【不動産媒介業者の新戦略】デジタル公正証書を駆使した「次世代資産承継コンサル」の全貌

不動産の媒介業者は、一般的な仕事以上に公的・法的な文書に携わる機会が多い職種です。
不動産売買契約書や賃貸借契約書はもとより、重要事項説明書の作成に必要不可欠な登記事項証明書や法第14条地図、建築概要書(写し)の取得など、様々な公的証明書類を取り扱う必要があります。
それだけではありません。
少子高齢化や不動産価格の2極化の影響により増加傾向にある管理不全空家や相続問題を解決するため、近年、媒介業者はこれまで以上に高いスキルを要した、いわばコンサルティングとしての役割が求められているのです。

相続を原因とした空家の発生は、エリアにおける需要が少なく建物も古いからと思われがちですが、むしろ、遺産分割協議が整わないなど故人の相続対策の不備や、相続人間の利害関係に起因することが多いのです。

これまでの媒介業者は、遺産分割協議が終了した後で相続人から連絡を受け、売却活動を始めるのが一般的でした。
もっとも、現在においてもその傾向自体に大きな変化はないでしょう。ですが、そのような受け身の姿勢では空家の増加を抑制することはできません。
そのため、国土交通省は相続が発生する前の早い段階から媒介業者が積極的に介入することで、空家の増加を抑制してくれることを願っているのです。
とはいえ、相続対策の橋頭堡は弁護士や司法書士などの専門士業です。
そのような士業の頭越しで、相続対策の相談に応じるのは気が引けるかもしれません。
ですが、私たちは不動産取引に関してはプロフェッショナルです。各専門士業もこの分野においては、必ずしも実務知識が潤沢であるとは限りません。
したがって、それぞれの分野におけるプロフェッショナルがチームを組み、一丸となって空家増加の防止に取り組む姿勢が重要となるのです。
その意味においては、とっかかりとなる媒介業者が果たすべき役割は重大です。
特に遺言書については、適切なアドバイスを行なえるように理論武装しておく必要があるのです。
ご存じのとおり、遺言書には「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3種類があります。
自筆証書や秘密証書は方式を間違えると無効になるため、専門的な知識が不可欠であり、かつ開封するには家庭裁判所の検認が必要です。
したがって、内容についての法的な適合性や確実性を求めるのなら、公正証書による遺言が理想と言えるのです。
ですが、これまでは作成に際し、被相続人自らが公証人役場へ出向き、公証人へ申述する必要性がありました。
寝たきりであるなど、被相続人の健康状態などによっては、利用が困難だったのです。
しかし、「民事関係手続き等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法第53号)」によって公証人法の一部が改正され、公正証書に係る一連の手続きが令和7年10月1日から、全面的にデジタル化されているのです。
この事実を、多くの媒介業者はまだ十分に認識していません。
したがって、この優れた制度の利用・申請方法、費用などについて理解が及んでいないのです。
本稿では、積極的な活用が推奨される公正証書のデジタル化について解説します。
なぜ媒介業者に「遺言の知識」が必要なのか
私たち媒介業者の主戦場は、これまで「顕在化したニーズ」への対応でした。
つまり、売りたい、貸したいという具体的な意思表示があってから初めて、業務がスタートとしていたのです。
しかし、同業他社の増加、さらには管理不全空家の急増という社会的課題や媒介業者に求められる役割の拡大によって、従来の「待ち」に徹した姿勢は通用しなくなったのです。

