【タトゥーを理由に入居拒否はできる?】反社会的勢力と外見を混同しない不動産取引

多様性の尊重が社会的な共通認識となりつつある時代において、不動産の賃借や購入に際し、契約当事者がLGBTQIA+(多様なセクシュアリティを包括する表現)や外国籍であること、あるいはタトゥーがあることなどを理由として一律に契約を断ることは、人権への配慮や公平な機会提供の観点から、慎重な対応が求められています。
一方で、都道府県や市区町村などが定める「暴力団排除条例」や、不動産取引における反社会的勢力排除の取り組みを背景として、不動産取引から反社会的勢力を排除することは、社会的にも法的にも強く要請されています。
そのため、「暴排条項」の導入や、契約の相手方が反社会的勢力に該当する場合に契約を拒絶・解除することは、事業者による恣意的な選別ではなく、反社会的勢力による被害を防止するための正当な措置として認められているのです。
しかし、ここで注意しなければならないのが、反社会的勢力の排除と、それ以外の属性を理由とした取引拒否を同列に扱ってはならないということです。
例えば、温泉やスーパー銭湯、プールなどの公共施設において「タトゥー禁止」の張り紙をよく見かけます。
こうした利用制限については、タトゥーが反社会的勢力を想起させるという従来の社会的な背景だけではなく、他の利用者への影響や施設における管理上の必要性などを踏まえ、合理的な制限といえるのかが問題とされます。
もちろん、全国一律にタトゥーがある人の入浴等を禁止する法令は存在していません。
あくまでも各施設の判断に委ねられているからです。
しかし、施設側に利用ルールを設定する自由が認められているからといって、どのような制限でも許容されるというわけではありません。
利用制限の目的や必要性、他の利用者へ及ぼす影響などを踏まえ、その合理性を問われる可能性があるからです。
近年では、SNS等による風評にも注意が必要です。
法的な問題となり得る不利益な取扱いは、個人の意思で変えることができない属性に基づくものとは限られないことに留意する必要があるのです。
確かに、施設を運営する事業者には自らの施設で誰にサービスを提供し、どのような利用ルールを設けるかについては法令や公序良俗に反しない限り、合理的な範囲で利用を制限することが認められる場合があります。
これは、賃貸物件の貸与についても同様です。
しかし、大切なのは法律と公序良俗の兼ね合い、つまりはバランスです。
それでは、不動産の賃貸借や売買の契約において、賃借人または購入者がタトゥーを入れていたことを理由に、取引を拒むことはできるのでしょうか。
また、契約締結後にタトゥーを入れていることが発覚した場合、告知がなかったとして契約を解除することはできるのでしょうか。
本稿では、反社会的勢力の排除と不当な入居拒否等のリスクを区分して、適切な実務対応ができるように解説を試みます。
「タトゥー=反社会的勢力」ではない
リベラルな思想を有していても、タトゥーを見慣れていない方がこれみよがしに肩のタトゥーを誇示する方と対峙すれば、少なからぬ恐怖を覚える可能性はあるでしょう。
これは、日本で長年にわたり刺青と反社会的勢力との結びつきが社会的に強く意識されてきたため、「タトゥーを入れている=反社会的勢力」というイメージが、無意識に刷り込まれた結果と言えるのかも知れません。
もっとも、これは日本に限られた現象ではありません。
外国映画などにおいても、タトゥーはアウトローの象徴として描かれているからです。
しかし、タトゥーを怖いと感じる感情を、「怖い人」「問題を起こす人」「反社会的勢力に属している人」と単純に結びつけてはなりません。
特に、私たち不動産業者はその点に留意する必要があります。
そもそも、現在の反社会的勢力は、必ずしも外見でそれと分かる存在ではありません。
暴力団排除条例の施行などにより、反社会的勢力は社会的活動や経済活動から排除される傾向が強まっています。
したがって、あからさまな外見上の特徴や態度、ファッションは自らの活動を制限する要因となり得るのです。
むしろ、警察の取り締りや周囲の目を逃れるため、一般の社会人と外見だけでは区別できないように振る舞うケースがあるのです。
それだけに、筆者は、いわゆる「ヤカラ系」のファッションや態度を好む方が、実際には反社会的勢力とは無関係な一般人である場合が多いと感じています。
これは、個人的な見解に過ぎません。
しかし、筆者が不動産業界に入ったバブルの終焉時期においては、反社会的勢力による占有物件が多数存在していました。
そのため、立ち退き交渉を余儀なくされ、少なからず反社会的勢力に属する方と関わりを持たざるを得なかった経験に基づく見解です。
このような理由からも、「タトゥーを入れているから反社会的勢力に該当する」と安易に考えてはならず、先入観を持たずに反社チェックを行い、事実関係を確認する必要があるのです。
印象や先入観だけで判断してはならない
