【何もしないのに窓ガラスが割れた】熱割れ・突然破砕の原因と費用負担を考える

皆さんがご存じのとおり、防火もしくは準防火地域においては、延焼の恐れがある部分の窓や開口部には「防火設備」として、一定の防火性能を持つガラス(耐熱強化ガラスや網入りガラス等)を使用することが求められています。
また、防火地域等に該当していなくとも、大型のガラス開口部や人体が衝突する可能性のある部位については、破砕した場合に居住者や通行人などへ与える被害を少なくすることを目的の一つとして、強化ガラスや合わせガラスなどの安全性に配慮したガラスが数多く採用されています。
そのような性能を有しないリビングに設置される窓(掃き出し窓)、具体的には90cm✕180cm・厚さ5mmのフロート板ガラス(一般ガラス)であれば、交換費用はおおむね2~3万円程度とされる一方で、網入りガラスなら約2倍、強化ガラスなど高機能なガラスでは約3~4倍に跳ね上がる可能性があります。
もっとも、実際の交換費用はガラスの種類・厚さ・施工条件などで大きく異なります。
区分所有法では、専有部分や共用部分について規定されてはいますが、窓ガラスやサッシがどちらに帰属するかは明確に定められていません。
そのため、国土交通省は標準管理規約第7条第2項第3号で「窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする」としているのです。
さらに、第14条では「バルコニー、玄関扉、窓枠、窓ガラス、一階に面する庭園及び屋上テラスについては、専用使用権を有することを承認する」とも定めています。
また、標準管理規約では専用使用部分の通常使用に伴う保存行為について、「専用使用権者が責任と負担を負う」とされています。
そのため、専用使用権者の不注意によって窓ガラス等を破損させた場合には、その修理・交換費用については専用使用権者が負担することになると考えられます。
また、賃貸物件では賃借人は所有権を有さず、賃貸借契約に基づき物件を使用・収益する立場にありますから、賃借人の故意・過失等によって破損させた場合には原状回復義務に基づき、修理や交換をしなければなりません。
ですが、不注意で破損させたなら納得はできるものの、何もした覚えがないのに窓ガラスに亀裂が入ったり突然砕け散ったりしたのなら、話は変わるでしょう。
まるでポルターガイスト現象のようではありますが、直射日光などによってガラス面に部分的な温度差が生じ、熱応力が発生することで、このような事態が発生する可能性もあるのです。
環境変化などを原因とした破損であれば、分譲マンションの場合は管理規約等の定めに基づき負担者を判断し、賃貸物件の場合には、賃借人の故意や過失等によるものではなく通常損耗に該当する場合には、賃貸人が交換費用等を負担すべきです。
しかし、その立証は簡単とはいえません。
本稿では、なぜこのような現象が発生するのかを解説すると共に、賃貸物件で責任が争われた裁判例をもとに、法的な見解や不動産会社の対応について考えていきたいと思います。
強化ガラスの特性
一般的なフロート板ガラスでも、直射日光などによってガラス面に温度差が生じれば「熱割れ」を起こす可能性があります。
もっとも、ガラス全体の温度が上昇したからといって直ちに破壊が発生するわけではありません。
日射を直接受ける部分とサッシ枠などに隠れている部分に温度差が生じることで、熱応力が発生します。
そして、その熱応力がガラスのエッジ部分などに生じている引張応力の影響を受けたガラスの強度を超えた場合に、熱割れが生じるからです。
極端な例を挙げれば、火災現場で響き渡るガラスの破壊音があります。
あれは、極端な温度上昇によってガラス面に大きな温度差が生じ、熱応力がガラスの強度を超えることで破損した際に発生した音です。
もっとも、建材として用いられる強化ガラスは、ガラスを加熱した後、急速に冷却させる熱処理によって板ガラスの表面に圧縮応力層、内部に引張応力層を生成させ、これらのバランスを取ることで強度を高めています。
強化ガラスは、一般的なフロート板ガラスよりも高い耐風圧強度や耐熱衝撃性を有しているのですから、本来であれば熱割れを起こす可能性は、フロート板ガラスよりも低いはずです。
しかし、板ガラスを製造する過程においてはごくまれに、硫化ニッケルなどの微小な異物が混ざり込む可能性があります。
一般的なフロート板ガラスであれば、仮に微小な異物が混入していたとしても強化ガラスのような内部応力が存在しないため、さほどの影響は受けないとされています。
一方、表面に圧縮応力層、内部に引張応力層が形成されている強化ガラスは、引張応力層に存在する異物の影響を強く受ける可能性があります。
これは、微小な異物が相変態によって体積を増加させた場合に、周囲に微細な亀裂を生じさせるからです。

この微細な亀裂が内部の引張応力層に達して成長すると、外部から衝撃を受けていないにもかかわらず、強化ガラスが突然破砕するといった物理現象を生じさせるのです。
では、強化ガラスが突然破砕した場合、誰がその責任を負うのでしょうか。
通常損耗であっても見解は異なる
