営業研修だけでは足りない。いま賃貸仲介会社で進む「業務の再設計」

ここ最近、多くの不動産会社を見ていて感じるのは、賃貸仲介における「業務改善」の中身が大きく変わってきたことだ。
以前であれば、賃貸仲介の業績を改善しようとした場合、まず営業力を強化することが中心だった。
反響から来店につなげるための追客方法を見直したり、来店客へのヒアリングや物件提案の方法を改善したり、内見から申込みに至るクロージングを強化したりする。
営業スタッフへの研修を実施し、個人別の成約率を確認しながら、成果の出ていないスタッフを育成していく。
こうした「営業力を高めること」が、賃貸仲介における業務改善の中心だった。
もちろん、現在でも営業力の強化は重要だ。
反響来店率や来店成約率を改善するための研修やロールプレイングは必要であり、営業担当者による成果の差を小さくする取り組みも欠かせない。
しかし最近は、それだけでは十分な改善効果が得られなくなってきている。
むしろ現場で増えているのは、営業担当者個人の能力を高める取り組みよりも、「そもそも現在の業務の流れは適切なのか」というところから見直す取り組みだ。
たとえば、掲載物件ひとつを取ってもそうだ。
どの物件を掲載するのか、誰が物件を選定するのか、いつ掲載するのか、写真やコメントを誰が確認するのか、反響の少ない物件をいつ入れ替えるのか。
以前であれば、それぞれの店舗や担当者の判断に任されていた業務について、あらためてルールを整理する会社が増えている。
同時に、掲載作業そのものを効率化できないか、システム連携やAIによって人が行う作業を減らせないか、といった検討も行われるようになった。
反響対応も同様だ。
単純に「もっと早く返信しよう」という話ではなくなっている。
メール、電話、SMS、LINEなど、どのチャネルを使うのか。
チャットツールを導入するのであれば、どのサービスを選定するのか。
自動返信と有人対応をどこで切り替えるのか。
営業時間外の反響をどう処理するのか。
翌朝まで待つのか、AIや自動応答を活用するのか。
さらに、誰がどのタイミングで対応するのかまで含めて設計しなければならない。
つまり「反響対応力を高める」という一言では済まず、その前後に存在する業務そのものを分解し、再構築する必要が出てきているのだ。
営業についても同じことが起きている。
営業スタッフの接客力を高めるだけではなく、そもそもの営業時間は現在の顧客行動に合っているのか、人員配置は適切なのか、店舗に何人配置する必要があるのか、オンライン接客をどこまで取り入れるのか、といったところまで議論が及ぶ。
営業担当者の能力という「個人」の問題から、組織や業務設計という「仕組み」の問題へと、改善対象が広がっているのである。
そのため最近の賃貸仲介の業務改善では、まず業務全体を棚卸しすることが重要になっている。
物件情報を取得し、掲載し、反響を受け、顧客に対応し、来店やオンライン接客につなげ、物件を提案し、内見し、申込みを受け、契約する。
この一連の流れを細かく分解していく。
そして、それぞれの業務の「結節点」を確認する。
掲載から反響対応への受け渡しはスムーズなのか。
反響対応から営業担当者への引き継ぎに時間がかかっていないか。
営業担当者が接客以外の事務作業に時間を取られていないか。
こうした業務と業務の間に存在するボトルネックを特定し、一つずつ解消していくことが求められている。
興味深いのは、こうした見直しの頻度も大きく変化していることだ。
以前であれば、業務フローや使用するシステム、店舗運営のルールを変更するのは、年に一度程度だった会社も多い。
期初に幹部陣が集まり、「今年はこのやり方でいこう」と方針を決め、そのルールを一年間運用する。
しかし現在は、このスピード感では環境変化についていけなくなっている。
新しいAIサービスが登場すれば、すぐに業務への活用可能性を検討する。
反響数が落ちれば、掲載物件、掲載媒体、反響対応方法を確認する。
来店率が下がれば、返信内容だけではなく、対応時間やチャネル、人員配置まで見直す。
新しいチャットツールや自動化サービスが登場すれば、現在利用しているシステムとの比較を行う。
課題の発見、解決策の検討、実行、検証というサイクルが、年単位ではなく、月単位、場合によっては週単位で回るようになってきた。
この背景には、賃貸仲介を取り巻く環境そのものの変化があるのだろう。
AIの台頭によって、物件検索や問い合わせ対応、物件提案など、これまで人が担ってきた業務の一部をテクノロジーが代替できるようになりつつある。
一方で、都心部を中心に空室が減少すれば、「大量に物件を掲載して、大量に反響を獲得し、営業力で成約する」という従来型のモデル自体も見直さなければならない。
もしかすると今起きているのは、単なる「賃貸仲介業務の効率化」ではないのかもしれない。
AIや各種ツールが急速に進化し、市場環境や顧客行動も変化するなかで、「賃貸仲介会社は何をする会社なのか」「人が担当すべき業務は何なのか」というところから、現場レベルで再定義され始めているように感じる。
だからこそ、これからの賃貸仲介会社に必要なのは、営業スタッフだけを鍛えることではない。
掲載、反響対応、追客、接客、内見、申込み、契約という一連の業務をひとつの流れとして捉え、それぞれの結節点にあるボトルネックを継続的に発見し、ツール、ルール、人員配置、営業時間、役割分担まで含めて改善していくことだ。
賃貸仲介の業務改善は、「営業力をどう高めるか」という時代から、「仲介業務そのものをどう設計し直すか」という段階に入っているのだと思う。
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