【令和8年10月施行】リースバック取引に関するガイドラインと宅建業者に求められる対応

【令和8年10月施行】リースバック取引に関するガイドラインと宅建業者に求められる対応

物件を売却した後も、賃貸として居住を続けられるリースバックは、住み替えの円滑化や老後の資金需要への対応策として注目される一方で、高齢者を狙った「押し買い」が確認されるほか、賃料・契約期間・違約金等に関する相談件数が高水準で推移しています。

実際、全国の消費者生活センター等に寄せられた住宅のリースバック契約に関する相談件数は、2019年の24件から2024年には239件と、およそ10倍近くにまで増加しています。

加えて、相談を寄せた契約当事者の約7割が、70歳以上だとも報告されています。

不動産会社にとってリースバック事業は、買い取った瞬間から空室リスクが生じることなく賃貸運用が可能となり、さらには長期入居に期待できる点がまず挙げられます。

さらに、賃料は近隣相場と比較して割高に設定することが可能で、また、所有者が売却後も物件を引き渡さず、賃貸物件として居住を続けるため市場価格の7~8割程度で買い取ることができる可能性がある点もメリットとなり得ます。

この点については、不動産業者が過剰な利益を得ているとの批判を受けることがあります。

しかし、買取には資金が必要ですし、それを金融機関からの借入に頼れば利息が発生します。

さらに、所有者が入居中は転売して利益を得ることができないため、不動産業者は相応のリスクを覚悟して買取を行っているのです。

したがって、賃料設定や買取価格に関しては、所有者に対してある程度の負担を求めることは、一定の合理性があると言えるでしょう。

物件所有者にとっても、売却による資金を手にしたうえで、賃貸物件として従来どおり居住を続けられるメリットがあるのですから、ある程度のデメリットは享受する必要があると考えられるからです。

しかし、明らかな搾取行為が許容されるはずもなく、特に、高齢者の判断能力や認知機能の低下に乗じて利益を得るような行為が容認されるはずもありません。

つまり、程度の問題です。

政府は、リースバックの適切な利用が空家問題の解決に寄与するとの考えを示す一方で、一部のリースバック業者による悪質な対応を牽制するため、令和4年6月24日に国土交通省を通じ、消費者向けに「住宅のリースバックに関するガイドブック」を公表しました。

さらに令和8年7月28日には、『住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』、いわゆる「リースバックに関するガイドライン」を策定し、同年10月1日から施行することとしたのです。

これにより、宅地建物取引業法に基づく信義誠実の原則、契約事項に関する書面の交付義務のほか、事実を故意に告げないことの禁止、拒絶後の勧誘継続、長時間に及ぶ勧誘などの「押し買い」に該当し得る禁止行為について、その考え方が具体的に示されたのです。

これまでは、リースバックを宅地建物取引業法の規制対象となる取引とみなせるか否かについて、様々な意見が存在していました。

これは、企業が自社で不動産を買い取る(買主となる)行為自体は、直ちに宅地建物取引業に該当するとは限らず、さらに、取得した自社保有物件を賃貸として貸し出す行為についても、宅地建物取引業法の定義(売買・交換・媒介・代理)には含まれていないためです。

実際、国土交通省は近年増加している「不動産有料引取事業者」について、宅地建物取引業法の規制が直接及ばない場合があると整理しています。

しかし一方で、リースバック事業は、所有者から物件を買い取った後に賃貸として所有者を引き続き居住させつつ、将来的な買戻しや第三者への転売を視野に運用されています。

このように、「転売等を目的として不動産の買取・売買を不特定多数に対して反復継続して行う」以上、取引全体として宅地建物取引業法の規制対象になるとの見解を、国土交通省は「リースバックに関するガイドライン」の策定を通じて明確に示したのです。

これにより、リースバックに関する一連の取引について、宅地建物取引業法の解釈が明確に示されました。

したがって、今後は「リースバックに関するガイドライン」に抵触する契約や勧誘行為などを行った場合、宅地建物取引業法に違反したとして行政処分や罰則の対象となり得ることが、より明確に示されたと言えるでしょう。

本稿では、「リースバックに関するガイドライン」の内容を確認しながら、具体的にどのような勧誘行為や契約内容が問題となるのか、実務上の留意点も交えて詳しく解説していきます。

