【1時間で十分?】重要事項説明を時間だけで判断してはならない理由

【1時間で十分?】重要事項説明を時間だけで判断してはならない理由

宅地建物取引業法第35条では、「売買や交換、賃貸の各当事者に対して契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士によって法令で定められた事項を記載した書面を交付し、説明をさせなければならない」と定められています。

いわゆる、「重要事項の説明」です。

日頃から不動産取引に携わる私たち媒介業者にとって、重要事項説明書は日常的に取り扱う書類です。

しかし、一般消費者にとっては決して身近なものではありません。

特に、初めて賃貸借契約や売買契約を締結する方にとっては、そもそも、「重要事項の説明がなぜ必要なのか」すら正確に理解できていないでしょう、ましてや、不動産の表示や面積、売主の表示と占有程度ならいざ知らず、登記記録について説明しようとしたら、「そもそも、登記記録って何ですか?」と質問されることさえあるほどです。

さらに、都市計画法や建築基準法に基づく制限、敷地と道路の関係へと説明を続けていけば、一般消費者が初めて耳にするような難解な用語が続きます。

実際、筆者が時間をかけて入念に説明をした後、「不明な点やご理解できない部分はありませんでしたか?」と質問した際には、「聞き慣れない言葉が多すぎて、ほとんど理解できませんでした」と回答されて意気消沈したこともありますし、重要事項説明書に記載されているにもかかわらず「説明された覚えがない」と相談してきた方に、「重要事項説明書には記載されているようですが、どのように説明されましたか」と尋ねても、「何となく説明を受けた記憶はあるものの、具体的な内容まで覚えていない」と回答されることもあります。

重要事項説明

それだけ、一般の方にとって重要事項説明書に記載されている内容は馴染みのない専門用語が多く、理解すること自体が容易ではないのです。

しかし、重要事項説明書に記載される内容は、いわずと知れた重要なものばかりです。

そのため、多くの重要事項説明書の冒頭には、「説明する内容は重要なので、十分理解されるようにお願いします」といった趣旨の注意書きが盛り込まれているのです。

さて前置きはこの程度にして皆さんに質問です。

重要事項の説明は、いったいどの程度の時間をかけるのが適切なのでしょうか。

筆者は、この質問をよく媒介業者に行います。

主観的ではありますが、賃貸借契約で30分以内、売買契約で1時間以内と回答されるケースが多いと感じています。

なかには、売買の重要事項説明であっても「15分程度で終わらせる」と回答した方もいらっしゃるほどです。

そのような短い時間の説明で、問題が生じたことはないのですかと質問したら、「どれだけ時間をかけて説明しても、どうせ大半は理解できないのだから、短くても問題はないでしょう。実際、説明に要する時間が短いからといって、それを原因としたトラブルが発生したことがありません」と返されました。

2021年(令和3年)1月25日に開催された「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会」の第7回会合では、IT重説の約9割で「トラブルはなかった」と報告された一方で、回答者の約19.7%が「説明に要した時間は30分未満」と回答したことについて懸念が示されました。

もちろん、説明を受ける側には理解力や不動産に関する基礎知識の程度、さらには重要性の認識についても違いがあるため、どの程度の時間が最適かについて正解は存在しません。

しかし、「どうせ理解できないだろう」と高を括り重要な説明を端折ってしまう行為には賛同できません。

本稿では、重要事項の説明に要する時間はどの程度が最適か、さらには十分な説明を行わないことが、どれだけのリスクにつながるかについて解説します。

時間の多寡では判断できない

重要事項説明にどの程度の時間をかけるのが適切なのか。

結論から申し上げれば、この問いに対して明確な答えは存在しません。

「30分じゃ短い。少なくとも1時間はかけるべきだ」といった主張は、得てして主観に基づく意見の場合が多いからです。

序章で解説したように、説明を受ける消費者の理解力や不動産に関する基礎知識の程度、重要事項説明に対する認識の違いによって、目的を達するのに必要な時間は異なります。

30分で十分な消費者がいる一方、1時間ではまったく足りない方も存在しているのです。

ちなみに、筆者が重要事項説明に要した最長記録は、2日間、延べ約16時間です。購入者は中国籍の方で、購入者の希望により上海へ出向いての説明でしたが、重要事項説明書に記載された用語の一つひとつに説明を求められたため、これだけの時間を要しました。

