【無断駐車の対応は慎重に】レッカー移動が招いた損害賠償トラブル

大型店舗やコンビニエンスストアなどに限らず、分譲や賃貸マンションでも問題となるのが無断駐車です。しかし、法人や個人の敷地内における駐車に対しては、警察は対応できません。

法人または個人の敷地内に駐車する行為は「無断駐車」ですが、よく「違法駐車」と混同されることがあります。「違法駐車」は道路交通法第44条および第45条に基づき、停車や駐車が禁止された場所での駐車行為を指します。警察は警察官職務執行法によりその権限が厳格に定められていますから、無断駐車に犯罪の要素がない限り、民事不介入の原則に従い対応できないのです。

そのため、民間では無断駐車防止策として、駐車場や敷地内に看板を設置し、「無断駐車はレッカー移動します。また、駐車代金3万円および別途レッカー代を請求します」といった警告を掲示する例があります。

以前、筆者が新人研修を担当したことがきっかけで相談を持ちかけてきた不動産営業から、「看板に記載されていたため、本当にレッカー会社に依頼して移動させたところ、車の所有者から『移動時に車体が傷付けられた。損害賠償を請求する』と抗議されました」との相談を受けました。

詳しくは後述しますが、原則として自力救済は認められていません。たとえナンバープレートが外され、車検切れが明確な放置車両であったとしても、移動するには法的な手続きが必要です。それによらずレッカー移動を行った場合、傷が移動によるものではないと証明できない限り、相手の主張を退けるのは難しいでしょう。

自力救済とは、法人もしくは個人が法的手続きを経ずに自らの力で権利を回復する行為を指します。例えば、家賃滞納時に鍵を交換したり、無断で立ち入ったりする行為も該当し、これにより損害賠償を請求される可能性があります。

しかし、無断駐車に対して合法的に移動を求める方法はあります。簡易裁判所に土地の明渡し請求を提起する方法ですが、それには時間と費用がかかります。そこで、車両の持ち主を特定して連絡を取る、もしくは内容証明郵便を送付して移動を促す方法です。

無断駐車の所有者を特定する方法については、以前「不動産会社のミカタ」に記事を掲載していますのでご参照ください。

今回は視点を変えて、賠償金を徴収する旨を看板に記載している場合に、本当に徴収できるのか、またその額は自由に設定できるのか、そして無断駐車が繰り返された場合の対処に関する注意点について解説します。

不退去罪が適用される余地はあるが……

無断駐車に対して刑法上の罪を問える可能性はあります。例えば、許可を得ず私有地内に侵入し駐車する行為や、要求を受けたにもかかわらず退去(移動)しない場合、刑法第130条で規定された「住居侵入等」の罪に該当する可能性があります。この場合、科される罰則は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。

しかし、実際には警察に連絡しても、事件として取り上げられる可能性は低いでしょう。したがって、所有者を特定して連絡するのが現実的な解決策です。

では、無事に所有者と連絡がついた場合、看板に記載された通りの金額を請求できるのでしょうか。

駐車禁止を促す看板には、「罰金」、「科料」、「過料」などの文言が記載されているケースもありますが、罰金や科料は刑事罰として科され、過料は国や地方公共団体が科されるものです。法人や私人がこれらを科すことはできません。請求可能なのは、駐車料金相当額に基づく損害賠償金のみです。

また、請求額が近隣の駐車場相場と比較してあまりにも高すぎる場合、公序良俗(民法第90条)に違反する暴利行為として無効とされる可能性があります。一般的には、近隣時間貸駐車場の3~4倍程度が上限と考えられています。例えば、1時間あたり1,000円が相場であれば、3,000円~4,000円に、証明可能な無断駐車時間を掛けた範囲が妥当です。

無断駐車を発見し、看板の内容に基いて数万円もの金額を請求し、トラブルに発展するケースが見受けられます。しかし、前述したように高額請求は公序良俗に反するとして無効となる可能性があります。したがって、「公序良俗に反し無効だ!」と主張された場合、法的には相手方の言い分が正しいと認められる可能性は高いのです。

