【相続相談に応じる場合、どこまでなら非弁行為になりませんか?】相談増加による不動産営業マンの悩み

一般の方は相続や立退、相隣関係の民事トラブルなど問題が不動産に関連している場合、その全ての相談に不動産業者が応じられるものだと考えている傾向があります。

確かに、筆者が不動産会社のミカタに寄稿している記事は、そのような相談に応じるために必要とされる法的見解などについて解説しているものも多く、実際に自身も不動産コンサルタントとして様々な相談に応じています。

相続を原因とした登記の義務化が目前に迫っている影響からでしょう、最近は相続に関しての相談が増加しています。

相談を受けることにより問題解決に寄与し、結果として売買や賃貸運用などの委任に繋がることも多いのですから、知見と時間の及ぶ限り応じたいものです。

ですが相談に応じる際、つい思い浮かぶのが「非弁行為」や「非税理士行為」です。

一体、どこまでの範囲なら弁護士法や税理士法などに抵触することがないか悩むところです。

とくに相続に関しての相談は利害関係者がそれぞれ権利を主張し、遺産分割に関して問題が生じている場合もありますし、相続不動産に賃借人が居住しており、その立退き交渉を依頼される場合もあるでしょう。

立退料の要否やその「額」について、もしくは正当事由についての法的判断などには高度な法律的判断が要とされますから、法律事件に該当します。

ですから、報酬を得てそれを扱えるのは弁護士のみです。

専従士業でしか扱ってはならない分野に手を出せば、懲役や罰金などの厳しい処分が待ち受けています。

それが念頭にあるのでしょう「最近、かなり厄介な相続相談が立て続けに寄せられたのですが、一体、僕らはどこまで応じられるんでしょうか?」なんて相談が筆者に寄せられるのです。

今回は、このような悩みにお答えしたいと思います。

報酬を得るかどうか

専従士業の業務に抵触し、罰則を受けないための判断基準としては、まず「報酬」があります。

代表的なところで弁護士法の第72条では

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」と定められています。

相続不動産の賃借人にたいする立退交渉は、第72条で規定されている「法律事件に関しての仲裁若しくは和解」に該当します。

ですから原則は弁護士や弁護士法人以外ものものが行うことはできません。

ですが前提に「報酬を得る目的で」との一言があります。

つまり現に報酬を得ている、もしくは得る目的がない場合、私たちが立退き交渉を行なっても弁護士法に抵触しないのです。
ただし、です。

私たちが無償でこれらの相談に応じ、かつ交渉を行うのは立退き完了後、物件売買や活用に関与しそこで利益を得たいという目的があるからです。

まったくのボランティア精神から受任される方はいないでしょう。

相談や交渉に応じる条件として、事前に専任媒介契約の締結を求めるケースもあるでしょう。

なかには「交渉するためには、私が委任されたことを証するため専任媒介契約書と委任状の両方が必要です」なんてトークを用いるかたもいるのではないでしようか?

タダ働きは望むところではないですから気持ちも分かりますが、これらの行為は間接的であれ報酬を得ようという目的が内在している証明になりかねません。

状況によっては非弁行為を追求される可能性も高くなるでしょう。

そのため、あくまでも顧客サービスの一環として無報酬で相談に応じ立退き交渉を行う、そして立退き完了後に売却などを検討した場合には「ぜひ私のことを思い出してくださいね」という体裁が必要なのです。

この前提を満たしていれば直ちに非弁行為を問われる可能性は低くなるでしょう。

次に相続に関する税務相談です。

税理士法第2条で税理士の業務は、租税・法定外目的税などに関しての税務書類の作成、提出代理、相談などとされていますが、「相談に応じる」についての解釈は税理士法基本通達2-6で「具体的な質問にたいし答弁し、指示し又は意見を表明することをいう」とされています。

つまり相続によらずあらゆる税金の相談にたいし、意見をのべ、あまつさえ書類を代理作成するなどの行為はすべて税理士の専従業務になるのです。

非弁行為とは違い、税理士法においては「かならずしも有償であることを要しない」との判断基準が示されています。

ですから、税金に関しての相談や質問をされた場合、「税金に関しての相談に応じれば税理士法に抵触します。大変、申し訳ございませんがお答えできません」というのが厳密な意味での正解なのです。

とはいえ……

杓子定規に上記のような回答をすれば「あの営業マンは税金に関しての知識がまったくないんだろう。あんな不勉強な人に大切な不動産をまかせて大丈夫だろうか……」なんて思われる可能性もありますから、まったく相談に応じないのも考えものです。

そもそも不動産と税金は密接な関係を有していますから、概算として税金計算を行うのは日常のことです。

そのような行為を非税理士行為だと言及されてはたまったものではありません。

ですが法律は存在している。

そこで相談に応じる場合には税務ハンドブックなどの冊子を携帯し、質問に応じ当該箇所を提示しておおよその説明をする。

また税額計算などを行った場合には、あくまで「概算」であることを強調し、詳細は税務署や税理士などに確認するよう誘導する姿勢が必要なのです。

このような考え方は税理士に留まらず、先述した弁護士のほか司法書士、行政書士などの専従業務についても同様です。

最適解はチーム制

ビジネスマン,チーム,登る

そもそもの話ですが権利関係の調整や税務面など、とかく高度な知識が必要とされる相続相談に単独で対応すること自体、難しい場合があるでしょう。

弁護士や税理士であっても日頃、手掛けていない分野については不慣れなものです。

有資格者でさえそうなのですから、私たちが相続不動産の処分や有効活用以外、例えば分割協議に関しての調整や個別交渉に応じるのはお勧めしません。

筆者も懇願され致し方なく遺産分割協議に同席することもありますが、相続人間で争事が生じている場合などは子供時代のお年玉の額、結婚祝いとしてプレゼントされた物品価格の違いなど、相続とはまったく関係のない話を引き合いに少しでも遺留分を多く得ようとする言い争いを垣間見ることがあります。

このような場合であっても、少しでも交渉が前に進むよう進行役に徹し、必要に応じて助言や提案をする程度に留めるよう心がけています。

相続人間の繊細な問題に関与せず、あくまでも進行役に過ぎないとのスタンスを崩さず、必要に応じて専従士業の介入を提案する。

「餅は餅屋」の諺ではないですが、専門士業とチームを組んで、それぞれの得意分野に集中し最大限の成果を発揮するのが結果的に顧客の利益になるのです。

先述したように、相続問題に関しては専従士業であっても得手不得手があります。

日常業務における出会いを大切に、専門的な相談に応じられる専門資格士とのネットワーク構築を心がけ、それを活用したコーディネーター役に徹するのが正解なのでしょう。

まとめ

顧客による不動産営業の評価基準に「物を知っている」があります。

これは不動産に限らず営業全般に共通しますが、取り扱う商品についてはもちろん、時事問題や芸能、芸術、科学、法律分野など幅広い知識に精通していれば少なからず一目おかれるでしょう。

もっとも、聞かれてもいないのに雑学をひけらかすようでは二流の誹りをうけかねませんが、何気なく相談された問題にたいし、豊富な知見に裏付けられた意見を申述すれば「一味違う営業」として信頼されることでしょう。

広く学び知見を得ることの有用性について今更論じるつもりもありませんが、どれだけ知見を広げても、日頃それを業として実践的に学び続けている方に太刀打ちできるものではありません。

今回解説した相続相談など、高度な知識を必要とする分野においては尚更です。

できる営業マンとしては幅広い知識を学びつつ人脈を広げ、必要に応じ力を借りるというスタンスが大切なのです。

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