これは極端な事例ではあるものの、「訴訟王国」と揶揄されるほど訴訟が身近なアメリカにおいては、日本のように重要事項を一つの説明手続きに集約する仕組みではなく、売主による書面での情報開示(セラーズ・ディスクロージャー)など、複数の手続きによって不動産に関する情報を確認するのが一般的です。

州や取引内容によって制度や慣行に違いがあるものの、日本と比較して契約前の情報確認には、相応の時間と手間が費やされる仕組みになっていると言えるでしょう。

このような事例を見ていけば、「30分以内で終わらせたから問題がある」「1時間以上かけたから、十分な説明をした」などと、時間だけを基準に重要事項説明の適否を判断することはできないことが、理解できるのではないでしょうか。

もちろんアメリカや、諸外国の仕組みをそのまま日本の不動産取引に当てはめることはできません。

しかし、賃貸での快適な住環境の確保や、不動産という高額な財産を取引するにあたっては、契約前に必要な情報を確認したうえで納得してから判断するという慣行は、参考にしてよいでしょう。

それでは、ここで質問です。

私たちは重要事項説明に要する時間を、何を基準にして考えればよいのでしょうか。

筆者は、重要事項説明にかける時間に悩んだら、「重要事項の説明がなぜ義務付けられているのか」という原点に立ち返ればよいと考えています。

そうすれば、求められているのが規定された最低限の内容を漏れなく記載して読み上げることではなく、顧客がその不動産を取得・賃貸するかどうかを判断するために必要な情報を、適切に伝えることこそが本質であると思い出すからです。

確かに、重要事項説明書に記載される内容は、一般消費者にとっては難解でしょう。そのすべてを念入りに説明すれば、どれほどの時間を要するのか想像もつきません。

また、消費者自身が、時間をかけた念入りな説明を求めていない可能性もあるでしょう。

しかし、だからといって説明をおざなりにしてはなりません。

顧客が何を重視しているかを正確に読み取り、その箇所については時間をかけてでも十分に理解してもらえるよう丹念に説明をする。

さらに、簡単に考えてしまうと後になって問題が生じかねない部分については、求められたか否かを問わず入念に説明するといった、いわばメリハリが重要だからです。

例えば、建築基準法上の接道義務を満たしている物件であれば、道路に関する基本的な事項を必要以上に時間をかけて説明する必要はないかもしれません。

ですが、建築基準法上の道路ではあるものの位置指定を受けた私道(建築基準法第42条第1項5号)である場合には、「位置指定道路とは何か、私道であることによって想定される不利益にはどのようなものがあるのか」といった点については、理解が得られるまで説明する必要があるでしょう。

これは、マンションについても同様です。

管理規約で特殊な使用制限が設けられている、ペット飼育に関して細かなルールが存在する、駐車場や専用庭の使用について特筆すべき注意事項がある、現行の管理規約が改正マンション標準管理規約に準拠しておらず、見直す様子が見受けられない、大規模修繕の積立金が明らかに不足しているなどが確認された場合には、重点的に説明する必要があるからです。

このように、重要なのは総体的な時間の長短ではなく、さらにはすべての事項を均等に説明することではありません。

その取引において特に注意すべき事項を見極め、顧客がその意味や影響を理解できるよう説明責任を果たすことなのです。

顧客の理解を得るために要する時間は、私たちの説明の仕方、さらには顧客の理解力によっても変動します。

そのように理解すれば、「30分以内に終わらせる」「1時間を目安にする」といった時間そのものを目標とすることが、あまりに意味がないと気が付かれるでしょう。

むしろ、あらかじめ説明時間を想定し、その後に予定を詰め込んでしまうことが弊害となるのです。

その場合、説明すべき事項を十分に説明しないまま終わらせてしまう危険があるからです。

とはいえ、必要性の乏しい事項を延々と説明する必要はありません。

「何を」「どこまで」「どのように説明するのか」を判断することこそが最重要だからです。

ただし、「説明した」という事実と、「相手に伝わった」という結果は必ずしもイコールではありません。

次章では、この点をさらに掘り下げて考えていきたいと思います。

「説明した=理解された」ではない

不動産取引においては様々なトラブルが発生する可能性があります。

ですが、国土交通大臣指定の「住まいるダイヤル」や国民生活センターに寄せられた相談事例をつぶさに見ていくと、トラブルの大半が契約書の不備や説明不足、契約不適合責任の見落としなどに起因していることが確認できます。