序章で触れた通常使用に伴う保存行為や標準管理規約に基づけば、強化ガラスの破損が通常の使用に伴うものではないと判断される場合には、専用使用権者ではなく管理組合が負担する可能性も考えられます。
一方で、標準管理規約では窓ガラスが割れた場合の入れ替え自体を「通常の使用に伴う」保存行為の例として挙げているため、硫化ニッケルなどの微小な異物による破損であることだけをもって、直ちに管理組合の負担になるとも言い切れないのです。
現実問題として区分所有者や賃借人が、「ぶつかってもいないのに突然割れた」と主張しても、「何もしていないのに割れるなんて考えられない」と反論される可能性は高いでしょう。
実際、平成23年には東京地裁で、賃貸住宅の網入りガラスの熱割れについて、その責任を賃貸人と賃借人どちらが負うのかについて争われています(東京地判平23.1.20)。
この裁判では、物がぶつかった痕跡がなく、ガラスの設置場所やひび割れの形状などから、熱割れによるものある蓋然性が高いと判断されました。
さらに、分譲マンションでも区分所有者である原告が、窓ガラスの破損は熱割れによるものであり、通常使用に伴うものには当たらないとして、管理規約に基づき窓ガラスの取り換え工事を管理組合に求めた裁判例が存在します(東京地判平29.1.17)。
いずれの裁判も、熱割れによる窓ガラスの破損を問題としていますが、最終的な費用負担については異なる結論となりました。
まず、前者(賃貸物件)については裁判所が次のように判示しました。
「網入りガラスには物がぶつけられた痕跡はなく、前面に机と書籍が置かれ物がぶつかる状態になかったことからすれば、本件ひび割れが故意または過失によるものであると認めるに足りる証拠はない。むしろ、本件網入りガラスは熱割れが生じやすい性質を有しており、さらには窓ガラスが日射を受ける建物の東側に位置することや、ガラスの端を始点とするひび割れの形状からすると、熱割れによるものである蓋然性が高い」
このように、裁判所はガラスの設置場所、ひび割れの形状、物が衝突した痕跡の有無などを踏まえ、熱割れによるものである蓋然性が高いと判断したうえで、通常使用に伴い発生した現象であるならば、その損傷を回復するための経費は賃料に含まれていることから、賃借人ではなく賃貸人の負担であるとしたのです。
一方で、分譲マンションでは原告(区分所有者)の主張は退けられました。
こちらの事案でも、窓ガラスの破損が熱割れによるものである可能性が問題となりました。
ただし、管理規約で通常使用に伴うものについては、区分所有者が負担するとされていた点に違いがあります。
裁判所から通常使用による破損と推定された点は同様です。
ただし、管理規約で通常使用に伴うものについては、区分所有者が負担するとされた点に違いがあります。
原告は、窓ガラスの破損は熱割れによって生じたものであり、いわば窓ガラスの瑕疵がその原因である。
加えて、経年変化による破損については計画修繕として行うべきと主張しました。
この主張に対して裁判所は、「日光が良くあたる場所に窓ガラスを配置することが構造上の欠陥にあたるとはいえず、さらに、本件被害が経年変化によるものであると認めるに足りる証拠もない」と判示したうえで、破損を「通常使用に伴うもの」と認め、原告の責任と負担において行うべきとしたのです。
原因を見極める
前章では2つの裁判例を紹介しましたが、両者に共通しているのは、単に「窓ガラスが割れた」という事実だけで責任の所在を判断しているわけではないという点です。
特に重要なのが、「どのような原因で破損したかのか」という事実認定です。
賃貸物件の事例では、物がぶつかった痕跡がないこと、窓ガラスの前に机や書籍が置かれているため、室内側からは物が衝突する可能性が低かったこと、さらに当該窓ガラスが日射を受けやすい位置にあることや、ひび割れがガラスの端を始点としていることなど、複数の事情を総合して熱割れによる蓋然性が高いと判断されました。
つまり、「私は何もしていません」という賃借人の主張だけを根拠に、熱割れによる破損と認めたわけではないのです。
私たち不動産業者は技術者や研究者ではありませんから、窓ガラスの破損についてその原因を専門的に究明できる立場にありませんし、当然のことながら責任の有無を裁く立場にもありません。
ですが、破損状況を見れば、ある程度の推測は成り立ちます。
少なくとも、外部または内部からの衝突によって生じた破損か、熱割れによる破損かを検討するための知見は有しておきたいものです。

一般的な熱割れでは、窓枠周辺部のガラス端部からひびが入り、ガラスの端に対してほぼ直角方向に伸び、その後、蛇行するように進展する傾向があります。
一方で物の衝突による破損においては、衝突点を中心として放射状や同心円上などのひび割れが発生する傾向があります。
もちろん、ひび割れの形状だけで原因を断定することはできません。
しかし、「どこから、どのような方向に、どのような形状でひび割れが入っているのか」は、原因を検討するうえで重要な情報となります。