これまで解説してきたように、「タトゥーがあるから」という理由だけでは、反社会的勢力に属していることの証明にはなりません。
したがって、タトゥーが反社会的勢力を想起させるという理由だけで、賃貸借や売買契約を拒むことが当然に認められるわけではありません。
しかし、ここで別の問題が生じます。
賃貸人には賃借人を、売主には買主を選ぶ権利があるからです。
これは、公序良俗に反するなど特段の事情がない限り、契約自由の原則に基づき認められる権利です。
そもそも、賃貸借契約も売買契約も、当事者双方の合意によって成立します。
賃貸人や売主からすれば、賃借後、あるいは物件の引き渡し後、近隣トラブルを生じさせる可能性が高い方と契約したくないと考えるのは、決して不自然なことではありません。
特に賃貸借の場合、契約を締結すれば、その後は一定期間にわたって賃借人との関係が続きます。
そのため、賃貸人が「安心して付き合える相手に貸したい」と考えることを否定するのは難しいのです。
ですが、「タトゥーがある人には貸したくない」との意向が、契約自由の原則に基づき尊重されるか否かは、難しい問題です。
外見的な印象だけを根拠に取引対象から排除した場合、その判断に合理的な根拠があるのかという問題が生じるからです。
実際、賃貸借契約の締結後、鍵を引き渡す直前に賃借人がタトゥーを入れていることを賃貸人が知り、物件の引渡を拒んだ事件において裁判所は、「タトゥーを理由に引渡を拒むことに合理的な根拠はない」と判断しました(東京地判 令8.3.25 ウエストロージャパン)。
賃貸人は、事前にタトゥーが入っていることを知っていれば、そもそも賃貸借契約を締結していなかったとして、錯誤による取消し、賃貸借契約の禁止事項違反、告知義務違反に基づく解除権の行使を主張しましたが、裁判所はいずれも認めませんでした。
そもそも、契約条項に反社会的勢力であると疑われる人物を排除する旨の特約は定められておらず、さらには反社チェックも実施されていなかったのです。
また、賃貸人は本件賃貸物件が高級マンションであることを前提に、「マンションの価値を減少させる」「悪評が広がる」などと主張しましたが、いずれについても十分な証拠や経験則による裏付けがあるとは言えないと退けられたのです。

この裁判におけるポイントは、裁判所が「居住者の中には、タトゥーに畏怖感、あるいは嫌悪感を持つ者がいることは想定される」と、一旦は肯定しつつも、だからといって一概に告知義務が認められるとまでは言えないと論じたことです。
つまり、情報提供義務ないしは告知義務が認められるには、その情報を提供することが信義則上求められるような事情が存在しなければならないと判示したのです。
重要なのは、「不快に感じる人が、一定数存在する可能性はある」という事実と、「賃貸人に対してあらかじめ告知する義務があるのか」という法律上の問題を、正しく分けることなのです。
特約を設ければ万全か?
例えば、反社会的勢力の排除に加えて、「反社会的勢力であると疑われる場合は排除する」旨の特約を設けた場合、あるいは「タトゥーを入れている場合は、事前に告知すること」を契約の締結条件とした場合はどうでしょう。
結論から申し上げれば、契約書にそのような文言を盛り込んだからといって、当然に契約の拒絶や契約の解除が認められるとは限りません。
特に、「反社会的勢力であると疑われる場合は排除する」という特約については、「疑われる」との判断基準が不明瞭なため、一方的な排除につながる危険性があるのです。
例えば、タトゥーがある、服装が派手である、言葉使いや素行が乱暴である、何となく怖そうに見えるといった場合には、引き渡し後に近隣住民とのトラブルを生じさせる可能性が高いと判断する一つにきっかけにはなり得るでしょう。
そのため、賃貸人や売主が、そのような方との契約を拒絶したからといって、道義的側面を除けば、直ちに違法とされるわけではありません。
前項で紹介した裁判例においても、タトゥーがあることを事前に知り契約を拒絶したのであれば、裁判に発展していなかった可能性は高いと思われます。
つまり、契約自由の原則がある以上、契約締結前であれば様々な事情を考慮して契約するか否かを判断する余地が残されるのです。
とはいえ、公正な取引を担う不動産業者が関与する場合には、「何となく怖い」「トラブルを起こしそう」といった印象と、客観的に確認できる事実を区別する必要があります。
そして、さらに注意したいのが、契約の拒絶事由を別の理由に置き換えて説明することです。
例えば、本当はタトゥーを理由に断るにもかかわらず、「先に申込みが入った」「所有者の都合で売り止め(あるいは募集停止)になった」というような理由付けは、後になって本当の理由が露見した場合、紛争を大きくする可能性があります。
それよりも、