契約書や重要事項説明書から必要な記載が漏れているケースは論外としても、それらの書類に記載がされているにもかかわらず、「聞いていない」「説明を受けなかった」と主張されているケースが散見されるのは、消費者の理解が及んでいなかったからではないでしょうか。

例えば、「契約不適合責任」や「用途地域」「私道負担」などの専門用語を早口で読み上げ、顧客が「はい」と返事をしたからといって、理解が得られたとは断定できません。

確かに、宅地建物取引業法で定められた記載事項に漏れはなく、かつ説明責任を果たしているのですから、業法違反を問われる可能性は低いかもしれません。

しかし、宅地建物取引業法は「購入者等の利益の保護」が目的の一つであり、それを実現するための重要事項の説明が義務とされていることを忘れてはならないのです。

それだけに、消費者が初めて聞くような専門用語を早口で説明し、最後に「何か分からないことはありますか?」と質問したとしても、消費者は「何が分からないのかが分からず」雰囲気に流され、「大丈夫です」と返事をしたような状態では、目的が達せられたとはいえません。

不動産取引,トラブル

しかし、「何が分からないのか分からない」ことを言語化するのは、極めて困難です。

また、私たち媒介業者が消費者の気持ちを慮るにも限界があります。

そのため、「大丈夫です」との返答を拠り所に「必要な説明を終えた」と判断せざるを得ないのが実情です。

しかし、私たち媒介業者がもう一歩踏み込むことで「分からない」を言語化し、さらなる説明をすることは可能です。

そもそも、重要事項の説明は消費者の理解度を試すテストではありません。

購入者等の利益を保護するために、不動産取引のプロフェッショナルである宅地建物取引士によって、消費者が適切な判断を行えるように必要な説明を行うことが、重要事項の説明を実施する本旨なのです。

特に専門用語に関しては、淡々と説明すれば理解できるか、あるいは理解しやすく噛み砕いて説明するかの見極めは不可欠です。

契約当事者の営業担当者が重要事項の説明を行うのであれば、顧客が何を重視しているかを把握している可能性は高いでしょうし、さらには内見時など契約締結前において、ピンポイントで分かりやすく説明を終えている可能性もあります。

それならば、難解な内容であっても淡々と説明するだけで、相応の理解が得られるでしょう。

ですが、事業者によっては営業部門と契約部門を完全に分離している場合もあります。

その場合には、顧客が何を重視しているのか、さらには不動産取引に関する専門用語について、どの程度理解しているのか、内見時などにおいてどのような説明をしてきたのかなどの情報をあらかじめ共有しておかなければ、説明に過不足の生じる可能性が高くなります。

先述したように、重要事項説明書に記載されているすべての事項について、同じ密度で説明する必要はありません。

一般的な事項については簡潔に説明し、その物件特有の問題や、将来的に顧客へ大きな影響を及ぼす可能性がある事項、さらには顧客が特に関心を持っている事項などについては、時間をかけて説明するといったメリハリこそが重要なのです。

その際、特に注意したいのが「専門家にとっては当たり前」という感覚を、消費者に押し付けないことです。

日常的に不動産取引を行っている私たち媒介業者は、毎回同じような内容を説明しているという感覚に陥りがちです。

しかし、「顧客は、この取引が初めてかもしれない」のです。

それだけに、難解な不動産の専門用語の理解に苦しんだ初心を、忘れてはならないのです。

そもそも、「何が分からないのか分からない」顧客は、事前に「分からないことがあったら遠慮なく質問してください」とあらかじめ言われていたとしても、「何を質問すれば良いのか分からない」状態です。

そのため、「こんなことを質問したら恥ずかしいのではないか」と考え、質問をためらう方もいるでしょう。

それだけに重要事項の説明を担当する者は、説明中における顧客の表情や何気ない仕草などから心情を機敏に察し、必要に応じて説明を中断し、

「ここまでの説明で特に分かりにくかったところ、気になったところはありませんか?」

「この部分は今後の利用にも影響する箇所ですから、もう少し詳しく説明をしましょうか?」

「いま説明した事項は、将来的な建て替えの制限に関する内容です。その点はご理解いただけましたか?」

などと確認をするのです。

その際、顧客から「大丈夫です」「問題ありません」などと返答されたからといって、正確に理解されたとは限りません。

ですが、説明する側が一方的に話し続け、顧客が黙って聞いているという事態は避けることができるでしょう。

このように、宅地建物取引士が重要事項の説明を、顧客が契約の判断に必要な情報を確認するためのコミュニケーションであると捉えることで、「分からない部分」を軽減できる可能性が高まるのです。

