別会社で社長・役員をしているけど、専任宅建士になれる?

「いま別の会社で役員をやっているけど、自分が専任の宅建士になって不動産会社を立ち上げられるのか」
不動産会社を開業しようとするとき、専任の宅地建物取引士をどう確保するかは最初の関門です。
とくに自分自身が他の会社で社長や役員を務めているケースでは、「自分が専任宅建士を兼ねられれば人を雇わずに済むのに」と考える一方で、「兼務だと専任性が認められないのでは」という不安がつきまといます。
結論を先に言えば、他社での立場が実質的にどうなっているか次第で、認められることも認められないこともある
これが実態です。
そしてこの判断は2024年4月のルール改正と、自治体ごとの運用差を踏まえないと正確に答えられません。
この記事では、専任性の基本要件を整理したうえで、他社役員の兼務がどこまで認められるのか、審査で何を見られるのか、そして申請をスムーズに通すために何を準備すべきかを、開業支援の実務目線でまとめます。
なお、不動産開業全体の流れは不動産開業の準備手順もあわせてご覧ください。
専任の宅地建物取引士に求められる「常勤性」と「専従性」
まず前提として、宅建業免許を取得・維持するには、事務所ごとに専任の宅地建物取引士を設置する義務があります。
具体的には業務に従事する者5人につき1人以上を専任宅建士として置く必要があります。
この人数は開業後に事務所へ掲示する宅建業者票(標識)にも記載する項目で、人員構成は免許まわりの随所に関わってきます。
ここでいう「専任」とは、単に宅建士資格を持っているだけでは足りず、次の2つの要件を満たす状態を指します。
| 要件 | 意味 |
|---|---|
| 常勤性 | その事務所に常勤していること(通常の勤務時間、事務所で勤務できる状態) |
| 専従性 | 専ら宅建業の業務に従事していること(他の業務を主としていない) |
この2つがそろって初めて「専任」と認められます。
逆に言えば、他社での立場がこのどちらかを崩すと判断されれば、専任性は否定されます。
他社役員の兼務が問題になるのは、まさにこの常勤性・専従性に引っかかるかどうかという話です。
他社で役員をしていると専任宅建士になれないのか
原則論から言うと、他社の代表取締役・常勤役員・正社員を兼ねている場合は、専任性を認めない行政庁が多いのが実情です。
常勤役員として日々その会社の業務に携わっているなら、不動産会社の事務所に常勤しているとは言えないからです。
ただし、これはあくまで「実質的に常勤しているかどうか」で判断されます。
他社での肩書きがあっても、実態として宅建業者の事務所に常勤しているなら、専任宅建士として認められる余地があります。
認められる可能性が高いケース
認められない可能性が高いケース
つまり、他社での役職そのものより、「実態として宅建業者の事務所に常勤・専従できているか」が分かれ目になります。
同じ「役員兼務」でも、名前だけの非常勤と、毎日経営に関わる常勤役員ではまったく扱いが違うわけです。
なお見落とされがちですが、免許を申請する会社の監査役は、その会社の専任宅建士を兼ねることはできません。
監査役は業務執行から独立した立場であるべきとされているためで、ここは役員の中でも例外的な扱いになります。
2024年4月の改正で「常駐義務」の考え方が変わった
ここは旧来の解説で抜け落ちがちな、重要なアップデートです。
2024年4月1日施行で、専任宅建士の専任性の考え方が改正されました。
政府全体で進められている常駐・専任規制の見直しを背景に、ITの活用(テレワーク等)によって専任宅建士が他の事務所の業務を行える場合が明確化されました。
重要事項説明もIT重説や書面の電磁的交付が認められている流れの中で、「物理的に事務所に張り付いていなければ専任ではない」という従来の常駐前提が一部緩和されたかたちです。
ただし注意したいのは、これは「兼務を自由に認める」改正ではないという点です。
常勤性・専従性という原則は維持されたままで、あくまでIT活用による柔軟な勤務形態が一定の条件下で認められるようになっただけです。
「テレワークOKになったから他社役員でも大丈夫」と短絡するのは危険で、緩和の射程を正確に押さえる必要があります。
専任性ルールの詳しい解釈は専任取引士の専任性の正しい解釈と運用で整理しています。
専任性は自治体ごとに運用が違う
専任宅建士の審査でいちばん悩ましいのが、判断基準が都道府県によって異なる点です。
宅建業免許は本店所在地を管轄する都道府県知事(または国土交通大臣)が審査しますが、専任性の細かい運用は自治体ごとにばらつきがあります。
たとえば他社の代表取締役を兼ねている場合の扱いを見ても、自治体によって対応が分かれます。
| 自治体の運用例 | 他社代表取締役の兼務 |
|---|---|
| 厳格な運用の自治体 | 他社の代表取締役・常勤役員は原則として専任性を認めない |
| 柔軟な運用の自治体(例:埼玉県) | 別会社の代表取締役でも「非常勤」である旨を略歴書に記載すれば専任性を認める運用 |