「居住者の中にはタトゥーに畏怖感、あるいは嫌悪感を持つ方もいらっしゃいます。タトゥーがあることを理由として一律に契約を断ることが、公平な機会提供の観点から慎重に判断する必要があることは十分に理解していますが、売主(または貸主)様のお気持ちをご理解ください。タトゥーの露出に十分配慮していただくことを書面で認めていただけるなら、売主(または貸主)様と相談したいと思いますが、いかがでしょうか」
と、説明する方がより建設的でしょう。
実際に相談へ赴く際には、タトゥーの有無だけではなく、過去の近隣トラブルや契約違反の有無、物件の利用方法など、実際に問題となる可能性がある事項を、可能な限り調べておく配慮が必要です。
また、当然のことではありますが、反社チェックも事前に済ませておきましょう。
もっとも、筆者は人間の「直感」をすべて否定しようとは思いません。
特に不動産業者は、一概には言えないものの、業務上様々な方と接する機会が多い分だけ人を見抜く目が備わっている場合は多いでしょう。
実際、筆者自身が「トラブルメーカーになる可能性が高い」と感じた方を調査してみると、過去に問題を起こしていたケースが多いのです。
ただし、直感は調査をするきっかけとはなるものの、「申込みや契約を拒絶する根拠」にはなり得ません。この点を混同しない配慮が必要です。
「何かおかしい」と感じたのであれば、本人確認を丁寧に行う、反社チェックを行うなど、直感を客観的な確認作業へ置き換えていくことが求められるのです。
そもそも、タトゥーを入れていることと、反社会的勢力に属していることは別問題です。
さらに言えば、服装が派手、あるいは言葉使いが荒いからといって、必ずしも近隣トラブルを引き起こすとは限りません。
くれぐれも、見た目から受ける印象と、取引上の問題となる事実を混同してはなりません。
タトゥーを入れている旨を、告知義務とすることは可能か?
結論から申し上げれば、タトゥーの有無など、身体的な特徴について当然に告知を義務付けることはできません。
ただし、シャツの胸元から見え隠れしているなど、タトゥーを入れている事実を確認できた場合には、「念のため確認させていただきますが、反社会的組織に属している、あるいは属されていたことはありませんか?」と質問すると同時に、「そのような事実はない」と回答された場合であっても、反社チェックを適切に実施する必要があります。
そもそも反社チェックは、例え契約当事者に外見的な特徴等が見受けられなかったとしても、媒介業者が暴力団排除条例や契約上の暴排条項等を踏まえ、適切に実施すべき確認事項です。
余談となりますが、過去に反社組織に属していたことが判明したからといって、一律に不動産取引を拒むことが容認されるわけではありません。
暴排規定に基づき取引を拒否できるか否かは、組織を離脱してからの経過期間や現在の実態によって判断が分かれるからです。
国土交通省による標準不動産売買契約書や賃貸借契約書には、政府の指針や各都道府県の暴力団排除条例に基づき、「暴力団でなくなった時から5年を経過しない者」を排除対象とする特約が盛り込まれています。
つまり、暴力団でなくなった時から5年以上を経過し、かつその間逮捕歴などを確認できなかった場合には、「反社会的組織に属していた事実を理由として契約を拒むこと」が、必ずしも容認されるとは限らないのです。
そのため、組織離脱後における関係性の有無や行為要件の違反、物件の使用目的などを精査したうえで、個別に判断する必要があります。
また、縁日などで屋台を商う、いわゆる「テキヤ」を反社会的組織と見なすことにも懸念が残ります。
そもそも、テキヤは伝統的な露天商であり、賭場をなりわいとした「博徒」ではなく神社仏閣の例祭などで露店を営む「神農」です。
極東会など一部の神農が指定暴力団化した経緯はあるものの、「テキヤ=反社」と決めつけるのは早計なのです。
これらを詳しく知る必要まではないかもしれませんが、不動産取引を担う立場上、可能なら理解を深めておきたいものです。

話を戻します。
令和3年度の国土交通省実態調査では、民間賃貸における家賃債務保証会社の利用率が約8割と報告されています。
おそらくはその後、さらに利用率が増加しているでしょう。
実際、2024年11月に公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が公開した「日管協短観」によれば、家賃債務保証会社の利用を必須とする割合は9割以上とされています。
解説するまでもないのでしょうが、家賃債務保証会社は賃料の滞納などが起きた場合、一定の範囲で賃料等を保証する業務を担っています。
それだけに、家賃債務保証会社では、少なくとも家賃の支払い能力や収入・雇用状況・個人信用情報など、賃料の支払いが可能かどうかについて審査を行います。
それでは、タトゥーの有無を申告させる家賃債務保証会社が存在するのか調査してみると、筆者が確認した限りでは、そのような会社は見当たりませんでした。
これは、タトゥーの有無が家賃の支払い能力や信用情報とは直接結びつかないためだと推測されます。
