AIをトップ営業の横に置いたら、仲介チーム全体が強くなった話

AIをトップ営業の横に置いたら、仲介チーム全体が強くなった話

最近、面白い取り組みを始めた賃貸仲介会社を見た。

その会社には、継続して高い成約率を残す営業担当者がいる。

そこで、担当者がユーザーと交わしたメールやチャット、接客時の会話、案内後のフォローをAIで整理し、ほかの担当者が接客する際に参考にできる仕組みをつくったのだ。

トップ営業の横にAIを置き、どのような質問をし、どのタイミングで物件を提案し、ユーザーの迷いにどう対応しているのかを蓄積したのである。

経験の浅い担当者もAIが示す接客例を参考にすることで、質問やフォローの質が上がり、チーム全体の営業力が底上げされているという。

優秀な担当者を各店舗に配置することは難しいが、その判断や行動を全社で共有することはできる。

AIの有効な使い方だと感じた。

賃貸仲介のトップ営業が持つ力は、簡単には言語化できない。

物件知識が多いから成約できるとは限らず、話が上手だから決まるわけでもない。

質問の順番、物件を提案するタイミング、迷っているユーザーへの言葉など、細かな判断の積み重ねが成約率の差を生んでいる。

しかし、その多くは本人の経験や感覚の中にあり、会社の資産として残っていない。

店長が新人に「もっとユーザーの話を聞いたほうがよい」と指導しても、具体的に何を聞けばよいのかまでは伝わりにくい。

たとえば、ユーザーから「駅徒歩10分以内、築浅、賃料12万円以下」という条件で問い合わせが入ったとする。

一般的な担当者は条件に該当する物件を検索し、そのまま送るだろう。

一方、トップ営業は「今回の引っ越しで最も改善したいことは何か」「駅距離と部屋の広さではどちらを優先するか」「築浅を希望する理由は設備なのか、清潔感なのか」と質問する。

ユーザーが本当に求めているものが築年数ではなく、独立洗面台や室内の清潔感だと分かれば、築年数が古くてもリノベーションされた物件を提案できる。

希望条件をそのまま検索するのではなく、その理由まで確認しているのだ。

質問と提案の流れをAIで整理すれば、トップ営業の考え方をほかの担当者にも共有できる。

ユーザーから「少し考えます」と言われた場面にも差が表れる。

経験の浅い担当者は「ご連絡をお待ちしています」と会話を終えてしまいがちだ。

しかしトップ営業は、「ほかの物件と比較したいのか、初期費用で迷っているのか」「家族への相談に必要な資料はあるか」と質問する。

「考えます」の裏側には、賃料への不安、もっと良い物件があるのではないかという期待、家族への説明の難しさなど、異なる理由があるからだ。

AIが成約した接客と失注した接客を比較すれば、どのような質問によってユーザーの迷いを具体化しているのかを抽出できる。

案内後のフォローも同様だ。

「本日はありがとうございました。ご検討ください」と送る担当者もいれば、「駅距離を重視するならA物件、室内の快適性ならB物件が候補になる。在宅勤務を考えるとB物件が最も合っていると思う」と整理して送る担当者もいる。

後者が行っているのは物件の再紹介ではなく、ユーザーの判断基準の整理だ。

フォロー文と申込結果をセットで蓄積すれば、AIは反応の良い文章の共通点を見つけられる。

新人の文章に対して、「物件情報の羅列になっている」「ユーザーが重視した条件への言及がない」と改善を促すことも可能だ。

ただし、接客履歴を保存するだけでは営業力は上がらない。

接客内容と営業結果を紐づけることが重要だ。

希望条件、初回返信時間、紹介物件数、来店、案内、申込み、失注理由なども一緒に記録する必要がある。

「成約したから良い接客だった」とも限らない。

人気物件への問い合わせで、ほとんど提案せずに決まった可能性もある。

結果だけでなく、ユーザーの状況と担当者の行動を合わせて見る必要があるのだ。

では、何から始めればよいのだろうか。

最初から高額なシステムを導入する必要はない。

まずは成績が安定している担当者を一人か二人選び、1カ月分のメール、チャット、案内後のフォロー文を集めればよい。

そのうえで、「初回返信で何を確認しているか」「希望条件をどう深掘りしているか」「条件から外れる物件をどう提案しているか」「案内後にユーザーの迷いをどう整理しているか」という観点でAIに分類させる。

さらに、成約したユーザーと失注したユーザーの履歴を比較し、「初回返信の型」「ヒアリングで確認する質問」「案内後のフォロー例」「迷っているユーザーへの切り返し」として整理すれば、営業教育に活用できる。

個人情報への配慮も欠かせない。

メールや通話履歴には、氏名、住所、勤務先、年収、家族構成などが含まれる。

AIに読み込ませる前に利用目的や保存範囲を決め、必要に応じて匿名化することが必要だ。

会社が承認していない生成AIへ、ユーザーとの会話をそのまま入力する運用も避けるべきである。

AI活用の目的は、全員にトップ営業と同じ文章を書かせることではない。

トップ営業がユーザーの何に注目し、何を質問し、どのような根拠で提案を決めているのかを見えるようにすることだ。

これから蓄積すべきなのは物件情報だけではない。

ユーザーがどこで迷い、担当者が何を聞き、どのような提案で意思決定を支えたのかという接客の記録だ。

個人の経験を会社全体で利用できるようになれば、接客履歴は成約率と人材育成を支える重要な経営資産になるのだ。

あわせて読みたい

賃貸仲介で圧倒的売上をたたき出す方法

■賃貸仲介における成約率を倍にする実践テクニック

  • 成約率向上の6つのポイント
  • 成約確度を高めるヒアリング
  • 物件提案時のコツ
  • 成約率を上げる内見方法
  • ”決まる”クロージングのやり方
  • キャンセル防止の注意点

監修者情報

株式会社南総合研究所 代表取締役 南 智仁
あなたへのおすすめ