2×4工法は正式には「枠組壁工法」といい “ツーバイフォー工法” とも呼びますが、昭和44年ころにその技術を北米から導入しました。
当時は「プラットフォーム工法」と呼んでいたものです。特殊な工法であったため建築基準法第38条認定を必要とする工法でしたが、防火性能や現場作業の省力化など、住宅建設コスト低減に対する期待をもたれたものでした。
昭和49年には技術基準を整備し、一般的に用いることのできる工法として「オープン化」したのです。
建設省のねらいは?
2×4工法の導入は建設省が主導したのですが、実は明治時代から “輸入住宅” として建築されていたものです。
しかしながら住宅建築の主役でもある大工にとっては不慣れな工法であり、日本の伝統工法との違いがあり広く普及することはなかったのです。
戦後の深刻な住宅不足の解消のため、日本政府が掲げていたのが住宅政策の3本柱でした。
2. 公営住宅法
3. 日本住宅公団
3本柱にもとづいて実際に住宅を供給する主体が、集合住宅におけるPC工法を中心としたゼネコンであり、そして住宅金融公庫の不燃化政策にもとづく工業化住宅だったのです。
しかし『工業化住宅性能認定制度によりプレハブが大手ハウスメーカーに』で触れたように、工業化住宅の価格帯は在来木造住宅よりも高い水準となり、より低廉な住宅工法を探る動きも建設省内にはあったのです。
先に述べたように明治時代から2×4住宅の建設例はありましたが、戦前まで輸入住宅への規制は特にありませんでした。
昭和25年の建築基準法制定により、2×4工法は技術基準のない「38条認定」の必要な工法となっていたのです。
2×4工法が低廉な住宅建設を可能にすると期待されるには理由がありました。
・伝統技能ともいえる熟練した大工を必要としない
2×4工法の専門職人は躯体を組立てる「フレーマー」と、内装仕上げなどをおこなう「カーペンター」に区分され、日本の大工のような軸組架構や仕口加工など高度な技術は必要ありませんでした。
「カーペンター」には器用さとか繊細な技が多少求められるもの、「フレーマー」においては熟練技といったものはあまり要求することはありません。
したがって日本の大工と比較すると賃金水準は低く、北米では低廉な住宅建設を可能にしていたのです。
2×4工法オープン化後の動き
2×4工法オープン化により具体的には「枠組壁工法の技術基準」が明確にされ、技術マニュアルを建築技術者は入手できるようになりました。さらに住宅金融公庫は「住宅工事仕様書」を公開し、建築士であれば誰でも2×4工法による住宅の設計が可能になったのです。
地方自治体では建築確認申請における審査方法も整備されました。
2×4工法導入にあたって建設省は、フレーマーの養成を意図していたはずなのですが、政府が制度を設置するような動きはありませんでした。
フレーマー養成は民間事業者がおこなうことになるのですが、オープン化当初は主に大工が2×4工法の施工方法を習得することになります。一からフレーマーを育てることのむずかしさはあったはずです。
昭和51年に「一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会」が設立され、2×4工法の普及と技術者の育成事業にも着手するようになりますが、地方の工務店などが職人養成を担わざるを得ないのが実態でした。
木造在来の大工がフレーマーとカーペンターを兼ねることになり、当初の狙いであった「コスト」の低減に対する効果に顕著なものはなかったのです。
三井ホームは2×4工法オープン化と時を同じくして昭和49年に設立します。また地方でも2×4工法を導入する工務店の動きもみられるようになります。
特に北海道は明治時代に、当時バルーン工法と呼ばれた枠組壁工法による建築物があり、観光名所ともなっている「札幌時計台」が代表的な建築となっています。
2×4工法のハウスメーカー
2×4工法のハウスメーカーとしてナンバー1の実績を誇る三井ホーム。住宅建築家との提携により質の高い住宅を供給つづけています。
高級イメージが定着しており「低廉な住宅」という、当初の建設省の意図はみごとに外れてしまうわけですが、2×4工法を普及させた功績は否定できません。
引用:一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会「着工戸数の推移」
ほかには、住友不動産、三菱地所ホーム、住友林業、セルコホーム、木下工務店などもツーバイフォーメーカーとして、シェアを伸ばしています。
2×4工法が在来木造工法に与えた影響
2×4工法は在来木造軸組工法にも影響を与えています。
2×4工法のオープン化当時は、プラットフォーム工法と呼ばれていたと述べました。
プラットフォームとは2×4工法の現場作業の状態から名づけられたものです。
1階の床を先に施工して作業スペースを確保し、1階床面で壁枠の加工や組立てを行い、出来上がったパネルを立て起こして所定の位置に設置する作業手順から、「平らな床面」をプラットフォームと呼んだのでした。
床面を作ってから壁を作る手順により、思わぬ効果が生まれるのです。それが “気密性” です。
在来木造工法の特徴ともいえる “風通しの良さ” は、高温多湿の地域では快適な住宅の基本性能かもしれませんが、寒冷地ではまっさきに克服したい大きな欠点でした。
在来木造軸組により住宅供給をおこなうハウスメーカー(住友林業、東日本ハウス)は、2×4工法が生み出す気密性に着目し、在来木造でも柱を除いて床面を先に施工する方法を採用したのです。
住宅金融公庫の融資が活発になるにしたがい、公庫の定める断熱性能基準を満たし気密性の高くなった住宅は、在来木造でも可能になったのです。
こうして工業化住宅を中心としたハウスメーカー業界に、ツーバイフォーメーカーと在来木造メーカーが食い込んでいく構造が出来あがるのでした。
ツーバイフォーは地震に強い?
1995年(平成7年)阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)のさいには、「ツーバイフォー住宅は地震に強い」と話題になったことがあります。
実際に被害状況の調査からも次のような、公式発表がされています。
05) ツーバイフォー、プレハブ工法の住宅の被害は少なかった。その原因については、これらの住宅が新しいためであるとの見方もあるが、むしろ厳格な設計基準があるためとされている。
引用: 防災情報のページ - 内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害」
阪神淡路大震災の被害状況にもとづき平成12年建築基準法の改正がおこなわれ、在来木造軸組工法の耐震基準は大きく変更になっています。
このため、ツーバイフォー優位といわれた耐震性能になんら差異はなく、また在来工法はプレカットやパネル化など工場加工率が高くなっています。
工場加工率が高い傾向は2×4工法も同様で、オープン化したころのような、現場で枠組を加工する姿は少なくなりました。
住宅の品質において、工業化住宅もツーバイフォー住宅も在来木造住宅も、あまり差がない時代になっているのが現状です。そしてこれらの住宅を供給するプレーヤーは、地域に密着した工務店が中心となって育ってきました。
その陰には2×4工法の浸透・普及もあったはずです。
プレハブ住宅からスタートした日本の住宅産業は、地域に根差したハウスビルダーと全国ネットのハウスメーカーが、ともに競いあう新時代になっているのです。
参考サイト
・一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会
・国立研究開発法人 建築研究所「我国の枠組壁工法に関する技術開発研究の動き」
・三井ホーム「沿革」
・防災情報のページ - 内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害」