特に、空家問題の多くは相続が発生した時点において、「出口戦略」が塞がっていることに起因します。
遺産分割協議が紛糾して決着がつかないまま時間が経過し、相続税の申告時期が目前に迫り、取り敢えず共有名義で登記するのです。
多くの場合、これが「負動産化」への入口となります。
単独所有ではないため管理が疎かとなり、建物の老朽化がより一層、進行していく可能性が高まるからです。
こうした事例は皆さんもこれまで、数多く目にしてきたのではないでしょうか。
どれだけ交渉力に秀で、適正な査定書を持参して説得を試みても、一度拗れた人間感情を修復し、物件を市場に出すことは容易な作業ではありません。
このような事態を防止するために有効なのが、相続発生前の「予防的介入」です。
そして、それを後押しする手段の一つが「遺言」なのです。
「相続に関する事前相談、あるいは予防的介入は弁護士や司法書士の業務ではないか」と思われる方は多いでしょう。
確かに、有償で法的に有効な書類作成を請け負う、あるいはその前提となる相談業務を担えるのは、彼ら専門士業の独占業務です。
しかし、遺言に記載する内容、とりわけ「どの不動産を誰に相続させ、将来的にどう活用・処分させるか」という全体像を描けるのは、地域の相場観と取引実務に精通した私たち不動産取引のプロに他なりません。
例えば、特定の不動産を特定の1人に相続させる場合、それ以外の相続人に対する代償金の原資をどうするのか、あるいは他の相続人に別の不動産を相続させるつもりなら、資産価値の均衡性は取れているかなどを冷静に判断し、具体的な判断基準を提示できるのは日々マーケットと対峙している不動産実務者だけだからです。
士業は法的な確実性を担保できますが、「出口戦略」を得手とはしていません。
したがって、媒介業者が遺言を始めとする相続関連法全般に関する理論武装を行い、相続対策のフロントエンドに立つことで、初めて専門士業と連携しながら具体的な空家防止策を被相続人に提示できるのです。
特に、遺言書の正確性や安全性、法的整合性において公正証書遺言に勝るものはないのですから、令和7年10月からスタートした公正証書のデジタル化は、私たちこそが正確に理解したうえで積極的に活用する必要があるのです。
これにより、遺言に関する実務の難易度を、劇的に下げることが可能になるのです。
デジタル公正証書(電子公証)制度の全容
令和7年10月1日から施行された改正公証人法により、日本の公証人制度は大きな転換期を迎えました。
これまで「対面・紙・実印」を大原則としてきた公正証書の作成手続きが、デジタル技術の活用によって劇的に効率化されたのです。
本章では、その仕組みと実務上の変更点について詳述していきます。
1.デジタル完結を可能にした「Web会議」と「電子署名」
最大の変更点は、公証人と嘱託人(遺言者等)が実際に対面することなく、Web会議(Teams)を利用して本人確認や嘱託内容の申述を行えるようになったことです。
これまでも嘱託人が高齢や病気であるなど外出が困難な場合には、公証人自らが自宅や病院へ「出張」してくれる制度は存在していました。
しかし、公証人手数料が50%加算される、さらには公証人の日当(1日あたり1~2万円)や交通費の実費が加算されるなど、費用が高くなるといった問題があったのです。
また、公証人の予定が優先されるため緊急対応は難しく、さらには管轄区内でも、地理的に移動が困難な場合には受け付けてもらえない可能性もありました。
ですが、新たにWeb会議(Teams)によるリモートでの作成が追加されたことで、従来存在していた多くの問題が払拭できるようになったのです。
本人確認の要となるのがマイナンバーカード等(自動車運転免許証など、顔写真つきの公的証明書類)による個人認証であるのは従来通りですが、電子署名の導入、さらには各嘱託人や証人が公証人役場へ出頭するのは妨げられず、他の嘱託人と同席、あるいは任意の場所から参加するなど、柔軟性をもって対応可能となった点が、大きな改正点といえるでしょう。
本章では、それらを踏まえたうえで相談・申込から作成完了までのプロセスを解説します。
①相談・申込
いきなり申請できるわけではありません。
まずは、できるだけ早い時期にリモート方式利用の希望を公証人に伝え相談と申込みを行い、調整を行うことが望ましいとされているからです。
公証人への連絡は、電話あるいはメールのどちらでも問題ありません。

相談を受け付けた公証人は、希望に応じて案文を作成したうえで嘱託人に提示し、合意を得たうえで案文を確定しリモート対応当日に臨みます。
ただし、申請が全て認められるわけではありません。
原則として次の要件全てが満たされている必要があるからです。
A.嘱託人又は嘱託代理人からの申出であること
B.他の嘱託人の異議がないこと:ただし、通訳人や立会人については他の嘱託人による異議の有無は問われません。これは、支援や立会いが嘱託人の意向に基づくためです。
C.公証人が相当と認めること:
嘱託人の真意について確認が困難であるなど、公正証書の作成に応じた場合における紛争予防機能の観点から、相当ではないと判断された場合は申請が認められません。
具体的には、次のような必要性と許容性を総合的に勘案したうえで、事案ごと個別に判断されます。
- 心身の状況や就業状況(海外赴任など)
- 離島など、地理的事情による困難性
- DVなど嘱託人相互関係による同席困難性
- 列席予定者が多数存在するため、日程調整が困難である
- 感染症予防等による制限
- 事後的に紛争となる蓋然性の有無や程度
- 嘱託の内容
D.法令上許容されていること:例えば、電磁的記録が困難な資料の添付を要する場合、あるいは個人が事業用融資の保証人となる際、保証の意思とリスクを理解していることを公証人に宣明する「保証意思宣明公正証書」の作成は、対象外とされます。
また、従来との大きな違いは、署名や押印が電子サインに変わったことです。
ご存じかと思いますが、電子サインとは、タッチペンと感知式ディスプレイまたはペンタブレットを用いて記載した氏名をPDFに埋め込む方式です。

