ハザードマップの説明が2020年8月から義務化されました。
このことは単に重要事項説明において、説明項目が増えたことを意味するものではありません。
宅地建物取引業法は無免許業者の排除と宅建業者の育成を図るものでしたが、制定以来70年近くを経て今日、宅建業者に対し、より社会的責任を担う重要な役割を与えたといえるでしょう。
2018年には「インスペクション制度」についての説明を義務づけ、建築ストック活用を図るうえでの流通面で “不動産仲介業” から脱皮した役割を担うよう求めました。
そしてハザードマップ説明義務づけは、防災対策の一端を宅建業者が担っていることを表わしたともいえるのです。
不動産取引とハザードマップ
国土交通省は不動産取引時において、宅地建物取引士がおこなう重要事項説明で、売買・賃貸にかかわらず水害ハザードマップ上の対象物件について説明することを義務づけました。
具体的には2020年7月17日、宅地建物取引業法施行規則の一部改正が公布され、8月28日施行が決定しました。
施行規則改正までの経緯は以下のとおりです。
2. 2019年(令和元年)7月26日、国土交通省は不動産関連団体に対し、宅地建物取引業者が取引のさいには、相手方に対し市町村が作成する水害ハザードマップを提示し、対象物件の位置を情報提供するよう依頼
3. 2020年(令和2年)1月27日、赤羽国土交通大臣は衆議院予算委員会にて、不動産取引のさいに水害リスクに関する説明を義務化する方向で検討していることを表明
後述の年表からわかるように、2011年以降 “〇〇年に一度” といわれる豪雨被害が、全国のどこかで必ず起きる状態がつづいているわけです。自然災害の想定に役立つ「ハザードマップ」は、26年前に作成することが推奨されていました。
以来、全国の自治体ではハザードマップの整備を進めてきたのですが、その成果が活かされることもなく、大きな被害を受けるケースが増えています。
ようやく法律の枠組みに入れられるようになったことは、有意義なことといえるのですが「なぜ? もっと早く」との思いも感じてしまいます。
不動産は移動することのできない財産です。そのため自然環境による影響を受け、不動産の所在する地域によっては、利活用にあたり防災対策が必要になり、資産価値を上下させることもあり得ます。
温暖化など地球環境の変化によるものか、もともとこのように変化するのが当然であったのか、いずれにしても “現代” に生きる人類にとって「災害リスクコントロール」は重要なテーマになっています。
土地利用を考えるうえでの災害リスク評価は取得時が大きな機会であり、利用年数が経過するにしたがい忘れてしまいがちです。
そのような意味で不動産の取引時に、仲介業者がハザードマップを提示し説明することは、当然の業務であったといえるのです。
最近の水害発生状況
ハザードマップ作成が推進されるようになったのは、1993年(平成5年)の鹿児島大水害です。
それ以降の主な水害と土砂災害を年表にしたものが下です。
1993年 | 平成5 | 8月6日 | 鹿児島大水害 | 鹿児島市内中心部で氾濫 |
1999年 | 平成11 | 6月29日 | 西日本豪雨 | 広島市・呉市でがけ崩れや川に流され31人が死亡、行方不明1名、福岡市では地下街で1名の死亡 |
2000年 | 平成12 | 9月12日 | 東海豪雨 | 愛知県中心に7万5千戸が浸水、10名が死亡 |
2004年 | 平成16 | 10月20日 | 台風23号 | 西日本の広い範囲で被害、死者・行方不明98名 |
2011年 | 平成23 | 9月4日 | 紀伊半島大水害 | 紀伊半島中心に被害、死者・行方不明98名 |
2013年 | 平成25 | 10月16日 | 伊豆半島土石流 | 台風26号による豪雨により伊豆半島で土石流が発生、死者・行方不明39名 |
2014年 | 平成26 | 8月20日 | 広島土砂災害 | 広島市内で土石流・がけ崩れが発生、74名が死亡 |
2015年 | 平成27 | 9月9日 | 関東・東北豪雨 | 関東・東北地方で記録的な大雨となり8名が死亡 |
2017年 | 平成29 | 7月5日 | 九州北部豪雨 | 九州北部で記録的な大雨が降り、死者・行方不明43名 |
2018年 | 平成30 | 6月28日 | 平成30年7月豪雨 | 台風7号により10日間の総降水量が平均月間降水量の4倍に達する地域もあり、死者・行方不明232名 |
2019年 | 令和元年 | 10月10日 | 令和元年東日本台風(19号) | 災害救助法適用自治体が14都県390市区町村に及ぶ大規模な災害となり、死者・行方不明94名 |
出典:朝日新聞デジタル「18章 平成-風水害-ビジュアル年表(戦後70年)」 、気象庁「災害をもたらした気象事例」
中でも2019年の被害では、川崎市武蔵小杉のタワーマンション地下借室電気室を水没させ、大きな話題にもなりました。
異常気象ともいわれる現象が毎年のように発生し、住民のハザードマップ周知が喫緊のことと認識されるようになっています。
自治体が取り組むハザードマップの整備
現在ではほとんどの自治体が整備するハザードマップは、1994年(平成6年)に国土交通省が「「洪水ハザードマップ作成要領」の策定からスタートしました。
そのご2001年(平成13年)6月に「水防法」が改正され、「浸水想定区域制度」が創設されています。
その前年には「洪水ハザードマップ作成要領の解説と運用」が作成され、国土交通省は全国の河川管理者(国及び都道府県)にハザードマップ作成の推進を図っています。
さらに2005年(平成17年)5月にも水防法が改正され、6月には「洪水ハザードマップ作成の手引き」を作成しました。
ハザードマップには洪水以外にも、内水、高潮・津波のハザードマップがありましたが、避難行動に活かされることはなく、2016年(平成28年)に至り、洪水、内水、高潮・津波のハザードマップを統合し、「水害ハザードマップ」として作成を推進するようになりました。
たびたびのハザードマップ作成に関わる法改正や、作成要領の改善が図られてきましたが、より利便性の向上を目的に各自治体のハザードマップは、現在「ハザードマップポータルサイト」に情報が統合され、ひとつのサイトから読むことが可能になっています。
不動産取引にかかわる人も含めて、すべての人にとってハザードマップは身近なものになりました。
変化する不動産取引ルール
「津波防災地域づくりに関する法律」は、津波被害が発生した東日本大震災から9ヶ月後の12月27日に施行され、同日宅建業法施行規則も改正し津波警戒区域の説明が追加されました。
つづいて翌年6月13日には津波災害特別警戒区域も追加されます。
このたびのハザードマップ説明義務化に比較し、津波被害への対応の早さは印象的でした。
想定できなかった未曽有の被害を目の当たりにし、津波警戒に役立つツールの普及・周知の早急な徹底が必要と考えられたのでしょう。
さて、水害ハザードマップが追加されたことにより、以下の災害リスクへの備えを不動産取引において注意喚起することが可能になりました。
・津波災害警戒区域
・浸水想定区域
これらに加え活断層や火山など、今後も重要事項説明において加えられる可能性のあるハザードマップがまだあり、自然災害の多い我が国ならではの不動産取引ルールが作られていくと思われます。
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参考サイト
・国土交通省「水害ハザードマップ作成の手引き」
・J-Stage「災害リスクと土地利用コントロール」