建築基準法が改正され「新耐震基準」となる

1978年(昭和53年)6月12日午後5時14分頃、宮城県で大きな地震がおきました。
マグニチュード7.4、死者27人、負傷者10,962人、住宅被害132,870棟(内 全壊1,377棟)と大きな被害があったのです。

出典:宮城県「宮城県沖地震の概要」

1950年(昭和25年)に制定された「建築基準法」は、宮城沖地震による被害状況から、建物が備えるべき耐震性能の見直しを迫られることになりました。

耐震基準改正の経緯

昭和25年制定の建築基準法は、「震度5強程度の中規模地震でほとんど損傷しない強度」を設定したものでした。宮城沖地震は震度5だったのですが、多くの被害が発生し1,377棟もの全壊被害は深刻なものだったのです。

建築基準法,耐震

引用:国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」

耐震基準の改正により、「震度6強~7の大規模な地震により倒壊や崩壊しない強度」を新たに設定し、地震被害を低減する耐震性能の向上をおこないました。

注意したいのは「震度5強程度で損傷しない」から「震度6強~7で倒壊や崩壊しない」と変わったことで、『震度6強~7で損傷しない』ではないところです。

強度そのものをアップさせたというよりは、構造上の性能をより高度に解析することにより、震度6強~7で倒壊や崩壊を防ぎ、避難を容易にして人命を助けることに重点がおかれました。

その結果、耐震要素となる耐力壁などに使われる部材の強度や耐力壁量が増加し、より高い強度を保有するようになったのです。

改正した建築基準法の施行は1981年(昭和56年)6月1日におこなわれ、現在でもこの日以降の耐震基準を “新耐震基準” と呼び、それ以前の基準を “旧耐震基準” といいます。

宮城県沖地震までに発生した地震

昭和25年から昭和53年6月の宮城県沖地震まで過去に発生した地震のうち、震度5弱以上の地震でデータが明確なものが45回あります。

このなかからマグニチュード7.4以上の地震を抽出すると9回あります。

地震名 年月日 震源地 マグニチュード 震度
十勝沖地震 昭和2734 十勝沖 8.2 5
房総沖地震 昭和281126 関東東方沖 7.4 5
択捉島沖地震 昭和33117 択捉島南東沖 8.1 5
新潟地震 昭和39616 新潟県下越沖 7.5 5
日向灘地震 昭和4341 日向灘 7.5 5
十勝沖地震(三陸沖北部地震) 昭和43516 青森県東方沖 7.9 5
同上余震 昭和43516 青森県東方沖 7.5 5
根室半島沖地震 昭和48617 根室半島南東沖 7.4 5
宮城沖地震 昭和53612 宮城県沖 7.4 5

出典:気象庁「震度データベース検索」

いずれも海溝型地震であり都市部に被害があったと考えられるのは、昭和39年の新潟地震というまでもなく昭和53年の宮城沖地震でした。

新潟地震は地震動の被害よりも液状化による被害が大きく、耐震性能よりも地盤の問題がクローズアップされたのでしょう。そのため耐震基準の見直しは宮城沖地震によっておこなわれることになったのです。

耐震診断と耐震補強

南海トラフ地震や首都直下地震など巨大地震の発生が予想され、政府は “建物の耐震化” を呼び掛けていることはご存じのとおりです。

建物の耐震化を積極的に進める根拠は、1995年(平成7年)1月17日に発生した兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)により多くの建物被害があり、同年12月に制定された「建築物の耐震改修の促進に関する法律」にもとづくものです。

平成25年時点での耐震化率は次の図のような結果です。

建築基準法,耐震

引用:国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」

耐震化とは耐震診断により現況の建物を調査し、耐震性能が不足している場合には「耐震改修工事」をおこなうことですが、費用がかかることと旧耐震基準の建物には空き家もあり、耐震化率100%は望めないことと考えられます。

耐震診断が必要とされる建物は旧耐震基準により建築された建物で、一般的には昭和56年5月31日以前に着工した建物とされていますが、正確には『昭和56年5月31日までに建築確認済証が発行された建物』をいいます。

建築確認済年月日から着工するまでの期間に制限はなく、旧耐震基準で確認された建物が昭和57年以降に着工しているケースもあり、昭和56年6月1日以降に着工したものは新耐震基準であると、必ずしもいえないので注意が必要です。

また、新耐震基準で建築されたものであっても、平成12年6月改正前の建物や劣化が進んでいる建物は、耐震診断をおこなうことが望ましいのはいうまでもありません。

耐震基準に適合することを証明する書類

旧耐震か新耐震かという建物の区分は、宅地建物取引業においても大きな影響があります。

1. 重要事項説明における既存建物の維持保全と耐震診断
2. 住宅ローン減税
3. 不動産取得税の軽減

などにおいて昭和56年5月31日以前か否か、あるいは新耐震基準に適合していることの証明の有無により、説明の義務があったり減税措置が適用されないなどのことがあります。

新耐震基準に適合する証明については、昭和56年6月改正時点の耐震基準ではなく、「現行基準」に適合するかを検証します。そのため昭和56年6月1日以降の新耐震基準により建築された建物であっても、現行基準に適合していないケースもあることには注意しなければなりません。

特に平成12年6月改正前に建った新耐震基準の建物は、耐震診断をおこなうと「倒壊可能性あり」と判定される可能性が高いのです。

住友不動産の「新築そっくりさん」

住友不動産が住宅の建替えに代わる商品として「新築そっくりさん」を開発したのは、1996年(平成8年)のことです。

阪神淡路大震災の大きな被害は、旧耐震基準の建物に集中していました。

耐震基準の違いで建物の耐震性能に大きな違いがあることを目の当たりにし、耐震改修工事を標準としておこなうリフォーム工事をはじめます。新築そっくりさんは詳細見積りを提出せず「完全定価制」により、追加工事のない “まるごとリフォーム” 方式が大きな特徴でした。

「そっくりさん」という印象に残るネーミングは、建替え需要層に浸透し驚異的な受注実績を残すのでした。

建築基準法,耐震

引用:リフォーム産業新聞「住友不動産、「新築そっくりさん」の受注が10万棟に」

「まるごとリフォーム」のビジネスモデルはリフォーム業界にも影響を与え、同様の商品を発表するリフォーム業者がつぎつぎと表われます。

しかし、新築そっくりさんのように耐震改修工事を標準仕様にすることはなく、住友不動産の “耐震化率” 向上に貢献しようとする企業姿勢は特筆しておかねばなりません。

そして、新築そっくりさんが生まれるキッカケともなった兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)により、新耐震基準は平成12年にさらに改正されるのでした。

参考サイト

国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
・国土交通省「耐震改修促進法における規制対象一覧」
一般財団法人 日本耐震診断協会「義務化される「耐震診断」について」

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