例えば、管理物件において賃借人が「物がぶっかった覚えもないのに窓ガラスにひび割れが入った」と主張したとしても、ガラスに明確な衝突痕や欠けなどが確認されるのであれば、熱割れではない可能性について検討する必要があるのです。
また、ガラスの種類についても理解を深めておく必要があります。
特に、網入りガラスは熱割れが生じやすい性質を持っています。
そのため、日照を受けやすい位置に設置され、さらに明確な衝突痕が確認できないのであれば、熱割れの可能性を検討する必要があるのです。
また、強化ガラスではフロート板ガラスのように、ひび割れが徐々に広がっていくのではなく、限界を超える衝撃や局所的な損傷などをきっかけとして、全体が粉々に砕け散る特性を有しています。
このようなガラスの性質を理解したうえで、エッジ部分の欠けや傷、建具との接触など複数の可能性を確認すれば、「なぜ破損したのか」という原因の推測が、ある程度は見えてくるのです。
記録が重要
それでは、顧客から窓ガラスが破損したとの連絡を受けた場合、私たちはどのように対応すれば良いのかを考えてみましょう。
まず、ガラスが大きく破砕して居住者や通行人に危害を及ぼす状況であれば、安全の確保が最優先です。
そして、必要な応急措置を講じたうえで破損状況を撮影することが肝要です。
撮影をする際には、次のようなポイントを押さえておく必要があります。
①破損した窓ガラス全体
②ひび割れの始点や周辺部分
③ガラスのエッジ部分
④サッシとの接触部分
⑤室内と屋外、両側からの撮影
⑥窓の周囲に飛来物など、衝突した痕跡を示すものがないか
⑦窓周辺部における机や家具の設置状況
撮影をする際、特に重要なのは破損したガラスだけを撮影して終わりにしないことです。
応急措置が重要とはいえ、片付けをしてしまった後では原因を検討するために必要な判断材料が失われる可能性があるからです。
少なくとも、第三者が確認して破損に至った状況をある程度把握できる程度の記録は残しておく必要があるのです。
さらに、直前に台風や強風、急激な温度変化があったかなど、可能な限りの記録を残しておくことも肝要です。
加えて、「気がつけば割れていた」「外出から戻ったら割れていた」「日中突然音がして破損した」など、居住者のヒアリング結果も記録しておくことが肝要です。
不動産業者が留意すべきこと
窓ガラスの破損について、不動産業者が相談を受ける機会は多いでしょう。
居住者の故意や過失による破損であることが明らかで、施工業者を紹介して欲しいと相談される場合もあれば、クレセント錠の周辺を破壊して室内に侵入する「こじ破り」による破損、さらには強風で飛来物が衝突して破損するケースもあります。
さらに、本稿で取り上げた熱割れによる破損もあります。
このように、窓ガラスが破損した理由はさまざまですから、誰が責任を負うのか、さらには誰が補修・交換の費用を負担するのかを一概に判断することはできません。
破損した原因のみならず、通常損耗に関する原状回復の考え方や、管理規約の内容、特約がある場合には具体的な内容や合理性などを踏まえて判断する必要があるのです。
また、顧客が加入している損害保険の補償範囲について、保険会社等へ確認するように促す配慮も必要です。
そもそもの話ではありますが、本稿のテーマは「熱割れ」であることと「誰が費用を負担するのか」は別問題であるということです。
仮に、専門業者による調査の結果、熱割れである可能性が高いと判断されたとしても、分譲マンションでは必ずしも管理組合が負担してくれるとは限りません。
当該物件の管理規約でどのように規定されているのかを確認しなければ、判断はできないのです。
そもそも、不動産会社に求められるのは「断定」ではなく「確認」です。
事実関係を整理したうえで、適切な判断につなげられるよう情報を揃えることです。
つまり、「事実確認→原因の検討→契約・規約の確認→推定される費用の負担者」という順番で整理していくことが、トラブルを防ぐうえで重要となるのです。
まとめ
窓ガラスが破損したと聞けば、「居住者が何かをぶつけたのだろう」と考えがちです。
しかし、実際には熱割れもあれば、強化ガラスにおいては製造過程に混入した微小な異物などが原因となり突然破砕する可能性もあります。
さらには、空き巣による「こじ破り」や強風で飛来物が衝突した結果、破損するケースもあるでしょう。
だからこそ、修理・交換費用の負担者を、一方的な決めつけや限られた情報だけで判断してはならないのです。
賃貸物件であれば、通常損耗と故意・過失による損傷を区別し、さらには賃貸借契約の内容や原状回復の考え方に基づき判断する必要があるでしょうし、分譲マンションにおいては管理規約で専用使用部分の保存行為や、計画修繕との関係を確認する必要があるでしょう。
つまり、「誰が責任を負うのか」を、少ない情報や思い込みだけで判断してはならないということです。
「どのような原因で破損したのか」「その破損について、契約や規約では誰が費用を負担すると定められているのか」を分けて確認したうえで、責任の所在や費用負担を検討する必要があるのです。
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