さらに、筆者は顧客の理解を深めるためのテクニックとして、営業研修時には「対話方式」の採用を推奨しています。

その理由は、対話が双方向に発展しやすく、それによって顧客の理解が格段に深まるからです。

例えば、「再建築不可の物件は不動産市場でどのように評価されると思いますか?」という命題を顧客に対して投げかけたとします。

おそらく顧客は、「使い途のない土地だから、相場よりもかなり評価は落ちるでしょう」と答えるでしょう。

ですが、建築ができなくても駐車場や資材置場などに利用はできますし、隣地を取得して建築基準法の要件を満たすことができれば、再建築が可能となる場合もあります。

そのような考え方もあると説明すれば、「再建築不可=価値がない」という短絡的な思考に陥らず、理解も深まることでしょう。

繰り返しになりますが、これは説明に時間をかけろと言う話ではありません。

大切なのは時間を基準にするのではなく、顧客が適切に判断するために必要な情報を分かりやすい表現で、過不足なく伝えることだからです。

顧客の理解が不足していたことで生じるリスク

本項では不動産実務において、顧客が重要事項説明を受けてなお理解が不十分であった場合、どのような問題が生じるのかを裁判例を通じて見ていきたいと思います。

不動産取引に関する裁判例は数多く確認できるものの、顧客が一方的に「説明されなかった」と主張したからといって、直ちに宅地建物取引業者に法的責任があると判断されるわけではありません。

むしろ、宅地建物取引業法の規定を遵守して調査や説明を行ったケースでは、責任が否定されていることも多いのです。

とはいえ、「規定どおりに説明すれば100%責任が否定される」といった単純なものではありません。

裁判においては、取引当事者の知識や経験、取引の目的や具体的な事情に応じて、契約判断に重大な影響を与えるリスクを合理的に、かつ相手方に理解できる程度に説明したか否かが考慮されるからです。

そもそも、宅地建物取引業法第35条の説明義務については、その前提として説明義務を果たすための調査義務も同時に負うものと解される場合があります。

さらに、同条の規定は「少なくとも次の各号に掲げる事項について」との表現を用いるため、宅地建物取引業者が調査説明すべき範囲を同条各号の事項に限定列挙しているわけではないと解した裁判例は、数多く存在しています。

この点を、私たち媒介業者は正確に理解しておく必要があるのです。

実際、不動産トラブルの裁判例を見ていくと、ある事実が契約当事者にとって、契約締結の判断に重要な影響を与える事項であることを媒介業者が認識し、かつその事実をうかがわせる事情を知っている、もしくは知り得た場合においては、宅地建物取引業法第35条の枠にとどまらず、信義則上(民法第1条第2項)の注意義務に基づき調査・説明義務があると判示したケースが散見されます。

例えば、取引物件が擁壁上に存在している場合、擁壁の構造的安全性や補修費用の正確な見積もりといった専門調査は、土木の専門家ではない宅地建物取引業者へ一律に義務付けられるものではないと考えがちです。

しかし、必要に応じて専門家による診断や調査を行うよう顧客に提案することは可能ですし、擁壁が現行法令に適合しているか(検査済証の有無など)や、外見上の著しい亀裂、変形の有無といった問題の有無程度であれば、宅地建物取引業者でも行政窓口へ確認したり、目視によって確認・判断したりすることは可能です。

そのような調査を実施したか否か、さらには確認されたリスクなどの不確実性を契約当事者に説明をしたか否かで、擁壁を巡る裁判の判決が分かれているのです。

実際、東京地裁の判決(平29・9・12ウエストロージャパン)では、物件の擁壁やスラブの老朽化といった隠れた瑕疵が存在したとして、買主が売主と媒介業者へ説明義務違反に基づく損害賠償を求めたものの、買主は瑕疵の可能性について十分な説明を受けたと認められ、請求が棄却されました。

これは、重要事項説明書に次の内容が記載され、説明がなされていたのが理由の一つです。

  • 建物を建築する場合、地盤補強工事等が必要になる場合がある。同工事等を行う場合は買主の負担と責任において行う。
  • 買主は、敷地と隣接地間に高低差があり、建物を再建築する場合、関係行政庁より擁壁工事・建物基礎工事につき指導を受ける場合があること、さらに南側擁壁には検査済証が発行されていないことを了承のうえ、買い受ける。

