
地方を車で走っていると、高度経済成長期に大量供給された土地が売れ残ったまま放置されている光景を良く見かけます。
また都市部でも、バブル期に生じた虫食い状の空き地を目にすることがあります。
これらの土地は、人口減少等による土地需要の低下によって管理不全土地と化しているケースも多く、国土交通省はこのような低未利用地に関する課題を検証し、必要な方策を検討することを目的として2023年に「土地政策研究会」を設けました。
研究会では土地の利活用や管理、他の用途・地目への転換等が必要と考えられる土地を「空き地等」と定義し、現状の課題や対策の方向性、具体的施策について検討を行い、その内容を2024年6月に中間とりまとめとして公表し、さらに2026年4月には「空き地の適正管理及び利活用に関するガイドライン」が公開されました。
不動産業者であれば確実に目を通して理解を深めておきたいガイドラインですが、驚くほど認知率が低いようです。
しかし、このガイドラインは単なる行政資料ではありません。
むしろ今後の土地市場の変化を読み解き、取引の活性化を促すための指針として極めて重要な示唆を含んでいます。
本稿ではなぜ低未利用地対策が重要なのか、その原因を紐解くと同時にガイドラインの解説を行い、顧客に対して販売や利活用・転用などを提案するために必要な知見を提供します。
現在の状況
日本は人口減少と高齢化が同時に進行しています。
総務省の人口推計によれば、日本の総人口は2008年をピークに減少局面に入り、今後も長期的な縮小が続くと見込まれています。
国立社会保障・人口問題研究所は2070年に日本の総人口が9,000万人を割り込むと推計していますが、試算に用いた合計特殊出生率の低下は近年予想を上回り、人口減少率と高齢化率の進行速度は更に早まる可能性が指摘されています。

人口減少は住宅需要の減少に直結します。しかしその一方で、土地供給は過去の開発ストックとして大量に残っています。
高度経済成長期には宅地造成が各地で進み、郊外のニュータウンや別荘地が数多く開発されました。
さらに1980年代のバブル期には、将来的な値上がりを期待した投機的な土地取得も広く行われたのです。
しかし、その多くは当初想定された需要を満たすことなく現在に至っています。
特に地方部では、分譲地が未販売のまま残ったり、所有者が遠方に住んでいるため管理が行き届かない土地も少なくないのです。
これは都市部も例外ではありません。
再開発の遅れや権利調整の難航によって、住宅地の中に虫食い状態の空き地が長年放置されているケースが見受けられます。
こうした空き地の存在は景観の悪化だけでなく、防災や防犯、衛生面のリスクを生むこともあるのです。
さらに近年では、相続を契機として「所有はしているが利用する予定のない土地」いわゆる未利用地が増加しています。
遠方に住む相続人が管理を行えず、結果として草木が繁茂し、近隣住民とのトラブルが生じているケースは珍しくありません。
このように、空き地問題は単なる土地利用の問題にとどまらず、地域社会に影響を及ぼす課題となりつつあります。
利用する予定がないのなら売却すれば良いと思われるかも知れませんが、利便性の高い都市部の土地ならいざしらず、立地条件に恵まれない土地の場合には購入検討者を見つけること自体が困難です。
一般消費者が土地を購入する理由の多くは建物を建築するためですが、現在の住宅ストック数(約6,200万戸)は総世帯数(約5,400万戸)を16%上回っており、量的にはすでに充足されているのです。
にもかかわらず新築住宅は建築され続けストック数は増加を続けている状態です。

加えて資材価格や人件費の価格上昇により建築費が高騰している現在では、注文建築の受注も低迷しており、業者としてもリスクの高い建売建築用地としての取得も慎重にならざるを得ません。
取引されるのは公共交通機関やスーパーが近いなど、利便性が確保される物件、あるいは相場より著しく低い価格の土地に限られる傾向があります。
実際、地方自治体の現場では、管理不全土地に関する相談や苦情が年々増加しています。
しかし、土地の所有権は私人に帰属するため、行政が介入できる範囲には限界があります。
所有者の特定が困難であったり、所有者に管理能力がない場合には問題解決も困難です。
「土地政策研究会」は、このような負の連鎖を断ち切り土地取引の円滑化や利活用を促進するため設置されたのです。
そして、その成果の一つとしてまとめられたのが「空き地の適正管理及び利活用に関するガイドライン」です。
ガイドラインは、空き地問題を単に「管理すべき問題」として捉えるのではなく、地域資源として再活用していく視点を提示している点に特徴があります。
言い換えれば、空き地を「負の資産」として放置するのではなく、必要に応じて新たな用途へと転換していくという考え方です。
