不動産会社の事業計画書の作り方|公庫融資を通す数字設計を解説

- 「事業計画書はどこまで書き込むべきか」
- 「公庫が見ているポイントは何か」
- 「売上見込みは保守的に書くべきか強気に書くべきか」
事業計画書の作成は開業準備の中で最も時間がかかる作業で、ここで手を抜くと日本政策金融公庫の融資面談で詰められて借入額が圧縮されることになります。
逆にここを丁寧に作り込めば、自己資金300万円で1,500万円の融資を引き出すことも可能です。
数字の作り方と自己資金の見せ方が勝負どころです。
私自身、新卒で住友不動産販売の売買仲介の現場で営業をしていた頃から数字感覚は鍛えてきましたし、2018年にミカタ株式会社を立ち上げる際にも公庫融資を引いた経験があります。
年間10件以上の独立開業相談を受けていますが、事業計画書の数字設計と自己資金の説明が甘くて公庫面談で苦戦する経営者は、相談者の半数以上にのぼります。
公庫の創業計画書8項目を不動産業向けに書くポイント
公庫融資の申請に使うのはA3 1枚の創業計画書(公庫HPからダウンロード可能)。
「A3 1枚で簡単」と侮ると失敗します。限られたスペースに説得力のある数字と動機を凝縮する必要があり、書き方次第で融資額が500万円以上変わるケースもあります。
①創業の動機
「なぜ今、独立するのか」を端的に書きます。前職での具体的なエピソード(売買仲介でこんな顧客を担当した、年間○件の契約実績がある等)と、独立への必然性を結びつけると説得力が出ます。
抽象的な「不動産業の発展に貢献したい」は印象が薄く、「前職で担当した△△エリアの売主から退職後も相談を受け続けており、地域密着型の仲介で開業する必然性がある」のような具体性が効きます。
②経営者の略歴等
職歴・実績・資格を時系列で。売買成約件数、賃貸成約件数、年間取扱高、表彰歴などの数値を必ず入れてください。
「営業職7年」より「年間平均20件の売買成約、累計取扱高15億円」のほうが圧倒的に強い。
宅建士・賃貸不動産経営管理士・FP・住宅ローンアドバイザーなどの資格も明記。前職の上司・取引先からの推薦状を添付できれば最強です。
③取扱商品・サービス
業態を明確にし、「何を、誰に、いくらで、どう売るか」を1〜2文で要約します。
賃貸仲介・売買仲介・管理・買取再販で内容が変わるため、メイン業態を1つ決めて深掘りしてください。
例:「△△駅徒歩10分圏内のファミリー層向け売買仲介。築20年以内の戸建て・中古マンションが主力商品。1件あたり仲介手数料100〜150万円、月3〜4件の成約を目標」
④取引先・取引関係等
不動産業の場合、仕入先=取引のある同業者、販売先=エンド顧客となるケースが多く、書き方に迷いやすい項目です。
- 仕入先:レインズ取引業者、前職の元同僚ネットワーク、地元の不動産会社
- 販売先:個人エンド顧客(一般客)、または法人顧客
- 外注先:登記司法書士、税理士、ハウスクリーニング業者
実名で書ける取引先がある場合は記載すると信用度が上がります。
⑤従業員
開業時は「代表者1名のみ」が多数派です。1年後・3年後の採用計画も簡潔に書いておくと、成長性をアピールできます。
⑥お借入の状況
個人の住宅ローン・自動車ローン・カードローンなどを正直に申告します。
虚偽記載が発覚すると融資審査が即停止になるため、隠さず記載してください。CICなどの信用情報は公庫が必ず照会します。
⑦必要な資金と調達方法
設備資金(事務所改装・什器・PC等)と運転資金(家賃3〜6ヶ月分・広告費・人件費)に分けて積み上げます。詳細は後述します。
⑧事業の見通し
売上計画の数字を作る最重要セクション。
1ヶ月目・軌道に乗った後(6〜12ヶ月後)の月次売上を、根拠とともに書きます。
自己資金の説明|公庫が最も厳しくチェックする項目
公庫融資で最も重視されるのが自己資金の出所と蓄積実績です。
ここで弾かれると融資額が大きく下がります。
自己資金の蓄積実績は6ヶ月以上が理想
公庫は通帳の過去6ヶ月〜1年分を確認します。
直前にまとまった入金(親族からの借入、消費者金融、見せ金)があると、確実に印象が悪化します。
「コツコツ貯めた自己資金」が最高評価で、開業の半年〜1年前から定期的に貯蓄実績を作っておくのが王道です。
「見せ金」が露見した場合のリスク
開業直前に親族から数百万円借りて自己資金に見せかけるパターンは、通帳の流れですぐに見抜かれます。
借入なら借入と正直に申告したほうが、融資審査では有利。隠そうとした事実が露見すると、信用面でマイナス評価が累積します。
推奨される自己資金額
公庫の新創業融資制度では「創業資金の10分の1以上の自己資金」が要件ですが、実務上は創業資金の30〜50%の自己資金があると融資が通りやすくなります。