相手の主張に対して感情的となり、強固な態度で支払えと請求した場合、「人を恐喝して財物を交付させた者」として、恐喝罪に該当する可能性があるため注意が必要です。

無断駐車で迷惑を被っている当事者としては、強い口調で相手を非難したい欲求にかられる場合もあるでしょう。しかし、感情的になってはいけません。

相手が畏怖を感じれば「恐喝罪」が成立しますし、相手に身体的接触(胸を押すなど)した場合には「暴行罪(刑法第208条)」とされる可能性があります。

無断駐車により権利を侵害された立場の人間が、刑法上の罰則を受けたのでは本末転倒です。相手が開き直って腹立たしい場合でも、感情的にならず冷静に話し合うことが大切です。何より、無断駐車の再発を防止することが一番の目的であることを忘れてはなりません。

最後は損害賠償請求

車両の所有者を特定して内容証明郵便を送付する、もしくは電話で直接注意を促すのは効果的ですが、それなりに手間がかかります。単発的な無断駐車に対しては有効とは言えないでしょう。

そのようなケースでは、無断駐車を止める旨を記載した警告文をワイパーなどに挟むのが効果的です。ただし、粘着性の高い両面テープや接着剤を使用してフロントガラスや車体に貼り付けてはなりません。跡が残ったり塗装が剥げてしまったりした場合、器物損壊罪で訴えられる可能性があるためです。先述したように、自力救済が認められない点には注意が必要です。

このように紳士的に注意を促しても、繰り返し無断駐車を行う相手に対しては、訴訟を提起して損害賠償請求を行うことが有効です。例えば、2018年7月に大阪地裁で、コンビニエンスストアの駐車場に2台の車を2年弱、ほぼ毎日のように無断駐車を続けた男性に対して、約920万円の賠償が認められた裁判例があります。

この裁判では原告側が、無断駐車は合計で11,166時間に渡るとして、周辺駐車料金700円にこの時間に乗じた金額及び訴訟費用として約920万円を求めて提訴しました。しかし、被告男性は裁判所へ出席せず、答弁書も提出しなかったことで「自白の擬制(民事訴訟法第159条第1項~第3項)」が適用され、原告の主張が全面的に認められたのです。

なお、民事裁判では判決で終局するのが4割~5割、和解が3割~4割、取り下げが1割~2割り程度で推移しています。また、判決で終局した事件のうち「対席事件」は約6割前後ですが、残る約4割は答弁書や準備書面を提出せず、口頭弁論期日に出頭しなかったため「欠席裁判」として、原告の主張が全面的に認められています。前述した裁判例は請求額も高額ですから、答弁しても良さそうなものですが、よほど後ろめたいのか、裁判の流れを理解していなかったのが定かではありませんが、反論することなく判決が確定したのです。

筆者が相談に応じ、弁護士を紹介して無断駐車に基づく損害賠償請求を提訴した事案でも、かなりの確率で欠席裁判となり全面的な主張が認められています。この傾向は、損害賠償請求額が少額な場合によくみられる傾向ですから覚えておくと良いでしょう。

まとめ

今回の解説では、無断駐車に対して請求できる妥当な賠償金について解説しました。無断駐車との表現を使用しましたが、一般的には「不法駐車」、「違法駐車」とも表現されることがあります。これらは一般用語であり、使用される用語に一貫性はなく、その意味も曖昧です。しかし、いずれも権利者の承諾なく駐車する行為を指している点では同じです。

冒頭では、レッカー移動によって車両に損傷が生じたと主張され、損害賠償を請求された事例を紹介しました。緊急性や相当性が認められる場合には、こうした行為が認められる可能性もありますが、これは運転者を探して連絡を試みたり、警察に通報したり、所有者に内容証明郵便で移動を求め、もはや他に手段がない場合に限られます。

看板等に記載されている内容を根拠に、軽率に行動することは許されません。また、警告看板の内容が公序良俗に反しているケースも見受けられます。これらは法的に無効とされますから、看板へ記載する文言にも慎重さが求められるのです。

賃貸オーナーからの相談に応じる私たち不動産業者は、これらの法的な枠組みと手続きについて正確に理解し、適切なアドバイスを提供することが重要です。無断駐車の再発防止に向けた適切な対応策を考えることが、最終的な目的であることを忘れてはなりません。

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