そして、取引実務や所有者からの相談業務の最前線に立つのが、私たち不動産業者です。
所有者と地域、行政をつなぐ役割を担う不動産業者にとってガイドラインの理解を深めることは、極めて重要だと言えるのです。
ガイドラインにおける「空き地等」の定義と基本的な考え方
国土交通省が公表した「空き地の適正管理及び利活用に関するガイドライン」は、どのような考え方に基づいて整理されているのでしょうか。
まず重要なのは、本ガイドラインにおける「空き地等」の定義です。
ガイドラインでは「空き地等」を、『現に何らの用途としても利用されていない、又は放置されている土地で、その利活用や管理、又は他の用途・地目への転換等が必要と考えられる土地』と定義しています。
注目すべきは、単に「利用されていない土地」に限定していない点です。
例えば更地のまま長期間放置されている土地のみならず、暫定的に駐車場や資材置場として利用されている土地であっても、地域性や土地利用の観点から改善の余地があると判断される場合は「空き地等」にあたるとしているのです。
つまりガイドラインは、土地の利用状況のみを根拠として二元的に判断するのではなく、地域全体の土地利用効率や将来的な活用可能性まで含めて広く検討する枠組みとして「空き地等」という概念を設定しているのです。
このような整理が行われた背景には、日本の土地利用構造の変化があります。
高度経済成長期からバブル期にかけて、日本では都市の拡大を前提とした土地利用が進められてきました。
特にバブル期は「一億総不動産屋」といった言葉が生まれ、不動産業者の中には「東京全体の土地でアメリカが買える」と豪語する方もいたほどです。
このような時代背景もあり、日本では都市の拡大を前提とした土地利用が進められてきました。
そして、都心部の土地価格高騰の影響もあり宅地開発の主軸は郊外へと拡大し、人口増加と経済成長を背景に住宅地や商業地が次々に供給されたのです。
しかし現在は、人口減少社会へと移行しています。
すべての土地を従来と同じ用途で利用し続けることが難しくなりつつあるのです。
例えば住宅用地として分譲された土地であっても、周辺人口の減少により住宅需要が低下している地域では、従来どおりの用途では活用が進まないケースがあります。
そのため、土地の用途を柔軟に見直す視点が求められるのです。
ガイドラインでは、こうした状況を踏まえつつ空き地対策を大きく三つの視点から整理しています。
1. 適正管理
空き地が放置されることにより、雑草の繁茂、不法投棄、環境悪化、害虫の発生などさまざまな問題が発生します。
そのため、まずは土地所有者が適切な管理を行うことが基本とされています。

2. 利活用の促進
空き地をそのまま放置するのではなく、地域の実情に応じてさまざまな用途で活用することが重要とされています。
例えば、何らかの使い途を見いだせる余地がある隣地所有者や地域の活動団体への譲渡や貸与、地域の広場やコミュニティスペース、暫定的な駐車場として活用するといった方法です。
3. 用途転換
住宅用地を農園、菜園、緑地、広場等へ転換するなど、柔軟な発想で検討することが大切です。
これにより、管理不全による外部不経済の発生防止や地域における土地の有効活用を同時に実現することにつながり、土地所有者と地域住民の双方にとって持続可能で有益な取組となるでしょう。
このようにガイドラインでは、空き地問題を単なる「管理の問題」とは捉えず、地域に存在する未利用地のストックをどのように活用するかという、より広い土地政策の視点から整理しているのです。
これを実現するために重要なのが「役割分担」です。
国は国土利用・管理に関する政策の方向を示すと同時に法的根拠の整備、予算措置、広報活動などを推進し、地方公共団体はそれらの基本理念にのっとり、適正な土地利用や管理を確保するための措置や、地域住民など土地所有者以外の者による利用や管理を補完する取組を推進するための措置を行います。
そして、土地所有者に対して利活用や管理に関する具体的な提言を行うのは、一定の専門知識やノウハウを有する専門家、つまり私たち不動産業者や専門士業なのです。
実務で見られる空き地の主な類型
ここまで見てきたように、ガイドラインでは空き地問題を地域の土地利用全体の中で捉える必要性が指摘されています。
しかし実務の現場においては「空き地」と一口にいっても、その発生要因や状況はさまざまです。
不動産業者に持ち込まれる相談ケースを見ても、背景には土地市場の変化、相続問題、都市計画法上の事情、中には原野商法による被害など、複数の要因が複雑に絡み合っています。
ここでは実務上よく見られる空き地の代表的な類型を整理してみましょう。
1. 売れ残り分譲地