なぜリースバック取引で問題が発生しているのか

リースバックは、所有する住宅を売却してまとまった資金を得ながら、その後も賃貸借契約によって住み慣れた自宅に住み続けられる仕組みです。

特に、高齢者にとっては、住宅ローンの返済や固定資産税を始めとする公租公課の負担などを解消しつつ、生活環境を変えることなく資金を確保できるという点で、大きなメリットがあります。

さらに、相続対策や空家発生の防止についても効果を発揮します。

しかし一方で、リースバックは通常の不動産売買とは異なる特徴を有しています。

この特徴を物件所有者が十分に理解していない、あるいはリースバック業者による説明が適切に行われていないことによって、様々な問題が発生しているのです。

例えば、所有者の中には「売却した後も自宅に住み続けられる」という点だけに着目し、所有権を失うことが何を意味するのか、それによりどのような不利益が発生するのかについて正確に理解していないケースが見受けられます。

さらに、賃貸契約が終了する可能性や借地借家法に基づく賃料増額請求が認められる可能性について、それらを拒むことがいかに困難であるか理解が及んでいない場合もあるのです。

また、「将来的には買い戻せる」と説明されたものの、実際には買戻し条件が明確に定められていなかったり、想定以上に高額な買戻し価格が設定されていたりすることで、トラブルに発展しているケースも見受けられます。

これらは、不動産売買契約書や建物賃貸借契約書が法令に基づき作成され、かつ適切な説明責任を果たすと同時に、不適切な勧誘行為(押し買いなど)を行われなければ防げる問題です。

しかし、現実には一部のリースバック業者がこれらの責任を軽視し、強引な契約を締結することで問題を生じさせているのです。

不動産会社が事業者である以上、適正な利益を得るのは当然です。

ですが、その前提として、売主となる所有者が契約内容を正しく理解し、納得したうえで意思決定を行える環境を整える必要があります。

だからこそ、国土交通省はリースバック取引について、単なる契約自由の問題として扱うのではなく、宅地建物取引業法に基づく説明責任や勧誘規制との関係を整理し、具体的な考え方を示す必要があると判断したのです。

次章では、「リースバックに関するガイドライン」において示された宅地建物取引業者の具体的な対応や、特に注意すべき禁止行為について詳しく解説します。

ガイドラインのポイント

令和8年10月1日に施行される『住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』では、リースバック取引における宅地建物取引業者に対する法令遵守の徹底と取引の適正化を図るため、宅地建物取引業法の規定に係る解釈の明確化が図られています。

対象は、リースバック取引のうち、相手方が居住の用に供している物件であり、かつ売買とその賃貸借が契約関係として不可分一体となっており、買主が宅地建物取引業者である場合、もしくは媒介又は代理に宅地建物取引業者が関与している場合とされています。

つまり、直接買取を行った場合のみならず、媒介や代理であってもガイドラインの適用を受けるということです。

遵守が求められるのは、宅地建物取引業法で規定された以下の条文です。

    1.第31条関係

    宅地建物取引業法第31条第1項では、宅地建物取引業者の業務処理の原則として、「取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない」、いわゆる信義・誠実の原則が定められています。

    これは、相手方の信頼を裏切ることがないように誠意をもって業務を行うことを促す規定ですが、単に誠実な説明責任を果たすだけではなく、「押し買い」など、信義に反する行為を規制する意味もあります。

    2.第47条関係

    宅地建物取引業法第47条では、宅地建物取引業者が業務に関して取引の相手方等に行ってはならない禁止事項が、次のとおり具体的に規定されています。

    ①第一項:不実告知の禁止

    求められているのは、宅地建物取引業法第35条第1項各号又は第2項各号、第35条の2各号、第37条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項のほか、宅地若しくは建物の所在、規模、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件、取引の関係者の資力又は信用に関する事項であって、相手方の判断に重要な影響を及ぼすものなどについて、適切に説明を行うことです。

    具体例

    (売買に関する事項)

    • 手付金その他契約の解除条件に関する事項
    • 契約の解除に関する事項
    • 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
    • 買戻し特約の有無及びその内容その他、相手方が知らない場合に不利益となる事項

    (賃貸借に関する事項)

    • 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容
    • 借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的
    • 契約期間及び契約の更新に関する事項
    • 宅建業者が第三者に物件を譲渡する可能性及びその場合の賃貸借関係への影響
    • 修繕費用の負担区分その他の相手方等が知らない場合に不利益となりうる事項