そのため、リモート参加や電子サイン(電子契約)に対応するためにはあらかじめ、必要機材の準備が不可欠です。

また、デジタル公正証書に関して、スマートフォンやタブレットでも問題ないと解説されているサイトを見かけますが、画面共有できない状態での作業は好ましくありません。
日本公証人連合会が「不可」としている点に留意する必要があるでしょう。
②事前準備(作成前日まで)
相談・調整の項であらかた説明してしまいましたが、案文の確定や機材等の準備を終えてから、初めて正式なリモート利用申出と日程調整が行われます。
日程が確定されれば、公証人からWeb会議の招待メールが送付されてきます。
③作成当日
作成当日は、次の流れで進められます。

参加者は、事前に送付されてきた公証人からの招待メールを経由してWeb会議(Teams)に参加します。
当然のことながら、Teamsアプリをダウンロードしていなければシステムを利用できないため、当日になって慌てないよう準備が不可欠です。
Web会議の参加については特筆すべき点はありませんが、公証人が音声・映像確認を行った際、状況に応じて「Webカメラで室内状況を撮影」するように求めてくる場合があります。
利害関係のない人間が複数モニターを覗き込んでいる、あるいはWeb会議にふさわしくない場所での参加は注意や是正を促されますから、落ち着ける静かな環境で臨む配慮は必要です。

音声・映像確認が終了したら本人確認へと進みます。
これは、モニターへ写真付身分証明書を提示することで行われますが、その画像はキャプチャして保存されます。
これらが終了したら、次いで意思確認、案文確認、原本用PDF作成へと進みます。

まず共有画面で証書案を開き、これを公証人が読み上げます。
参加者は自分のPC画面に表示された証書案を閲覧しながら、公証人が読み上げる案文を確認します。
次いで公証人は読み上げ終了後、列席者にその内容でよいかを確認します。

確認が取れると公証人は、証書案から原本用PDFの作成に入るため、その間しばらく待つ必要があります。
原本用PDFの作成が終了したら、列席者による電子サインへと進みます。

まず公証人は、第一順位列席者に電子サイン依頼メールを送付します。
次いで公証人からメールが届いたか確認されますから、求めに応じメールを開き「確認して署名」をクリックします。

証書案が表示されたら第一順位列席者は、画面上部または下部のアイコンから「コンテンツを共有」を選択し、画面全体タブをクリックして列席者が画像を共有できる状態にします。
そして公証人の指示に従い電子サインを行うのです。この状況は、画面共有によって列席者全員に確認されます。