いかがでしょうか。

裁判所は、擁壁や敷地について強度・地耐力が不足する可能性が示唆され、さらに南側擁壁については安全性はもとより、法令不適合の瑕疵が存在し得ることの説明を受けると同時に、これらの瑕疵については買主の負担と責任で対処する、いわゆる「責任免除合意」がされたものと認められると判断したのです。

媒介業者の責任が否定されたのは、媒介業者が擁壁の状態を把握すると同時に検査済証の有無を調査し、その内容を漏れ落ちなく重要事項説明書に記載すると同時に説明していたからです。

もっとも、本件では「がけ条例」について争われていませんが、筆者の知る限り、擁壁トラブルの大半は「がけ条例」の説明義務違反が争われていることが多いと感じます。

ご存じかとは思いますが、「がけ条例」という名前の法律が存在するわけではありません。

各自治体が定める建築基準関連条例に含まれる規定の総称に過ぎないため、該当すると思われる場合には、各自治体の建築指導課等で規制の内容を正確に確認し、漏れ落ちなく重要事項説明書に記載すると同時に、説明をすることが肝要です。

続いて、土地取引を終えた4年後、建物を建築しようとしたところ、地中障害物等が発見されその除去と地盤改良費用等の支払いを売主と媒介業者に求めた事件を紹介します(東京地判 平30・3・29ウエストロージャパン)

この事件において被告Y1(売主)は、直接解体工事の内容と実施について確認していないため、地中障害物等の発生を予見することはできなかったと主張しました。

しかし裁判所は、旧建物の解体工事を発注したのはY1であり、かつ取壊し完了後にY1の担当者が立ち会っていること、さらには地盤改良工事に要する費用などを考慮した売買金額ではないことなどを理由に、売主の瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を認めました。

一方で媒介業者については、売買契約締結時点で本件土地が既に更地になっていたこと、売主Y1から物件状況報告書で敷地残存物等がない旨の説明を受けていたことなどから、媒介業者が地中障害物の存在を知り得ていたとはいえず、さらには独自に真偽等について調査すべき義務があったとまでは言えないとして、請求を棄却しました。

一般的な不動産取引においては、物件状況報告書へ正しく記載するよう売主へ促せば、媒介業者の調査義務は果たされたとみなされる傾向にあります。

しかし、それでは万全とはいえません。

告知内容に疑義が生じた場合には、真偽を再確認するのはもちろんのこと、必要に応じて独自の調査を実施する必要が生じる場合もあるからです。

まとめ

本稿の趣旨は、重要事項の説明は、説明に要する時間だけで判断できる性質のものではないことを論証することでした。

そのため、裁判例の紹介も盛り込んで解説を試みたわけですが、重要なのは、宅地建物取引業法第35条に基づく説明すべき範囲が、同条各号に限定されるわけではないという事実を正確に理解することです。

もちろん、宅地建物取引業法第35条で規定された「少なくとも次の各号に掲げる事項」は、いずれも重要なものばかりです。どれ一つとして説明を省略してはなりません。

ですが、顧客にとって何が重要かは別問題です。

例えば、建築基準法第42条第1項第1号の道路、いわゆる道路法上の道路に面している土地なら、接道義務を満たすという点では基本的な要件が確保されています。

もちろん、実際に建築する場合には、建築基準法その他法令上の制限等を確認する必要があるのは言うまでもありません。

そのような土地の重要事項説明において、「建築基準法第42条は道路の定義に関する定めであり、第一項では第1号から第5号までの建築基準法上の道路区分が存在し、それぞれ……」などと事細かに説明しても、買主にとっては余計な情報となる可能性が高いでしょう。

そもそも、そのような説明自体に興味を示さないはずです。

それよりも、顧客が適切に判断するために必要な情報を分かりやすい表現で、過不足なく伝えることを念頭に、将来的に顧客へ大きな影響を及ぼす可能性がある事項、さらには顧客が特に関心を持っている事項などについては時間をかけ、納得が得られるまで説明する姿勢こそが重要なのです。

したがって、「説明してもどうせ理解できないのだから、淡々と読み上げれば十分だ」などと考えてはなりません。

ましてや、重要事項説明の時間をいかに短くするかを競う、あるいは時間を過剰に気にすることは、本来の目的を見失った行為と言わざるを得ません。

重要事項の説明がなぜ義務付けられているのか、私たち媒介業者はその理由を改めて考える必要があるのです。

あわせて読みたい

あなたへのおすすめ