォーム工事にまで適用範囲を広げるようになります。
1.中古住宅
売主が宅建業者 | 売主が個人 | |
保証範囲 | 構造耐力上主要な部分 雨水の浸入を防止する部分 |
構造耐力上主要な部分 雨水の浸入を防止する部分 |
保証期間 | 5年または2年 | 5年または1年 |
2.リフォーム工事
リフォーム工事 | マンションの大規模修繕工事 | |
保証範囲 | 構造耐力上主要な部分 雨水の浸入を防止する部分 |
構造耐力上主要な部分 雨水の浸入を防止する部分 給排水管路 給排水設備・電気設備 |
保証期間 | 5年 | 5年 *手すり等は2年 |
3.利用状況
中古住宅の売買およびリフォーム工事における瑕疵担保責任保険の利用状況は、平成29年度の実績によると以下のようになっています。
既存住宅売買瑕疵保険(宅建業者) | 11,798戸 |
既存住宅売買瑕疵保険(個人間) | 2,066戸 |
リフォーム瑕疵保険 | 4,145戸 |
大規模修繕工事瑕疵保険(マンション) | 1,157棟 |
今後の課題
日本の人口は2008年(平成20年)にピークを迎え、人口減少に転じています。
引用:総務省 平成28年版 情報通信白書「人口減少社会の到来」
2008年(平成20年)の住宅ストック数は約5,760万戸、総世帯数約5,000万世帯に対し約15%多くなっており、2030年(令和12年)には20%のストック超過となる予想です。
また新築住宅の減少とリフォームの増加は、住宅産業の姿も変えようとしています。
1950年ころからはじまった日本の本格的な住宅政策は、50年を経過し一定の住宅量を確保し質を求める時代に入りました。
新築住宅に対しては「10年保証」が義務化され、前述のように「瑕疵担保履行法」によりその実効性も担保されるように制度が確立されました。
そして今日、新築からリフォームへと住宅産業の変化に対応した、制度整備が必要とされる時代になりました。
耐震改修をおこなわずに、旧耐震基準の住宅やマンションをリノベーションする方法が広まっています。
超過ストック戸数約20%は、旧耐震基準の住宅のうち耐震改修されていない住宅の割合とほぼ合致するのです。
引用:経済産業省「住宅・リフォーム業界を巡る現状と社会環境の変化」
現在リフォーム工事に対する「瑕疵担保責任保険」の適用は任意です。
しかし将来、一定規模のリフォーム工事に対しては、新築並みの「瑕疵担保責任」を義務化する必要が出てくるのではないかと思われます。
参考サイト
・国土交通省「「住宅瑕疵担保履行法」のポイント解説」
・国土交通省「住宅瑕疵担保履行制度の現状」
・経済産業省「住宅・リフォーム業界を巡る現状と社会環境の変化」