電磁的方式による不動産の売買・賃貸契約との大きな違いは、電子サインの画像共有が義務とされている点だと言えるでしょう。
電子サインが終了したら送信し、第一順位列席者の作業は終了です。
続いて後順位列席者に順次メール送付とサインを促されますから、公証人の指示に基づき対応していきます。
全列席者による署名が全て終了したら、最後に公証人が画面共有した状態で電子サインと署名を行います。
これを登録したら、完成原本の作成手続きは終了です。
④公正証書作成後の手続き
全ての手続が終了し、公証人が電子正本・電子謄本の作成を終えれば、それをダイレクトクラウドのダウンロード用サイトにアップロードします。
電子正本・電子謄本の交付を受ける列席者に対して、ダウンロードサイトのURLを記載したメールが配信されます。
公証人は、システムから送信されたアクセス用パスワードをTeamsのチャットに貼り付けて嘱託人に通知します。
嘱託人はメールで通知されたURLをクリックし、チャットに貼り付けられたパスワードを利用し電子正本・電子謄本のダウンロードを行い、受領メールを公証人に送付します。
これで一連の手続きは終了です。
もっとも、電磁的記録が原本であるため電子正本や電子謄本、さらには従来どおりの紙正本や紙謄本で発行してもらうことも可能です。
デジタル化がもたらすメリットと留意点
第二章で詳述した「デジタル公正証書」の実務フローを正確に理解していれば、これまで「紙と対面」の制約下では突破できなかった壁を、容易に乗り越えることが可能となりました。
ですが、オンライン重説や電磁的売買契約と同様、この方式にはメリットのみならずデメリットも存在します。
本章ではメリットとデメリット、さらには採用時の注意点についてそれぞれ解説します。
1.グローバル化の達成と調整コストの削減
相続対策において最大の障壁の一つが、利害関係人の日程調整と移動距離です。
例えば、利害関係人の一人が海外赴任している場合は、一堂に会するための日程調整も容易ではありません。
原則として、公正証書遺言の作成に相続人による許可や同意は必要ありません。
ですが、事前に調整をしておかなければ、遺留分を求め訴訟に発展する可能性もあります。
さらに、事理弁識能力に問題があるにもかかわらず、相続人が恣意的に誘導して遺言書を作成したと疑われる可能性もあるでしょう。
公正証書遺言の証人には、推定される相続人や受遺者、これらの配偶者および直系血族はなることはできませんが、これら利害関係者から信頼される証人が一連の手続きに関与することで、後日紛争を未然に防止できる可能性は高まります。
私たち媒介業者は利害関係が発生しない限り、証人となれる要件を満たしています。
つまり、関係者からの信頼を得ることで紛争防止に貢献できるのです。
従来であれば公証人役場へ出向く必要があり、労力過多となる場合もありましたが、リモート方式であればオフィスや出先からも参加できるため、柔軟な対応が可能となります。
このように、場所や時間の制約を受けず貢献できるメリットは計り知れません。
2.施設入居や病床にある顧客への柔軟な対応
被相続人が施設や病院にいる場合、外部の人間の立ち入り制限や、公証人の「出張」を依頼することの心理的・経済的負担がネックとなることが多々ありました。
前章で詳述したとおり、事前準備は不可欠であるものの本制度は、本人確認書類の提示と電子サインだけで完結するため、私たち媒介業者がサポートすれば、ITに不慣れな高齢者であってもリラックスした状態で不安を覚えず手続きに臨めます。
この「心理的なハードルの低さ」こそが本制度の肝であり、媒介業者が信頼を得て不動産の売買や管理を依頼される足がかりにもなるのです。
3.コスト抑制
第二章で触れた通り、公証人の出張は手数料が50%加算されるうえ、日当(1日2万円、4時間以内であれば1万円)や交通費(実費)が発生します。
一概には言えませんが、遺産総額1億円以内の作成手数料は、6万円未満が一つの目安となります。
ですが、出張依頼をすることで10万円以上の出費を覚悟する必要があるのです。
なお、出張は1回で完結しますが、証書案が事前に確定され、それが嘱託人や公証人と共有済みであることが前提です。
一方で、デジタル公正証書であれば特別な費用は加算されず、かつ郵送費などが削減できる分だけ費用も抑制できるのです。
4.最先端の媒介業者であるとの信頼醸成
弁護士や司法書士などの専門士業なら、公正証書の電子化を周知しているでしょうが、不動産の媒介業者にはそれほど浸透していないと推察されます。
無論、「電子化されたらしい」といった程度の認識はあるのでしょうが、相談者から「具体的にどのように手続きすれば良いのか」と質問された場合、答えに窮する方が多いのではないでしょうか。
このように、多くの媒介業者が具体的な申請・手続き方法を知らず、いまだに「公正証書の作成には公証人役場へ出頭する必要がある」と思い込んでいる状態なのですから、いち早くデジタル制度に習熟し、具体的な提案をすることによって他社との差別化を図れるのです。
これにより、嘱託人や利害関係者は物件取引だけを扱う単なる媒介業者という認識を改め、幅広い法律実務や各種制度に精通した「真の専門家」と見なされる可能性も高まるのです。
デジタル公正証書の説明やサポートのみで、私たちが利益を得られることは稀かもしれません。
しかし、最新の法制度を武器に顧客の負担を劇的に軽減させる。