| 目指す融資額 | 推奨自己資金 |
|---|---|
| 500万円 | 200〜250万円 |
| 1,000万円 | 300〜500万円 |
| 1,500万円 | 500〜750万円 |
| 2,000万円 | 700〜1,000万円 |
開業資金の総額試算とあわせて、自己資金との比率を逆算してください。
不動産業の売上計画|業態別の現実的な数字の作り方
業態によって計算式が変わります。「希望」ではなく「実績ベースの根拠」で組み立てるのが鉄則です。
賃貸仲介の場合
1件あたりの手数料単価:5,000〜10万円(家賃の0.5〜1ヶ月分)。
月の成約件数は、立地・規模・反響獲得力により5〜30件。
| 項目 | 月次 | 年間 |
|---|---|---|
| 反響獲得数 | 50〜100件 | 600〜1,200件 |
| 来店率 | 30〜40% | - |
| 成約率(来店→契約) | 30〜40% | - |
| 月間成約件数 | 5〜15件 | 60〜180件 |
| 平均単価 | 8万円 | - |
| 年間売上 | - | 480〜1,440万円 |
繁忙期(1〜3月)に成約が集中するため、月次の波動を考慮した年間計画が必要です。
売買仲介の場合
1件あたりの手数料単価:100〜200万円(3,000万円〜6,000万円の物件で片手手数料)。
成約数は月1〜5件が現実的。
| 項目 | 月次 | 年間 |
|---|---|---|
| 反響獲得数 | 10〜30件 | 120〜360件 |
| 査定獲得数 | 3〜10件 | - |
| 月間成約件数 | 1〜3件(開業1年目) | 12〜36件 |
| 平均単価 | 120万円 | - |
| 年間売上 | - | 1,440〜4,320万円 |
開業1年目の成約は月1件未満もあり得るため、保守的な数字で計画してください。
両手取引(売主・買主の双方から手数料)が取れると単価が2倍に。
管理業務の場合
家賃の3〜5%が管理手数料。月3,000〜5,000円/戸が相場。ストック型収益のため、立ち上げに時間がかかります。
| 項目 | 1年目 | 3年目 |
|---|---|---|
| 管理戸数 | 30〜100戸 | 200〜500戸 |
| 平均管理料 | 月4,000円/戸 | 月4,000円/戸 |
| 月次売上 | 12〜40万円 | 80〜200万円 |
| 年間売上 | 144〜480万円 | 960〜2,400万円 |
管理業務での独立は3年目以降に本格化する業態として位置付けてください。
買取再販の場合
買取再販は1件あたり粗利200万〜1,000万円超で、年間1〜5件回す業態。資金固定と税務負担が重いため、開業1年目は仲介との兼業が現実的です。
固定費・初期費用の具体的な積み上げ
開業時の初期費用
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 法人設立費用(株式会社) | 約25万円 |
| 事務所賃貸(敷金・礼金・初月家賃) | 50〜150万円 |
| 事務所改装・什器(PC・複合機・デスク等) | 100〜200万円 |
| 全宅または全日入会金・年会費 | 150〜180万円 |
| 弁済業務保証金(保証協会経由) | 60〜120万円 |
| 宅建業免許申請手数料 | 33,000〜90,000円 |
| 法人印作成・名刺・HP・独自ドメイン | 20〜50万円 |
| 合計 | 400〜700万円 |
保証協会経由の弁済業務保証金(60〜120万円)は宅建業特有の費用です。
本来1,000万円の供託金が必要なところを、協会加入で大幅減額できる仕組みのため、実質的に必須コストとなります。
月次固定費
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 事務所家賃 | 10〜30万円 |
| ポータルサイト掲載料(SUUMO等) | 8〜30万円 |
| 通信費・水光熱費 | 3〜5万円 |
| 役員報酬(代表者) | 30〜50万円 |
| 会計ソフト・銀行手数料 | 1〜3万円 |
| 雑費 | 2〜5万円 |
| 合計 | 54〜123万円 |
開業1年目は売上が立ちにくいため、最低6ヶ月分の固定費(300〜700万円)を運転資金として確保しておく必要があります。
公庫面談で聞かれる5つの質問と回答の準備
公庫面談は約1時間。書類確認+質疑応答の形式で、以下の5つの質問は必ず聞かれます。
Q1. なぜ今、独立するのですか?