    これらは、あくまでも一例に過ぎません。

    取引の判断に影響を及ぼす事項については、業務上一般に要求される通常の注意を用いて可能な範囲で調査し、告知することが求められています。

    3.第47条の2関係

    法第47条の2においては、宅地建物取引業者やその従業員などが契約の締結を勧誘するに際して禁止される行為が規定されています。

    具体例

    • 正当な理由なく、当該契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒むこと
    • 断定的判断の提供
    • 相手方が、当該契約を締結しない旨の意思を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続すること
    • 迷惑を覚えさせるような時間に電話をし、又は訪問すること
    • 契約の申込みの撤回又は解除を妨げるため威迫する行為
    • 相手方が手付の倍返しによって契約の解除を申し出た際、正当な理由なく、当該契約の解除を拒み、又は妨げること

    ガイドラインで改めて遵守が求められた宅地建物取引業法第31条、47条、47条の2に抵触した場合には、監督官庁からの指示や業務停止命令、免許の取消しが行われるに留まらず、法第79条の2及び第80条の規定に基づき、拘禁刑若しくは罰金刑又はこれらが併科される可能性があります。

    序章で解説したように、『住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』が施行されるのは、近年、全国の消費者生活センター等へのリースバック取引に関する相談件数が増加傾向にあるからです。

    取引内容の理解不足や、将来の居住可能性に関する認識の相違に起因する相談が主ではありますが、それらを詳細に見ていくと、賃料が高額であるため、その合計額が短期間で売却価格を上回ることに契約締結後初めて気付いたり、売買契約の解除を申し出たら、高額な違約金を請求されたりした事例が目を引きます。

    リースバック取引は、居住用建物の売買とその賃貸借が契約関係として不可分一体であるため、売買価格はもとより、契約の解除に関する事項、賃料の額や増額に関する事項、賃貸借契約の種類(普通賃貸借か定期賃貸借かの別)、契約期間などについて正確な理解が不可欠です。

    そのため、売主の理解が不十分なまま契約を締結すれば、トラブルが生じるのはむしろ必然だとさえ言えるでしょう。

    物件を売却した後も、賃貸として居住を続けられるリースバックは、住み替えの円滑化や老後の資金需要への対応策として今後も増加していく可能性が高いと思われます。適切に活用される限りにおいて、リースバックは顧客の利益に資する取引です。

    しかし、それにもかかわらずトラブルが増加傾向にある背景には、売主の理解不足だけではなく、私たち宅地建物取引業者の勧誘や説明の在り方にも課題があると考えられます。

    そのため、ガイドラインの施行を契機に、改めて宅地建物取引業者の責務を見直す必要があるのです。

    まとめ

    理解力には個人差があります。

    同じ説明を行った場合、すぐに理解する方がいる一方で、何度説明を繰り返しても理解に至らないケースもあります。

    特に、加齢によって認知機能が低下した高齢者については、その傾向が顕著に見受けられます。

    しかし、そもそもの話ですが、意思能力(事理弁識能力)に問題があると思慮される場合には取引を行ってはなりません。

    そして、理解されないからといって説明を省いてはなりません。

    統計的なデータが示されているわけではありませんが、リースバック取引を利用する方は、高齢者が多いと言われています。

    そして、序章で解説したように、全国の消費者生活センター等に寄せられた住宅のリースバック契約に関する相談者の約7割が、70歳以上の高齢者だと報告されているのです。

    これは、資金的な側面のみならず、相続を見越して不動産を換価したい一方で、住み慣れた自宅から転居することを良しとしない高齢者のニーズに、リースバック取引が応えているからでもあるのでしょう。

    リースバック取引の相手方は高齢者である可能性が高いと理解すれば、たとえ繰り返しになろうとも、根気よく説明しようとの気持ちになるはずです。

    認知機能の低下は加齢によって生じる、いわば自然な現象の一つに過ぎません。いずれは、私たちにも訪れるのです。

    それだけに、私たち不動産業者は、顧客に不利益を与えることがないよう十分に留意したうえで、宅地建物取引業法で求められる説明責任を適切に履行する必要があるのです。

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    監修者情報

    H.L.C不動産コンサルティング 奥林洋樹
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