都市開発に伴う300%の地価上昇

明治末期から大正時代にかけては、宅地開発をはじめとした都市開発が行われた時代です。特に第一次世界大戦を契機に軽工業から重工業に転換し、都市での人口増加が著しくなりました。

・人口増加と住宅不足
・好景気と不動産投機

このような社会的な問題も浮き彫りになるなか、本格的な不動産業の担い手が登場する時代となります。

第一次世界大戦の勃発と経済発展

1914年(大正3年)7月28日に勃発した第一次世界大戦により、日本は好景気を迎えることとなります。

大戦の戦場はヨーロッパであり、日本は参戦国であったものの直接影響を受けることはなく、アメリカやアジア諸国への輸出が急増しました。

繊維工業が中心の日本経済でしたが輸出量の増大が、海運・造船・石炭・電力といった産業にも影響を与え、鉄鋼業も大いに発達したのでした。

工業の発達は産業構造に変化をもたらし、工場労働者をはじめとする給与所得者の増大につながります。給与所得者の増大は都市の人口集中をもたらし、不動産の売買や賃貸の取引も活発になっていきます。

下表は1914年(大正3年)から1931年(昭和6年)の期間、東京市内での売買により登記された件数と土地の価格です。

都市開発,地価上昇

出典:『日本不動産業史』 発行所:財団法人名古屋大学出版会 編者:橘川武郎・粕谷誠 発行者:金井雄一

取引件数は1919年にピークとなり、1923年には1914年の半分に落ちています。しかし金額は倍以上であり、1件当たりの取引金額は1923年には1914年の4倍になっていることが読みとれます。

人口増加と地価上昇

第一次世界大戦が終わり、東京の人口は急増します。

都市開発,地価上昇

出典:東京都「東京都の人口推移 - 東京都の統計」[xls]

人口増加は東京以外の都市でもみられ、大正9年には10大都市の人口は全国の10%に達していました。

都市開発,地価上昇

引用:国土交通省「明治期からの我が国における土地をめぐる状況の変化と土地政策の変遷」

現代も同じですが人口増加する都市においては地価が高騰します。下図は1910年から1940年までの平均地価推移です。

都市開発,地価上昇

引用:日本銀行金融研究所「戦間期日本における地価変動と銀行貸出の関係について」

市街地の宅地は1913年ころと比較すると、ピークの1919年には3倍に上昇しています。6年間で3倍の上昇は、昭和末期から平成にかけての「バブル経済」時と匹敵する変動でした。

その後地価は若干低下したあと、1927年ころに上昇を見せますがまた下落します。日本はこのあと満州事変から日中戦争と進み、太平洋戦争へと突入していくのです。

1874年(明治7年)から1998年(平成10年)までの日本の実質GDPをグラフにしたものが下です。

都市開発 300% 地価上昇

出典:『経済統計で見る世界経済2000年史』 出版社:柏書房 著者:アンガス・マディソン 翻訳:金森 久雄、政治経済研究所

バブル経済期と比較すると大正時代の地価上昇は、完全に投機以外のなにものでもなかったことが理解できます。

地価上昇と不動産会社の成長

人口増加は住宅不足の大きな原因でしたが、大正期は住宅不足を招く人口増加以外の要因もありました。主な要因として次のような点が指摘できるのです。

1. 建築材料や建設労務費の高騰により貸家業者は建築を手控えた
2. 多数の信託会社が設立され、有価証券や不動産への投機が活発になった
3. 借地法の施行により地主の権利が制限され借地供給が減少した

不動産取引きは活発になっているものの、投機的な売買が主体で有効な住宅供給は見られなかったようです。深刻な住宅不足解消のため政府がおこなった施策が、1919年(大正8年)から開始された「公益住宅」です。

公益住宅は大蔵省からの低金利融資により、公共団体や公益団体がおこなった賃貸住宅事業で、現代の公営住宅にあたります。

大正期の不動産会社

多数の信託会社により活発になった不動産投機は、規制が必要な域にまで達しました。

政府は1922年(大正11年)に「信託法」と「信託業法」を制定し、信託業者を免許制に変更します。これにより500を超えていた信託会社は28社に減少し、三井・三菱・安田・住友と財閥系の信託会社が誕生します。

信託会社は金銭・有価証券・不動産の信託業務と、不動産媒介業務をおこなうようになります。

一方、信託会社の免許を得られなかった業者は不動産業者に転換し、これも不動産の販売や媒介業務などで成長を遂げていきました。

この時代の大手不動産会社をリストアップすると以下のごとく、現代も活躍している企業があるのです。

都市開発,地価上昇出典:J-Stage「不動産業の成立とその変遷」

なお三井・三菱・安田・住友の財閥系信託会社と、東京市地理課が協力して設立した不動産研究のための不動産懇談会が、現代の「一般社団法人不動産協会」に発展したといわれています。

財閥系4信託会社はそれぞれ次のように、現在は信託銀行になっているのはご存知のとおりです。

・三井信託→三井住友信託銀行
・三菱信託→三菱UFJ信託銀行
・安田信託→みずほ信託銀行
・住友信託→三井住友信託銀行

商家系や旧信託系の不動産会社も、それぞれ地元の老舗企業として現在も活躍していますが、ウェブサイトを公開している不動産会社について、概要をまとめましたので参考にしてください。

・千島土地株式会社
事 務 所:大阪市住之江区北加賀屋2丁目11番8号
設  立:明治45年
事業内容:大阪・神戸・西宮・福岡での賃貸事業、海外での賃貸事業や航空機の賃貸事業
公式サイト→https://www.chishimatochi.com/
・日本不動産株式会社
事 務 所:東京都千代田区岩本町1丁目1番7号
創  業:明治39年
事業内容:不動産管理・売買仲介・賃貸仲介・鑑定評価・測量登記・コンサルタント
公式サイト→http://www.nihonfudosan.co.jp/
・株式会社萬成社
事 務 所:大阪府大阪市中央区北浜3丁目1番12号
創  業:明治29年
事業内容:不動産管理・売買仲介・賃貸仲介
公式サイト→http://www.manseisha.com/
・帝国信栄
事 務 所:神戸市中央区琴ノ緒町5丁目4-1
創  業:明治26年
事業内容:事業内容:不動産管理・売買仲介・賃貸仲介
公式サイト→https://www.teikokushinei.co.jp/

さて地価上昇の一因に「借地法」の施行があると述べましたが、1921年(大正10年)に成立した「借地法」と「借家法」はその後1992年(平成4年)の新法施行まで、実に71年間もの長い期間適用されたものです。

また新法前に締結された借地借家契約は旧法が適用され、現在も有効な法律です。

次回は1921年(大正10年)に成立した「借地法」と「借家法」の影響について考察します。

参考サイト

一般財団法人 不動産適正取引推進機構「大正期の不動産政策」
日本銀行金融研究所「戦間期日本における地価変動と銀行貸出の関係について」
J-Stage「不動産業の成立とその変遷」
【参考書籍】
・『日本不動産業史』 発行所:財団法人名古屋大学出版会 編者:橘川武郎・粕谷誠 発行者:金井雄一
・『経済統計で見る世界経済2000年史』 出版社:柏書房 著者:アンガス・マディソン 翻訳:金森 久雄、政治経済研究所

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