前職での具体的な経験と独立への必然性。「お客様から退職後も相談を受け続けている」など実需要を示すと強い。
Q2. 集客はどうやりますか?
ポータルサイト・地域チラシ・既存ネットワーク・SNS・紹介営業の具体策。「頑張ります」ではなく月いくらの広告費・想定反響数まで。
Q3. 最悪のシナリオは想定していますか?
売上が想定の半分の場合のキャッシュフロー、撤退基準、追加調達ルート。ここをしっかり答えられると公庫の印象が大幅に上がります。
Q4. 自己資金はどう貯めましたか?
給与からの定期積立など具体的な蓄積過程。通帳の流れと整合性を取って答える。
Q5. 家族の理解は得ていますか?
配偶者・親族の生活影響と理解度。1人開業は精神的負担が大きいため、家族の支援体制を聞かれます。
事業計画書作成でよくある5つの失敗パターン
①売上を強気に書きすぎる
「月10件成約・月収100万円」と書いて公庫面談で根拠を詰められて崩壊するパターン。保守的な数字+根拠のほうが融資は通りやすくなります。
②自己資金の出所説明が弱い
「貯金です」だけで通帳の蓄積実績が示せないと、見せ金疑惑を持たれます。毎月の定期的な積立履歴を6ヶ月以上見せられる状態を作ってください。
③競合分析が「○○不動産が3社あります」止まり
数の把握だけでなく、各社の業態・規模・差別化ポイント・推定取扱高まで踏み込んだ分析が必要。
④経歴のアピールが「営業7年」レベルで終わる
数字(成約件数・取扱高・表彰歴)まで盛り込まないと、強みが伝わりません。前職の上司・取引先の推薦状を添付できれば強力なバックアップになります。
⑤公庫面談で「最悪のシナリオ」を即答できない
「想定通りに進むつもりです」ではなく、売上半減時のキャッシュフロー試算と撤退基準まで答えられる準備が必要です。
不動産会社の事業計画書に関するよくある質問
公庫の創業計画書はA3 1枚(必須フォーマット)。これに加えて月次収支計画書(A4 1枚)と添付資料数枚で十分です。自社運営用は10〜20ページが目安。
公庫は事業計画書+面談+自己資金+経歴の総合判断です。事業計画書が完璧でも、自己資金が足りなければ融資額は圧縮されます。
自分で書いて専門家にレビューしてもらうのが最適です。完全に外注すると、面談で数字の根拠を即答できず印象が悪化します。専門家レビューは5〜10万円程度。
開業時は公庫が先です。公庫融資の返済実績が半年〜1年できてから、保証協会経由で地銀・信用金庫に追加融資を相談する流れが王道です。
最低半年に1回は実績と比較して更新してください。当初計画とのズレが見えると、軌道修正のアクションが早く打てます。融資の追加調達時にも、最新版が必要です。
まとめ
不動産会社の事業計画書は、公庫融資を通すための数字根拠書類としての側面が最も重要です。
自己資金の蓄積実績、業態別の保守的な売上計画、固定費の積み上げ、最悪シナリオ
この4要素を押さえて作り込めば、自己資金300〜500万円で1,000〜1,500万円の融資を引き出すことが現実的に可能になります。
最初の作り込みに2〜4週間かけても惜しくない、開業前の最重要タスクです。
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