地方部でよく見られるのが、高度経済成長期やバブル期に造成された分譲地の売れ残りです。
しかし、一見売れ残っているように見えても登記情報を確認すると、個人に所有権が移転されているケースも珍しくありません。
これは「土地価格が下がることはない」との神話が浸透し、日本中が開発ラッシュに湧き、野放図な乱開発や取引が繰り返された名残です。
言い換えれば、実需ではなく投機目的で売り買いされた名残とも言えるでしょう。
こうした土地は開発から長い年月が経過しているため周辺インフラの老朽化や立地条件の問題があり、さらに乱開発された地域では、公図上道路とされていても、実際には宅地と一体化して区分されておらず建物を建築できないといった土地も存在するのです。

このような土地は売却を希望しても買い手が見つからず、管理もされないまま空き地として放置されるのです。
2. 都市部の虫食い状空き地
都市部においても「虫食い状」の空き地が問題になることがあります。
都市部なら需要もあり転売できそうなものですが、権利関係の調整が難航したり、土地所有者の意向が一致せず処分できないといったケースです。
このような空き地は面積が小さいことも多く、単独での利用が難しい場合もあります。
そのため隣接地との一体利用や土地交換、共同開発など複数の権利者を巻き込んだ調整を余儀なくされる場合も少なくありません。
交渉力はもとより利害関係人をまとめる高度な調整力が必要とされる難易度の高い案件です。
3. 相続を契機に生じる空き地
近年増加しているのが、相続を契機として生じる空き地です。
住宅が建築されていた土地でも、相続後に建物が解体されて更地となっているケースがあります。
相続人が遠方に居住している場合や土地の利用計画が定まっていない場合には、管理が行き届かないまま放置されてしまいます。
さらに、複数の相続人による共有状態となった土地では売却や利活用の意思決定が難しくなることが多く、その結果利用がされないまま時間が経過して、管理不全土地へと移行してしまうことがあるのです。
4. 建物解体後に放置された土地
空き家対策の一環として建物を解体したものの、その後の土地利用が決まらないまま更地として残るケースがあります。
建物が老朽化している場合、所有者は維持管理の負担や安全面の問題から解体を選択することがあります。
しかし解体後に土地を売却しようとしても、立地条件や市場環境によっては買い手が見つからず、管理不全土地として放置されるケースがあるのです。
5. 需要の低下により「負動産化」した土地
近年注目されているのが、いわゆる「負動産化」した土地です。
負動産との用語は造語ですが、2017年から2018年にかけて朝日新聞で連載された「負動産時代」との記事(後に書籍化)によって、広く認知されるようになったと言われています。
売却をしようにも市場の需要がほとんどないため買い手も見つからず、固定資産税や管理手間・費用だけがかかる不動産を指した言葉で、郊外の別荘地や山林、アクセスの悪い宅地などが典型例として挙げられます。
こうした土地は税負担や管理手間が必要とされる一方で、資産としての価値を発揮しにくいという特徴があり、相続人は取得を望まず将来的に所有者不明土地の増加につながる危険性があります。
このように、空き地となっている土地の背景にはさまざまな事情が存在します。
単に「利用されていない土地」という視点からでは、問題の本質を捉えることはできません。
重要なのは、それぞれの土地がどのような経緯で空き地となったのかを把握し、その状況に応じた対応策を検討することです。
状況によっては、売却や賃貸転用といった取引主体の従来型対応だけでなく、地域利用や暫定活用、用途転換などの選択肢を検討する必要があるのです。
このうち、特に民間の活用事例については行政が公開している取組事例や国・都道府県・市町村・地域がそれぞれ策定した「管理構想」の理解を深めることでさまざまな対策案が検討できます。

このような知見を得るためにも、国土交通省が示した「空き地の適正管理及び利活用に関するガイドライン」の理解を深めていく必要があるのです。
不動産業者が提案できる実務対応
ここまで見てきたように、空き地問題は単に土地が利用されていないというだけでなく、人口減少や土地需要の変化、相続問題など複数の要因が折り重なって生じています。
そのため、解決策も一律ではなく、土地の状況や所有者の意向、地域の特性に応じてそれぞれ検討する必要があります。
こうした場面において重要な役割を担うのが、私たち不動産業者です。
土地所有者の多くは、売却や転用以外の解決方法について十分な知識を持っているわけではありません。
むしろ「所有しているが活用方法が分からない」「売却したいが買い手が見つからない」といった悩みを抱えているのです。