これこそが、他社との媒介獲得競争において圧倒的な優位性を築く源泉になるでしょう。
デジタル公正証書を「武器」にするための行動指針
本項では、改正公証人法に基づき創設された「デジタル公正証書」の全容と、それが媒介実務にもたらす劇的な変容について解説してきました。
最終章では、私たち媒介業者がこの新制度を単なる知識で終わらせず、実際の「武器」として使いこなすために必要な指針を提言させていただきます。
1.「不動産取引法務のプロ」への脱皮と情報発信
媒介業者を「法務のプロ」と表現して良いかについては、おそらく賛否あることでしょう。
確かに、宅地建物取引業法に基づく業務に従事するため、権利関係や法令上の制限など、取引に必要不可欠な法令には精通し、日々調査や説明を行っています。
ですが、その専門性は不動産取引に限定されているからです。
したがって、「弁護士法に抵触する法的アドバイスはできないのだから、『法務のプロ』を自称するのは問題がある」と思われても当然です。
しかし、「不動産取引法務のプロ」であることは間違いありません。
何より、管轄省である国土交通省は、宅地建物取引業者に対してより高度な専門性を駆使して、増加を続ける管理不全空家や土地の減少に寄与することを切望しているからです。
さらに、不動産取引の現場において顧客は、融資、税務、法の規定は言うに及ばず、法令解釈まで含め媒介業者に相談しつつ、「この担当者に資産を安心してまかせられるか」と常に見ているのです。
特に、生前対策や相続問題の解消は必然性や緊急性の高い案件ですから、デジタル公正証書の詳細や申請方法、公証人との具体的なやり取りまで踏み込み語ることで、他社との圧倒的な情報格差を実現できます。
しかし、ただ理解を深めるだけでは宝の持ち腐れです。
自社HPのブログやSNS、あるいは既存顧客に対するニュースレターなどを通じて、「公証人役場へ出頭しなくても公正証書を作れる時代になった」という事実を、実務的にディテールとともに発信することで、「不動産取引法務のプロ」としての認知度が広がっていくことでしょう。
2.相談の「入口」を広げる
本稿では便宜的に、公正証書遺言の作成を念頭に解説を進めてきましたが、公正証書は金銭貸借、離婚など幅広い分野において、私的な法律紛争を未然に防止し、関係性の明確化、安定化を図る目的で創設された制度です。
約束を反故にされた場合には、裁判を経ず強制執行が可能になるなど、確実な証拠能力を持ち、かつ偽造や紛失リスクも回避できる書面なのです。
ですが法務省管轄の役所というイメージが先行しているからでしょうか、一般の方には敷居が高く感じられるようです。
ですが、それ以上に顧客が嫌うのは「手間」と「時間の浪費」そして「不透明なコスト」です。
しかし、デジタル公正証書制度を利用すれば、公証人役場への出頭を要さず、さらには公的制度ゆえの明白かつ安価な費用負担で、自宅や出先で手続きを完了させることができるのです。
これまで、「面倒だから」「手続きが難しそうだから」と認識不足ゆえに敬遠し対策を先延ばしにしていた層に対してデジタル化という切り口は、業務を推進するための強力な「呼び水」となるでしょう。
3.デジタル環境の整備とデモンストレーション
日頃からWeb会議システムの利用頻度が高い顧客なら心配する必要もないのでしょうが、IT知識に精通していない方は、アクセスに要する操作だけでも戸惑いや不安を覚えるものです。
このような顧客に安心感を与えるためには、媒介業者が率先して「デジタル化の先導役」になる必要があります。
公証人から指定されるTeamsの環境設定や画面共有の手順を、あらかじめシミュレーションしておくことで安心感が得られるでしょう。
また、嘱託人の求めに応じて、作成当日同席してサポートする必要があるかもしれません。
その場合には、公証人や他の嘱託人、証人から事前に許可を得ておくことが必要です。
4.証人としてのコミットメント
第三章でも触れた通り、私たち媒介業者は利害関係のない限り証人としての適格性を有しています。
デジタル公正証書の作成プロセスにおいて、単なる解説者や傍観者となるのではなく、証人として正当に手続きに関与し、かつデジタル操作のサポートまでを担う。
この「デジタル立ち会い」のスタイルこそが、これからの時代に勝ち続ける媒介業者の、新しいコンサルティング営業の形になっていくことでしょう。
まとめ
本稿で解説したデジタル公正証書の普及は、日本の相続や不動産実務を大きく変えようとしています。
さらに、近年顕著となった、外国人による日本の不動産購入件数の増加を鑑みれば、もはやIT重説や電磁的売買契約は必然であり、くわえて私人間のトラブルを未然に防止できるデジタル公正証書の利用は不可欠な時代が到来しているとさえ言えるでしょう。
ですが、現実にはIT重説や電磁的売買契約ですら、広く浸透しているとは言えません。
積極的に活用しているのは、先見性のある一部の業者に限られているからです。
しかし、テクノロジーは確実に進化しており、私たちは時代に置き去りとされないようにこれまで培ってきた知見と新たな進化を融合させ、顧客に対してより優しく利便性も高い、くわえてコストやタイムパフォーマンスに優れた提案を行う必要があるのです。
この観点に基づけば、より確実な資産継承の形を提案できるデジタル公正証書という「武器」は、私たちをさらなる高みへと導いてくれる一助となるでしょう。

