老朽化した賃貸物件の再生方法~リノベーションと建替の選択

賃貸物件のなかには築年数が古く、現状のままでは転売できないものもあります。

すべて空室であれば解体し更地として売却することもできますが、入居中の場合は退去させてまで解体することもできません。

このような老朽化のすすんだ物件の再生方法を考えるにあたって、管理会社として知っておきたい基本的なことを解説します。

賃貸物件の再生計画が生まれるシチュエーション

管理会社が賃貸物件の再生計画に取り組む場合、どのようなことがキッカケとなるのでしょうか?

次のシチュエーションが考えられます。

1. 管理物件のなかに老朽化した物件があり、オーナーから再生方法の検討を依頼される
2. 営業エリアにある他社管理の物件を再生し管理物件として取り込む

管理会社にとっては「再生プロジェクト企画」という、新しいビジネスジャンルを確立するチャンスであり、管理物件の確保にもつながる重要な仕事になるのではないでしょうか。

再生プロジェクト企画をまとめあげるスキルとして、次のような知識や能力が必要とされます。

・マーケット分析力
・物件の現状調査
・改良点の抽出
・法的適合調査
・建物改修計画の立案

これらは賃貸管理に携わる人材だけのスキルでは、対応できないことはもちろんです。

マーケットアナリスト・建築士・コンサルタントなどとの協働が欠かせません。

プロジェクト着手にあたっては、オーナーの強い意欲と、プレゼンテーションに対する正しい評価が為されることが必要です。

事前に協議を深めオーナーの理解を得てすすめることが大切です。

老朽化した賃貸物件のリノベーション

老朽化した物件をどのように再生するか、対象となる要素や性能と求められるニーズをまとめると次のようになります。

要素・性能 ニーズ
耐震性能 現行耐震基準に適合
室内環境 現行基準に適合
省エネルギー 高い断熱性能
間取り エリア需要にマッチ
外部デザイン メンテナンスにしやすさ
内部デザイン 更新のしやすさ

建物のハードは上記のように、ニーズに対応できるプランニングが必要ですが、重要なポイントは再生費用を回収するための賃料設定と賃料相場のマッチングです。

例えば間取りについて、最近は2DKよりも広めの1LDKが人気となるなど、部屋数よりも広さを求める傾向があります。

しかし2DKと1LDKとでは賃料相場が異なり、同一賃料に設定すると割高に感じられることは否めません。

つまり再生計画の是非は最終的に、市場にマッチした賃料設定が可能であることが条件となるのです。

建築確認申請が不要な場合

老朽化物件の再生にあたっては、建築基準法上の「建築確認」の必要性をチェックし、必要な場合は着工前に確認申請をおこなわなければなりません。

確認申請をおこなうと、建築予定の建築物の法的適合性を建築主事が確認し、承認されると工事に着手することができます。

リノベーションは建築基準法で定める「大規模の修繕若しくは大規模の模様替」に該当し、確認申請が必要な建築物は次のように定められています。

特殊建築物 200㎡超
木造建物 3階以上
500㎡超
高さ13m超
軒高9m超
木造以外 2階以上
200㎡超

アパートは「特殊建築物」に該当し、200㎡を超えると確認申請が必要になります。

200㎡は約60坪ですので、広めのワンルーム10戸程度のアパートが相当します。逆に200㎡以下であれば確認申請は不要になります。

大規模の修繕若しくは大規模の模様替とは

200㎡を超えても「大規模の修繕若しくは大規模の模様替」に該当しない場合は、確認申請は不要です。

では「大規模の修繕若しくは大規模の模様替」とは何かが問題となります。

建築基準法では「大規模の修繕や模様替」を、建築物の主要構造部の一種以上について過半の修繕や模様替をおこなうことと定義しています。

ポイントは次の2つです。

1. 主要構造部の修繕や模様替えである
2. 工事の種類が主要構造部の一種以上で範囲が過半である

たとえば柱が全部で100本あれば、51本を修繕する工事が該当するわけです。

逆にいうと50本までの修繕であれば該当しないと解釈できるのですが、判断は特定行政庁がするので単純ではありません。

確認申請の要不要は、事前に相談確認することが望ましいです。

建築確認申請が必要な場合

確認申請が必要な場合には、確認済証の交付後に着工します。

そして工事が完了すると完了検査を受けたのち、建物の使用が可能になります。

原則的に完了検査を受け合格するまでは使用できません。そこで問題となるのが、入居者がいる場合です。

工事中は使用できないとなると入居者は一時退去しなければならず、仮住まいや引っ越しなどの対応を考えなければなりません。

居住中の住戸も当然ですが工事範囲となるので、生活はむずかしくなります。

そこで一時的に他の住戸に移ってもらい工事が終わったら、本来の住戸に戻るような方法をとることができます。

確認を受けて工事中の建物は完了検査に合格するまでは、使用できないのは先述のとおりですが、仮使用承認制度を使うと工事中であっても一部を使用することが可能です。

仮使用承認制度とは、安全上、防火上および避難上支障がないと認められたときは、建物の使用ができる制度です。

着工前に仮使用承認制度により使用が可能かどうかを確認し、可能であれば入居者の住戸を一時的に変更するなどにより、居住しながら工事をすすめることができます。

建替えを選択することが望ましいケース

リノベーションではなく建替えを選択するケースもあるでしょう。

たとえば次のような条件の場合は建替えのほうが望ましいこともあります。

・立地条件がよく新規で土地を取得するには土地代が高過ぎる
・住戸割りや配置が大きく変わり、構造ブロックを変更しなければならない
・地盤補強工事が必要で建替えが合理的
・既存の躯体や基礎の耐久性が限界
・居住中の入居者が再入居を望んでおり建替えに協力的

リノベーションは構造躯体をそのまま活用するのが基本ですが、その為には丁寧な解体作業が必要となり、建替えとほとんど工事費が変わらないケースもあります。

基礎コンクリートや構造躯体の物理的な耐用年数が懸念される場合もあり、リノベーションか建替えかは慎重に判断することが大切です。

建替えは既存の建物を解体し新たな建物を建てるのですが、都市計画法や建築基準法の規制に適合させるため、場合によっては面積が少なくなるなどこれまでの規模を維持できないこともあります。

建替え計画ではまずこれらの法的チェックをしなければなりません。

そのうえで事業計画を立案するプロセスに移りますが、企画段階から管理会社が計画に参加することが望ましいことはいうまでもありません。

まとめ

老朽化物件の再生に管理会社が積極的に関わることが求められます。

プロパティマネジメントを意識した場合、賃貸物件再生のノウハウは他社との差別化を図る強力な武器にもなります。

オーナーには頼りになる存在として認識されるでしょうし、“受け身” になりがちな賃貸管理業界においては、積極的に物件を開拓し業態を拡大させる姿勢も大切なことです。

ひとつふたつと経験を積むことにより、スタッフのスキルも磨かれ物件再生を得意分野にすることも可能です。

機会をとらえてチャレンジしてみてください。

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