しかし、賃貸人が懸念するのは、家賃をきちんと支払ってくれるかどうかだけではありません。
無断退去(夜逃げなど)、近隣トラブル、契約違反、原状回復を起因とする諸問題など、賃貸経営で想定しうる諸問題の全てについて、問題が生じないかを心配するのです。
もちろん、タトゥーの有無が賃料の滞納原因となることはありませんし、近隣トラブルの直接的な要因となるとは限りません。
ですが、賃貸オーナーが年配者であるほど「タトゥー=トラブルを起こす可能性が高い」との思い込みが見受けられるのです。
もっとも、必ずしも思い込みであるとは限りません。
筆者の知る限り、タトゥーが入っていることを忌諱する賃貸人の多くが、過去に何らかのトラブルを経験して、それがトラウマとなっているケースは多いからです。
それだけに、賃貸人が物件の利用方法や近隣住民の影響について、一定程度の関心を持つことを直ちに否定することはできないのです。
しかし、関心を持つことと、契約希望者にタトゥーの有無を申告するように義務付けられるかは別の話です。
少なくとも、タトゥーの有無という外見上の特徴を特定し、当然に告知義務を課すことが許されると考えるべきではありません。
そもそも告知義務は、契約の目的や対象物、取引当事者にとって重要な事項について、信義則上、相手方に伝える必要がある場合に課す性質のものです。
筆者が賃貸人に対してこのように説明すると、中には「タトゥーの有無は、契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼす重要な事項じゃないか」と言う方もいましたが、はっきりと申し上げれば、それは賃貸人が重要と感じるだけであって、それが合理的な根拠とみなされるとは限りません。
賃貸人が不安や嫌悪感を抱くことと、告知を義務付けることは全く別の問題なのです。
先述した裁判においては、確かに裁判所が「居住者の中にはタトゥーに畏怖感、あるいは嫌悪感を持つ者がいることは想定される」と言及はしているものの、一概に告知義務が認められるとは言えないと判示しています。
私たちは、なぜ裁判所がそのように判示したのかを、正確に理解する必要があるのです。
不動産業者の役割は、賃貸人や売主の不安を否定することではありません。
その不安が何に起因しているかを整理したうえで、道義的、法的な観点から助言することです。
例えば、「近隣トラブルが心配」「物件の資産価値が損なわれる」と主張したいのなら、それが現実に起こり得るものなのかを具体的に調査したうえで、合理的な判断として示すべきだからです。
確かに、誰に貸すか、あるいは売るかは物件所有者の判断次第です。
そのため、私たちが担うのは排除に向けた協力ではなく、売主や賃貸人のみならず、買主や賃借人も含め、それぞれの立場や価値観に配慮しつつ、双方にとって納得できる取引条件を模索することです。
そのためには多様性の尊重は不可欠ですし、今後は更なる価値観や需要の変化によって、タトゥーのみならずLGBTQIA+や外国籍の方々との取引が増加すると予測されます。
それにより、契約当事者から様々な相談が寄せられてくるでしょう。
その際には、「差別はいけない」との一言で切り捨てるのはよくありません。
感情は感情として一旦は受け止めつつ、実務的には客観的な事実関係や法令に基づき適切な対応を行うのです。
それこそが、不当な入居拒否や取引拒否を生じさせないための、不動産業者に求められる姿勢だと言えるのです。
まとめ
多様性の尊重が社会的な共通認識となりつつある現在、不動産取引を担う私たち媒介業者には、広い見識と冷静な判断力、さらには多くの知見が求められるようになりました。
不動産取引に必須とされる知識のみでは、もはや消費者から選ばれる業者となり得ないのです。
しかし、筆者の知る限りではありますが、不動産業者に勤務する方の多くは体系的に学ぶことを得意とはしていません。
これは、年を重ねるほど不動産業者に求められる業務が増加し、日々忙殺されがちとなることも理由の一つでしょう。
AIの普及により、従来は属人的であった業務の多くが代替できるようになりました。
しかし、AIに仕事を任せるにはプロンプトを正しく作成するための言語能力が不可欠です。
そして、基礎的な知識も欠かせません。
また、AIが示したもっともらしい誤りを見抜くためには相応の知見が必要です。
つまり、豊富な経験則と知見を有している方が利用して初めて、AIは最大限の成果を発揮できるのです。
このように考えれば、AIを活用して業務を効率化し、それによって得られた余剰時間を学びにあてることこそが、私たちには必要なのではないでしょうか。
本稿のテーマはタトゥーを入れている方の対応でしたが、これは数多く存在する知見の一つに過ぎません。
何より大切なのは、様々な事例から学ぼうとする意識なのです。
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