このように、同じ条件でも申請する自治体次第で結論が変わりうるため、自分のケースが認められるかどうかは、必ず申請先の免許窓口に事前相談するのが確実です。
ネット上の一般論や他県の事例だけで判断すると、申請してから差し戻される恐れがあります。
私が開業相談で「まず窓口に電話して個別事情を伝えてください」と必ず案内するのは、ここで時間をロスする人が本当に多いからです。
審査で見られる「勤務実態」の証明方法
専任性を主張するなら、肩書きや口頭の説明ではなく、勤務実態を客観的な書類で示せることが求められます。
とくに他社役員を兼務している場合は、「主たる勤務先は宅建業者である」ことと「他社は非常勤である」ことの両方を裏付ける必要があります。
| 書類 | 何を示すか |
|---|---|
| 雇用契約書・役員就任契約 | 宅建業者での勤務形態・職務内容・勤務時間 |
| 給与支払明細 | 宅建業者から給与が支払われている事実 |
| 就業規則 | 常勤者として扱われていることの裏付け |
| 他社との業務委託契約書 | 他社が非常勤・委託にとどまることの確認 |
| 略歴書 | 兼務状況を正確に記載(自治体によっては非常勤の明記で可) |
役員経歴は行政システムに記録が残っている
ここは実務で必ず知っておいてほしい点です。
過去の宅建業者での役員経験は、行政庁のシステムにすべて記録が残っています。
免許申請書に添付する役員の履歴書と突き合わせて裏付け調査が行われるため、兼務状況を曖昧にしたり、都合の悪い経歴を省いたりすると、不整合が発覚して申請が滞ります。
「バレないだろう」と過小申告するのは最も避けるべき対応です。
履歴書・略歴書には正確な情報を記載し、非常勤であることを書類で堂々と示すほうが、結果的に審査はスムーズに進みます。
申請をスムーズに通すための準備
他社役員を兼ねたまま専任宅建士として申請するなら、次の3点を事前に整えておくと差し戻しを防げます。
勤務先との契約形態を明確にする
宅建業者とは雇用契約または役員就任契約を結び、勤務時間・業務内容を書面で明確にしておきます。
「常勤で宅建業に従事している」ことが契約上はっきり読み取れる状態にしておくのが基本です。
他社との兼務を「非常勤」として説明できるようにする
他社がある場合は、その立場が非常勤・業務委託にとどまることを契約書や稼働記録で示せるようにします。
略歴書にも非常勤である旨を正確に記載しておきます。
申請前に必ず窓口へ相談する
最終判断は各自治体に委ねられます。
兼務という個別事情がある以上、一般論で進めず、申請先の免許窓口に具体的な状況を伝えて判断を仰ぐのが確実です。
開業準備の段階でこのひと手間を惜しまないことが、結果的にいちばんの近道になります。
別会社役員と専任宅建士に関するよくある質問
原則として、他社で常勤の代表取締役を務めている場合は専任性を認められないことが多いです。ただし他社が非常勤で実務に関与していない場合は認められる余地があり、埼玉県のように略歴書への非常勤明記で認める自治体もあります。申請先への事前確認が必須です。
その不動産会社に常勤・専従できるなら、代表取締役と専任宅建士の兼任は可能です。問題になるのは「別の会社の常勤役員も兼ねている」ようなケースです。なお監査役は同じ会社の専任宅建士を兼ねられません。
2024年4月の改正で、IT活用による柔軟な勤務形態が一定の条件下で認められるようになりました。ただし常勤性・専従性の原則は維持されており、テレワークだから何でも認められるわけではありません。具体的な可否は自治体に確認してください。
自分が専任宅建士になれなくても、別途専任の宅建士を雇用・確保すれば開業は可能です。代表取締役が他社役員を兼務していて常勤できない場合でも、専任宅建士を別に置けば免許申請はできます。
他社との業務委託契約書や稼働記録、略歴書への非常勤の明記などで示します。あわせて主たる勤務先である宅建業者からの給与支払明細や雇用契約書を提出し、「宅建業者に常勤している」事実を裏付けるのが効果的です。
まとめ
他社で社長や役員を務めていても、宅建業者に主たる勤務先があり、勤務実態を客観的に証明でき、他社が非常勤・非実務的な関与にとどまるなら、専任宅建士として登録できる可能性は十分にあります。
一方で、複数の会社でフルタイムに近い業務をこなしている場合は、専任性が認められないと考えておくべきです。
そのうえで押さえておきたいのが、2024年4月の改正でIT活用による勤務形態が一定程度柔軟になったこと、そして専任性の判断は自治体ごとに運用が異なることの2点です。
役員経歴は行政システムに残り裏付け調査もされるため、兼務状況は正確に申告し、書類で堂々と示すのが結局いちばん早い。
自分のケースが微妙だと感じたら、申請前に必ず免許窓口へ相談してください。
開業の入口でつまずかないための、最も確実な一手です。
専任宅建士の確保以外の開業準備については不動産開業の準備手順もあわせてご覧ください。
あわせて読みたい