したがって、不動産業者は売却の仲介にばかり目を向けるのではなく、複数の選択肢を提示して解決策を見いだすことが重要となるのです。
ここでは、実務の現場で検討されることの多い対応策をいくつか整理してみます。
1. 売却の促進
最も基本的かつ簡単な解決方法が売却です。
特に相続によって取得した土地については、所有者自身が利用する予定もなく管理が困難な場合には売却が最適解となります。
ですが、前章でも触れたように、すべての土地が容易に売却できるわけではありません。
レインズでも登録から数年間、価格改定もされず更新だけが行われ、売れ残ったままの土地が豊富に検索できます。
このような事態を防ぐためには、周辺の取引事例や地域の需要動向を踏まえた適切な価格設定と同時に、隣地所有者への提案や、複数区画の一体利用を前提とした売却方法を模索するなど、柔軟な販売方法を検討することが重要です。
2. 賃貸や暫定利用の提案
売却が難しい土地であっても、一定の需要が見込める場合には賃貸や暫定利用という選択肢があります。
手近なところなら月極駐車場や資材置場、トランクルーム用地などへの転用ですが、それ以外にも地域イベントの会場やコミュニティスペースとしての利用など、地域活動と連携した活用方法が見いだせる場合もあります。

3. 隣接地との一体利用
空き地の中には面積が小さく、単独では有効活用が難しい土地もあります。そのような場合には、隣接地との一体利用によって活路が見いだせる場合があります。その場合は隣地所有者に対して敷地の拡張や利用効率の向上を説明したうえで、土地の取得や賃貸を提案するのです。このような提案業務は、地域の土地利用の合理化に寄与する取組と言えるでしょう。
4. 用途転換の提案
住宅用地としての需要が低い地域では、従来の用途にこだわらず土地利用そのものを見直すことも重要です。
例えば、小規模な農園や市民農園、緑地、広場として活用するなどの方法が考えられます。
また、地域の状況によっては、太陽光発電設備の設置や資材置場としての利用など住宅用地以外の活用方法が検討できる場合もあるでしょう。
大切なのは、地域のニーズを入念に調査したうえで、エリアの需要に即した用途転換を検討することです。
5. 管理業務の受託
空き地をすぐに利活用できない場合でも、適切な管理を行うのは所有者の義務です。
雑草の繁茂や不法投棄を防止するのはもちろん、敷地内に経年劣化したブロック塀などが存在する場合には歩行者に被害を与えることがないよう適切な対応は不可欠です。
それを実現するには定期的な巡回や草刈りなどの管理作業は必須ですが、遠方に住んでいる所有者にとってこうした管理を自ら行うのは容易なことではありません。
そのため、不動産業者が管理業務を受託するという形で関与することも必要です。
特に相続人間の意見調整が難航していることが利活用の足枷となっているケースでは、管理業務を通じて所有者との関係を築くことで、将来的な売却や利活用の相談につながる可能性が高まります。
このように、人口減少社会においては土地市場がこれまでとは異なる局面を迎えていることを前提に考える必要があるのです。
従来のように土地需要が継続的に拡大するとの前提はすでに崩壊しており、地域によってはさらに空き地や空家が増加する傾向が加速する可能性もあるのです。
そのような状況の中で、不動産業者は単なる仲介業者としての役割だけでなく、土地の利活用や管理に関する提案を行う「土地活用のコーディネーター」としての役割が、今後さらに求められるようになるでしょう。
国土交通省が示したガイドラインも、こうした役割の重要性を示唆していると言えるのです。
空き地問題への対応は地域社会の課題であると同時に、不動産業界にとって新たなビジネス機会にもなり得ます。
土地所有者や地域社会のニーズを的確に把握し、柔軟な提案を行えるだけの知見とスキルが、これからの不動産実務においてますます重要性を増していくのです。
まとめ
本稿では、国土交通省のガイドラインを手がかりとして、空き地問題の背景と実務で見られる主な類型、そして不動産業者が提案できる対応策について整理してきました。
空き地問題は単なる土地利用の問題ではなく、人口減少や相続、地域経済の変化など、さまざまな社会的要因が重なって生じる複合的な課題です。
ガイドラインを理解しておくことは、空き地問題への対応力を高めるだけでなく、売却が難しい土地の相談案件をビジネスへと転換するための重要な知識とも言えるでしょう。
不動産業者は今後、従来型の仲介業務にとどまらず、土地の利活用や管理、地域との調整役を担うなど、幅広い知見と提案力が求められるように変化していきます。
空き地の発生経緯や地域の実情を丁寧に読み取り、所有者と地域双方にとって最適な解決策を提案していく姿勢こそが、これからの不動産実務者にとって重要となっていくのです。



