21世紀に入り日本の社会はこれまでとは大きな違いを見せるようになりました。
最大の要因は “人口減少” です。
人口減少がはじまると、徐々に経済活動は低下し産業が縮小していきます。
その変化が表面に顕われたのが2009年(平成21年)ころのことです。リーマンショックとも重なりました。
住宅産業にもその影響が及ぶようになり、いくつかの変化が起きてきました。
住宅産業に起きた変化
住宅産業ではフローからストックへと変化する兆候が顕われます。
・リフォームからリノベーションへと変化
・空き家の増加と空き家活用ビジネスの模索
ここでは以上3つの局面について、資料にもとづき変化の概要をおさらいします。
新築需要の減少と中古市場の拡大
日本の人口は2005年(平成17年)の国勢調査により12,729万人を数え、2010年には12,708万人と減少に転ずることになります。
人口減少は様々な局面で180度異なるトレンドが生まれるものです。住宅産業で注目すべきは新築住宅着工戸数です。
バブル崩壊直前は年間約170万戸あった着工数は、バブル崩壊により落ち込みますが、リーマンショック直前では160万戸まで持ち直していたものが、リーマンショックを境に100万戸を割り込んでしまいます。
リーマンショックと人口減の影響が重なり、新築需要の減少が顕著になったのではと考えられます。
下のグラフは政府統計(e-Stat)から引用した住宅着工数です。
引用:e-Stat「住宅着工」
2000年以降から2019年までの年間着工数を示していますが、リーマンショックの2009年以降、新設住宅着工数の落ち込みに回復傾向がみられません。
年間90万戸前後を推移していることが読みとれます。
これに対し中古住宅市場は下の「既存住宅流通シェアの推移」のとおり、2009年には13.5%→17.6%と急増します。
さらに、2010年(平成22年)政府は新成長戦略を閣議決定し、「中古住宅・リフォーム市場の倍増」を目差し、「中古住宅・リフォームトータルプラン」がまとめられ、ストック型住宅市場への転換を図るようになりました。
リフォームからリノベーションへと変化
「中古住宅・リフォームトータルプラン」は、平成20年時点で15%となった超過ストックの有効活用を図ろうとするものです。
良質な中古住宅の適切なメンテナンスと、必要に応じたリフォームにより、価格面で魅力のある中古住宅流通を活性化し、欧米の1/5~1/6程度である水準の改善を目差しています。
中古市場の整備目標として5つの目標が設定されました。
2. ライフサイクルに応じた住み替え需要への対応
3. 住宅の質向上と資産価値の維持
4. 低炭素および循環型社会の持続可能性
5. 住宅投資の活性化による内需拡大
これらの目標達成に必要と考えられるのが、中古住宅の耐久性能向上と、現在状況の正確な把握です。
そこで注目されるのが「インスペクション(住宅診断)」でした。
耐久性向上をはじめとした住宅性能維持や向上は、部分的なリフォームだけでは実現できないことも多く、広範囲におよぶ工事を必要とする場合もあります。耐震改修工事などはその典型です。
そして工事の形態として生まれてきたのが「リノベーション」なのです。
リノベーションの原型は1996年(平成8年)にスタートした、住友不動産の「新築そっくりさん」があげられます。
当時は “まるごとリフォーム” などと表現されていましたが、やがて「Re+innovation」としてリノベーションという言葉が使われるようになります。
空き家の増加と空き家活用ビジネスの模索
空き家の増加は2009年には10%を超えるようになり、現在も増加傾向に変わりはないですが、2018年(平成30年)の統計データでは若干の鈍化がみられます。
自治体が空き家対策に取り組むようになったことが影響しているのではと考えられます。
「空家等対策の推進に関する特別措置法」が2014年(平成26年)に公布され、国は増加する空き家問題の対策として、所有者に一定の義務を課すようにしました。
さらに空き家・空き地の流通を図る目的で設立したのが「空き家バンク」です。
空き家バンクは全国の自治体が独自に開設・運営するサイトと、全国版サイトとして次の2つの民間サイトが国土交通省に選定され運営されています。
・【ホームズ】空き家バンク
・【アットホーム 空き家バンク】
空き家対策として期待したいのは “空き家活用ビジネス” ですが、現在の空き家ストック状況は以下のようなものであり、活用できる物件は15%ほどです。
残る85%は利活用されずやがては解体されるか、放置される物件であり、空き家活用ビジネスに対する今後の成長を待つしかないといえるでしょう。
変化する不動産業
21世紀に入り生まれた住宅産業の変化についてみてきましたが、不動産業全体においても21世紀は大きな変化をもたらしました。
それは「J-REAT」「TMK」「GK-TK」などの “不動産証券化” です。
不動産証券化スキームにはこのほか「不動産特定共同事業」があり、次の2つのタイプがあります。
・匿名組合型
・特例事業型
個人や企業が直接投資する不動産投資と異なり、投資家は特定会社や特定共同事業者に出資し、直接不動産を所有することのない投資スタイルが不動産証券化です。
投資家は賃貸物件の賃料収入から配当を受取るのが、どのスキームにも共通した方法となっています。
大手デベロッパーも収益性の高い物件に関しては証券化を図り、不動産開発資金を調達するようになってきました。
人口減少社会は今後ますます都心集中を強め、地方においてはコンパクトシティ化が進みます。
そして不動産証券化は次図のように、特定の地域においてのみ成立するようになり、都心vs地方という二極化がすすむと考えられるのです。
引用:SMBC日興証券「J-REAT その魅力と、不動産市場の動向」
J-REATが保有する不動産は2019年12月末で19兆円に達し、東京都心5区に存在する物件が32.3%を占めています。
今後の不動産業界を見通すうえで、 “二極化” が大きなキーワードになると思われるのです。
参考サイト
・総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」
・フコク生命「わが国の住宅ストックの現状」
・国土交通省「空き家等の現状について」
・国土交通省「中古住宅・リフォームトータルプランについて」
・国土交通省「住宅履歴情報とは」
・一般社団法人住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会「いえかるて」
・JIO「りれきJIO's(住宅履歴情報サービス)」
・国土交通省「不動産証券化」